第239話「でてこんかいっ!」
修正予定ですが、少しずつ書けるようになってきました。
明日、明後日には、1話分ずつ上げられるようになりそうです。
頑張ります…。
前回も見たドーラの家の前まで来た。木造のアトリエのようで、少し古めかしい
感じがする。いかにもここで錬金術をやっていますといった雰囲気だ。このアトリ
エの中に、ドーラは引き籠っているというのが私の見解だ。もはや騙されない。前
回、扉に細工はしておいたが、開けた形跡は見られない。だが、丸一日この家に戻
ってきていないというわけではないと思われる。
なぜなら、錬金術を行うに当たっては、恐らく素材集めをした後の調合などで、
かなりの時間を費やすはずだからだ。もしかしたら今も前回も調合していたたため
に出てこないだけなのかもしれないが、やはり意図的に出てこないだけなのだと、
私は断定する。
「ドーラさーん! 弟子になりに来ましたー! いますよねー!?」
扉の前で大声で呼びかけてみる。無反応。居留守だ、絶対に居留守だ。私がドーラ
だったら、どこの誰とも知らない相手はひとまず無視する。それくらいやる。全然
関わったことのない人と話すくらいなら、調合に集中するだろう。が、私もきちん
と用件があるんだ。ドーラがとても重要な調合をしていようが、関係ない。強引に
押し通す。
「聞こえてますよねえ!? ドーラさぁあん!? いるのは分かっているんですよ
おおお!?」
なんだか締切を過ぎても連絡をよこさない作家などに催促のお願いをしに来ている
編集者みたいだ。いや、そんな生温いものでもないか。この場合は、借金の取り立
てにきている暴力団のノリだな。
「早く出てこないと、どうなるか分かっていますかー? あー、用件なんですけど
ねー! 私を弟子にして貰いたいんです! 闇の錬金術に興味があってー!」
闇の錬金術なんてものを使うから、心も闇に閉ざされてしまっているのかなんて事
が一瞬思い浮かんだが、きっとそうなのだろうと妙に納得してしまった。闇の錬金
術自体どういうものなのか分かってないけれど、何か性格に影響を与えてしまうよ
うな気がしてならない。
「姉御。やっぱりいないんやないか?」
「きっといると思うんだけどなあ。しょうがない、このアトリエの周りを少し探索
するとしようか。」
こうやって叫ばれることは慣れているのかもしれなしなあ。このアトリエがどんな
風になっているのか周りを歩いてみるとするか、裏口とかあるかもしれないし。と
いうわけで、正面玄関のあたりから離れて、アトリエの周囲をぐるりと回ってみる
ことにしたのだが、やっぱり結構広いと言うのが分かるのだが、天井はそこまで高
くないので、一階建てってことでいいだろう。あとは、地下かな。このアトリエに
は地下室が存在するかもしれないな。
「人体実験とかしてるかもしれないなあ。」
「え? なんやそれ。」
「いやまぁそのまんまの意味。闇の錬金術なんていうからには、そういう恐ろしい
事をしていてもおかしくないんじゃないかなって。例えば脳を…。」
ざっくりサンショウに説明してみたが、なんだか方の上で震えているようだ。そん
なモンスターが覚えてどうするんだとツッコミを入れたくなってしまった。
「まさかそこまでやる奴がおるんか?」
「だいこん殿。我もそれと似たようなものです。死の領域にまで手を出した事でこ
のような存在になったのです。」
サンショウは、死を超越しているリッチだもんなあ。かなり上位のモンスターって
事になるしってあれ、それならドーラにとってはサンショウっていい研究対象とか
になるんじゃないんかな。闇の錬金術といえばそういうのもある気がするし。それ
か、ひょっとすると、誰か生き返らせたいとか思ってやっているんだろうか。
「サンショウは、誰かを生き返らせることはできるの?」
「完全に生き返らせるという魔法は使えません。魂を呼び起こすなど、あるいは骸
骨のような存在を生み出せる程度です。」
つまり<アノニマスターオンライン>内のNPCとかは生き返らせることは出来ないっ
て事になるのかな。だとするとやっぱり、プレイヤーである私とかと違って、だい
こんなんかも生き返ることができない貴重な存在ってことになるのか。うーん、こ
の設定なんとかならないものかなあ。
「死んだ者を生き返らせることができる力でも身につけてみようかなぁ。」
「そ、それはあらゆる者が望むことですが、ねこますサンは、まさかそれに挑むと
いうことですか?」
ああそうだ、そうだった、こういう温度差があってしまうのは、このゲームのキ
ャラクターであるサンショウ達とは違って、私のようなプレイヤーは、ゲームだと
いう認識があるから、生き返らせるというのが容易いことのように思えてしまうん
だよね。とはいえ、死んだら絶対に生き返らせることができないゲームも存在する
んだけれど。
確かに、現実で人を生き返らせる事ができるようになったらすごいことだし、そ
う考えてみると、このゲーム内のキャラクター達、NPC達へ軽々しく言ったらまず
いって事が結構あるなあ。あくまでこのゲーム内が現実と言うことになるし。
「そのくらい出来るようになれたら安心だなってことだよ。私は死にたくはないし、
みんなにも死んでもらいたくないから。」
「姉御は、ワイらをそこまで心配しておったんか! なんだか感動したで!」
「流石です。」
まーた持ち上げる。こういう風にされるとどんどん天狗になっていきそうなのが
嫌なんだ私は。あまりに褒められすぎると知らず知らずのうちに自分は本当に偉い
存在なのだと傲慢になっていくから、それを気を付けたい。
「ああもう、無駄話してないで、さっさとドーラを呼び出すよ。」
ドーラに会わなきゃ話が先に進まないのだから、さっさと呼び出そう。だけどこれ
だけ叫んで出てこないってことは、余程の出不精なんだろうな。私がこれだけ叫ん
でも無視しているのは錬金術に集中している証拠かもしれないが、必ず出てきても
らおうと思ったので、色々やってみることにした。
「威圧!」
人間になっている状態でもつかえそうだったので、使ってみたが、何も起こらなか
ったようだ。やっぱり発動しにくくなっているってことなのかなあ。それじゃあ次
は、扉をぶち破ってみるしかないかな。
「サンショウ。」
「はい。」
「重力魔法をあの扉に向かって放って。」
「かしこまりました。」
サンショウが手を前に出し、小さな黒紫色の球体を作り出す。
「姉御、マジでやるんか? ええんか? 本当にええんか?」
「何度も叫んだし、これで出てこないならしょうがないよ。こっちも強引にやりす
ぎかもしれないけれどね。」
結局のところ、何が正解のやり方なんて分からない。それとドーラが何を思って
他人と会わないようにしているのかも分からないが、5人の錬金術士とかすごい存在
なんだから、何か説明くらいあってもいいだろうという考えだ。
「最後は実力行使しかないんだ! 私はやるときはやる奴だよ!」
ただし、サンショウには、あまり威力の高い重力魔法にはしないでくれと頼んだ。
これで、扉だけが壊れてくれればいいんだけれどと思ったんだけれど。
「ねこますサン。威力を大分抑えた結果、扉は壊せませんでした。」
つまり、扉には攻撃に対する耐性があるってことなんだろう。見た目はただの木の
扉なのに、なんて頑丈なんだろう。それじゃあ次はもう少し威力の高い重力魔法を
撃ってもらうとするか。サンショウに指示したが、今度は先ほどよりも大きな球に
なっているので、これなら破壊できるだろう。
「多分、それも大して効果が無いと思うんだけれどね。」
「…いきます。南無阿弥陀仏!」
そして放たれる黒紫色の球体。これでドーラのアトリエが壊れたら嫌だなあと思っ
たが、やれるだけやってみようの姿勢でやった結果だ。だけど、そう。何も起こら
なかった。単純に扉に吸い込まれるような形で消えていった。
「まさか、ここまで抑えられるとは思いませんでした。」
「私もだよ。まさかあの扉を守っている人たちが負けるなんて。」
これはどうすればいんだろうか。いよいよ手詰まりになってきた気がするんだけれ
ど、こんなところでデスフレアなんて放たせるわけにもいかないし、この扉が破壊
できるとは思えないし。
「他に方法があるじゃないか。手っ取り早い方法。」
「え? 姉御まさか。」
「般若レディに戻るよ。」
誰も来ない気がしたし、多分大丈夫だと思うし、ただのお面と思われるというのも
あり得るので、人間化を解除することにした。確か一定量のダメージがくると元に
戻れるらしいけれど、私自身が操作する事だって可能なはずだ。そんなわけで、自
分に対して攻撃を仕掛けてみて早30分。ようやく人間化を解除できた。
「毎回これをやるのはきついなあ。もっと楽に変身と解除できるようにならないと
使い勝手が悪すぎる。」
だけど、般若レディを基本と考えて活動できるようにしたい。だって、だって。
「あああああ、なんかすっごいすっきりした。なんか清々しいよこれ。久々に元に
戻れたって感じだよ。やっぱり人間状態は疲れるよ。」
人間化している時は窮屈な感じがした。ゲーム的に言うと、Aボタンとが決定で、B
ボタンがキャンセルなのに、それが逆になってしまったかのような感じだった。あ
あ、すごくいい。もう人間化するの嫌になってきたなあ。
「なんかすごい気合いが入ってきたので、ちょっと怒鳴りつけてみようと思う。」
「おお、姉御やったるんやで!」
あぁ慣れ親しんだジャージだ。そして鎌だの電撃の鞭だの。いいねいいね、やっぱ
りこれだよ私は。
「オラァ! ドーラ出てこい! さっさと私を弟子にしろ! 真空波ッ!」
鎌を振り上げて何度も扉に当てるが、傷が全くつかない。この家耐久性が高すぎじ
ゃないか。ふざけてるしずるい! これはもう、あれをやるっきゃない!
「雷獣破!」
流石にここで隕石拳は使わない。あれを使えば本当に簡単に壊すことができると思
うけれど、器物が損壊する確率の方が高いので、無理せず地道に活動していかない
といけないなあ。
「おっりゃあああああ!」
私の右手に電撃が集まってくる。ってあれ、また威力が上がってないかこれ!?
うわっ、なんか勢いがすごそう、これ、扉が壊れるだけで済むのかな!? あああ
なんかやっぱりすごい光っているよ! 眩しいい!
そして、私の腕が扉に触れた瞬間、扉に透明な壁のようなものが見えた。なるほど、
これで防御していたってことか。でもこの透明な壁、徐々に削り取られているよう
にもなっていた。これならもしかすると、いけるかもしれない。というかもうこの
扉は壊れてくれないと嫌だ。ぶっ壊れろおおお!
「うぐぐぐぐ!」
あれ、なんかあと少しな気がするんだけれど、大丈夫か? このままだと、あと少
しのところで終わってしまいそうじゃないか! そんなのは御免だ。ここまでやっ
ているんだから、まだやれる。そして今突然いいことを思いついた。物は試しだ、
やってやる!
「雷獣破!」
今度は、左手で使ってみる。右手のほうは徐々に力が弱まっているが、まだそこま
で威力は下がっていないと思われる。そして左手でも無事に発動した。こ、これな
らいけるかもしれない! よし!
「ダブル雷獣破あああああ! これでどうだああああ! ドーラぁああああああ!
さっさと出てこんかあああああああい!」
いい加減引きずり出してやる!