第238話「ねこますの謝罪」
自分勝手だというのは理解していた。ここまで好き勝手にやってきたけれど、今
回は明らかに強引過ぎたと言うか、何でもかんでもやりたいようにしようと駄々を
こねていたと、やはり自分でも違和感があった。
私としては、ドーラの所にいってすぐに錬金術を教えてもらって、リュックも手
に入れて、すぐに魔者の大陸に戻る予定だったのだが、それが遅れるかもしれない
ということに不安を抱いてからは、やはりどんどん焦っていった気がする。
少し<アノニマスターオンライン>に依存し過ぎているのかもしれないなあ。無理
してまでプレイしているというか、1時間の往復も勿体ないということに意識がい
き過ぎてしまい、段々と思い通りにならないとイライラしてしまっていたような気
がする。これは駄目だ。これについては、やってしまったからには、謝らないとい
けないことだ。私は失敗してしまった。
思えば、こういう時はブッチが茶化してくれて、冷静にさせてくれていた気がする
が、今は別行動のため、私の悪い所がどんどん歯止めが利かなくなってしまったと
いうことだ。本当に駄目だなあ私は。というか私はブッチにかなり甘えていたとい
うのもあるんだろうな。あぁ、なんか嫌になってきたけれどそれはそれと割り切る
ようにしないといけない。
「で、無理をし過ぎたので、気を付けます! すみませんでした!」
きちんと頭を下げる。大袈裟な気もしたけれど、自戒を込めるという意味でもやっ
ておかないとだめだと思ったのでやった。これも勝手だと言われればそうかもしれ
ないけれど。
「ねこますサン。頭を上げてください。我々がそこまでさせるのは心苦しいと言う
か何と言いますか。」
「せやで姉御。ワイらは姉御を責めたいわけやないから、そこまでやらなくてもえ
えんやで。」
なんて優しい言葉を言ってくれているけれど、これに甘えるつもりはない。だけ
どこれ以上はただの私の我儘みたいなものになるのでやめておく。
「はぁ。いや、私もなんだか自分を制御できていないと言うか、ちょっとばかり仲
間が増えてきたり、新しい場所に来たり、色々やりたいことが多くなってきたりで
目まぐるしくなってきたら、こうなってしまったよ。欲張りすぎたんだね。」
初心を思い出すとするなら薬草集めだろう。私は、ただ薬草集めさえできていれ
ば十分だった。なので本来であれば、無理して錬金術を学ぼうなんて気はなかった
のだけれど、結局のところ、できる事の幅が広がって、あれもしたいこれもしたい
となっていったのが駄目だったということだ。
「と言うわけで、もう少し気楽にやっていくことにした。」
「お? ええやないか。それでこそ姉御やで。」
「なるほど、焦らず急がすというわけですな。」
私としては、単に面倒な事を極力しないということを決めただけだ。だから、や
りたいことだけやれるようにする。時間が経過すると、どんどん面倒くさくなって
くると思うので、何を最優先にすることなのか決めておくことにした。だけどそん
なのは当然草刈りしかありえないので、私がこのゲームで一番優先するべき行動は
草刈りと決定した。それ以外の事はどうでもいい。
「行きつくところは草刈りと、姉御はそれでええんか?」
「草刈りだったらだいこんに乗って、延々と狩り続けられるから、あそこで遊ぶの
は本当に楽しいよ!」
「そうか、それでええんやな。」
将来草刈りより、もっと面白い事が起きるかもしれないが、それがいつになるか
分からない。だったら、今最も楽しいと思えることをするのが一番いいだろう。草
刈りするのが楽しいのだからそれをしたい。
「姉御はもっと気を楽にしてええんや。義務とかそういう事で行動するよりも姉御
がどうやりたいかが大事やし。それで、もうここからはでるんか?」
「一応、ドーラの家の前までは行くよ。それでいなかったらもう面倒くさいので、
今度は城の方を目指すかな。」
ナテハ王国の中心部にある城。簡単に入れるような場所ではないのだろうが、ど
んな場所なのか気になっているので、そちらにも行ってみたい。行くだけなら何も
問題は起こらないと思うし。
「あの城か。中に入ってみたいやで。」
「私達は入れないようになっていそうだけれどね。モンスターという判定をされて
しまったら、入れないだけじゃなくて、死んでしまうことも考えられるし。」
ゲームにある街の中には、どうしてモンスターが入れないのか、それは人間がモ
ンスターが入れないような仕組みを作っているからというのが多い。モンスターが
街の中に入り込んだら察知できたり、街の中にいるだけで力を奪ったりダメージを
与えたりする効果のある魔法を何らかの道具で発動させている設定だ。このナテハ
王国にしたってそういうのが絶対にあるはずだ。
もし、そういった仕組みが無いとすれば、モンスターに対して無防備になってい
ることになる。王国なんて巨大な組織がまさかそこを無頓着にしているわけがない
だろう。
「ちょっと雑談でもしながらドーラの家に向かおうか。」
「分かったやで。それで、気になっているんやが、ワイらの存在ってどうなるんや
ろ? 人間の街とかに入れないはずなんやとしたら、もしかすると、突然ワイらに
攻撃される時がくるんとちゃうんか?」
それが考えられる中で一番嫌な事だ。今までは特に何ともなかったのに、何かの
理由で突然ダメージを受けるようになったら、ここから脱出するまで結構時間がか
かってしまい、最終的に死んでしまうことにもなりかねない。それは嫌だ。
「私も、そこが不安なので、この王国に長居はしたくないんだよ。私達が無事な理
由が分かればいいんだけれど、それについては錬金術士の誰かが知っている気がし
ているので、聞きたいと思っているよ。」
この国を守る効果を発揮する道具があるとしたら、それは錬金術士や、魔法使い
や聖職者なんかが関わっていると予測している。従って、それらの該当する職業の
人に聞いてみれば、一発で分かるんじゃないかと思う。または、これまたゲームで
は定番の酒場なんかに行けば情報が仕入れられるかもしれないので、そちらについ
ても訪ねたいところだ。
「姉御はそういうのを知っているのはすごいんやが、考えすぎてまたドツボにはま
らんよう気をつけてな。」
「そうだね。まぁ最終的に面倒くさくなったら、サンショウが言うようなノリで、
この国自体を滅ぼしてしまってもいいよね。」
「ファッ!? なんでそうなるんや。」
「冗談だよ、あはは。」
こういう軽い感じでいいんだよね。いや、面倒くさくなったら割と本気でやろう
とも思っているんだけどね。隕石拳を使えば気に入らない奴らを根絶やしにできる
だろうと思っているし、私はやっぱりいい人間でも何でもないので、ゲーム内では、
好き勝手やるんだ。
「ねこますサン。その際は我もお手伝いします。」
「おお、ありがとうサンショウ。」
「はぁ、もう突っ込む気にもなれんやで。それで、もしここから帰るとしたら、ブ
ッチニキ達にはどう説明するんや?」
「面倒くさくなったから国を滅ぼしたとか説明するかな。」
多分だと思うけれど、ブッチもエリーちゃんも、実の所この人間達の大陸には全
然興味が無いと思われる。スタート地点が魔者の大陸だったから、別にここにいる
大衆がどうなろうが知ったことではないと言う感じだろう。
人間というか大多数のプレイヤーがこういう場所にいるだろうし、NPCだってかな
りの数がいると思うが、それらに対しては、特別な感情は抱いてないだろう。だけ
ど、ここにいるだいこん達含めたももりーずVに対しては別だろう。そういうチーム
として活動しているわけだし。
「なんだかブッチニキやったら軽くうなづいてしまいそうやなあ。」
「ちょっと聞いてみるかな。」
国を滅ぼそうかなあなんて思っているけど、どうする? とだけ聞いてみたんだけ
れど、やっぱり返事が早かった。
マブダチからのメッセージ:そんな面白そうな事をやるんだったらぜひ俺も混ぜて
くれないと嫌だからね! 滅ぼすときは絶対言ってよ!
…こういう奴なんだよなあブッチは。自分が面白いと思ったらそれに対して一切戸
惑うことなくやりだす。情け容赦なくゲームに没頭して、悪人プレイだろうが何だ
ろうができてしまうところがやっぱりすごいと思う。私だとそういうのも少し躊躇
してしまいそうだし。
「ブッチニキは暴れるのが好きなんやで。姉御と一緒にいなかった時なんかは、姉
御がいないと強敵が大体でてこないのが嫌だって言ってたんやで。」
「私を強敵ホイホイみたいに言わないで欲しい…。」
私は何もしなくても絡まれてしまうからそうなるんだろうけれど、戦いが好きそう
なブッチの所に行けばいいのにな。
「それで、もうそろそろかなあ。」
「やっぱりこの道本当に面倒くさいやで。何度も来たくなくなるのは分かるやで。」
こんな所に住んでいるドーラはどう思っているんだろうか。と思ったが、それが狙い
でもあるのかな。来るのに面倒くさい場所にいれば、いちいち人と関わり合わずに済
むだろうし、ここでやっている錬金術で失敗しても、周りに迷惑をかけることが無い
のだろう。食料とかそういうのは買いだめしておけばいいわけだし、誰か来ても無視
すればいい、ってあ。
「姉御、どうしたんや、急に止まって。」
「この間行った時の家は偽物だったのかもしれないのと、本物だったとすると、やっ
ぱり隠れていたんだろうなっていうのが分かった。」
認識をずらすようなことをしていそうだし。私達の声が届かないようになっていた
りするのだろう。そうして誰とも会わないようにしているんじゃないかな。そんでも
って食料とかの問題は、この森のどこかで食料を生産しているか、どこかからか仕入
れているんだろう。
「今回は、家の周囲も徹底的に調べよう。最悪、やっぱりぶっ壊してしまおう。そこ
でドーラと戦うことになったり弟子にして貰えなくなってもいいや。まず出会わない
事にはどうしようもないし。」
「なんかいつもの姉御のノリに戻ってきおったな。ワイはええで。」
「我もです。もうしばらくすると、到着すると思いますので、徹底的に粗探しをしま
しょう。」
そうだよ、5人の錬金術士なんて聞いてしまったせいで、少し委縮していたのが悪かっ
たんだ。そんなのは関係ない。いつもゲームでやっているように、家を粗探ししてし
まえばいいだけだ。どこかに裏口とか隠し通路があるかもしれないし、なんとしても
ドーラに会うぞ!
オンラインゲームをプレイしていて、時間のかかるクエストをやっていると
こんなので30分かかったらずっとクリアできないなんてよく思ったものです。
そういう自分自身で焦りを感じたところを書いてみました。




