第236話「闇の錬金術士ドーラ」
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7/16(火)修正しました。
闇のドーラは、南東の方角にある場所に居住しているらしいが、はっきりとした
場所がガイドブックには記されていなかった。なので、適当に南東の方角に歩いて
いたのだけれど、薄暗い森のような場所に入ってしまった。
日差しがほとんど入ってこないような真っ暗な場所なので、闇討ちでもされそう
な気がしてきた。しかし、これが逆にドーラが周囲を警戒して植えた樹々の可能性
もある。
近所迷惑だとか言われて、家に落書きされたり、石を投げつけられたりなんて事
があったのかもしれない。中世ヨーロッパでは魔女狩りなんてあったようだが、そ
ういうのと同じような扱いをされていそうだ。だったら闇の錬金術士なんて辞めれ
ばいいというのがありそうだが、そこまでされてもやりたいと思えることだったの
ではないだろうか。
それにしても、こんなに薄暗い場所を歩いているのだが、何だか居心地がいいと
いうか、たけのこ森のあたりを彷彿とさせる場所だ。まるでホームシックにでもか
かってしまったかのようだ。ああ、魔者の大陸に戻りたくなってくる。薬草を集め
たい。
なんて感情に見舞われながら、森の中を歩く。広いなあ。こんな国の中に森があ
るなんていいんだろうか。ここにモンスターが生息するようになりそうな気がする
んだけれど。というかここに匿っていたり、研究用に飼育していたりしていてもお
かしくはないのか。ううん。本当にどんなことをやっているのか気になってきた。
「この森、落ち着きますね。」
「おっ、サンショウ奇遇やな。ワイもやで。なんでやろ。」
(母上、私もなんだかここは良い所に思います。)
…どういうことなんだろうか。モンスター達が落ち着くような場所ということは、
魔者の大陸に似たような何かがあるということなだろうか。確かに私自身もここは
良い所のように感じるけれど、気になるなあ。
それにしてもこの道長いなあ、またしても魔者の試練なんじゃないのかと思った
けれど、繰り返しているようには見えないので違うように感じる。だけど、なんだ
か似たようなところを進んでいる気がしてならないなあ。
…もしかして私って、方向音痴なんだろうか。いや、こういうことは自覚するとこ
ろから入るのが大事だと思うんだけれど、<アノニマスターオンライン>をプレイ
していて、毎回毎回、同じような所を歩いているなあという気分になる。それは魔
者の試練は全く関係なしにそう思う事が多いので、つまり、私自身がこういう場所
を正しく認識できていないのではないかということだ。
「魔者の試練、また来ている気がしない?」
「同じ所は繰り返していないようですよ。私がつけておいた目印がありますが、そ
れがありませんし。」
サンショウがそこまでやっておいてくれたらしい。ああ、私もそういう事をやっ
ておけばよかったのか。これからはそうしよう。
「…じゃあここから帰る時もこの長い道をずっと歩いていかないといけないってこ
とになるのか。」
「姉御、ワイに乗るって言うのは?」
「却下。誰が見ているか分からないし。」
「またワイの活躍の機会がなくなってしまったで。」
悲しそうな声を上げるだいこんだった。私としても、乗りたいんだけれど、ここで
誰かに見つかりでもしたら、国外追放みたいな事を言われてしまうかもしれないの
で慎重にならざるをえない。こういうのがレトロゲームだったら、そういうことを
気にせずにとことん突っ込んでいけるような感じだったんだろうなあ。
「こんな広い森を一人で管理しているならすごいと思うけれど。」
管理なんてできていないんじゃないかとすら思う。もしもここに子供が迷い込んだ
なんてことがあったらどうするんだろうか。そういうのをこの国が放置するという
こともないと思うんだけれどなあ、考えてもしょうがないけれど、何か対策はとっ
ていると思いたい。
ドーラの森とでも名付けておこうか。この森は、生物がいるような気配がない。虫
を一匹すら見ていない。ここにある木も何かおかしいのかと思ったけれど、普通の
木だ。いつもいつも、こういう場所に何かないかと期待しているのだけれど今回も
変わったものは特にないようだ。
「はぁ、なんだか面白みもないことだし。ちょっとこの道を走ってみるか。」
ワンピースなので少し走りにくいけれど、ずっと同じような道をのんびりと歩くだ
けなのも暇なので、このまま一気に突っ走ろうと思った。
「飽きたんやな。」
「その通り。こういう所をずっと歩くだけってねえ。」
時間というのは限られている。のんびりしてもいい時間というのはあるけれど、こ
こでだらだら時間を潰したくない、そしてもう少ししたら私もログアウトしたいと
かそういう事も考えているので、ここはさっさとドーラに会いたい。
「あぁ自然を純粋に愛する気持ちがあるのに、今の私には大事な用事があるんだ。」
という身を切る思いで走ることにした。
「走りにくいっ!」
早速思ったのだけれど、ジャージと比べるとやっぱり動きにくい。特にこのワンピー
スはひらひらし過ぎているのがいけない。あぁもうそろそろ般若レディの姿に戻りた
くなってきたなあ。なんだか調子が狂いそうだし、何より全然戦いもしていないから
色々と鈍っていきそうな気がする。
「はぁ、ゆっくり行くしかないのかなぁって、あ、見えた。」
これまで歩いてきた道の先に、木造の大きな家が見えた。あれがドーラのアトリエだ
ろう。やっとこれた。ここまで30分くらいは歩いた気がする。すごい長いと言うわけ
でもないけれど、徒歩で約30分はやっぱり辛いなあ。自転車のような道具でもあれば
楽だけど、このゲームにあるのかな。なんて道が整備されていないからタイヤがすぐ
にパンクするから駄目か。
「それじゃあ、扉をノックして、ドーラに挨拶しようか。」
どんな女性なのかは書いていなかった。性格が悪すぎてみんなから嫌われているなん
てことだったらどうしようか。なるようにしかならないのは分かっているが、ここで
ろくでもないことにならないよう祈るしかない。扉をノックする。
「こんにちはー! 弟子にして貰いにここまで来ました。いらっしゃいますかー?」
用件は分かりやすく言うべきなので、最初から伝えておくことにする。これで駄目な
ら少し会話させてもらう程度に使用。
「…。返事が無いようですね。」
まさかの留守なんだろうか。それとも居留守にしていたり、どこかからか私達の様子
を探っているなんてことなんだろうか。さて、どうしたものか。
「すみませんー。錬金術士のドーラさんはいらっしゃいませんかー?」
あれ、もしかして本当に留守なのかな。うわぁ折角来たのに、このままだとここまで
の30分が無駄になるんじゃないのか。面倒くさい! ひょっとすると、この時間、寝
ているとかそういうことはないかなあ。とりあえずここで何かやっておかないと無駄
足になってしまうのが嫌なので、叫んでみる。
「ドーラさんいらっしゃいませんかー? 私、ドーラさんの錬金術に興味があってこ
こまで来たんです!」
…返事がない。うわぁあ。こういう時って大体怒りながら登場してきたりそういうの
がよくある展開だよね!? あるいは御用の方は残念でしたとかそういう感じの張り
紙がしてあったり。これだとやっぱりまた後日に来訪ってことじゃないか。
「姉御、これは多分不在やで。きっとどこかに出かけているんやろう。」
「ねこますサン。ここは一度戻りましょう。」
折角ここまで来たのに。やれやれだなあ。あっ、それとも帰り道にドーラと出会うイ
ベントが発生するなんて事になるのかな。このまま手ぶらで終わるなんて事は無いと
思うし、これで、出会えないまま終わるなんて、そんなことはあってはならないと思
うんだよね。
(母上、誰だって留守にしている時くらいありますよ。)
5人の錬金術士だからねと言えばそうなんだろうけれど、運悪くいないタイミングで
来てしまったというのが、ここから更に運が悪いことになるのではないかと不安しか
なくなってくる。
そう、こういう時に出会えないというのは、大体他のイベントが発生しているため
でそちらを先に攻略しないといけなくなり、更にそこでも全く関係ないようなイベン
トが発生していくことで、本来の目的からそれていくことがある。私はそれを危惧し
ているというわけだ。
今まで、不在なんてあるゲームでは大体そういうことがあったので、そういう事を
させられるかもしれないと思うと、すごく嫌になってくる。
「私はもう子供じゃないのでお使いなんて言われるのが嫌なんだ。分かる?」
「はえ? 姉御、どうしたんや?」
「ドーラはひょっとして私を試そうとしているんじゃないのかと思ったんだけど、ど
うだろう? ここで諦めるようなら弟子にする必要が無いとかそこまで思っていると
思わない?」
「ま、ねこますさ、様。何をしようというのですか?」
「この森を燃や…」
「姉御ストップやで! 冷静になるやで。いきなり放火はまずいで。」
はっ、行けない。これから訪れるかもしれないやりたくもないイベントのせいで、ど
んどん悪いことを考えるようになってしまった。いけないいけない。あぁでもくそ。
面倒くさいなあ。やりたくないなあ。
「姉御が思うようなことにならないんとちゃうんか? 本当にたまたま運が悪かった
だけやと思うやで。」
「そういう気楽な気分でいた時期が私にもあったのです。」
「なぜ他人事の口調なのですか。」
軽い気持ちでアイテムの採取に行って来いと命じられたら、そのアイテムが採取され
つくされていて、それを譲って欲しいと言ったら別なイベントが発生して、そこから
別な地域に行ったら、ある特殊なアイテムが必要だからそれが欲しければと、どんど
ん遠くに追いやられていった。もう、ここまで来たら私は思ったね。
主人公たちのレベルを上げて、最初に必要だったアイテムを持った奴から強奪すれば
早いんじゃないのってね!
「世の中って面倒な事ばかりだなあって思うね。」
さて、本当にいないのならしょうがない、出直してくるとしよう。折角来たけれど本
当にいないのならしょうがないし。
「あっそうだ。」
「どうしました?」
扉のドアノブのあたりに。布を巻き付けておくのと、この扉を一度でも開けたら分か
るような仕掛けをしておくことにした。これで一度でもこの家に帰っていれば分かる。
今回だって、本当はいるかもしれないし。絶対にドーラには合って貰わないといけな
いのだからこれくらいはやらないと納得が出来ない、
「これでおっけー。」
「姉御って執念深いんやな。姉御を敵に回したら怖そうやなあ。」
「狙った獲物は絶対に逃したくないだけだよ。折角一生懸命やったことが少しでも無
駄になるのは嫌だし。そのためにやれることはやっておかないとね。」
(流石母上です。)
「それでは、帰りますか?」
「そうだね、一旦宿に戻ろう。」
結局今日はトルオにもドーラにも会えなかったか。はぁついてないなあ。とりあえず
今日は宿に戻ってログアウトして、明日また来てみるとしよう。