第230話「ハーツでお買い物」
まるで木造のガレージのような小屋が目の前にあった。店舗は、現実と同じよう
にお店の内外に沢山のサンプル品が並んでいた。ショルダーバッグやボストンバッ
グにポーチ、そして当然リュックもあった。あぁ、やはり素晴らしいデザインだ。
一個一個が現実にあるものと遜色がないように見える。素晴らしいとしか言いよう
がない。
リュックだけじゃなくて、普通にバッグなども欲しくなってきてしまったが、価
格がどれだけのものになるのかさっぱり分からないし、恐らく結構根が張ると思う
ので、何個も買えるような代物ではないだろう。
現実でも、結構根が張るので易々と買えないし。だからこそ、大事に扱っている
というのがある。
革製品と言えば、最初は硬くて使いにくいという事もあるのだが、それが徐々に
柔らかくなっていき、馴染んでいくので、自分専用の物になるのがまた楽しい。そ
んな持っているだけで楽しめるものが買えるんだ。よし、それでは店の中に入ると
しよう。
「こんにちはー。」
古めかしい木製の扉を開けて、お店の中に入ると、奥の方で、職人さん達が、手作
りしている姿が見えた。あれ、現実の店舗でも同じような光景を見たんだけれど、
まさか<アノニマスターオンライン>でも、全部完全に手作業でやっているってこ
となんだろうか。となると、現実でもこのゲーム内でもずっと作業しっぱなしって
ことになるのだろうか。
お店の中には、私達以外の客がいなかった。たまたま来たタイミングのせいなのか
分からなかったけれど、誰もいない中で自分だけがお店にいるというので少し気分
が良くなった。まるでお店を貸し切りしているかのような感覚だ。
「いらっしゃいませ、何かお探しの物はありますか?」
「はい、少し大きめのリュックで、色はキャメルの物があればいいかなあと。」
店員さんは、ハンチング帽をかぶった、ガタイの良いおじさんだった。いかにも
職人という風格を漂わせていた。黒いシャツに、作業用のズボンをはいており、動
きやすそうな格好だ。
なんだかとても強そうに思えるんだけれど、もしかして、素材となる革を手に入
れるために、モンスターを倒しているとかあるんだろうか。どう見てもそういう事
をしていそうな感じがする。
「では、いくつかサンプルがありますので、少々お待ちください。」
いくつか、か。ポケットの数とか、私に合うサイズとか、キャメルにしても微妙な
色合いがあるので、そういうの事の確認かな。確かに機能性も大事だしそういう細
かい所で色々出来ると便利そうだなあ。
「お待たせしました。こちらです。どうぞご自由にご確認ください。」
登山にでも持っていきそうなサイズのリュックが1つ。ごく一般的なサイズよりも少
し大きめのリュックが1つ。そして最後に少し小ぶりのいかにも女性が持っています
といった感じのリュックが1つ。最後に、鞄風の形をしたリュックが1つの合計4つの
サンプルを渡された。
「ありがとうございます。どれもすごくいいですね!」
色は全てキャメルなのだが、金具が銀色や金色だったり、ボタンの色なんかも色
々あるので、細かい所で違いがある。うーん、私としては大きめのリュックがいい
んだけれど、般若レディの姿でこれを背負うのが結構きつい気がするなあ。このサ
イズはブッチだったら丁度よさそうなんだけどね。
全部触ってみることにしたが、感触はどれも同じような感じなのだが、革が分厚
いので、かなり長持ちするだろうなという感じはする。ゲームでの持ち物になるの
モンスター達と戦うことがあるため、で現実と比べたら壊れる可能性も高いかもし
れないが、素晴らしい逸品だと言うのがよく分かる。
個人的には鞄風の形をしたリュックがいいのだけれど、サイズ的に少し小さいの
で、今後使う分には物を入れるのに不足しそうだ。うう、でもこれかなりいいなあ。
外側の小さいポケットに小物を入れたりできそうで、ああ欲しい。というかこれ、
普通に現実で買いたい。アンティーク的な感じにも見えなくもないので、そういう
のが好きな私としては、逸品持っておきたい。うぅ、これは現実で買うことにしよ
うかなあ、あればだけれど。
結局のところ、選ぶとしたら少し大きめのリュックだ。トラゴンに投げつけたリ
ュックよりも少し大きいが、ちょうどいいサイズだ。
左右にも袋がついているので、この中に、だいこんとひじきが収納もとい忍ばせ
ておくことができそうだし。これにしよう。
「これに決めました。それで、おいくらしますか・・・?」
「こちらでしたら10万スターになります。」
「買います!」
おおっ。結構いい値段するとは思ったが、10万スターか! 良かった。先に薬草を
売り払ってきて良かった。全然お金が足りなくなって困るところだったよ。ああよ
かったあ。やっぱり結構するよね。現実でも高くてなかなか買うのに踏ん切りがつ
かなかったくらいだし。
「こちら、10万スターになります!」
「お買い上げありがとうございます。」
すぐに支払ったのだが、店員さんは少し驚いた顔をしていた。一体どうしたんだろ
うか。気になったので聞いてみた。
「えっと、何かしました?」
「いえ、一括払いで購入してくださる方はあまりいないものでして。」
え、そうだったのか。やっぱり10万スターっていうと結構高額ってことになるのか。
いけないいけない。まだまだ金銭感覚が普通じゃないから、今回の買い物で10万が
かなりの大金だと言う認識を持たないといけないな。
「そうだったんですか。私、ここの商品が凄く欲しくて、すぐ買わないとなって思
ってたら居ても立っても居られなくなったので買うことに決めたんです。」
「そこまで気に入っていただけでこちらも嬉しいです。」
「あはは。私、現実でもこちらのお店が気に入ってるので、もう絶対買うんだって
決めてから来ました。」
「現実でもごひいきにしてくださっているとは、ますます嬉しいですね。」
「はい。あの、それで一応聞いておきたかった事なんですけれど。」
「なんでしょうか?」
「先ほどの鞄風のリュックは現実でも置いていますか!? 現実だとキャメルじゃ
なくてブラウン系だったら嬉しいんですけれど!」
あっ、自分で興奮して話してしまっているのがよく分かる。抑えが聞かなくなって
暴走しそうだ。でもあの鞄風のリュックが凄い欲しいんだからしょうがない。前に
お店に行ったときは見かけなかったし、新作だとしたら欲しい。
「こちらは…まだ現実の方ではないんですよ。」
「うっ。そうだったんですか。ってまだってことはこれから作る予定があるってこ
となんですか!?」
「そうなりますね。いずれは置いておくことになりますよ。」
なんていいニュースなんだ。素晴らしい。現実でもお金を貯めてこの鞄風のリュッ
クを買わないといけないな。革製品だからかなり長期間使えるし楽しみだ。あぁぁ
まさかゲーム内での楽しみが現実にも関係してくることになるとは思わなかった。
すごい嬉しいなあ。ああ、嬉しすぎる。
「それで、すみませんが、こちらでのリュックなのですが、製作期間に2週間から1
か月ほどなのですが、構いませんか?」
「はい! 勿論です!」
注文を受けてから作るのがこの店の方針なので、そこは何も文句はない! という
か出来上がるまで待つのも楽しみなんだ。まだかなまだかなあと、完全に自分だけ
の物に仕上がったリュックなんて最高だ。あぁ、嬉しいなあ。
「後は、まだ予算の都合がつかないんですが、欲しい物があるかもしれないので、
少しお店の中を見て行ってもいいですか?」
「勿論です。お気に入りの品が見つかるといいですね!」
店員さんの態度も素晴らしいなあ。ああ、こういう職人さんはいいね。しっかりと
作り込んでくれるって言うのに期待が持てるし。あぁ本当に今日は良い買い物をし
たなあ。
よし、それじゃあちょっとお店内の物をたくさん見て行って、現実ではないものが
ないか確認することにしよう。そしてそれが現実でもでるかどうかってあまり聞い
たらいけないかもしれないけれど、少しは聞いておくことにしよう。
好きなブランドだからどんどん知りたくなってきちゃうしね。後、現実のお店でも
こっちのお話を少し出してみても面白いかもしれないなあ。といってもそれで自分
のキャラクターがばれたりしたら困りそうなので、そこまでしないように注意しな
いといけないけどね。
よっし、それじゃあレッツ探索!