第23話「蛇」
「蛇蛇蛇じゃーんって言う雰囲気じゃないかなーこれ?」
ブッチは、余裕を見せているが、内心絶対こりゃやべえって思っているに違いない。目の前に巨大な大蛇、これはアナコンダとでも言えばいいのだろうか、こちらに睨みをきかせながらうねうねと体を動かしている。胴体の直径って50cmくらいあり、全体的な長さは15メートルくらいあるかもしれない。こいつが今にも襲い掛かってきなので、まずは、獣の骨を何本か投げて牽制をしかけることにする。
私は、大蛇の顔面めがけて、獣の骨を思いっきり投げつけた。たやすく命中するが全く怯む様子はない。これは、まずいのではないだろうか。
「毒があるかもしれないからあまり近づきたくはないよなこれ。」
失念していた。ブッチの言う通り、確かに、蛇は毒を持っている可能性が高い。噛まれた後も永続的にダメージが入りやられてしまうかもしれない。大量に薬草があるにしても毒に対しては恐らく効果はないだろう。時間経過で毒が治るゲームもあるが、このゲームもそうだとは限らない。
蛇は、意外と動きが素早く、隙を見せたら最後、思いっきり噛みつかれ、そのまま飲みこまれてしまうだろう。くそ、戦いにくい相手だな。殴り合いなら薬草作戦があるというのにそれができないのがもどかしい。
「これ、俺が特攻するっきゃないね。多分パワーとスタミナなら俺のほうがあるし、毒くらってもまあなんとかると思う。」
「私が特攻するって作戦は」
「無理!っつーかもう余裕がないので、とにかく行くぞ!」
ブッチは勇猛果敢に大蛇に特攻していく。正面からではない。大蛇の周囲をぐるぐる回るように動きだす。
「ワタシハ、ハンタイカライキマス!」
たけのこは、逆側から大蛇に回り込んでいく。だが前方からは牙が襲い掛かるし、後方には尻尾があり、攻撃される可能性も高い。安全に攻撃というのは不可能だ。
残った私はぽつんと突っ立っているわけにもいかないので、注意を引くために獣の骨を投げつけていく。後は、効果的だと思われるのは「狐火」だろう。だけどこれ、実は射程が短い。大体1.5メートルまでしか届かない。うわー近づきたくねえ。こいつはやべえよ。なんなんだこいつ。こんな奴もっとこっちが成長してからでてこいってんだ。
「シャアアアアアアアアアアアア!!!!」
急加速して、ブッチに襲い掛かる大蛇。ブッチは。間一髪で避けたが、体勢を崩してしまう。これはまずい!大蛇の第二撃が来ると同時に私が踏み込む。
「狐火!」
私の口から火が吹き出され、蛇の顔にもろに当たる。
「ゲシャアアアア!?」
悲鳴を上げているという事は効いているようだ!だがここで連発はしない。連続攻撃というのは、攻撃が終わった瞬間にどうしても隙ができてしまうので、私は、そのような危険を冒す気はなかった。
「助かった!」
体勢を整えて一歩下がるブッチ。私も大蛇から少し距離をとる。その隙に、たけのこが、爪で斬り裂いたり、噛みついたりしていたが、あまりダメージを与えている様子がない。この大蛇、予想以上に堅い。地道に削って倒すしかないボスなのか。
かつて私は、ダメージがほとんど与えられない敵に粘り強く削って倒したことがあるが、今回はそのパターンとは違う。その時は時間さえかければなんとかなるというものだった。しかしこいつの場合は、こちらが攻撃を食らえばあっというまにやられる状態だ。その全てを回避して、ひたすら攻撃を続けるしかない。そんなことを考えると私は、そう私は歓喜した。武者震いもしている。
「全部避けて、全部当てる!それだけだ!」
「おうよ!ねっこちゃん!やったろうぜ!」
「ヤリマショウ!」
私は、こういう挑戦がしたかったんだ。それが今<アノニマスターオンライン>の世界で叶っている。これほどの危機は燃えるシチュエーションだろう。私は逆境に強いタイプなんだよこの野郎!たかが蛇の1匹、ぶっころしたらぁ!
「シャアアア!」
「狐火!!!」
飛び掛かる瞬間を狙って狐火を当てる。燃えている間やはり大蛇は、怯む。ダメージにもなっているようだ。問題は、この狐火がいつまで使えるかってことだな。ケチってもだめ、使いすぎてもだめとはかなり難題だな。
「オラッ!オラッ!オラッ!オラッ!」
ブッチはモーニングスターでひたすら攻撃をするのだが、たけのこの攻撃と同じで大蛇へのダメージは低いようだ。こいつ耐久性ありすぎだろう。パワー型の攻撃だぞ。それが通らないっておかしいだろう。
私達は、徐々に消耗していくが、大蛇はそこまでじゃない。まさかこいつ自動回復なんて能力があったりしないだろうな。流石にそこまであったら最悪だと考えたが、傷跡などは残っているようなので、それだけはないようだった。つまりひたすら殴り続けさえすれば勝利できるということだ。今のところ全員無事なのは幸運だ。誰か一人でもやられた時点で一気に全滅してしまうだろう。この場の誰一人がかけてもこいつを倒すことはできない。
長期戦だ、ジリ貧の長期戦だ。だが不思議と、高揚感がある。こうやって必死に足掻いている時って生きてるいるって感じる。たかがゲームといえばそうかもしれないが、こんな現実的な体験ができるVRゲームならではの臨場感だろう。ああ最高だ。
この勝負、絶対勝ってやるぞ!