第228話「薬草の女」
何度もすみません…。追記をするのでよろしくお願いします。
7/8追記
「薬草ですか…。」
うわぁ落胆している。オールバックの店員を落胆させてしまった。これは非常にま
ずい事態じゃないのか。ど、どうしようか。
「何か問題があるのか?」
「いいえ、売っていただけるのはありがたいのですが、精々数個程度といったとこ
ろでしょう? 他に何かお持ちではないのですか?」
え、精々数個? いや、え? そんなわけないし。わざわざそれだけのために売り
くるっていうのはないよ。
「薬草なら沢山持っているぞ。」
「ほぅ。」
一瞬だけ期待するような目を向けてくるオールバックの店員。あのさぁ、これもう
薬草の取引じゃなくて、もうなんか別な取引って感じじゃない? 明らかにそうい
う筋の人間っぽいし。正直怖い。
「姉御。ここはどかんと一気に出してみるんや。」
…とはいえどのくらい出せばいいんだろう。軽く百個くらい出してみればいいのか
な。その程度かみたいな扱いだったらどうすればいいだろう。怖いなあ。
「ねこますサン。」
「う、うん。」
私、一体何のゲームやってるんだっけ? なんかいつの間にか全然違うゲームをや
っているような錯覚に陥っているんだけどさ、なんでこんな事になっているんだろ
う。この店員に当たったのが悪かったような気がするよ。うう、なんて不運なんだ。
毎度のことだけれど、魔者ってやっぱり絶対呪われているよ。
「まずは、薬草が200個になります!」
とりあえず200個どかんと一気にだしてみた。アイテムインベントリにはまだまだ
あるけれど、この場で出し過ぎたらいけないので、テーブルに山盛りになる程度に
出すことにした。さて反応はどうだろう。
「…っ!?」
目を見開いている。こ。怖い。なんだあの目の大きさ!? 漫画なのかってくらい
大きな目で薬草をじっくりと見ている。怖い! 品質か何かを見ているのか? 何
やら触り始めたのと、ルーペを持ち出して薬草を鑑定しているようだ。
「…これを、お売りいただけるんでしょうか!?」
「はい。全部売りたいです。いくらほどになります?」
ごくりと唾を飲み込む。なんだかすごい勢いだったし、結構いい値段で買い取って
貰えるということなんだろうか?
「…。1個、そう、ですね。1000スター…でどうでしょうか?」
冷静になれ私。つまり合計20万スターということだぞ。今持っている所持金の役20
倍にもなるって明らかにおかしいだろう。だけど、やはりそうか。需要があるって
ことなんだな薬草に。そして私はよく分からなかったけれど、高品質ってことだな
この薬草。絶対そうに違いない。であれば、これはこの金額で容易く手放すわけに
もいかない。
「1200。これなら売ります。」
「ふ。フフフ。なかなかの交渉上手ですね。いいでしょう。1200で買い取りましょ
う。」
何が交渉上手だと言いたくなる。私はこういう売買の初心者だ。こういうのが社
交辞令だと分かっていても馬鹿にされているような気分になってくるので、そんな
事を言われて少し腹が立ってしまった。
ここで、実は倍ぐらいでも売れていたんじゃないだろうかとも思ったが、そこは
今回はもういい。ひとまずここは、200個売っておきたかったのでぱぱっと買い取
って貰えればそれで満足だ。
「では、ありがたく買い取らせていただきます。少々お待ちください。」
オールバックの男は立ち上がり、席を外した。
…これで24万すたーか。いやまさか薬草をそこまで高額で買い取って貰えるなん
て夢物語があるなんて思わなかった。だって薬草だよ? 多少高く買い取って貰え
るかもしれないなあなんて思ったいたけれどここまでとは。やはり世界中にプレイ
ヤーがいるから、大量に消費されているのだろうか。
24万スターってどの程度のお金なのかはまだよく理解できていないが、一気にお
金が増えたので、いい気分だ。これならハーツでリュックが買えるのではないだろ
うか。
「ねこますサン。薬草が売れてご機嫌ですね。」
高額で買い取って貰えた薬草だけれど、まだまだ在庫が沢山あるんだもの。今回
は200個売ったけれど、まだまだ在庫を抱えているので、また今度売りに来ようと思
っている。とはいえ、ひたすら薬草を売りまくっていたら、それはそれで怪しまれ
るので、適度に売るのが一番だろう。今回はこれだけ売ったけれど次回からはもう
少し小出しにしてもいいかもしれない。
「お待たせしました。こちら24万スターになります。お確かめください。」
「ぉおおぅ。」
星印が描かれた金貨を何枚も渡された。なんだかリッチになった気分だ。よし、そ
れじゃあここで取引を終わらせようと思っていたのだが、オールバックの男がまだ
こちらをじっと見ている。な、なんだ。何か用件があるのか?
「他にも、お売りいただけるものは、ございますか?」
…火薬草があったけれど、また草を出すのはちょっとなあ。ここは試しに蜂蜜でも
出してみようかな。1個だけ出して様子を見てみるか…。
「えーっと、これならあります。」
テーブルの上に、蜂蜜の入った瓶を1個置いた。毎日増えていくが、沢山あるわけ
でもないので、とりあえず1個だ。まぁこれをいくらで買い取ってくれるかは別に
期待していない。ありふれたものである可能性も高いし。
「…失礼。これは、蜂蜜、でしょうか?」
「ええそうです。蜂蜜です。舐めてみてもいいですよ。」
「…いえ、そこまでは不要です。む…ぅ。」
なんだか考え込んでいるぞ。いくらで買い取りたいっていうんだ。薬草よりも価値
がある、なんてことはありそうだけれど、それだとひょっとして1万スターとかに
なるのか? いや、入手できる数が少ないしもっとってことも。いやそれはないか。
「20万スターで、どうです?」
「うーん。どうしようかなぁ。」
内心は狂喜乱舞しているが、顔には出さないようにする。そしてこれ、多分まだ出
せるって顔だこのオールバック男。ここは倍で行こう。倍だ!
「40万スターならいいですよ。」
私としては、売れなくても、いや、売らないつもりで言った。倍の金額まで出し
て買う事は無いだろうと、そう確信していた。こんな金額で売れるわけがないだろ
うと安易に考えていた。いいや、絶対にこんな金額じゃダメだろう。
「ふぅ。やはり、気が付いていたようですね。これがただの蜂蜜ではないというこ
とに。いいでしょう。40万スター、出しましょう。」
ただの蜂蜜じゃないってじゃあ何の蜂蜜だよ! とツッコミを入れたくなるが、そ
れも顔に出さないようにする。冷静に、冷静になれ私。40万スターでこれが売れる
ということはこれは実はとんでもなくすごい蜂蜜だったってことだ。
それをたまに一人で舐め尽くしていたっていうことの方が恐ろしくなってきた。
特別な蜂蜜なのかこれは? 分からない、どういうことなのかさっぱりだ。
「分かりました。こちらも買い取りお願いします。あと、もう売り物は無いのでこ
ちらで最後にしてください。」
もう勘弁して欲しい。私は、今でも逃げ出したい心境だ。このオールバックの男、
怖いんだもの。他の取引相手にして欲しいよ。
「そうですか。こちらも高額のやり取りが続きましたし。これ以上は難しいと思っ
ていたところですからご安心ください。」
という感じで、またしても席を外してお金をとりに行ったらしい。
「ねこますサン。すごい大金が手に入ったという事ですね?」
「そうだよ。」
今まで普通のオンラインゲームをやってきた時なんかも、こんなにどばっとお金
が手に入ったことは無かった。一般的なプレイヤーではないということになってし
まっているからなのかな。
こういう街の中でも、モンスター系というか、ブッチのようなサイコロプスなん
てまるで見ていないし。
「他とは違う…か。」
思わず呟いてしまう。昔オンラインゲームを始めてプレイしてた時の事だが、私
はそのゲーム内で自分は特別なキャラクターになれるんだなんてことを思っていた
時期がある。まるでRPGの主人公か何かのようになっているというような具合だ。
だけど、実際はまるっきりそんな事は無かった。ただの凡プレイヤーでしかなく
何をするにしても、目だった特徴もない、ただのプレイヤー。いつか自分がそのゲ
ームの主人公に抜擢されるかもなんて本気で思っていたが、そのような日が来るこ
とは無かった。それからは、同じようなゲームをプレイする時は、自分は主人公で
もなんでもない存在なんだ、なんて少し距離を置くと言うか冷めた感じになってし
まっていたが、今はそこまでじゃない。
むしろ今は主人公とかやったら絶対面倒くさくなるとか、やりたくないことを押
し付けられるに決まっているという感覚だ。昔だったら今のこの状況にかなり喜ん
でいただろうに、なんていう皮肉なんだ。
「こちらが40万スターです。」
またしても金貨が持ち運ばれてきた。64万スターも稼いでしまったわけだが、これ
で心置きなくハーツに買い物に行ける。
「はい、どうもありがとうございました。それでは私はこれで。」
「すみません。少々お待ちください。」
「はい?」
「自己紹介が遅れたことをお詫びいたします。私は、ソレヲウレヤ、副店長のウレヤ
と申します。以後お見知りおき下さい。」
「私は、ねこますと言います。こちらこそよろしくお願いいたします。」
副店長かぁ。…なんで副店長が応対しているんだよもう!
「ねこます様、今後ともご贔屓のほどお願いします。」
「はい。そんなに売り物が手に入るわけじゃないと思いますけど。機会があれば。」
めんどくさっ! わずらわしっ! かったるっ! なんでゲームの中でまで仕事をし
ているような態度をしなきゃいけないの! あーもうでも相手がこういう態度だとこ
んな風に返してしまうよ。
「ウレヤ殿。我らは急いでいるのでこれで失礼する。」
「はい。引き留めてしまい申し訳ありませんでした。ありがとうございました。また
お越しくださいませ。」
と、言うわけで、お店から出ることになった。はぁああ、なんかすごい疲れたなあ。
ちょっとした取引だったはずなのにすごい面倒くさかった。これからハーツに買い物
に行くっていうのに。
「で、姉御、早速行くんやろ?」
「勿論だよ。そのためにここに来たんだからね。お金も沢山あるし、これなら絶対に
買えると思うよ!」
64万9550スター。これだけあれば買えると信じたい。これで買えなかったら、もう
このゲームのお金はよほどインフレしているってことになるな。はぁ。買えたらいい
なあ。
「では、参りましょうか。」
「そうだね。行こう。」