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アノニマスターオンライン  作者: 超電撃豚豚丸
第4章「人間の大陸」
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第220話「三文芝居」

「く、くそっ。なんでこんな目に。」

モヒカンが短剣を構えながら、サンショウを睨みつけていた。ついでに私の方もチ

ラ見してくるあたり、しくじったとでも思っているかのようだった。全く、私に責

任転嫁しないで欲しいな。

「君、俺は正直、手荒な真似はしたくないんだ。あいつが悪い奴であってもだ。だ

から、あいつが降参したらそれまでにするぞ。」

赤髪の騎士がなぜかサンショウではなく私に話しかけてくる。いや、お前それをサ

ンショウに言ってくれよ。私は無関係なんだぞ。というか火に油を注ぐようなこと

をしないでくれ。


「黙れ。」

有無を言わせぬサンショウだった。そこで突然フードを外して、二人を睨みける。

顔はイケメンだったので、周囲から歓声が上がる。もうなんだろう、その、サンシ

ョウが主人公みたいなノリになっている気がするんだけれど。

「四の五の言わずに決着をつけろ。」

ドスの効いた声を出すものだから、更にかっこよく見える。周りの、特に女性プレ

イヤーは両手を重ねて輝いた目で、サンショウを見つめている。その他は白けた目

線を私に送ってくる。うう、なんてことだ。常識的に考えたら、これって私がサン

ショウに甘えているみたいな感じなんだよね。嫌になってくる。


「お、おい。」

「ああ、やるぞ。」

 モヒカンと騎士はお互い構えをとる。騎士は腰の鞘から剣を引き抜いたが、なか

なか様になっているようだ。こんなアホみたいな真似しなければいいのにと思った

が見栄えだけよくしているだけというのも考えられそうだ。所詮はこいつらは仲間

同士ってことだと思うし。


「うぉりゃあああ!」

「だぁーっ!」

 モヒカンの方が酷い動き過ぎる! ここに、みねうちして下さいと言わんばかり

の動きだ。それを狙っているのは分かるにしても、あまりに酷い。もうちょっと勢

いがないとだめだろ。

「そこだッ!」

 赤髪の騎士がそんなことを叫ぶが、そりゃあ誰がどうみたってそこを狙えばいい

って分かるだろう。一体全体どうしてこうなったんだ? なんでこんな三文芝居を

見せつけられなきゃいけないんだ。不運すぎる!


「ぐあーっ!」

モヒカンがわざとらしくそのまま倒れ込み、動かなくなった。もうこんなのは見て

いられない。あまりの出来事に私は狼狽えてしまう。

「口ほどででもないな。ふぅ。これでいいんだろう?」

「そうだな。では敗者には死んでもらうとしよう。」

「なっ!? 話が違うぞ! そこまでやる必要はないだろう!」

「南無阿弥陀仏!」

問答無用で倒れているモヒカン男に重力魔法を放つサンショウだった。良かった。

いきなり爆発魔法を使われたらどうしようかと思ったけれど、これなら安心だ。っ

て違う! これでも十分脅威だって!

「ぐ、げええええ!? なっ! おっ。うぉおお!」

紫色の球が襲い掛かるや否や、突然起き上がり、走り出すモヒカン男。やっぱり、

元気いっぱいじゃないか!


「ほう、やはりまだまだ元気だったようだな。」

「うぉおおおおお!」

「逃がさんぞ。」

モヒカンが走るよりも早く重力魔法の球が動き、命中した。

「く、くそったれがあああああ! こんな! こ、こん。ぐあああ。」

重力に潰されていくモヒカン男だった。ってこれはやばい。流石に止めないとまず

いと思ったので、サンショウに辞めさせるよう頼む。

「サンショウ! もういいから! そこでやめて! このままだと街に入れなくな

あるかもしれないし!」

「! そうですね。失念しておりました。すみません。」

 重力魔法を解除するサンショウだった。ふーっ。危なかったあ。プレイヤー同士

が戦うことでペナルティがあるかもしれなかったしここでモヒカンを倒してしまっ

た場合も街から出入り禁止なんてことをされてかもしれなかっただろう。間一髪だ

った。

 さっさと止めればよかったというのもあったけれど、途中で止めたらまたいざこ

ざがありそうだったし、判断が難しかった。それにしてもやってくれたなあこいつ

らって感じだ。

 周りからもじろじろ見られてしまっているし、目立ちすぎてしまった。ううっ。

こういういざこざに巻き込まれやすいのもきっと魔者のせいだ。そうに違いない。


「それで、貴様はどうする? 我々の邪魔をする気か?」

くるりと赤髪の騎士の方に振り向くと、威圧的な態度で話すサンショウだった。

「い、いや、悪が滅びるのであればこちらも願ったりだ。で、では俺はこれで失礼

す。」

「待て、お前らが騒いだせいでこちらも困っている。迷惑料を払っていけ。」

「サ、サンショウ! そういうのはいいからっ!」

迷惑料というか慰謝料と言うか、そこまで要求する必要はない。なぜってここじゃ

みんな見ているし、そんなのを見られたら悪評で酷いことになってしまう。も、も

うやめてくれ。


「…わかった。い、いいだろう。5000スターだ。これでいいだろう?」

うわーっ! 最悪だ。このタイミングでお金を出すとか、小芝居というかなんとい

うかわざとらしくて、私達までこの演劇の役者みたいにさせられちゃうだろ。こん

なふざけたことがあっていいのか! というか通貨ってスターなの? 何それって

言いたくなるんだけど!


「倍だ。10000スターを出せ。」

「~~~~っ!?」

くっくそっ! これが他人事だったら大笑いだっただろうに、自分の身に降りかか

ってくるとなると全然笑えない! 何で倍プッシュするの! ねえそこは謙虚に行

こうよサンショウさん! もしかしてリッチとかいう高位モンスターのせいか、結

構プライドも高いって設定なの!? もう私を困らせないでくれ!


「っ!!! 受け取れ!」

10000スターとやらが入った布袋をサンショウに投げつけた赤い騎士だった。うう。

なんてこったい。意図せずお金が手に入ったのは良いけれど、こんな揉め事なんて

ごめんだよ。はぁ。

「ふむ。これがお金か。ねこますサマァ! やりました! お金を入手しました!」

「う、うんっ!」

大きな声で騒がないでよおおおおお!? なんでそんな子供みたいにはしゃいでそ

の布袋を掲げているの! や、やめてくれぇええ! 私の精神が持たないよ! サ

ンショウがまさかこんなに駄目な奴だと思わなかったよ! こんなだと分かってい

たら絶対連れてこなかったよ。うう。


「それでは、俺は用があるのでこれで、では。」

かっこよく去ろうとしているけれど、逃げ帰っただけにしか見えなかった。赤い騎

士に同情したい気持ちになったけれど、マッチポンプを仕掛けようとしてきたのは

こいつらだったんだろうから、むしろ今は腹正しい気分だ。


「何の騒ぎだッ!」

あー。やっぱりこうなるよね。大体こうなるって分かっていたけれど、嫌だなあ。

もうここは一旦逃げて別な所から並ぼうかなあ。でもどこいっても絡まれたりしそ

うだし。それに別な門に行ったとしても、またこのモヒカンと赤い騎士に絡まれた

りしそうだし、そういう同じような事を起こさないためにここから行きたい。


「あー。あそこで伸びてるモヒカンがなんかいちゃもんをつけてたみたいでさ。ん

で、それをそこのにーちゃんが懲らしめたってところだな。」

おおっ。なんか戦士っぽい人が門番っぽい人に見たことそのまま伝えている。そう

だよ、こういうまともなことをしてもらいたいんだよ私は!


「それで、お前たちが騒ぎを起こしたと言うのか?」

「うう。本当に申し訳ございません。私と、私の仲間が色々あって、ご迷惑をおか

けいたしました。」

徹頭徹尾謝るしかない。それしかないんだから。自分は悪くないなんて思ってはだ

めだ。私はいざこざを起こしたくなかったんだから。そうだ、ここできちんと謝罪

をしておけば、後はなんとかなるはずだ。


「っ! そ、そうか、君みたいなか弱い女の子を守るためには仕方が無かったとい

うことか。そうだな、君?」

「む、ねこますサマはかよわ」

「サンショウ!?」

「む、そ、そうです。」

咄嗟に睨みつけたのでなんとかなった。今の私は正真正銘か弱い人間の女の子なん

だからそういう設定にしておかないといけないだから。全くもう!


「だが、こうした騒動を巻き起こされるのも困る。今後はこのような事がないよう

に注意してくれ。あまりに酷い場合。しばらくの間、街の中に入れることができな

くなってしまうからな。」

「は、はい。本当に申し訳ございませんでした。」


はぁ、やっぱりか。最終的には一切入れなくなるなんてこともありそうだな。そう

ならないように注意していかなきゃいけないな。これはもうサンショウにはきっち

りと常識という物を教えていかないといけないな。このまま人間達のいるところに

いたら、取り返しのつかないことをしでかしそうだし。というかもう、そういう事

になる寸前だったし。

「ふむ。分かってくれればよろしい。では私は、門まで戻るのでまた後でな。」

「はい。ありがとうございました。」


なんとかなった。良かった。本当に良かった。念願の街の中に入れなくなったらど

うしようかと思ったけれど、注意されるくらいで良かった。こういうことにならな

いためにも、仮面ではないけれど、顔を隠す道具が必要だな。変な奴らに絡まれな

いようにしないと。

 この後、みんな列に並びなおして、順番待ちすることになった。私達に声をかけ

てこようとする人は、いなくなったのは良かったけれど、周りがひそひそと私達の

方を見て会話しているのがどうしようもない気がして最悪だった。


「見てください。我々の方を見ております。これもすべてはねこます様の御威光で

すな。」

「やめて…。そういう事も言わないで良いから。」

そういえば、サンショウにはなんでそこまで魔者を尊敬しているのか聞いたことが

なかったし、タイミングを見て聞いてみるか。心酔しているかのような態度が目立

つし。

「姉御。ワイはもう聞いてられへんかったやで。けど分かったことがあるで。」

「何。言ってみて。」

「サンショウはお笑い担当や。もうそれしか考えられん。こいつは逸材や。こんな

クソ面白い茶番見れてワイは最高やったわ。」

客観的に見れればそりゃ楽しかったと思うよ! 私は当事者だったんだから、少し

も笑えなかったんだよ!


「あぁもう疲れた。」

「あやつらのせいですね。やはりあの時潰しておけば。」

「それはもういいから!」

街に入るだけでこれとか、もう前途多難な気がしてきた。うう。

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