第204話「人間化」
「えーっと、私は人間の街に行きたい。そこに行くには、樹海のどこかにある転移
陣をから多分行くことができる。転移陣のある場所は人間が知っている。人間はこ
の樹海のどこかに多分いると思われる…。うーんなんだか本末転倒になってきそう
な勢いだなあ。」
これは、RPGでよくある展開だ。何かをするためにはその前の作業が必要になって
いて、その作業の前にも準備が必要でと、いつの間にか目的から離れてしまってい
ることがある。そしてそんな細かく面倒くさい作業を全て攻略しないと目的を達成
することができないのだった。
「ねっこちゃんがなんだか気難しそうな顔をしている! って思ったら人間になっ
ていたからだった!」
「ねこますさんが人間っぽくなっているのにとても違和感を覚えます…。」
そういえば人間化を使ったままだった。別に今すぐ使うわけでもないし、元に戻っ
てみようかな。ってあれ、これどうやって戻ればいいんだろう。
「…。私、どうやって般若レディに戻ればいいんだろう?」
「なんや姉御。元に戻れないんか? それはちょっとまずいんやないか?」
いや、言われなくても分かっているけれど、こういうのって大体時間経過で元に戻
れると思うので、そんなに心配していない。
「ねっこちゃん! そういう時は気合でなんとかなると思うよ!」
「私は、か弱い般若レディじゃなかった、人間になっているからね!」
そんなか弱い人間の女が気合いでなんとかできるわけがないじゃないかというこ
となので、しばらくはこの姿のままで活動しないといけないな。
「ねこますサマ。ツカレタカオヲシテイマスガ、ダイジョウブデスカ?」
「うんまぁ。これから面倒くさいことをやっていかないと、人間の街にたどりつけ
ないと思うと億劫でね。」
さっさと目的を達成してしまいたいので、自然と面倒くさがってしまう。そう都合
よく人間がこの樹海を徘徊していないだろうし。
「あ、それと忘れてた。蟻と同じクロウニンのジャガーコートちゃんって猫と将来
的に戦うことになっているからみんな気を付けてね。」
というか、蟻を倒したらすぐに向かってくるんだと思ったいたけれど、そういう事
は無かった。なんだろう。執行猶予的なノリなのかなあ。蟻を倒したことだし、一
定の期間は魔者に攻撃することができないようになっているとか。
「ねこますさん。その話を詳しく!」
「ああ、蟻と戦う前に、黒いジャガーと遭遇してさぁ。そこで蟻を倒した青は自分
と戦うことになるって宣言していったんだよ。」
「つまり、今はいつ狙われてもおかしくないってことですか?」
「その通り! まぁ狙われているというのは魔者である私だけなんだけれど、みん
なも仲間ってことで一蓮托生だからよろしくね!」
私一人だけが苦労して戦うことにならないようにここでみんなに伝えておく。こ
うすることで私だけが犠牲にならないようにするとてもいい作戦だ。こうやって事
前に説明することで、みんな一致団結することができるはず!
「やった! つまりそれってねっこちゃんといれば、無駄に強そうな奴らがブラッ
クホールに吸い込まれるような感じでやってくるってことだね。」
「言い得て妙な気がする。そんなところだよ。」
そう告げると、ブッチはガッツポーズをとった。うわぁこれだから戦闘狂という
のは困るんだ。そんなに戦ってばかりいたら、頭まで筋肉にやられてしまうかのよ
うな勢いじゃないか。
「ねっこちゃん、俺はいつでもねっこちゃんといるよ! なんだか面白そうな事が
沢山起こりそうな気がするし! いやぁクロウニンかぁ。全員まとめてかかってき
てもいいんだけどなあ。ひたすら戦い続けたいしなあ。あー、俺の好きなアクショ
ンゲームみたいに、最後にボスラッシュがあったらいいなぁ。へへへ。」
なんか勝手に一人で妄想に浸っているようだけれど、そんなことにはならないだ
ろう。いやありえるか。将来的に何がどう変わっていくか分からないのがオンライ
ンゲームだしなあ。
「と、言うわけで、このあたりをうろちょろしようと思うんだけど。この人間化が
とけるまでちょっと待って欲しいな。」
「マスター。その姿からすぐ戻れないのは危険だと思います。スキルなどは使えな
くなっているのでしょう?」
「あ。どうだろう。みんな使えないのかなあ。えーっと。気配感知は使えているみ
たいだ。じゃあこれはどうだろう。照眼!」
…発動しなかった。いつもなら目が光って辺りを照らすんだけれど、うーん。他
にも使えなくなってそうなのがありそうだなあ。毒耐性とかそういうのがなくなっ
ていたらまずいな。でもそういう常時起動していそうなスキルはありそうだ。ああ
でも気配感知も常時起動じゃないし、うーん難しいな。
「魔者様。これは由々しき問題です。命を狙われているあなた様が、そのような状
態であるのはとても危険です。」
「命を狙われるような事をした記憶が無いのに狙われるようになった魔者のせいな
んだよね! くうう。もう早く般若レディに戻りたい!」
この人間化のスキル、こういう場所じゃ使ってはいけない系だったんだな。毎度
スキルに翻弄されてしまうなあ。はぁ。
「シカシ、ソレデハ、ニンゲンヲワナニカケルコトガデキナイノデハナイカ?」
「ソウダ、ドウスルツモリナノダ?」
「ええい、そこの陰の薄い蜥蜴二匹! そういう時にどうすればいいのか考えるの
が私達の戦いなんだぞ! どうしたらいいのか最善を尽くすために努力するのが、
大事な事なんだ!」
「今日も姉御は蜥蜴叩きやで?」
「そういうことを言ってるわけじゃないっての!」
ただ人間の街に行きたいだけなのにどうしてこうトラブル続きなんだろう。ちゃっ
ちゃと行ってはいおしまいってなるだけじゃないのか。こういう、簡単なはずなのに
なぜか上手くいかなくなるっていう展開は腹が立ってくるなあ。だって、本当にただ
どこにでもありそうな人間の街に行って、錬金術士の材料だの何だのを買って調合し
たりなんて普通の事をしたいだけなんだよ。
それが、出来ないのは不思議でたまらないって!
「…もういっそ帰ろうか草原に?」
「ああ、ねっこちゃんがついに現実逃避を始めてしまった。」
だってさぁ、今まで定期的にやってた草刈りができていないんだよ。もう鎌を振っ
て振って振りまくって薬草を集めまくりたいのに、それができないってのはかなりス
トレスを感じてきたよ。このままだとずっと戻れないんじゃないかと思い始めてきた
し。
「ねこますドノ。クサカリハモウジュウブンナノデハナイノカ?」
「ソウダ。アレダケカッタデハナイカ。」
え? なんだこいつら。何寝ぼけたことを言っているんだ。あれっぽっちで全然足り
るわけがないじゃないか。備えあれば憂いなしってことを散々伝えたと思っていたの
に何を言ってるんだ。それに今回大量に火薬草を使って在庫がガンガンなくなってし
まったじゃないか。私は、それで心配で心配でたまらないというのに、こいつらとき
たら、ええい!
「何言ってるの!? 全然足らないに決まっているじゃん! いい!? 薬草も火薬
草も全然足りてないの! 本当なら一億個は集めてもいいくらいなんだよ!? そこ
まで集めてようやくちょっと集まったなあ程度なの! だから全然集まっていないも
同然なんだよ! ちょっとみんな分かっている!? そうやって薬草が沢山あれば、
怖いものもなくなるでしょ!?」
あぁ、薬草の事となると熱弁してしまう。だけど自覚して欲しい。薬草さえあれば、
そして一撃で倒されないだけの体力があれば、絶対に死ななくなるという事に。大量
に食べ続ければ、ずっと生き続けられる。それこそまさに不死身ということだ。そう
いうレベルまで行くことが大事なのに、まさかそれが理解されていなかったなんて。
「姉御、一億個ってマジなんか? 多すぎやないか?」
「もし、その量を火薬草にできれば、その火薬草を将来的にさらに調合できるように
なったら、どんな奴らでも爆発させてしまうことができるんだよ!」
「…。」
え。どうしたのみんな。なんかこう愕然とした顔をしているけれど、気分がすぐれな
いとかそういうことなんだろうか。
「いや! 俺はすごいと思うよ! そのくらいの意気込みが無いと、死んでしまうか
もしれないし! うんうん! ねっこちゃんは正しい!」
「だよねえ!」
やはりブッチは分かってくれている。たけのこやくろごまも分かってくれるよね?
ということで視線を送ってみた。
「ハイ。ワタシモソウオモイマス。」
「マスターの言う事が正しいです。生き残るためには必要です。」
二匹とも分かってくれるか。やはりいい奴らだな。で、だいこんは。
「わ、わんころお前ぇぇ。くっ。」
「だいこん。今度草原で一緒に頑張ろうな?」
「う、ううぅ。わ、分かったやで! ワイは誠心誠意働かせてもらうで!」
「そこの二匹もね!」
「ウ、ウム。」
というわけでこの件は解決。後はもう、人間化が解除されるのを待つだけだ。後は、
そうだなあ、最悪もうプレイヤー達に頼らずに、この樹海全土を何日かけてでも、
転移陣を探すってことかな。非効率的な気がするし、現状気が遠くなりそうな感じ
だけれど、やれることからやっていかないとね。
「とりあえずみんなでうろちょろしようか。私はこんな姿なので、みんな頼むよ!
私を守ってね!」
弱体化してしまっている以上、ここでやれそうなことはほとんどない。人間化解除
を気合いで出来ないか頑張ってみるくらいか。それが出来れば、かなり便利になる
ので特訓だな。
「そうだね。ここでじっとしていても何も始まらないしね。よし、じゃあここは俺
が先頭を行くから、後ろはくろごまが頼むよ。」
「分かりました!」
「私はだいこんに乗ろう。久々に乗るよー!」
「分かったやで姉御。いややっぱりその姿やとお嬢やなあ。」
「お嬢様ですわ。おーっほっほほほ。」
「ねこますさん。私ちょっと引きました。」
「はい。反省します。」
自分で発言しておきながら、自分で不気味というか少し気色悪いなあと思ってしま
ったのは内緒だ。止めてくれる人がいてくれてよかった。