第203話「元に戻った樹海で」
今日は、金曜日。明日は休みなのでプレイは沢山出来る。金曜日以外の平日にプ
レイしようとすると結構時間がとられてしまうので、金土日でプレイをしていこう
と思っている。とはいっても平日も少しはプレイしていくつもりだけれど。
そして今、私は、ももりーずVのメンバーたちと樹海にいる。そうだ、先日雷獣
隕石拳で荒れたはずの樹海はすっかり元通りになっていた。すごいね。これもゲー
ム的設定と言えばそうなんだろうけどね。この設定がなかったら、樹海が元に戻る
までかなりの時間を費やすようになっただろうから、こういうところは、こんな感
じにしておかないといけないんだろうね。でも逆に言えば、折角空き地を作っても
元に戻ってしまうってことだからそれはそれで残念だな。あるいは、それを防止す
るようなアイテムなんかがあるかもしれないけれど。
「ねっこちゃん。なんか難しそうな顔しているけれど、大丈夫?」
「おーけーおーけー。さぁてみんな、集まったね。これからどうするかなんだけれ
ど。」
「樹海が広すぎて、どうすればいいのかなってことですね。」
エリーちゃんが残念そうな顔をしている。この樹海は本当に樹海と言うのが正しい
というのがよく分かる。ただひたすらに広い。広いから私が雷獣隕石拳を使っても
通り抜けができなかったほどだ。なので、ここをずっと進むべきかどうかというの
が、課題だ。
「魔者様。人間が話していた事ですが、何やら転移陣なるものがあるそうです。そ
れを使ってこの樹海を行き来していたようです。」
「では、それを見つけ出して拙者達が使えれば、マスターの望みである、人間の街
に行くことができるかもしれませんね。」
転移陣だと! 他のプレイヤーに話でも聞ければ違ったんだろうけれど、どうせ
襲い掛かられるだろうしと思って何も話しかけなかったのが仇となってしまったか。
「この広大な樹海から見つけるって大変そうだよね。」
「プレイヤーを探して転移陣の位置を吐かせてやるしか方法はないよね! もうこ
れは拷問にかけるべきだよね!?」
「ブッチニキ、何をいきなり物騒な事を言い出しとるんや!?」
でもなあ。私達をモンスターとして認識しているようだから、そのくらいやらない
と話をする以前の問題になってくるからなあ。だからこそ、この場合はしょうがな
いということにしてもいいんじゃないかな。
「でもそんなことしたら、それこそ周りからの評判とかそういうのが落ちるんじゃ
ないかと思うんですが。」
「それなら、私が人間になって、ここに来たプレイヤーを騙すって手を使おうか。」
「え? 何人間になるって。ねっこちゃんが人間じゃない?」
「あー、えーっと。人間化ってスキルを覚えたので、人間に偽装することができ
るみたいなんだよね。」
まだ使ったことがないけれど、これなら相手を騙して連れて言って貰えるかもし
れない。
「え!? 見てみたいんだけど! ちょっとねっこちゃん使ってみてよ!」
「ねこますサマ。ニンゲンニナルノデスカ!?」
「まさかその仮面を外して人間になるとかいうわけじゃないですよね!?」
「ワイみたいやで! 姉御よろしくやで! 今すぐやで!」
「マスター! 私も見たいです!」
「ソレジャアオレタチモ・・・!」
何でこんなに食いつきがいいんだ。たかが人間になるだけの話を。というか影の
薄いリザードマン達。お前らもか。
「しょうがないなあ。それじゃあ見せてやろうじゃないか。私も初めて使うから驚
かないでね。人間化!!」
勿体ぶらずに使ってみることにした。スキルを使った瞬間、私の全身から、煙の
ようなものが立ち上がる。なんだこれ、まるで変身シーンみたいじゃないか。さて
これでどうなっているのかというと…あれ? 服装も変わっている? なんかピン
ク色のワンピースとか可愛らしい服装になっている? お、おいおい。どうなって
いるんだろうか。まともな見た目になっているのかな。
「…ど、どうかな? というか何この服の色は…。」
「ね、ねこますさん。可愛いです! すごく可愛いですよ!!!!」
「魔者様。美しいです!」
「流石ねこますサマです!」
「姉御じゃなくてこれじゃあお嬢やんけ!?」
「マスター、神聖な気配が感じられます。」
「コ、コレガアノ、ねこますドノナノカ…!?」
「スゴイ…。」
各々が感想を言う。そ、そうか、なんか褒められると恥ずかしいな。こそばゆい
感じもするし。うう、なんか嫌になってきたな。こういうフリフリのワンピースを
着て、いかにも女なんですみたいなのは私には似合っていない。不気味過ぎる。今
までずっと般若レディだったから、今さら人間系でっていうのもなんか嫌だし。あ、
ところでブッチだけ何も感想なくない?
「ねっこちゃん!!!!!!!!」
「!? は、はい!?」
ブッチがいきなり私の目の前までくる。な、何したんだこいつ!? 近いって!
顔を近づけるな! おいどうしたんだ!
「結婚しよう!!!!!」
「うるさい馬鹿!」
思わずビンタをしたが、なんかいつもより力がでないような感じだった。うわぁ
人間化ってそういうのも設定されてしまうのか。脆弱過ぎる。この状態のせいで力
が発揮できずにやられたなんてなったら嫌だなあ。で、ブッチはジョークをやめろ
っての。
「くっ。現実か。ねっこちゃんが可愛いなんてありえない!」
「うるさいよ!」
そんなからかうんじゃないっての全く。自分じゃ顔が見えないから可愛いとかどん
なもんなのかが分からないのが痛いなあ。でもワンピースを着てて可愛いというか
らには、どことなく子供っぽい感じじゃないのかなあとイメージする。私はもっと
大人なイメージの方が良かったんだけれどなあ。ああ、ここで鏡でもあれば確認で
きたのになあ。あー気になるなあ。
「で。この格好で、そこのリザードマン達に襲われている振りをするんだ。きゃー。
誰か助けてえって。どことなくNPC的な感じを漂わせて。そしてそれを見たプレイヤー
が私の可愛いっぷりを見て助けてくれて、その後転移陣に乗って街まで行く。これが
完璧な作戦だね!」
こんな、誰もが思い浮かぶよくある展開しか考えられないけれど、こんなもんだろ
と私は思った。
「オ、オレタチニソンナヤクワリヲシロトイウノカ。」
「サイアクナヤクジャナイカ。」
「うるさい! 私だってか弱い乙女の役を演じなきゃいけないんだぞ! そっちの
方が大変だってことが分からないのかー!」
「どんな感じに演技するんですか?」
「助けていただいてありがとうございますぅ~。私~頭を打ったみたいで記憶がち
ょっと抜け落ちちゃったんですぅ~。なので転移陣まで案内してもらえないでしょ
うか。駄目ですか?」
最後に両手を重ねて上目遣いをする。完璧だ。これなら誰でも私のお願いを聞いて
くれるんじゃないだろうか。私だったら絶対に聞かないけど。
「あー。俺こういうことされたら絶対何か裏があるって思うよ。ねっこちゃん。今
時そんなんで引っかかる奴はいないと思うよ。なんか新しいキャラクターが出て来
たらそいつは自爆をしかけてくる奴かもしれないしって思うし。」
「でもこれしか転移陣を見つける方法が無いんですぅ~。」
「いや、そもそもプレイヤーも見つけられないし。」
…。はっ、そうだったな。まずはプレイヤーがいないことには話にならないじゃな
いか。肝心のプレイヤーは一体どこにいるんだろうか。それとも私が蟻を倒したとき
に撤退していってしまったのだろうか。
「地道に探すなんてことは骨が折れてしまうよね…。」
「ねっこちゃんいない間にプレイヤーがいないか確認してみたんだけれど、全然見
当たらなかったよ。蟻が目的だったのかは知らないけれど、用事がなくなっちゃっ
たみたいだから姿はなかなか現さないかもね。」
プレイヤーはこの樹海で何が目的だったのかはもう分かんなくなってしまったから
なあ。私が蟻を倒したことに関連はしてそうだけれど、。
「あっ、そういえばみんなに紹介しておこう。ひじき召喚!」
黒い蛾であるひじきを召喚し…。あれ!? これアゲハ蝶じゃない!? なんか前
は普通に蛾としか見えなかったのに、今回は綺麗な蝶って感じじゃないか!
「母上。お姿が変わりましたね。」
「まぁね。ひじきも変わったね。」
ああ、私の容姿が変わったからこうなったのかな。う、うーん。なんだか複雑な心
境だな。こんな風にひじきまで変更がかかるとは、人間化てすごい。
「ねっこちゃん。母上ってことは父親は!?」
「待て、話をややこしくするんじゃない。これはひじきって言って、元々黒い蛾の
召喚獣として私と契約している。だけど今、人間化をやっているから、こんな姿に
なっているんだと思う。
「また食べ物系…。ねっこちゃんのネーミングセンスって…。」
「それしか思いつかなかったんだからいいじゃないか!」
名前なんてそんな簡単に思いついたりはしないし、そんなかっこいいネーミングな
んて誰かが使っていたりするんだから、適当な物でいいんだよ。
「…なんで母上なの?」
「私が卵じゃなくて繭の時に見つけて孵化に立ち会ったからじゃないかな。」
「ねこますサマはスゴイデス!」
そんなタイミングに出会えたって言うのは確かにすごいかもしれないなあ。
「もしかして、プレイヤー達ってその、ひじきちゃんを探していたってことじゃな
いかな。」
「ああ、そうかもしれないね。」
十分にあり得る話だ。まぁ今となってはどうだったのか分からなんだけどね。とは
いえ、そのあたりの話もいずれは聞いてみたいなあ。そのためにはまずプレイヤー
と出会わないといけないんだけどね。
「ねっこちゃん。気配感知でプレイヤーいないか探せない?」
「今のところはいないみたいだよ。あーもう、なんか出て欲しい時には出てこなく
て出てこないでって時に出てきたりするのは腹立つなあ。マーフィの法則か?」
「よくある展開だね。そんなもんだよ。」
「やれやれだね。」
転移陣を探すためには、プレイヤーの協力が必要なのは分かったけれど、そのプレ
イヤーを探すのがきつそうだなあ。まぁまずはやるだけやってみるとするか。