第201話「樹海から出よう」
メッセージ:武器「鎌」の強化が可能です。実行しますか?
また唐突にきたなあ、毎度のことながら、当然キャンセルすることにした。
メッセージ:武器「鎌」の強化をキャンセルしました。
これまでで4回飛ばしたかな。そろそろ強化をやってみてもいいかなあという気持
ちにもなってきたが、ここまできたら徹底的にキャンセルする方向で行こうと思う。
こういうのはやらないでおくとあとで超パワーアップするみたいな展開があるから
下手に強化しないというのが私の考えだ。
「それじゃあ帰るか…ってこれは、想像以上に凄まじいね。」
私が隕石拳を使った進行方向だけ、根こそぎ何もなくなっていた。そして、かなり
長距離まで飛んできたというのがよく分かる。地平線の向こうまで続いている。
雷獣隕石拳は、今後私の切り札ということになるけれど、これじゃあおいそれと
使えないな。攻撃が終わった後の事もそうだし、攻撃している時も味方を巻き込む
恐れがあるし。もう少し威力が調整できればいいんだけれど難しそうだなあ。
「この道を戻るのはリスクが大きいな…木が生えているあたりからまっすぐ戻ると
しよう。」
さて、その前に、だ。今回は迷路が発生しているのかどうかだ。隕石拳だけを使
ったあの時、見えない迷路のような場所に入り込んでしまったけれど、今回も似た
ような状況になるのではないかと考えている。恐る恐る一歩一歩進んでいく。だが
壁のような物には一切ぶつからないし、何もないように思える。
待て待て、こういうのが一番危ないんだよね。こうやって油断させておいて、実
は運が良かっただけという展開。
効果があるのか分からなかったけれど、電撃の鞭を振り回してみた。が、何かに
当たる様子はない。まだ油断してはいけない。迷路は私が走った瞬間にでてくると
かいう設定になっていてもおかしくない。
そこから更にしばらく歩いてみたが、何事もなかった。これならもう走ってみて
もいいかなと油断してみたが、問題は無かった。これはこれでむかついたけれど、
終わりよければすべて良しだった。
こうして、私はここから、森にそって真っ直ぐ歩き始めた。ひょっとすると、こ
こから元の場所に戻るっての、丸一日かかっても終わらないんじゃないかと思った
ので、ブッチにメッセージを出して、だいこん含めて何匹化はこちらに急いで来て
もらうように頼んだ。
私だけがずっと歩き続けたところでたかが知れているだろうし。
マブダチからのメッセージ:こっちはプレイヤー達がざわついている感じだよ。今
のところ、余計な事にならないように、遭遇しないように気を付けてる。それでだ
いこんだけれど、みんなで一緒にそっちに行くことにしたからよろしくね。
これで一安心だな。ってそんなわけない。樹海とその近辺の荒れ地になった場所
にまた一人だけでうろついているのだから、ここで何か出て来たら苦戦してしまう
だろう。プレイヤーとだけは遭遇したくないものだ。何故かと言うと面倒くさい事
になるのが間違いないからだ。
魔者という称号だけじゃなくて、般若レディっていうのも珍しい物なんだという
のが、もう分かっている。どうも、私だけがこの種族を選んだのかもしれない。あ
あるいは、選ばされたとでも言えばいいんだろうか。
<アノニマスターオンライン>の開始時、沢山のプレイヤーに対して種族の選択
権があったと思うんだけれど、その中に果たして般若レディがあったのかが謎だし
あっても選ぶ人なんか極少数だったのではないだろうか。
人数が少ないから、目につくような位置に丁度ピックアップされていたところに
私がたまたま選択した。そんなオチだと思うな。
私は般若レディがすっかり好きになった。だからキャラクターを作り直すみたい
なことは一切するつもりがない。が、この種族が珍しいと言うのであれば、どうに
も一般的なプレイヤーと同じような事ができないのでそこは自分なりの遊び方を、
工夫していくしかない。
般若レディは上級コースとでも言えばいいんだろうか。こんな種族は、これまで
色んなゲームをプレイしてきたけれど見たことも聞いたこともない。つまり、全て
手探りでどんなものなのか調べていかないといけないってことだ。
今更他の種族でやりたかったなんていうつもりはないけれど、逆に極少数しか選
択していないせいで悪目立ちするというのも少し嫌だなあと思う。ただ、ひたすら
に面倒くさいというだけなんだけれど、わざわざ興味本位で根掘り葉掘りと聞いて
くるような輩の相手をすると考えてもらえると誰でも億劫になってくるだろう。
<アノニマスターオンライン>をやる前にもいくつかオンラインゲームをプレイ
している私としては、そういう面倒くさい事には極力関わり合いたくないんだ。
プレイヤーから陰口を言われるようになったり、仲間同士で遊んでいるだけなの
に特定の人とだけ遊んでばかりいるだの色々と言われてきたっけなあ。ああ、思い
出しただけで腹が立ってきた。
あの時の事を思い出すと、今ブッチ達と普通に会話出来ている今の方がかなり貴
重な体験ができているってことなんだよなあ。
「あれ、結構私、仲間と楽しんでいるってことなんじゃないか。」
蟻だけじゃなくて蜘蛛だの鳥だの、色んな連中と戦ってきたけれど、それが全部
楽しかったという記憶しかない。あれ、実は私ってばかなり<アノニマスターオン
ライン>で、いやももりーずVで楽しんでいるってことか。でも、それはそれで恥ず
かしくなってきた。
こういう気分が良くなってきている時に、奇襲を受けて死ぬなんていうのがよく
ある展開なので、攻撃でもされないかと警戒するが、何も起こらなかった。いい思
い出の回想シーンと言えば、大体後で嫌な事が起きる気がするし、逆に苦い思い出
の回想シーンと言えば、大体後で良いことが起こる気がする。
そういえば、みんな満身創痍の中で私の所まで向かってきてるはずだし、ありが
たいな。だけどやっぱりここで気になっている事だ。移動速度が遅い問題だ。だい
こんやたけのこなら早いが、私は遅い。だからこの問題を解決していきたいと思う。
私は絶対に移動用アイテムがあると思っている。それがないと、移動が大変過ぎ
る。移動だけで丸一日費やすようなゲームだとすれば、面白みも何もない。そんな
苦行をしたいとは思わない。少なくとも私に限っては。
ここで唐突に思い出す。カブトスピアーってあったじゃないかと。これが確か加
速って気するが使えたはずだけれど、もしかしてこれなら、今の私の移動速度を向
上させてくれるのではないだろうか。試しに使ってみるか。その前に蜂蜜を食べて
からにするか。
「いや待てよ。」
いざカブトスピアーを持ってから私は思った。これ、私自身が加速できるスキル
じゃないんじゃないのかということだ。今まで浮遊だの飛行だの大体みんな周りに
対して使えたスキルじゃないか。つまりこの加速もそれと同じじゃないのかと言う
疑惑が持ち上がってきた。
こんな槍を持って加速が自分は対象外ですなんて言われたら悔しいな。でも騙さ
れたと思ってやってみるか。どうせ自分は無理なんだろうけどさ。
「加速!」
スキルを使った瞬間、なんだか世界が縮まったような感覚が襲い掛かってきた。
そして、今ならいつもより早く動けそうな気分になってきた。おい、なんでこうや
って私の予想を覆すような結果になるんだ。魔者の仕業か! ええおい! お前の
仕業何だろう! なんて八つ当たりはしておくことにした。ひとまず上手くいった
ので、このまま走ってみることにする。
「うぉおおっと!?」
本当に急激に移動した。軽く走ったような感じで100メートルは進んでいる。こ
れ、戦闘で使うんだったらこの感覚になれないと使い物にならないな。一瞬で進ん
でしまうし、かなり意識しないと、敵を突き抜けて行ってしまう。体当たりであれ
ばそれでいいだろうけれど、体当たりって大体自分もダメージを受けてしまうから
自爆技になってしまうな。
また地味に使い勝手が悪いスキルだなあ。もう少し簡単に使える様なスキルはな
いんだろうか。自由自在に使えるまでが長すぎるものばかりだし。まるで格闘ゲー
ムをやっているかのようじゃないか。色んな技があるけれど、使い所を覚えて正し
く使えるようになるまで頑張らないといけない。
私の持ちキャラなんかは、一回転コマンドとか、そんなのばかりだったので練習
が大変だったっけなあ。正に今それを練習していた頃を思い出した。
「じゃあこれならどうだ!」
全力疾走してみる。簡単に100メートル先まで行くなら、数百メートルは先に。
「ぶげあっ…。」
うん。木にぶつかったね。痛いね。思いっきりぶつかったよ。これが現実だったら、
顔面の骨にひびでもはいったんじゃないかってくらい思いっきりぶつかったよ。こ
れは調整がきつすぎる。この感覚になれるためには反復練習しかないんだろうね。
「お? 結構進んでいる?」
普通に数百メートル進めているので、有効性はあるようだ。薬草もある事だしこ
こで練習しようかなあ。ここで使えば、ブッチ達のところに行くのが早くなるし、
上手く使えるようになれば、戦闘でも役に立つし、そうするか。
加速を使いこなせるようになるにはこういう広い所からがいいか。最終的にはど
んな狭い所であっても、ぶつかったりしないで使いこなせるレベルまで持っていき
たいんだけどね。おいしょ! あっぶなっ!? 歩幅狭くして動いてみたのに、か
なり動いてしまう。
これ、怪しい動きをしている人には見えないかな。何か急に加速して止まって、
加速して止まるっていうのが、なんだか変な事やっているように見えそうだ。こん
なことやっているのが誰かに発見されたら、色々噂されそうな勢いだな。
気配感知を使っておくか。どうせ誰もいな…いる!?
3匹ほど何かが近くにいるであろうマークがでている。ううっ。もしかすると私が
加速の練習している所を目撃したとかじゃないよね。それだったら嫌だな。後この
3匹っていうのが、プレイヤーだったりしたらもっと嫌なんだけれど。
「もうちょっと距離をとってから練習するとかな…。」
もし出会ってしまって、技の練習していますなんて言うことになったら嫌だったの
で少しばかりコソコソすることに決めたのだった。




