第200話「般若レディと魔者」
「あぁ…。なんかもう疲れたなあ。」
今日は、がっつりと<アノニマスターオンライン>をプレイした。もうここでログ
アウトしてもいいんじゃないかと思ったけれど、それはそれでなんだか名残惜しい
気がしたので、まだもう少しプレイすることにした。
「一応、ブッチ達に連絡しておくとするかなあ。」
メッセージで連絡をしておく。さて、体は動かせる状態にあるのかなあと思った
のだけれど、どうやら動かせないようだ。スキル調合にはリスクがあるのが当然だ
と思っていたので、この状況を受け入れるしかない。
こんな場所でのんきに仰向けに倒れているなんて危機的状況ではあるが、どうに
もならない。
戦いが終わったら、帰るまで決して油断してはいけないと言うのは当然理解して
いたんだけれど、今回は、それを考慮せずにスキルを使ってしまったなあ。まぁそ
もそもそれを考えていたら、この戦いを終結することができなかったしな。
大体、こういう時に漁夫の利を狙っているような輩がでてきて襲い掛かってくる
のが定番だろうから、このままここにいたら誰かに攻撃されて死ぬんだろうなと冷
めた感じになってしまう。
蟻を倒して楽しめたし、満足しているからそれも悪くないとは思うんだけれど、
そんな私を救いに来てくれる誰かはいないもんかなあという運には期待している。
だけど、そうそう都合のいい事なんて起きないのは知っている。
あぁー。こんな無防備な姿を晒すなんて嫌だなあ。ブッチ達がここまで来てくれ
るとしてもまだまだ時間がかかるだろうし、うわぁー。何もできない状態で敵にや
られるなんてすごい腹立つなあ。あー受け入れてもいって言ったけど、やっぱりこ
の状況で攻撃されたりしたら悔しい。
周りは何もない荒野のようになっているだろうから、私がここに一人でいたら何
だこいつって感じで狙われるに決まっているじゃないか。というか私だったら絶対
に狙っている。いい的だよ。
「動けー。動くんだ私の体ー。」
あ、いいこと考えた。だったらこのままログアウトすればいいんじゃないのか。
そんでもって、大体の場所教えておいてブッチ達に救助依頼をすればいいのでは
ないのだろうか。あ、でも駄目か。多分時間経過で樹海が復活するというのもあ
るだろうから、ここでログアウトしたらしたで、次にログインした時にどこなの
かさっぱり分からない場所にいることになる。
おまけに、多分次にログインしたところで、動かせない状態は変わっていない
だろうから、最悪な状態になるってことだ。
マブダチからのメッセージ:ねっこちゃん。たけのこちゃん達がねっこちゃんが
破壊しつくした方に急いで進んでいるからそれまで待っててね。
あ、そういえばブッチも狂戦士使ったからまともに動けない状況か。そうだった
よ、忘れていた。じゃあブッチも結構まずい状況にあるんじゃないのかな。
エリーからのメッセージ:ねこますさん! グローリーアント討伐おめでとうご
ざいます! というわけで私が今向かっていますので死なないでくださいね!
体が動かせないのでどうしようもないんだけどなあ。これどうすればいんだろう
なあ。あ、でも今回は言葉は出せる様なので、時間凍結よりかはマシなんじゃな
いだろうか。
メッセージ:グローリーアントの指輪を手に入れました。
ここでこのメッセージか。グローリーアントの指輪、指輪ってなんでだ。蟻の
指輪ってなんかこうイメージがね。そして私もうかなり色んな物を装備している
んだけれど、多すぎないかこれ。なんかもう見た目がすごい派手になっているの
でそろそろ自重したいところなんだけれど。といっても便利な物ばかりだから外
すつもりはないんだけれど。
早速装備したいなあと思ったけれど、体が動かせないのでどうにもならない。
早く、早く誰か来てくれと思っていると、嫌な予感がしてきた。この状況で出て
きそうなのは、ジャガーコートのジャガーちゃんか、あるいは、海底洞窟で出会
った黒騎士。後はプレイヤーか。どれとも遭遇したくないなあ。
「魔者としてもっと強くなりゃ、どいつにも負けねえけどな。」
「うるさい。こんな時に話しかけてくるな。」
「なんだよ。寂しそうにしているから話しかけてやったってのによ。」
「私が話しかけた時に話しかけてこい。」
「おーおー。言うねえ。そんでいいことを教えてやる。あいつを倒したことでお
前結構パワーアップしてるはずだぜ。」
「へー。時間凍結が2秒くらい使えるようになってるとか?」
「5秒くらいいけると思うぞ。あとデメリットも半日くらいだな。わけて使えば
その分デメリットも減っているだろうから頭使って使えよな。」
こいつが口が悪いのは分かっているのは置いといて、合計5秒使って半日って
ことか。1秒なら約2時間半ってところか。強いな。
「で、今回は何の用?」
「クロウニンの撃破に成功したことだし、お祝いをな。」
メッセージ:人間化のスキルが使えるようになりました。
お!? こ、これはまさかのスキル。ありがとう魔者。魔者はやっぱり素晴らし
い人だったんだな。まったく素晴らしいじゃないか。
「いやぁ、魔者の分際でこんなスキルをくれるなんて、魔者の癖にこんなことを
してくれて本当に最低な魔者の癖にな。」
「本音を建前が逆になっとるぞ。ハッハッハッハッハハ!」
「あー。でもどうせこれ、お前に貰ったスキルじゃなくて、自然に習得したって
おちなんだろ。私は知ってるぞ。」
大体そういうオチに決まっているんだ。こいつが何かしてくれていると思って
はいけない。こいつはそういう奴なんだ。人をからかうのが、いやどんな奴でも
自分すらからかう道化のような奴なんだから相手にし過ぎちゃだめだ。
「その通り!」
「やっぱりね。」
まぁ本当にもらえた可能性もあるけれど、こういうオチにしておくとするか。後
どうせ聞いても答えてくれない事ばかりだろうし。
「……え? 何か聞かないのか?」
「私のこの状態はどうにもならないんでしょ?」
「なんねーなー。強力なスキル同士の調合したらそんなもんだ。」
「あっそう。」
「…。」
話すことは何もない。話したいことがあるなら勝手に話せばいいし。私はこの状
態をどうすることもできないし。
「ここはクロウニンって何!? とかさぁ、魔者って一体何なの!? とか聞い
てくるノリじゃねーわけ!? なぁオイ! ちょっとノリ悪くねえ!?」
「クロウニンッテナンダ? マジャッテナンダ?」
「グローリーアントの真似をするなよ。」
あー面白い。こいつをからかってやるのは楽しいな。こいつが好き勝手にクロ
ウニンとやらを生み出したのは知っているんだけれど、こいつのせいで私が散々
苦労させられていると思えばこのくらいやらないと気が済まない。魔者なんて称
号返品したいのにそれもできないし。
「お前は、この世界をどうかしたいと思ってないのか?」
「美味しい物食べたり、強そうなモンスター倒したり、薬草集めをしたい。」
「つまんなそ!」
「何を言うか! あ、あと私はちゃんとした錬金術やりたい。」
「ちゃんとした?」
「薬草を口の中に入れると火薬草になるとか嫌だし。」
「は?」
「は?」
「薬草を口の中に入れて火薬草に調合する事できんのお前?」
「できらぁ!!」
なんかノリで言ってしまったけれど、まぁいいか。
「ははははははへへへへはーっはっはっは!? う、嘘だろおい!? 口の中に
薬草を含むと火薬草だぁ!? そ、そんなの初めて聞いたぞ!? うひゃひゃひ
ゃ! そ、そんなこと出来た錬金術士なんか今までただの一人もいねーっって!
お、お前やべーな。ははははは。やっぱお前を魔者にして正解だったぜ!」
え、え、なんだそれは。口の中に入れて火薬草にできるのが私だけだと? しか
も今までだれ一人成し遂げられなかった? 前人未到の領域に私が踏み込んでし
まったと? ということはなんだ。<アノニマスターオンライン>では、私以外
の錬金術士は誰も口の中に入れて調合することはできないと、そう言うのか?
「どうせまた嘘なんだろ?」
「いや、マジだよマジ。そんなん初めて聞いたって。俺も錬金術士だったが、薬
草を食べても火薬草なんかにできんかったぞ。いやぁすげえなあ。本当にお前、
その狂いっぷりがいいなあオイ。俺よりも魔者してるって感じだぞ。将来が楽し
み過ぎるだろ。」
どうやら馬鹿にされているようだ。というか今回こいつおしゃべりし過ぎだろ。
蟻を倒した影響なのかもしれないけれど、喋ったら喋ったでうるさいので、黙っ
ていて欲しくなってきた。
「私はちゃんとした錬金術を学びたいんだよ。」
「なら、俺の残した調合書が色んな所にあるだろうからそれを見て覚えりゃいい
ぞ。おっと、直接俺に聞くなよな。自分でやらなきゃだめなんだぜ。」
やはり役に立たないが、魔者の調合書か。こいつは馬鹿っぽいけど本だったら面
白そうだし、探してみるとするかな。
「それじゃあそろそろお別れの時間だ。」
「ご冥福をお祈りいたします。」
「死んでねえよ! いやもう死んで杖の中だよ!」
「あ、やっぱり魂を移しておいて、いずれ別な肉体に移ってこの世界に復讐して
やろうとかいう系だったか、この屑野郎!」
「深読みし過ぎだぜ馬鹿野郎!? じゃあなあばよ!」
こうしてうるさい魔者はさっていった。どうせまた話しかけてくるんだろうけ
れど、なかなか興味深いことを言っていったのでそれも調べないとな。魔者の運
命的なものに従わされているような気がするのがむかつくけど、何も知らないま
まっていうのも嫌だし。
だけどなぁ、これも所詮ゲームの話といえばそんなもんになるわけだし、そこま
で本気になるような事でも何でもないんだよなあ。まるでこの世界が本当にある
かのような態度をとってくるNPCのせいか、私までうっかりそういう調子になって
しまいそうになるけど。
さて、気がまぎれたような感じだけれど体は、え、動く? おお。これならばな
んとかなりそうだ。って言ってもまだよろよろと動く程度だろうけれど、ひとま
ずは薬草をがぶがぶ食べるとして、よし、これでオッケーか。
「般若レディ復活!」
魔者と話していたから回復が早かったのかどうかは知らないし、運が良かっただ
けなのかもしれないけれど、こうして無事に戦いが終わってよかった。後は、こ
のあたり一体吹っ飛ばしてしまったことをどうするかっていうのと、あのカブト
ムシを大分スルーしてしまったから、その対応とかかな。
「よし、じゃあそれが終わってからログアウトだな!」
そして私は起き上がり両手を伸ばすと
「やったあああああああああ! 勝ったぞおおおおおおお!」
その場で大はしゃぎしてしまった。だってあんなでっかいのをみんなで倒したのが
すごい嬉しかったし楽しかったし! あー最高だった!
ついに200話まできました!!!
ここまでお読みいただいております読者様本当にありがとうございます!!!
至らぬ点などが多々ありますが、本当に、感謝です!
まだまだ書きたいことがありますので、今後も続けてまいりますのでよろしく
お願いいたします!