第197話「反撃の時」
なぜたけのこが攻撃をくらったのか理解できなかったが、蟻が何か特殊な攻撃を
しかけてきたことだけは確かだった。
私とたけのこは、思いっきりもろにくらってしまったので、遠くまで追いやられ
てしまった。
「ううっ。」
頭から茂みに突っ込み、最後はその奥の木々に激突して動きが止まった。あぁ、
これ結構やばいんじゃないのかと思いながら薬草を食べる。あの巨体で攻撃され
るわけだから、それをくらえばひとたまりもないことも分かるが、たまたま、運
がよく生き残ったという感じだろうなあ。
さて、悔しいが蟻の奴の方が上手だったというだけだ。あんな蟻の攻撃なんて当
たるまいと思っていただけに凄く腹が立つ。それと同時にたけのこが攻撃をくらっ
てしまったことで、自分の弱さが許せなくなった。
油断なんてしているつもりはかったけれど、結果この様だ。私が蟻の事をもう少
し注意深く見ていれば良かったのに、それが出来なかったから、たけのこに攻撃が
当たったのだと思った。
今は、体が震えているような感覚が全身に響き渡る。いや本当になんで当たった
んだ。たけのこは確実に避けられていた、避けていたはずだ。それが当たったとい
うことはつまり。つまりは…。
時間凍結かそれと類似したような攻撃か、それとも蟻を意識あるいは認識できな
くなるようなスキルを使われたのかもしれないな。今回、失敗してしまったが、次
に活かすのが私だ。
マブダチからのメッセージ:あいつの攻撃が見えなかったよ。なんでたけのこち
ゃんに攻撃が当たったのかさっぱりだ。俺にはまるで時間が飛ばされたかのように
思えたけれど、真偽が分からない!
ブッチもそう見えたという事は、時間操作系というのが大きいかもしれないな。
くそう。面倒くさいことになったな。だが、私にだって時間凍結があるのだから、
お互い様だろう。まぁ蟻は私が魔者だと知っているから、使えるということを意識
しているのかもしれないな。
こうやって追い詰められるとむしろ頭がすっきり冷静になってしまうんだけれど
それよりたけのこが無事なのか確認しないといけなかった。あの巨体で攻撃を食ら
っているんだから、早く薬草を食べさせないと。というか私自身もそうだがどのあ
たりまで吹き飛んだのか確認しないとな。
「ハッハッハァ! ドウダマジャア! オマエナンテコノテイドナンダヨ!」
叫び声が聞こえるので、どの程度なのかは感覚で分かった。大体私と同じ方向に
飛ばされているだろうから、この辺りを少しうろうろすれば見つかるだろうか。見
つかってくれないと困る。
「おーい。たけのこーいるー!?」
声掛けしてみるが返答がない。少し探してみないといけないか。茂みに突っ込んで
いないか、状態異常か何かになっているせいで、身動きがとれなくなっているのか。
考えられることが沢山あるな。
「そういえば…いつの間にか鎮火しつつあるな。いや、このあたりだからか。」
ここからもう少し遠くを見ると、焼きつくされた枝や枯れてしまった木々が目立
つ。火の勢いは収まりつつあるようだ。けどこれも変だと感じる。
こんな山火事並みにぼうぼう燃えさかっていた火がそう簡単に消えるものなんだ
ろうか。何かおかしい気がする。ゲームだしといえば済む話だといえばそうだけれ
ど。
「たけのこー!? たけのこいるー!?」
叫べば余計な敵を呼び寄せてしまうかもしれなかったが、ここは叫ばずにいられ
なかった。一刻も早くたけのこの安否を確認したい。なんなんだもう。たった一撃
でやられるくらいの攻撃なんてふざけてないか。シューティングゲームなんか確か
に一撃でもくらったらだめだっていうのが基本だけれど、ここではそんなのは関係
ない。
なんで見つからないんだ? いや、同じ方向に飛ばされているはずなんだ。それ
にも拘わらず見つからない。おかしいじゃないか。
「召喚! ひじき!」
私は、ここにきてひじきを召喚することにした。たけのこの安否確認はそれだけ重
要だった。ここにあのカブトムシの仲間なんかがいるかもしれなくても、それ以上
に大事な事だったので召喚した。漆黒の蛾が私の前に姿を現した。
「私の仲間のたけのこが見つからない。確かひじきは複数匹になれたよね。だから
お願い、たけのこを探して欲しい。」
「分かりました。ほかならぬ母上の頼みです!」
私は私よりも更に奥に吹き飛ばれているかもしれないと考えたので、もっと先ま
で移動することにした。蟻と距離をとってしまうことになるので逃げているみたい
になるのが不愉快だったが、それでもやることに決めた。ブッチ達にはメッセージ
で連絡をとっておいた。
蟻の一撃をくらうというのがどれだけのものなのかがよく分かった。魔者が創り
出したというだけはあるんだろうな。クロウニンとかそういうのが馬鹿馬鹿しいと
言うか、シリアスな感じがまるでなかったので、いまいち強さがピンとこなかった
けれど、蟻は強い。今更だが、きっちり強いと言う認識を持とうと思った。
「それにしても、こんな遠くまできても見つからない…。」
不安がどんどん大きくなる。これ、たけのこ生きているんだよね。こういう展開
だったら大体生きているのが基本なはずなのに、それが分からないというのがこん
な不安になるとは思わなかった。始めたころから一緒にいる仲間なので、流石にい
なくなられるのは嫌だ。 そんな時だった。
「母上! たけのこさんが見つかりましたよ!」
「えっ!? ナイス! すぐ案内して!」
肩の荷が下りた気分だった。結論から言うと、たけのこは大きな木の枝からぶら
下がるような形になっていた。ああよかった。でもダメージも結構けているようだ
しさっさと薬草を食べさせてやりたい。でも、なんだこの木。大きいなんてもんじ
ゃ無い気がしてきた。
「生命力があふれ出てきそうな気だな。なんか神秘的と言うか。」
よく見ると、淡く薄緑の光を放っている。これ、特殊な木じゃないのか。なんだか
そんな気がしてならない。
「う…。ねこますサマ?」
「たけのこ! 無事でよかった! さぁ薬草を食べようか! 降りられる!?」
「ハイ。ナントカ…。」
そのまま枝から降りるたけのこだった。すぐに薬草を食べてもらい、少し元気に
なったようだ。
「心配したよ! で、一応聞いておく。たけのこ。攻撃を完全に回避したのに当た
ったって感じじゃなかった?」
「ハイ。ゼッタイニアタラナイトオモッテイタラアタリマシタ。スミマセン。」
「いや、責めているんじゃないんだ。つまりあの蟻はそういう攻撃をしてきたんだ
ってことが分かったからいい。」
となると、たけのこには、荷が重いな。こういうのの対策をするためにはブッチ
しかいないな。ここで私とタッグを組んでもらうか。
マブダチからのメッセージ:お、いいねいいね! やってやろうじゃないか。俺も
強い奴と本気で戦いたかったから好都合だよ!
蟻へ結構な量の火薬草投げつけたけれどまだまだ余っている。一定のダメージは
与えたので、ここからは終盤戦にでも入ると言った具合か。あの時間凍結を利用し
たような攻撃への対策はまだ十全ではないけれど、ここで一気に攻めていかないと、
どのみつ勝つことはできない。
やることはもう決まっている。後は四の五の言わずに全力出して燃え尽きるだけ
だ。蟻の第二形態だとかそういうのがあったとしても、ここでやれることはもう少
ない。出し渋っても、それはそれですっきりしないし。
「こっから本気だぁああっす!」
「母上、燃えていますね!」
「ハハウエ…?」
「あ。」
そういえばこの二匹初対面だったか。というか私、誰にもひじきのこと紹介して
なかったな。ここで自己紹介をさせておいたけれど、まぁ新しく加わった仲間とい
うことで終わりにした。それよりなによりも、蟻だ。あの野郎。よくもたけのこを
ここまで酷い目にあわせた挙句の果てに私に手間をかけさせてくれるな。
「たけのこ、病み上がりのところ悪いんだけれどブッチのところまで乗せて行って
欲しい。そこで、決着をつける!」
「ハイ! カシコマリマシタ!」
私は三度だったか何回だったか忘れたけれどたけのこの背中に乗った。あぁこの
もふもふ感がいいな。こんなたけのこを失ってしまうかもしれなかったんだ。その
代償は大きいぞ蟻。
たけのこは駆けだした。薬草を食べながら荒れ果てた樹海を走る。それもこれも
みんなあの蟻のせいだ。私がこんな風に樹海を燃やすことになったのも何をするの
も原因はきっと蟻のせい。八つ当たりでもなんでもいい。私の邪魔をしたことは絶
対に許さない。
「オウオウ! マジャア!? オレサマニビビッテニゲダシチマタッタカア!?」
調子に乗っているな。だかそれくらいが丁度いい。それくらいじゃなきゃ張り合
いがない。安い挑発には乗ってやる。そしてコテンパンにのしてやる。私はお前を
越えていかなきゃいけないんだ。次の戦いにはジャガーちゃんが待っている。
ここでクロウニンの一匹でも倒して私達の強さを知らしめてやらないといけない。
ここにはプレイヤー達もいる。まぁどこか逃げ出したりしたかもしれないけれど私
達が、蟻を倒すところを目撃するかもしれない。
私達の強さを証明するのにいい機会だ。変な奴らにいちゃもんをつけられてばか
りいるが、そうならない為にも強さが必要だ。
「蟻は絶対に倒すから心配しなくていいよ、たけのこ、ひじき。」
ネバーギブアップだよ。私は、執念深いんだ。散々やられたんだからここで逆襲だ。
ちょっとでかい蟻の一匹くらいなんだっていうんだ。やってやる。
「オォー? ビビラズニクルカァ? ホントウハナキワメイテイルンダロオ!?」
あ、ちょっとくどくなってきたぞ蟻。挑発ってし過ぎると途端に弱い印象になる
んだからそれ以上言うなよ。
「オラドウシタマジャ!? クソザコマジャ! アホマジャ!」
こ、こいつわざとやっているのか。そんな子供の口喧嘩みたいなこと言われても呆
れてしまうっての。うわー折角やる気がでてたのにやる気がなくなってくる。こい
つまさかそこまで計算してやっているのか? いやそれはないか。けど今すぐツッ
コミを入れたくなってくる。何言ってるんだお前って。
「くっ。私のやる気もといこいつをぶっ倒そうっていう熱意がなくなる前に、ブッ
チのところに急ぐんだ! たけのこ!」
「ハイ! アンナバカノアイテヲスルヒツヨウハナイデス!」
「そうだよね! よし、あとはあいつが何言っても無視していこう!」
さぁ、ここからがクライマックスだ。




