第196話「ペース」
ゲームにおいて、勝てるかどうか分からない敵と戦う場合は、最初は様子見する
ということが重要なのだが、四の五の言ってられない状況にも遭遇する。そういう
場合はどうしたって運の要素も入ってきてしまう。しかしその運の要素を極力なく
して、確実に相手を仕留められるように作戦を考えるのが大事なことになってくる。
今の状況に当てはめてみる。蟻がどれだけ余力を残しているのか分からないうち
から全力で戦ってしまうと、弱らせたとしても、とどめをさしきれないと言った
状況になる事も考えられる。折角追い詰めたとしても、そのように無駄な事になっ
てしまわないように、どの程度で倒せるのかというのを常に想定していかなければ
ならない。
私は、蟻に真空波を何度も当てたのと雷獣破で攻撃を当てているが、それ以外で
も、ブッチを含めたももりーずVのメンバーたち、そしてダイダロスビートルが攻
撃をしている。その結果、今どうなのかと言うと、蟻はまだまだ余裕がありそうに
感じられる。
これが単なるやせ我慢なんてことだったら良いのだろうが、そういう気配は見せ
ない。いくら攻撃しても全然手ごたえがない敵だったら苦戦している状況が見えて
一歩引くことも可能だが、蟻に関して言えば、みんな引くつもりがないだろう。
蟻が攻撃をくらって苦しんでいる光景を見たり、発言内容からどうも弱そうに感
じられる。だから、このまま戦っていれば絶対に勝てるという思い込みをしてしま
うのではないかと思う。
これはとても危険な状況だ。勝てる根拠が特にないにも関わらず、自然と勝てる
流れになっているという誤解があるからだ。
勝てないかもしれないと思うことで勝てなくなるとか言う根性論だって重要だ。
しかしそれでも冷静な判断が必要だ。私は、この蟻が狙って今の行動をしていると
思っているので油断はしない。絶対に何か裏があるはずなんだ。私は騙されないぞ。
というわけで今回の作戦をブッチとエリーちゃんに伝えておく。
マブダチからのメッセージ:ねっこちゃん、大盤振る舞いだね。まさかそこまでや
る気があったとは思わなかった。
エリーからのメッセージ:分かりました。ねこますさんがそこまでやる気をだすの
であれば私も全力でサポートします!
了解を得た。これからやるのは特に変わったことじゃない。そう、私がやること
は、蟻にありたっけの火薬草を投げつけ続けることだ。ももりーずVのメンバーで
火薬草を持つことができる全員で攻撃する。全部使い切る勢いでやる。これで、徹
底的に削って、最後に隕石拳でとどめを刺す流れで行く。
ここで全部使い切るのは正直嫌だが、覚悟が必要だ。勝利の為には何かが犠牲に
ならなきゃいけないんだ。散々薬草を集め、調合した日々が思い出される。あの苦
労した時の力がここで役立つことができるんだ。一発一発は蟻にとって大した威力
じゃないかもしれない。だがそこれこそ塵も積もれば山となるだ。あの巨大な蟻だ
ろうが、ひたすら火薬草を投げつけていけば必ずダメージになるはずだ。
とても単純明快な作戦だが、これは、断腸の思いで決めたことだ。やるからには
必ずこの蟻を仕留めなければいけない。絶対に、なんとしてもここで始末しなけれ
ばいけない。逃がしてしまったらそれこそ許せなくなってしまうし。
「たけのこ、蟻に火薬草をどんどん投げつけていくから、蟻の攻撃をかわしながら
うろちょろして。それと、その間にブッチかエリーちゃんがいたら、一旦私を下ろ
して。みんなにも火薬草を配るから」
「ワカリマシタ! ワタシモガンバリマス!」
「うん! その意気だ! 私達は今回も勝とう!」
現在、既に樹海は火の海にはなっているが、呼吸が苦しいなどという状況にはな
っていないようだ。まぁゲームだからそんなものだとは思うんだけれど、たけのこ
もなっていないことからそういうものなんだろうか。
この火の海の中を駆け抜けていくが、私自身は火耐性があるから、そういうので
問題が起こっていないのかもしれない。
樹海が燃え盛っていくが、それが蟻の巨体を永続的に焦がし続ける。そこに火薬
草をどんどん投げつけていけば、回復する隙を与えずにどんどん弱らせていくこと
が可能となるだろう。
そういえばカブトムシだったけれど、再度蟻に攻撃を仕掛け始めたとブッチから
メッセージがきた。一応味方としての立ち位置にいるものだと思うが、こいつの存
在もどういうものなのかはっきりとは分かっていないので油断は禁物だ。
実は蟻と共謀していたなんてオチがあるかもしれない。戦っているのは実は八百
長なんてことが、あるんだと私は思っている! そう、こういうことは信じられな
いんだよ。どうにも怪しい戦いなんて他のゲームで散々辛酸を舐めさせられたから
ね!
「ねこますサマ! ゼンソクリョクデイキマス!」
「よし! 頼むよってうわわわわ!?」
たけのこの背に乗るのに慣れてきたが、今回はまた一段と早くなった。もしかし
て、今までは私の感覚に合わせてくれたので気を使って遅くしていたのかな。それ
はだめだな。気を使って全力を出せないなんてことじゃだめだ。
「たけのこ! 私には遠慮はいらないんだからね!? 全力を出したいときは自由
に出していいんだから!」
「ハイ! イマカラホンキダシマス!」
「っとおおおお!?」
さらに加速するたけのこ。こ、こんなに早かったのか!? すごい勢いで、蟻の
近くまできた。戻りがあまりに早くて驚いてしまうが、これは奇襲のチャンスだ。
「ねこますサマ! フリオトサレナイヨウニシテクダサイ!」
たけのこが跳躍すると、かなりの高さまで飛び上がれるようになっていた。あれ、
私、飛行も何も使っていないのに、たけのこは今やこんなに飛べるのか。かなり
強くなってきているじゃないか。よ
「大丈夫ぅううう! いけるよおおお! よっし蟻! これでも食らえええ!」
蟻の体にどんどん火薬草を投げつけていく。連続して爆発が発生する。この蟻のサ
イズに対しては、一発の威力は大したことも無いだろうが、十数個はまとめて投げ
つけているので、そこそこの威力はだしていると思う。
「マタ! コザカシイマネヲシテクレルナマジャアアアア!」
「絶対にお前を倒すためのやり方だ! 死んでもらうよ!」
「ヤレルモンナラヤッテミヤガレエエエ! オラァアアア!」
「ムッ!?」
たけのこは蟻の足払いを回避した。その時の蟻の動きを私はじっくり見たが一瞬す
ごい動きが機敏になった。やっぱりこいつ、もっと動ける! それを隠している。
これで分かった。こいつはこちらの隙をじっくりと伺っている。そして油断した時
に攻撃してくるつもりだ。そんなことはさせない。
「ばらまきだあああああああ!」
「グガッ!? ナンダコノリョウ!? グアッ!」
オーバーリアクションなんだよなあこいつ。大根役者というか三文芝居というか、
わざとらしい。
エリーからのメッセージ:あの、多分気が付いていると思うんですけど、グローリ
ーアントって、何か隠していると思うので油断しないでくださいね。
マブダチからのメッセージ:すごい今更だけど、グローリーアントの事。俺は分か
っているからね。
やっぱり二人とも気が付いていたなあ。わざわざ言うまでもないんだけど確認をと
ってきたということは、蟻が仕掛けてきたときの対応を自分たちがやるという意思
表示だろうな。となると、蟻自身も自分の行動がわざとやっていることであること
がばれているのも推定しているな。
「はい、ばらまきぃ!」
「テメェ! アリボールダアアアア!」
だが今してきた攻撃は、これまでのようなアリボールじゃなかった。細長い楕円の
ようなボールが、かなりの高速度で、あたりにまき散らされる。
「たけのこ! ブッチのところに移動!」
「ハイ!」
全員でばらまくためには全員に渡さないといけない。蟻の周辺にいるはずなので
たけのこに走ってもらってひたすら探す。おっと、ブッチがいた。さらにイッピキ
メとニヒキメもいる。
「これをひたすらぶつけてね! でもどっかに吹っ飛んだりとかするのもあり得る
ので、気を付けてね! あと、サンショウとかどこにいるか知らない!?」
「サンショウは、だいこんに乗って正面からやり合うことにしたなんて言ってたよ。」
正面からとか、気合入っているな。それにしてもだいこんとワンセットでいるなん
て、珍しい組み合わせだ。
「じゃあ次はエリーちゃん達を探すから! それひたすらぶつけてよね!」
「任せておいてよ! 俺は、やるときゃやる男だ! ねっこちゃんのマブダチだ!」
「はいはいマブダチだね。じゃあ行ってくる!」
私は、再度たけのこの背中に乗り、再度出発する。この短時間で蟻が回復するとい
うのであれば、あとはもう全員が揃っている最中に攻撃をし続けるしかない。
「イイカゲンニシロヤマジャアアア! シネ!」
「火薬草! 火薬草! 火薬草!」
「アガガガガガ!」
問答無用で投げつける。ここでこいつにダメージを与え続けることにもリスクが
あるとは分かっているが、それでも投げつける。一定量のダメージを与えると強さ
が増すタイプだというのは確実に分かっているのだから、まずはそこまで追い詰め
ないと話にならない。
「クソ!? ナンデソンナニアルンダソノクサアアア!」
「備えあれば憂いなしなんだよ!」
こういう状況まで想定していたわけじゃないけれど、持ち込める物があればひたす
ら持ち込む。それが私の考えだ。できる事があるならそれをやらないという理由は
ない。
「ク…ククッ! アリサンダアアアアア!」
「スキル妨害!!!!」
なんかやってこようとしたので咄嗟に初めてスキル妨害を使ってみる。失敗するだ
ろうなと思ったら、あっさり成功した。
「ナニッ!?」
「日頃の行いが悪いから発動しなかったんじゃないの? ぷぷー。」
「アキラカニテメエガボウガイシタダロ! クソガ!」
足で攻撃してくるが、たけのこがそれを回避…できないっ!?
「グガッ!?」
「たけのこっ!?」
もろに蟻の巨大な足で払われてしまった私とたけのこだった。なっなんで今攻撃が
当たったのか私にもよく分からなかった。くそっ。今のは油断してしまった。少し
ピンチになったかもしれないな。まぁいい。これでこそ挑戦し甲斐がある!