第193話「グローリーアント」
「フザケンジャネエエ! ニゲテンジャネエゾ! クソマジャアア!」
蟻が樹海全体に響き渡るかのような叫び声をあげている。こんなことされてしまっ
たら、他のプレイヤーもこちらを目指してくるだろうなあ。なんて余裕ぶっている
暇ない。今は少しでも距離を稼いでおかないと、すぐさま追い付かれてしまうだろ
う。
「私達は、ひたすら囮になって逃げなきゃいけないけれど、たけのこは大丈夫!?
スタミナが持たないなら、一旦休憩でもいいんだからね?」
「マダマダダイジョウブデス! トックンノセイカヲミセマス!」
たけのこは、私を背に乗せ、樹海を軽やかに疾走していく。木々が邪魔する中で
もひょいひょいと突き進む姿は流石森育ちと言った感じだ。このまま逃げ続ける事
もそう苦ではないだろう。だけれど、この先、絶対に大きな障害が待っている。
プレイヤー達が何人いるかが問題だ。何十人以上いるかもしれない。こういう大
がかりなモンスターはみんなで挑むことになるのが基本なので、それだけの数がい
てもおかしくはない。
私達が蟻退治するのを邪魔立てされることが危惧されるが、それを回避する手立
てはない。要するにプレイヤーにとって倒すことが目的なのではなく、誰が倒すの
かが問題なので、蟻を倒そうとする私達ももりーずVの面子に対して攻撃を仕掛け
てくることも考えられる。厄介だなあ。
「ンギギギギ! クソガァアアア!」
蟻の悔しそうな声が聞こえる。ひたすらうるさい。なんでそんなに叫んでばかり
なんだこいつは。なんだか弱く感じられる。
マブダチからのメッセージ:他のプレイヤーが来たよ! こいつらとも戦いながら
になりそうだから、これ以上足止めはきついかも! ねっこちゃんも逃げながら戦
ってくれ!
やっぱりろくなことがないな。欲望まみれのプレイヤーが蟻を狙っているんだろ
うけれど、共同戦線を図ろうとなんて気はないみたいだ。きっとブッチも敵対勢力
としてみなされるはずなので、攻撃されるだろうなあ。まぁそこはしょうがない。
だけどだったら、私の代わりにさっさと倒してくれよ! そうすれば、もう次は、
ジャガーちゃんと戦うだけで済むんだし。こんな蟻とは戦いたくない!
「ッシャアアア! ヌケダシタゾオ! マッテロヨマジャアア!!」
また動き出したか。私の位置は、ばれてしまうので、必ずこっちに向かってくるだ
ろう。ということは何をすればいいのかというと。
「火薬草! 火薬草! 火薬草! 狐火!」
樹海を燃やす。それだけだ。が、当然これを鎮火しようと考える奴も多いと思う
のでひたすら燃やすしかない。燃やして燃やして私に向かってくる蟻も焼き殺して
してう作戦だ。よく考えたらこの戦法しかない。せっかくここには木が沢山あるん
だから、それを活用しない手はない。当然これによってさまざまな被害が発生する
と思うけれど、蟻を生かしておいたら、それこそ、もっと酷いことになるだろう。
「火薬草! 火薬草! 火薬草!」
そして薬草を食べて更に火薬草にしていく。樹海を確実に火の海にしていくため
だ。だけどこれはもろ刃の作戦でもある。火の回りが激しければ私達まで巻き添え
をくらことになるし、ブッチがこちらに向かってきているはずなので、その邪魔を
してしまうことにもなるからだ。
だけど、それは他のプレイヤー避けにもなるはずなので、遠慮なく、燃やしてい
く。なんだかとても邪道な作戦に思えるかもしれないが、勝つためなら何だってや
るのが私だ。
「アッチィ!? マジャテメエ! アイカワラズ!コザカシイコトシヤガッテ!
アイカワラズ、セイカクガヒネクレテヤガンナ! シネ! アリボール!」
こいつのアリボールとやらも爆発を引き起こすので木が燃えたりするんじゃない
かと思ったんだけれど、こいつのはなぜかそういう影響がでないみたいだ。そういう
設定ってだけなのかもしれないけれど。
…というか捻くれてるとかなんだよ。それは本人に言ってくれ。
「イデェ!? ダレダ! オレサマヲキリヤガッタノハ! マジャノナカマカ!」
斬る? ブッチはどついたり殴ったりなので違うな。となるとプレイヤーか。く
そう、こっちじゃ何やってるのか見えないから気になるなあ。
エリーからのメッセージ:ねこますさん! やりすぎじゃないですか!? 一応危
なくなったらこっちも魔法で消火しますからね!
あぁ。後ろを見ると結構いい感じに燃えているなあ。かなり燃えている。だけど
これくらいやらないと、あの巨体には効果が無いと思うし。というかあいつが覆い
かぶさるだけで、火なんて消えてしまうんじゃないのか。なのでここは心を鬼にし
て燃やしまくるしかない。
たとえ樹海を火の海に、いや焦土と化してしまってもやらなきゃいけないのだ。
「アジャ! グアッ! アヂヂヂヂ! カーッ! オレァ! オコッタゾ!」
うわっ。よせっ。こんなところで、何度もジャンプするな! くっそ。あの野郎。
あの巨体だけの効果じゃなく、地震を起こすような魔法も使ったな!? 地割れ
が起きているぞ!?
「ゲヒャハハア! ドウダマジャアア!?」
あっ。なんか怒る気失せた。なんか子供そのものって感じがするなこの蟻。と
いうかクロウニンなんて集まりだから強そうなイメージがあるのに、これじゃあ
そこらの雑魚敵みたいなのと変わらないじゃないか。
「ねこますサマ! ソラカラナニカガキテイマス!」
「ん!? おっと、お出ましか! なーんてこの台詞一度は行ってみたかったん
だよねーってあれがダイダロスビートルかな!?」
空を巨大なカブトムシが飛んでいる。角が凄くりっぱに輝いている。あれ、金色
に光っているのか? すごいな。でもかなりでかいけれど、蟻よりかは小さいか。
ここからだと、正確な大きさは図れないけれど、かなりのものだということだけ
は分かる。そいつが、蟻に向かっているように見えた。
「グローリーアント。貴様、この樹海で好き勝手やってくれているようだなあ?」
蟻に負けず劣らず声がでかい。これは、もしかすると、こいつら同士でぶつかり
あう流れかな。だったらすごく好都合だ。嫌な奴同士が潰し合ってくれれば、こ
ちらとしても余計な事をしなくてすむ。
「ハッハァ!? カブトムシゴトキが、オレサマヲトメラレルトオモッテイルノ
カァ? ケッケェ! アリボール!」
「ホーンブレイカアアア!」
カブトムシの角から、眩しい光が放たれる。光はアリボールを包み込み消滅した。
更に、その光の一筋が、蟻目掛けて突き進む。
「グァァアアア!」
叫び声しか聞こえない。私の位置からは何をしたのかは見えなかった。なんて気
にするよりもまずは、逃げることが先決だ。あんな奴らに構っている暇はないし。
何よりすごく嫌な予感がする。あのカブトムシ。今更でてきて何をしようとして
いるのかよく分からないし。
「魔者。魔者がここにいるのか?」
「ケッ! ソウダヨ! アノヤロウヲブッコロスンダヨ!」
どうする。なんか重要な話をしそうな感じだけれど、あれも無視するか。そうだ
な。話よりもまずは命が大事だ。徹底的に逃げるしかない。ひたすら燃やすんだ。
マブダチからのメッセージ:邪魔ばかり入るね。プレイヤーから攻撃されるわ、
グローリーアントからの攻撃もしつこいわで、今度はカブトムシがでるとかさ。
なかなか足止めできなくてごめん!
エリーからのメッセージ:プレイヤーがうざいです! なんかいやらしい目で見て
きたり、集団で襲い掛かってくるので、ねずおちゃんやみんなと協力して撃退して
います。助けに行けなくてすみません!
混戦状態だなぁこれ。最悪なパターンだ。ここで更に別な勢力が出てきたりする
かもしれないのが嫌な所だ。
「たけのこ。いったん止まって。」
「ハイ!」
ここで一旦様子見することに決めた。たけのこはまだまだ大丈夫だと言うが、こ
の先ばててしまっては困る。ということで、猪の肉がまだまだあるので食べてもら
うことにする。
私は私で、蜂蜜を舐めたりなど、回復をしておく。さぁて、向こうがどうでてく
るのかが問題だ。あの二匹が協力してきて私に襲い掛かってきたらゲームオーバー
といってもいいかな。そんなことにもなるかもしれないし。
それと気になるのが他のプレイヤーだなあ。蟻退治にはあまり必死になっていな
いような気がする。それよりもブッチとエリーちゃんを躍起になって狙っているよ
うな気がするし、もしかすると蟻の仲間みたいな感じになっているんじゃないだろ
うなあ。
邪魔ばかりされているのがきついところだ。今は膠着状態に近いけれど、かとい
ってこのまま終わるわけがないし、やはり蟻とカブトムシの出方を伺うしかない。
「マジャアアアア! デテコイヤアア! グッ!? カブトムシジャマスンナ!」
おっ。いい展開だ。このままカブトムシと争い合うんだ! いいぞいいぞ!私はこ
ういう展開を待っていたんだよ! 私が関係ない所でお互い潰し合ってくれて最後
に美味しい所をもらうのが私なんだ!
「とはいえ…。」
気配感知で何匹か引っかかった。私の方に向かってきている。何だろう。これはま
ずい気がするな。またたけのこの背中に乗って移動しないとだ。
「たけのこ、ここから離れるよ! またよろしくね!」
「ハイ!」
「おいあれ!?」
「ああっ。なんか不気味な奴がいたぞ!」
「あいつが、魔者とかいう奴なんじゃないのか!?」
プレイヤーか。邪魔だなあ。なんか馬っぽいのに乗っているけれど、馬じゃないな。
モンスターっぽい。で、あれで向かってこようとしてくるのかな。それは嫌だ。す
ごく面倒くさい。たけのこ、全速力で振り切って!
「ハイ!」
「あっコラ! 逃がすか!」
予想通り追いかけてくるプレイヤー達。放っておいてくれよ! 私はお前らに何か
したわけじゃないんだから。ここで私に構っている暇があったら、さっさと蟻退治
にでも向かっていってくれ。
「火薬草。えいえいえい。」
後方に向かって何個も投げつける。勿体ない! すごく勿体ないけれど、どんどん
投げ続けるしかない。
「や、やっぱりお前が火事を起こしていたのか!」
「こいつ! 最低な奴だな! 絶対にここで倒すぞ!」
「おう!」
何で私を悪者扱いしてんのこいつらぁああああ! いや誤解を招きそうな格好し
ているのは私だけどさあ! だからといっていきなり襲い掛かってくるとかやめて
くれよ! あああもう、お前らの相手をしている暇はないんだよおお!
(母上、ここは私に任せてください!)
「ひじき召喚! 後は任せた!」
「眠り毒鱗粉…!」
「げっ。状態異常攻撃か!?」
「くそっ。迂闊に近寄れねえ!」
「迂回して追い込むぞ!」
良い感じに足止めになった。助かったよひじき。やっとこさ出てきてくれたので本
当に助かったよ! あっ嫌味じゃないこれ! 嫌味に聞こえたらゴメンネ!
(は、はい。)
よし、良い感じで逃げ出したし、ここから先もまだまだ頑張るぞ!