第192話「蟻退治」
蟻退治に意気込みを見せようと思ったんだけれど、蟻とだけ言うと、いまいち強
さが伝わってこないことに気が付いた。というか蟻を倒すのに必死になりすぎって
感じのほうが伝わってくる。
樹海をひたすら北に進み、何かがでてくるのではないかと意識してみたが、何も
出てこない。というか不気味なくらい何も出てこない。むしろこれが蟻の出現を醸
し出しているような気がするな。出てくるのか、出てこないのかいう状態なので、
常に緊張感を保っていられる。
気配感知には、いつも通り何にも引っかかっていない。このスキル、本当に役に
立っていないなと思ったのだが、ここに来て気づいたことがある。私がこのスキル
を使いこなせていないだけなのだと。威圧が勝手に発動していたのと同じで、きっ
とこのスキルを意識して使いこなそうとすれば、それだけ使えるようになるはずだ。
だから、私は今をもってこの気配感知にもっと意識を傾けてみることにした。も
っと強く、強く、周りに何かがいないかを。気配を感じるという感覚がどういうも
のなのかはまだよく分かっていないが、周囲に何かがいないのかを見渡すような感
じで、ひたすら、ひたすら辺りを探ってみる。
北へ向かって走りながら気配感知に意識する。そして、自分の走っている地面に
何か大きなものが蠢いているような感覚が生じた。これだ。これがきっと蟻だ。ま
だ微弱にしか感じられないが、確実にいる。そして周囲にも何かがいる。その数は
6匹ほどだろうか。
これは蟻とは関係のなさそうな気配だ。という事は、こっちがダイダロスビート
ルとやらの仲間なのだろうか。こいつらとは戦いたくないし、ぶつからないように
避けていく。よし、どうやら私の方に向かってくる事は無いようだ。向こうは私が
いるということに気が付いていない。
もしかしたら既に私がいるということを知っておいて無視しているなんてことも
あり得るので、敵がいるということとしては認識しておく。ああでも、私が魔者と
感知できるタイプには無意味だったっけ。
(母上、大分汗がでているようですが。)
お。本当だ。気配感知に意識を向け過ぎたからか。これは慣れるまで大変だ。で
もこれで分かった。スキルは使いようだ。自分でこう使おうってしようと思えば、
結構融通が利くようだ。これなら、私は今よりもっともっと強くなれそうな気がす
る。蟻だけじゃなくこれからジャガーちゃんとも戦うのだから、弱いままじゃいけ
ない。私にはスキルを使って勝つってことくらしいかできないんだから、考えてや
っていかないと詰んでしまう。
ドラゴンフルーツを食べる。これも少しずつだが数が減ってきてしまった。この
戦いが終わったら戻るんだなんて言ったら不吉な感じがするんだけれど、少なくな
ってきたからには戻りたいなあ。あぁ草刈りをしていたのも懐かしく感じる。
そんな現実逃避をした時だった。地面の揺れが激しくなってきた。これは、そろ
そろ来るか。地鳴りがする。地面が盛り上がってくる。これはまずいと判断したの
で、ひたすら前に走り続ける。心の準備はできている。ついにこの時がきたという
ことだ。私の後ろにある地面がどんどん盛り上がっていきそして、地中から何かが
飛び出してこようとしていた。
後ろを一瞬だけ振り向いたが、なんだあれ!? でかすぎじゃないのか。大きさ
だけど、体長100メートルくらいあるんじゃないのか。ふざけるな。あんなのどう
やって存在しているんだ。ああいう巨大な生物って、体を支えることができないと
か聞いたことがあるんだけれど、ああうんこれゲームだったね! そうだよね!
ああもう現実と混同してしまうくらい混乱しているよ私は!
というかあれ、隕石拳ぐらいしかきかなそうじゃない!? ブッチはどうやって
あんなでかいのと互角の戦いを繰り広げたって言うんだよ。ありえないよ。それと
もあんなに大きくはなかったってことなのかな。地中にいて力を蓄えてきたとかそ
ういうオチなのかな!?
「マジャ。マジャハドコダアアアアアア! イルノハワカッテイルゾオオオ!」
あぁーいきなり叫んでいる。どこから声をだしているのか分からないけれど、私を
探している事だけは分かった。分かったから樹海中に響き渡るような声で叫ぶのは
止めてくれ。他の連中も、集まってきてしまうじゃないか。もう手遅れだろうけれ
ど魔者というのもやめてほしい。私が狙われてしまうだろう。
(母上、あ、あんなのと本気で戦うんですか!? 無茶です!)
やるっきゃないんだよね。というかこのあたりでいいか。きちんと姿を目視してや
らないと。うん。でかい。体がオレンジ色というかなんか不気味な輝きを放ってい
るようなのでおどろおどろしている。うう。近寄りがたいなあ。ジャガーちゃんの
いう通り、こいつは確かに強そうだよ。
「デテコォオイ!!!」
げえっ!? その巨体で飛び跳ねるだと!? おいちょっとまっ! ぐえっ! こ
この野郎。お前の体で飛び跳ねたら軽く地震が起きるじゃないかふざけるな。とい
うかこんな虫の癖に随分軽快な動きをするんだな。くそーちょっと舐めていたかも
しれないな。これは本当に勝てるのか。いや勝つんだよ。というか援軍! ブッチ
何やってるの!
マブダチからのメッセージ:見えた! 今そっちに向かっているよ! でもご指名
は、いや本命はねっこちゃんらしいよ! 頑張って!
早く来てくれ! まだ私のいる位置には気が付いていないみたいだけれど、こん
なのと一人で戦うのは自殺行為だよ。絶対にまずい。って思ったけれど、一応この
あたりから攻撃の一発でもしかけてみようかな!
「真空波!」
遠い位置から、攻撃をしかけてみるが、さ~てどうだろうか。あんなでかい奴に通
じるわけないよなぁ。お、体に当たった。
「イテエエエエエエ!? マジャテメエヤリヤガッタナアア!? ブッコロス!」
え!? まさかの効いてる!? その巨体でなんで効くの!? なんとなく硬い甲
殻を纏っているって感じだったのに、これは流石に意外な展開過ぎて驚いた。こん
なに柔らかいなら遠くから攻撃しているだけで倒せるんじゃ、いや待てよ。そんな
ことはないんだろう。実はすごいタフだったりする設定なのかもしれない。だから
ブッチがいくら攻撃しても倒れなかったとか。
「アリボール!!!」
50cmくらいの真っ黒いボールを周囲に大量に投げつける蟻。なんかぶつかったら
やばそうなので、距離を置くが、ひたすら、ひたすら投げつけてくる。無差別テロ
じゃないかこんなの。やめろっつーの! んっ!?
アリボールとやらが、木や地面に接触すると小爆発が爆発が起きる。威力はあま
り高くなさそうだが、いかんせん数が多い。百個くらいまとめて投げつけてきてい
るので、連続で食らったらまずい。くそう、体が大きいくせに仕掛けてくる攻撃が
みみっちぃ奴だなあ。流石蟻だ!
蟻は何度も何度も周りにアリボールとやらは投げつけている。しかしだ。
「グァアアアア!? マジャテメエヤリヤガッタナアア!」
自分の投げつけたアリボールの爆発に巻き込まれているのだった。なんだこいつ。
頭悪いのか。なんか戦いたくない。ひたすら馬鹿な感じがしてきたぞ。こういう奴
を相手にすると大体ろくなことにならない気がするし。
「ナメクサリヤガッテ! シネ! アリボール! アリボール!」
うっおおおおおおお!? あんなにまき散らすな馬鹿野郎! くそ、これはだめだ。
退却しかない。こんなのと戦ってられるか。さっさと自滅しろ馬鹿!
「マジャテメエニゲルキカアアア! ニガサネエゾオ!」
うわぁいっちょ前に私の気配は感じ取れるのかこいつ。最悪だ。逃げられもしな
いで、戦うしかないとか。くっそおお。全力疾走だああああ。!
「おっ! ねっこちゃん!」
「ブッチ!? ちょ、こんなの聞いてないよ!?」
目の前にブッチと、みんなもいるううう! やったこれで勝てるって今はそれど
ころじゃないんだよおお! みんなも逃げるんだよおおお!
「囮はねっこちゃんで!あとはその後ろから俺らがあいつに攻撃していくよ! あ
いつ、今はねっこちゃんしか見てないみたいだから! 絶対にやれる!」
「うあーみんなー久々だけどそういうことらしいからよろしくうじゃない! だい
こん背中に乗せて! 私一人じゃ無理無理!」
「ファッ!? 姉御! ワイじゃ無理やで! このあたり色々邪魔なもん多いから、
それより、わんころ、お前が背中にのっけたれや!」
「ねこますサマ。ワタシデモイイデスカ!?」
「おっけええええええ! ってたけのこ大丈夫なの!?」
「ダイジョウブデス! マタツヨクナリマシタ!」
というわけでたけのこの背中に乗せてもらうことになった。あれ、ちょっとたけ
のこ大きくなったな。おおよしよし。もふもふ。ふぅジャガーちゃんも良かったけ
れどやはりたけのこも素晴らしいな。ってそんな場合じゃ、ぐっふ。
「浮遊! これでしばらく飛べるはずだからブッチ頑張れ!」
「あいよ! じゃあ行ってくるぜ!」
「マスター! 私達は、グローリーアントの後ろから攻撃を仕掛けていきますので、
囮はよろしくお願いいたします!」
くぅ久々にみんなに会うとやっぱり頼もしく思える!
「ねこますさん! 私からも! フィールドバリア! 防御用の魔法です!」
「あ、ありがとう! よぉーし! たけのこ後は頼むよ!」
「ガッテンショウチ!」
たけのこの背に乗って、樹海を駆け抜ける。その後ろから、蟻が私達に向かってく
る。更にその後ろに回り込んで、ブッチ達が攻撃を仕掛けていく。
「た、たけのこ滅茶苦茶早くなってるね?」
「ねこますサマノタメニツヨクナリタカッタノデス!」
み、みんなこうしていつの間にか強くなっていくんだなぁ。私も負けていられない。
とはいえ、今はただ囮としてしか役に立てそうもないけれど、こちらに投げてくる
アリボール相手に、火薬草を投げつけて相殺していく。あぁ、こんなことでどんど
ん無くなっていくぅ。勿体ないけど使わないといけないし。
「イデェ!? カラダガイデェ! マジャテメエヤリヤガッタナ!」
私じゃない。私は何もやっていない。というかもうこいつ言いがかりじゃないか。
ここまでこいつに言わせるようになった先代とやらは本当に戦犯だろ。
「たけのこ。あいつってあんなに大きかったの?」
「イゼン、タタカッタトキハ、モットチイサカッタハズデス。」
となると、やっぱり地中で力を蓄えていたか。今のブッチ達で勝てるのか?
マブダチからのメッセージ:ねっこちゃん心配はいらないよ。前に戦った時よりも
多少サイズが大きくなっているけれど、こいつの動きは大体前と同じっぽいし、む
しろ前より動きが単調で分かりやすいのでぼこぼこ殴れているよ!
な、殴れているってあの爆発の嵐の中で? ありえない気がするんだけど。まあ
頼りにしているからいいけど。
「そうだ、蟻以外も出てくるかもしれないから、気を付けないとだ。」
「ニンゲンラシキモノガイルノヲミマシタ。」
「…攻撃を仕掛けて来たら反撃するよ。」
「カシコマシタ!」
プレイヤーが邪魔をしてきたら容赦なく戦わないといけない。この状況でそんな
事をしている余裕がないのは分かっているけどね。
「ガラダガウゴガネエエエエ!」
お、魔者の動きが止まった? ブッチが何かしたのかな。いや、まだ分からないし
距離的には余裕がないのでたけのこにまだ前に進むように指示を出しておく。
エリーからのメッセージ:ブッチさんが、蜘蛛の糸のスキルで足止めしました。今
のうちに離れておいてくださいとのことです!
「流石ブッチだ。」
そう思った反面、もうあいつ一人いれば全部解決なんじゃないのかなとも思った。




