第190話「悪天候」
空から、ぽつり、ぽつりと雨が降ってきた。そして徐々に雨足が強くなっていく。
ゲームでは、突然天候が変わると言うのは何かの前触れであることが多いが、偶然
でることも考えられる。だけど、本当に何かがこの状態を引き起こしているとなる
と、その存在は環境の変化を起こすことができるとても大きな存在である可能性が
高いため、警戒を強めなければいけないな。
大体、超強力なモンスターだったりするんだけれど、となると蟻が攻撃を仕掛け
てきているのだろうか。あるいは、また別なモンスターだったりするのかもしれな
い。ブッチが蟻と戦ったとは言ってたけれど、天候が変わるなんて話はしていなか
ったなあ。そうなると、やっぱりこれは別な何かがいるってことを想定しておかな
いといけないな。
不測の事態に備えておくのは大事だ。ゲームなんてそんなことの連続でもあるわ
けだし。そのためには基本的にどんな戦いの後でも余力を残しておく必要がある。
苦い思い出として、やっとボスを倒した思ったらそれが中ボスで、後に続くボス
にボコボコにされてしまったというものだ。その他にも、ボスの仲間が増援された
りすることが多く、思わずふざけるなと言いたくなったね。
はぁ、なんだか嫌な予感がするなあ。今も豪雨とまではいかないけれど結構振っ
てきているし、この微妙にぬかるんだ地面と視界不良の中で戦うことになったら嫌
だなあ。今後もこういう状況下でも戦うこともあるのは分かっているのだから、こ
れを機に慣れていけばいいだけの話でもあるけれど、慣れないうちに攻撃をしかけ
てくるなんて敵が多いだろうし、
この現象がプレイヤーが起こしていたとしても嫌だな。それとも、この雨天時で
どうしても戦いたい敵がいるとかあるのだろうか。まぁ私の知らないところで何か
が起こっているのかもしれないな。
マブダチからのメッセージ:グローリーアントと戦った時は晴れていたから、これ
は別な奴が何かやってきているのかも。
そいつらってもしかして蟻を狙ってきているとかないのかな。それなら私にとっ
てはすごく好都合なんだけれどな。一々戦う必要が無く、私の敵のような奴同士で
争い始めてもらえれば、そこから漁夫の利をかっさらうことができそうだし。
そてとも、これから他のプレイヤー達と蟻を倒すのに共闘するなんてことになっ
たりするのかな。私はそんなことしたくないな。一度襲われているし、私の仲間を
見つけてもいきなり攻撃仕掛けてきそうだしで、面倒事を避けたい。
このあたりの今の私の考えをブッチとエリーちゃんに送っておいた。私としては
一刻も早くこの樹海から脱出したい。今の勢力が、蟻、ダイダロスビートル、プレ
イヤー、そして、もしかしたらそれとは別の勢力で合計4勢力がいると推測。
一番狙われそうなのは、間違いなく私。自意識過剰だとは思わない。魔者とかい
う称号がこのようなトラブルを起こしているのはもはや自明の理だ。私こそが今こ
の騒動の中心になっている。そうに違いない。
いつの間にやら他者から恨みを買ってしまっているので、出会ったら戦いになる
ことは必至だろう。
「うわっ!?」
突然、足元がぬかるんで転んだ。いや、違うな。今、地面が揺れ動いたような感
覚があった。これは、下から何か来ているってことなのかもしれない。今もなんだ
か揺れている気がする。これは、微震とでも言えばいいんだろうか。止む気配はな
いようだ。
気配感知で何かが来ているかのような感覚がある。不気味だ。見えない何かが私
に襲い掛かってこようとしているんだろうか。透明人間みたいな奴だったら、それ
は嫌だな。いきなり後ろからざっくりなんてことで狙われているかもしれないのか
な。
マブダチからのメッセージ:地震がきている。多分これ、グローリーアントがきて
いるかもしれないので警戒してね! 出て来たらすぐ向かうよ! でかいしこの樹
海でもすぐ分かると思う!
エリーからのメッセージ:もし、こっちに来たら助けに来てください!
ここで何故か、これ、本当に蟻なのか? という疑問が浮かんだ。なんだか都合
がよすぎるような気がしている。念のため、プレイヤーに気を付けるように、ブッ
チ達には言っておいたし、今の私が置かれている現状説明も済ませた。
私の癖とでも言えばいいんだろうか、微震が起こっているから蟻というのは別に
絶対に確実というわけじゃないと思うで本当にそうなのか? と疑ってしまう。
蟻が出ていると偽装工作でもされているのでは、と。
ここで考えてみようか。ももりーずV以外のプレイヤーがここにいる目的が蟻退
治なのかそれともこの樹海にあるレアアイテムでも探しているのかで言えば、多分
蟻退治だと思う。
蟻が復活っていうのは多分そういうイベントが発生しているってことになるから
だとすれば蟻を倒したら貰えるアイテムなんかを狙ってきているというのが考えら
れる。それを本気でやろうとしているってことは、プレイヤー達は結構強い連中じ
ゃないか。
あ、まずいんじゃないかこれ。プレイヤーがダイダロスビートルとやらを蟻と間
違って刺激した可能性とかありそうだし、そんでもってそこから紆余曲折を経てこ
んな雨が降るような状況になり、蟻と同じように何らかのモンスターが復活した、
なんてことが、うう、嫌になってくるな。
ここで大事なのは、みんなと合流して、蟻を倒すことだ。だけど…。
揺れが少しずつ強くなってきている。これは、蟻で正解かな。となると、蟻と同
レベル帯の奴もすぐでてきそうな気がする。二匹同時、そうだよ、二匹同時にでて
きてもおかしくない。これだ、私のあった違和感は。つ、つまり。
「マジャアアア! ミツケタゾオオオオオオオオオオ!」
樹海に不気味な声が響き渡る。機械音声みたいな甲高い声だ。これが蟻の声で合っ
ているんだろうか。それとも。
メッセージ:クロウニン ジャガーコートが出現しました。
全然違う奴じゃん!? これだからゲームって奴はやめられないんだよもう! く
っそー! 思いっきり予想が外れた! でも別な奴がいるってのは当たった! あ
あもうなんなんだよ! くそ、クロウニンってヤバイ奴じゃなかったっけ。そんな
のがここに二匹いるってことじゃないのか。
封印をされていたとか聞いたのにどうなってるんだよ! ああもう! いきなり
大ボス級がでてくるとかやめて欲しい!
「ヒサシブリダナ、マジャ! ン!? キサマ、マジャデハナイダト!?」
ジャガーコートとやらは姿を現さない。ただ音声だけは響き渡っていく。私に対し
て魔者じゃないと言うのは、前に魔者だった奴を知っているという事か。やっぱり
こいつも封印されていたってことなんだろうなあ。
「えーっと。私は新しく魔者になった者です。こんにちは。」
一応挨拶くらいはしておこうと思う。どこにいるのか分からないけれど。
「ナニ!? デハ、ソレマデノマジャハ、ドコヘイッタ!?」
「あー、多分もう消えてると思いますよ。」
なんか敬語で話してしまうけれどいいか。というかなんかむこうも威圧を発してき
ているのか全身がビリビリする感覚がくる。気圧されまいと一生懸命抵抗している
んだけれどね。
「ワガシュクテキガ、ナントイウコトダ。ガ、ナラバキサマガアイテカ?」
いや、こんな風に言葉が通じるなら争いたくないし。話し合いができるんだったら
無駄な争いは避けるべきだよね!
「私は、なるべく戦いたくないんですが、ここは穏便に済ませてもらえないですか?」
「ナンダト? マジャトイエバ、タタカイニイキルモノデハナカッタノカ?」
先代いいいい!? 何そういう戦闘狂で通っちゃってるの! 嫌だよ。私はそんな
戦ってばかりなんて絶対に嫌だよ! どうしてそんなに戦わなくちゃいけないんだ。
「先代はそうだったのかもしれないですけど、私は違います。」
「コンナ、コンナ、ヨワキモノガ、マジャニナッタトハ…。」
そんな嘆かわしいって声で言わないで欲しいんだけど。血気盛んな暴走族でもな
いんだから。
「ダガ、セッカクココマデキタノダ。キサマ、マジャナラバ、タタカエ。」
あああ! 来てしまったあああああああ。強制戦闘イベントだあああああ! 嫌だ
なあ。大体こうやって戦って分かり合うようになるのは分かるけど、戦わないとだ
めってあたりがもう古臭いんだよおおおお! そんな戦ってどうするって言うんだ
よもう!
「戦うって、姿も見えないんですが。」
「コレナライイダロウ?」
近くの草むらから、がさごそと聞こえてくる。ど、どんな奴がでてくるんだ? か
なり強い奴なんだろうけれど、サイズが小さいってことなのかな。ちょっと緊張し
てきた。うう、さぁ来い!
「え。」
ジャガーだった。正確には黒いジャガーだ。ま、また黒い色したモンスター。なん
だかつくづく黒に縁があるなあ。体長は2メートル程度で、目が青い。なんか、その
なかなかカッコイイ! いや可愛らしさもある。いやいや、ちょっとまって、普通
に可愛い。なんて可愛さだ。私は猫が好きなんだ。ああもう!
「た、戦えません! すごい可愛いです!」
「トツゼンナニヲイッテイル!?」
「語尾ににゃとかつけると最高です!」
「ソレハ、マエノマジャモイッテオッタゾ!」
だよね。やっぱり語尾にはにゃをつけて欲しいよね。あいつ分かっているじゃない
か。ああもう可愛いなあ。仲間にしたい! すっごい仲間にしたい! どうにかし
て仲間に引き入れたい! 可愛い! 本当に可愛い!!! 素晴らしい! ああも
う。
「猪の肉です! 狐火ぃ! はい! 焼けましたァ! どうぞお食べ下さい!」
「ム、ウマソウダナ。」
「一緒に食べましょう!」
「ウ、ウムソウダナ。」
嫌だ、私はこのジャガーコートと争いたくない。可愛い。戦ったら私が負けるだ
ろうし、そもそも反撃をしたくない。蟻なんかは別になんともないのでぶっ倒すけ
れど、こんな、猫系のジャガーと戦うわけじゃないか! くぅ。頭をなでてやりた
くなるけどだめなのかぁ。うう。
「キサマ、タタカウキハナイノカ?」
「だって、可愛いですし! 戦いたくないです!」
あぁ黒い毛並みが綺麗だなあ。もふもふしたいなあ。くぅうう。最高だ!
「ソウカ。センダイノマジャトハ、ヨクタタカッタモノダガ。」
あの野郎。何してくれてやがるんだ。こんな可愛いジャガーコートと戦うなんてと
思ったけれど、もしかして遊んでいただけとかいうオチじゃないのか?
「フム。シカシ、キサマ、グローリーアントトハ、タタカウノダロウ?」
「蟻はぶっ倒します。」
「ヤハリマジャトハ、ヨクワカラナイモノダナ。ナゼ、ワレトハタタカワナイノダ?」
「仲間になって欲しいからです!」
「ム、ムゥ。」
あれ、困惑している? くっそ可愛すぎる。ずるい! なんて可愛いんだ。もしか
してこのままガンガン勧誘すれば、仲間になってくれるんじゃないのかな。よし、
これはひたすら押して押して仲間になってもらう作戦でいこう!
私は猫が好きです。猫好きの皆様、是非とも
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