第189話「般若レディ、ブチ切れる」
ストレス耐性のチェックでもされているのではないのだろうかという疑問が脳裏
に浮かんできた。なぜこうも勝手な連中に狙われて攻撃されて更には好き勝手言わ
れなきゃいけないのだろうか。それともなんだ。揃いも揃って私の事を馬鹿にして
きているのだろうか。
あるいは、私をわざと怒らせようと何者かの策略なのではないだろうか。私が魔
者の能力を使いこなすのに、怒りがきっかけとなって発動するようになるとかそう
いう設定があるかもしれない。
一度ここは冷静になろうと頑張ろうとは思うのだが、なかなか難しい。だけどこ
こまで極端な事をされたら、何か仕向けられているのではないかと思う。
こういう時に怒りに身を任せて何かやって、どこからともなく悪人が出てきて、
こんなことをしたのはお前のせいだーとか責めるようなことを言って、絶望しきっ
た主人公が、暴れまくって、どうせ自分は一人なんだとか哀愁漂う台詞を吐くのが
定番になっているはずだ。
「という定番イベントをやりたいのか?」
「な、何? 話を聞いていたのか?」
「よし。じゃあお前が王女様になってこの樹海に永久で暮らすんだ。」
「話がかみ合わない。こいつ、おかしいぞ。」
「よし。じゃあお前が王女様になってこの樹海に永久で暮らすんだ。」
「貴様。ふざけているのか。」
「よし。じゃあお前が王女様になってこの樹海に永久で暮らすんだ。」
「くっ。どうやら我々を舐めているようだな。思い知らせてやる。」
同じ言葉を繰り返すのって他者を怒らせるのに向いているんだよね。今回は他の
ゲームで散々やられてきた、はいを選択しないと何度でも同じ内容を繰り返し続け
る作戦で行くことにした。まぁイライラさせられたし意趣返しと言う奴だ。
私は、電撃の鞭を取り出して、カメレオンたちに叩きつけた。問答無用だ。
「よし。じゃあお前が王女様になってこの樹海に永久で暮らすんだ。」
「ぐおぅ。こ、こいつ、頭がおかしいぞ。」
そう思ってもらったほうが楽だ。が、私は結構イライラしている。というかブチ
切れている。自分たちの方が頭のおかしいことを言ってるという自覚がないという
のがむかついてたまらないのでひたすらぼこぼこにすることにした。
カメレオン風情が私をなめないでほしいな。
「ウ、ウォータープレッシャアアア!」
カメレオンたちは、口から大量の水吐き出した。すごい勢いだったが、これならな
んとでもなりそうだ。
「狐火!」
私は、口から火を吐き出した。これで水の威力をある程度打ち消せそうだ。という
わけで、いつもの攻撃。
「浮遊。」
カメレオンたちの体が数秒だけ持ち上がり、その直後に落下し、バランスを崩し
た。その隙を逃さず、電撃の鞭で何度も叩きつけてやる。そう、特定の一匹だけを
徹底的に攻撃する。他の奴には一切攻撃を加えない。ひたすら一匹だけ狙い続けて
一匹だけを披露させる。他の奴らに攻撃を加えないのは、全員一定にダメージを与
えると、みんな苦しんだ、だけど頑張っているんだと言う共通意識を持ち始めて、
戦いに関して意欲を上げてしまうかもしれないからだ。
そんなことはさせない。一匹だけを攻撃して追い込んでいくことで、次は自分が
こうなるかもしれないという脅しと、自分だけ集中的に攻撃されていることへの不
満を溜めさせることができる。よし、これでいいんだ。
「ぐぐっ。くそっ。」
「貴様ぁ! 集中攻撃なんぞしおって!」
「そうだ! 日急な奴め!」
連帯感が生まれてきているけれど、それは偽りの連帯感だねえ。ここでその連帯感
を失わせてやろうと思う。
「計画通り進んで楽しいなあ。邪魔な一匹だけ消す作戦って最高ですね。」
「な・・・に?」
「言葉通りですよ。フフフ。ハハハ。いやぁ、そこのおふた方にはお世話になって
いましてね。」
大根役者もいいところなんだけれど、ここは、そういう流れに乗っておくことに
するのだ。あぁ、なんか悪役のロールプレイはまりそうだ。楽しい。
「あなただけ徹底的に甚振ってやるように言われてたんですよ。」
一匹だけに何度も何度も電撃の鞭で叩いていく。かなり効いているのが目に見えて
分かる。やはり水棲系のモンスターの弱点は雷系なんだな。ふふふ。これで肉体的
にも精神的にも追い詰めていくんだ。
(
(母上、それは狡くないですか?)
私は弱いからこういう勝ち方しかできないの! 戦いに狡いも卑怯もないし、敗
北したらその時点でおしまいなんだからやれることは全部やるべきなんだよ。それ
にそこまでいうなら、ひじきちゃーん。ママのために出てきてくれないかなぁ。
(う、それは遠慮しておきたいです。すみません。)
じゃあ、ここは黙っておきなさい。というわけで、大根役者だけれど、不安の種
をばらまくことには多分成功しただろうと思う。まぁ普通に考えたらこんな作戦が
上手くいくわけなんてないのにね。
とはいえ、こういう作戦で友情崩壊させたことがあるので、全く有効じゃないな
んてこともないと思う。
「お、おい。お前ら。まさか、違う、よな?」
懇願するような顔で仲間を見る一匹だけ傷だらけのカメレオン。心身ともにぼろぼ
ろだろう。が、そんなことを言ってるところに情け容赦なく電撃の鞭を叩きつける
私であった。他の二匹も私に攻撃を仕掛けてきているけれど、どことなく動きがぎ
こちなくなってきた。うん。この三匹、キングモリコングとかよりはずっと弱いの
で、このまま攻めていけばいい感じで倒せそうだ。よし、ここでチェンジだ。
「おいしょっと!」
「ぐあっ!? なにっ!?」
「ふふっ。実はあなたも邪魔だったらしいですよ。」
「な、なんだと? お、お前まさか、手柄を一人で横取りするつもりだったのか。」
「そんなわけあるか! あいつの言葉に惑わされるな! あいつはそういう事をし
かけてきているだけだ!」
「そうですねぇ。仲良くしましょうね。ふふ。」
悪役が板についてきた気がする。こうやって敵を翻弄するような役をやってみた
かったんだ。でも大根役者なので、後でばれることは間違いない。どうせ後でそれ
をやってたことがばれるならここで徹底的に遊んでおくべきだな。
「ぐぅう。がぁぁ! あいつはこれに何発も耐えていたというのか! ぐおおお!」
「浮遊。」
「くっ。またこれか」
一匹は息も絶え絶えになっている。もう一匹は徐々に弱ってきた。最後の一匹は
まだまだぴんぴんしている状態なので、水を吐き出す攻撃やら、近づいてきた、爪
のようなものでひっかいて来ようとしてくる。カメレオンじゃないじゃないか。カ
メレオンっぽいってだけかもしれない。
「友情ごっこはもうおしまいだっていい言葉だったなあ。」
「! うおおおおおおおおお! 死ねええええええええ!」
ダメージを負ったカメレオンが特攻しかけてきた。それにお構いなしに私は電撃の
鞭で攻撃を加える。ただ叩きつけるだけ。カメレオンの体に、避けられたら、もう
一回、もう一回と攻撃をして確実に当てていく。
「く、くそっ。」
どうやらカメレオンの二匹目は気を失ったようだ。最初の一匹はそこらに転がっ
ているので、残り一匹。こいつで終わりだな。だからといって気を抜く事は無い。
私は確実に息の根を止めるタイプなのだ。
「最後の一匹!」
「よくも仲間たちを! うおおおおお!」
あ、カメレオンがなんかパワーアップしたぞ。水色に光っている。ああ、一匹残
したりすると、強くなる系の奴だったか。少し面倒なことになったかもしれない。
「ダイダロスビートル様のために負けるわけにはいかない!」
「私もダイダロスビートル様のために負けるわけにはいかない!」
いや誰だよダイダロスビートルって感じだけれど、ここでオウム返しのように言
っておくことで、実は私がそいつの仲間だったということで動揺させようと思った
けれど、流石にそう上手くいかなかった。
「戯言を言うな! ダイダロスビートル様に忠誠を誓っていないのは分かっている!」
「誓いをしなければ、忠誠心がないと? ふふふ。」
思わせぶりな態度をするが、これも聞いてないみたいだ。じゃあこいつとはマジ
で戦う必要があるな。
「ウォーター・・!」
「スキル妨害。」
「プレッシャー!」
効いたようだ。ウォータープレッシャーとやらは、私のスキル妨害の影響で発動
しなかった。なのでそのまま電撃の鞭で叩きつける。何度も何度も何度も、この期
を逃したらもう攻撃する機会はないだろうと思ったので、徹底的に打ちつけた。も
うこれでもかってくらい。
「ぐはっ…。まさかこんな奴に…。」
こんな感じで三匹のカメレオンを倒した。最後はきちんと全員にとどめを刺した。
ふぅ。これで一安心だ。全く手こずらせて。うんざりしてくるよもう。
(母上って実は強かったんじゃないんですか?)
多分、今はブチ切れていたからだと思う。もう絡まれたくないー。っていうかみ
んなどうして私がひじきの事隠しているって分かるの? ひじき分からない?
(私のエネルギーが母上から漏れ出しているのではないかと思います。母上が意識
すればそれが出なくなって、ばれなくなると思います。)
えー! ちょっとそういうのは先に言って。こっちは無駄に争いばかりするのが
嫌だったってのに! もううう。で、それはどうやればいいの?
(威圧を抑える様な感じでやればいけるはずです。)
また感覚的なやり方か。よし、なんか体を窮屈にするような感じにしないといけ
ないんだったかな。こんな感じ、でどう?
(まだ粗い感じですが、慣れていけば完全に消せますよ。)
おお、良かった。これでなんとかしていけそうだ、っていっても、もうダイダロ
スなんたらにはばれてるらしいから、あんまり意味はないんだろうなあ。だけど今
後、気配駄々洩れみたいなことにならないのなら、私を探すのもやりにくくなるだ
ろうから、集中していかないとね。
(私も、変ないざこざ以外でなら戦いますので、よろしくお願いいたします。)
私はもう無駄な争いをしたくない、って言いたいところだけれど、これから蟻とか
そのなんたらビートルやら、プレイヤーやらが襲い掛かってくるので、ひたすら戦
ってばかりになるだろうなあ。こういうのはブッチに任せたいので、早いとこ、合
流したんだけれど、運が悪そうなので、最悪、私一人で戦うことになりそうだ。
(母上の仲間は沢山いるんですか?)
沢山いるよ。今は私だけがはぐれている状態なんだ。仲間がいれば、この樹海の
王にでもなれるんじゃないかな。
(それはすごいです。)
そうそう、主に戦闘狂のブッチがね。頑張ってくれればいいんだよ。私の代わり
にみんな倒して欲しい。私は草刈りに行きたいので、ブッチがこのあたり一帯で、
自分に逆らう奴らをどんどん倒していくようになってくれると助かる。
「あぁ、そろそろみんなと会いたいなあ。」
メッセージでどのあたりにいるのか聞いてみようかな。
仲間割れは私の大好きなイベントの1つなんです。