第188話「ギャグ補正は通じない。」
モンスターが喋ることに対してゲームだからそんなもんだろうと思ったが、何が
そんなもんなんだと今さら気になってしまった。人間みたいに発声器官がない生物
達がどうして会話ができるんだと思ったけれど、つまりこれがゲーム的な設定って
ことになっているんだろうな。
細かいところにいちいちツッコミをいれていたらきりがないのだろうけれど、私
は、どんどんそういう疑問に思ったことをはっきり言わないと気が済まない。なの
で、こういう事については、運営側に報告ができるのできっちりしておこうと思っ
た。
そして、ちょうど今、私の目の前に人語を話すカブトムシがいるので、会話が成
立するか試してみよう。
「それで。降参するのかしないのか。はっきり答えな?」
「し、します。」
カブトムシには、狐火だけじゃなく、普通に籠手でぼこぼこ攻撃して、やっとこ
さ素直になった。初めから言う事を聞いておけばいいものを、えらく反抗的だった
ので力づくで物を言わせることにした。
「それで、なぜ私に攻撃仕掛けてきたのかなあ?」
「黒アゲハ様を化け物から救うように言われたからです! いたぁ!?」
誰が化け物か。誰が。要するにこいつは、尖兵としてきたというわけか。見るか
らに使い捨てって感じがするけれど、まぁ使い捨てなんだろうなあ。
「誰から言われた?」
「だ、ダイダロスビートル様からです!」
テントウムシどもが、喋ったってことか。そしてこいつが指示されたのはその黒幕
からなのかは怪しいけれど、そのダイダロスビートルって奴を倒す必要がでてきた
かもしれないなあ。
ひじきを渡せっていうのもそれはそれで強引なやり方をしてくるんだなあ。私に
いちいち絡んでこないで欲しいなあ。どうせこのカブトムシみたいな奴がどんどん
増えて絡んでくるんだろうけど、四六時中付きまとわれたらうんざりするな。
「そうか、よし。特別に生かしておいてやるけれど、次に私に絡んできたら、どう
なるか分かっているな?」
鎌をちらりと見せつけてやると、カブトムシは怯えたような態度になる。
「は、はい!」
うむ。聞き分けがよくなったな。苦しゅうないぞ。
「では、どことなり好きに帰りな。」
「ははーっ!」
(母? 母上。いつからこの者の母になったのです?)
ひじき、そういうギャグはいいから。ひとまずこれで、このカブトムシはどうで
もよくなったので、無視して先に進む事にしようか。
こんなカブトムシ一匹に時間をとられるのも嫌だなあ。こういう面倒事は協力避
けていかないと、更に時間がなくなるので、さっさと脱出してしまいたい。そして
ここで歩き始めた瞬間に。
「死ねーっ!」
「真空波。」
「が、はっ!?」
散々警告したのにカブトムシは、また攻撃をしようとしかけてきた。なんとかな
ると本気で思っていたようだが、私はそんなものを絶対に許さない。真空波を全力
で放ち、このカブトムシの腹を斬り裂いた。そしてカブトムシは、倒れた。
(は、母上?)
私が、約束を守れって言ってたのに破ったからこうしたんだよ。私は冗談で交わ
した言葉じゃなかったんだよ。それなのにこいつはそれを無碍にして、私に攻撃を
しかけてきた。だからそれはもう約束を守るつもりなんてなかったということだっ
たので、ここまでやった。
存在がギャグみたいな奴が都合よく生き残っていたりするのが気にいらなかった
ので、全力で潰すことにした。それを今回たまたまやる機会があったというだけの
話だ。
「なんであれだけ実力差を教えてやって説明もしたのに、攻撃してくるかなあ。」
私としては、これで手打ちにしましょうってことで解決だと思ったのだけれど、
カブトムシは、それを無視して私と言うキャラクターが死ぬ攻撃を仕掛けてきた。
一発で死ぬ事は無いだろうけれど、そういうのを理解したうえで攻撃仕掛けてきた
ので反撃を行った。
「カブトムシを倒したことだし、アイテム何かもらえないかな。」
倒したことは別になんてことはない感じだったし、もうどうでもよくなってしまっ
たので、後はアイテムがでれば、と思った。
メッセージ:カブトスピアーを手に入れました。
あ、何か手に入った。一応装備してみるかな。
メッセージ:カブトスピアーを装備したことでスキル「加速」を使えるようになり
ました。
加速というと移動速度が速くなるってことかな。これだと、多分突進して攻撃す
るみたいな感じになりそうだなあ。これも使い方次第ってところか。
それにしてもアイテムが色々手に入ったので、スキルが一杯になったなあ。最初
始めたころは何もできなかったのに。
でもいまだに錬金術が薬草を食べて火薬草にするなんていう変なものにしかでき
ないのでそこをなんとかしたい。普通の調合がしたい。
(母上、あのカブトムシ、良かったのですか?)
え? ああもう忘れてたよ。一応言っておくけれど、私は警告を無視した相手に
は情け容赦なく対応するよ。それでひじきが私の事を嫌になったのならそれはそれ
で、召喚獣じゃなくなってしまってもしょうがないと思っている。
これは本心。やめろと言ってるのに何度も襲ってくるというのは、絶対に許され
ない。例え私の方がずっと強かったとしても、私は自分が死ぬかもしれない可能性
が少しでもあるのならそれを低くしたいというのがあるし。
それとは別にオンラインゲーム上での裏切りだとか仲間割れなんていうのは定番
で、いきなり攻撃されてやられるかもしれないので常に疑心暗鬼でいなければいけ
なかったこともあったなあ。いきなりアイテム全部とられたりなんてこともあった
ので、私は、こういうことには厳しい。
「いつものことっちゃいつものことなんだよねえ。聞き分けができないというか話
が通じないならもう最後の手段にでるっきゃないしよ。」
分からずやには、何を説明しても理解してもらえないので、そこまでやらないと
いけないというわけだったりする。
「はぁ、このカブトムシ一匹だけならまだいいけれど、この後もこんなのの相手を
することになるんだったら、ひじき、分かってるよね?」
ひじきが事情を説明すればいいのだけれど、それを拒否している。でもこの件で
どんどん刺客が送られてくるというのであれば、ひじきにも対応して貰わないと
納得がいかない。
(それは…。はい、分かりました。母上すみませんでした。)
私としては、平和的に進めたいんだけれど、いかんせん血気盛んな輩が多く、そ
いつらが襲い掛かってくるのでやむなく反撃しているだけに過ぎない。ああそうだ
よ。この樹海にいるみんなが私を目の敵にしているんだよね! 私から打って出て
もいい気がしているんだけれど、それをやるとまた面倒くさいのであくまで正当防
衛で戦っていきたい。
私は、また樹海を歩きだした。この樹海についても何も分かっていない未知の場
所ではあるので、今回の件だけでなく、何かしらの強いモンスターが動いているか
もしれない。
蟻が封印から解放されたというのであれば、同じようなボスもどこかにいるので
はないだろうか。全員魔者に封印されたとかいうらしいし、私を突け狙ってくるん
だろうなぁ。はぁ、碌な奴がいないもんだな。
現在気配感知に引っかかっている奴が3匹ほどいる。これは慎重なタイプだな。
一定の距離を保ったままだし。今はまだいいけれど、こういう潜んでいるような
連中をとっ捕まえて言いたいことが山ほどあるので、いずれは捕まえるつもりだ。
さてと、それじゃあそろそろこちらに呼び寄せてしまうとするかなあ。
「今すぐでてこいそこの3匹。でてこなかったら、この樹海に火をつける。」
まずは警告。でも何も起こらない。だけど、この場所に隠れているのは明白だ。
返事は無し。無視してもいいのかもしれないが、気配感知で常に近くにいるの
が嫌な感じだなあ。こういう監視されてるのってストレスが溜まるなあ。やっぱ
りこの樹海を火で…。
(母上、私は信じていますよ。そんなことをしないって。)
いやでも、私、前に森林火災を発生させたことあるよ。結構広範囲に渡ってい
たけれど、特に問題は無かったよ。
(それはもしかすると、精霊や妖精が修復したのかもしれません。)
え、精霊とか妖精なんているんだ。
(はい、壊れたものがいつの間にか戻っているなんて奇跡がありますが、それが
恐らくそれらの存在が起こしているのだと思います。)
それ多分、運営のことだろうな。そういう設定を加えているから、きっと精霊
だとか呼ばせるようにしているんだろうなあ。都合のいい言い方だな。それとも
本当に精霊なんて存在がいるようになっているのかな。
(ええ、きっといます。)
ああ、それじゃあその、精霊とかがこの樹海をいつでも治してくれると仮定し
て、やっぱりこの樹海に火をつけてもいいってことじゃないのかな。
(いけませんよ。精霊や妖精の力が失われると、木々の成長などがなくなるとい
う逸話を聞いたことがあります。)
うーん。それこそ全く興味が無いなあ。
「やっぱり、この樹海が諸悪の根源なんじゃないのかな!? ここをさっさと
燃やしてしまえばいいんじゃないのかな!!!!!!!」
威圧を放ちながら、大声で叫んでみる。さーて追っ手はどんな感じかな。あ
あ、全く動いていないな。ということは、やっぱり私が何しても問題視しない
ってことだな。よし、そうと決まれば、燃やすか。
「燃やすぞ! 狐…。」
「よ、よせっ!!!」
後ろを振り返る。今回は…カメレオンが3匹いる。今度はこいつらと戦わなけれ
ばいけないのかなあ。そうなったらすごい面倒なことになるな。
「やっと姿を現したね。それで、何の用件?」
「我々は、あなたと敵対したくはない。ただ黒アゲハ様をほうっておけないと
いうのがあるのだ。」
「別にいいじゃん。何が問題なの?」
「王女様なのですから、この樹海で永久に過ごしてもらいたいだけなのです。」
そりゃ箱入り娘だったりしたらそうしたいのかもしれないけれど、そんな馬鹿
げたことってあるのか。永久ってなんだ。いい加減にしろっての。どいつもこ
いつも自分勝手になるなら、もう私も自分勝手にやっていこうかな。
ギャグキャラは死なないなんていうのを見ると、またかぁとなって
むしろ落胆するようなねじ曲がった人間になったのが私です。
そのため、今回のような話を書きたくなりました。