第178話「新しい力」
「ウヴォオオオ!」
モリコングが地面を思いっきり殴りつけると、亀裂が走りそこから衝撃破のよう
なものが数メートルの高さまで噴出すると同時に私に向かってくる。まずい、これ
は早いぞ。
回避に専念し、当たる直前に横へ飛ぶ。ぎりぎりでかわせそうだ。だけど、その
ままモリコングがこちらに向かってきている。動作が早すぎる! 一気に距離を詰
められた!
両方の拳を思いっきり振り上げ、私に叩きつける。私は咄嗟に錬金術士の杖で防
御体制に入る。が、そこにもろに攻撃が入る。
「ウヴォボアアアアアッハアアア!!」
「うぐっ!?」
猛烈な衝撃が全身に加わった。甲殻化で防御は上がっているだろうし、杖で防御
したのだから、ダメージは軽減されているはずだ。はずだったが、私の体はそのま
ま後方十数メートル先まで吹っ飛ぶ。
こ、これヤバイ! 絶対これピンチだ!
吹き飛ばされながら、考える。明らかに敵の攻撃力は高い。それに加えて素早い
という私が最も苦手とする純粋なパワータイプだ。
木に激突する。身動きが取れなくなる。だが、生き残っているようだ。口に入れ
ていた薬草を飲み込む。そして次の薬草も入れておく。更に食べて食べて食べまく
る。私の得意技は薬草の早食いなんだ。
そう、私は、薬草を集めるだけじゃなく、使うのも得意になっているのだ。薬草
を食べ続ければ死なないのだから、食べるのにも躍起になるに決まっている。
だけど今回ばかりはまずい。あいつは私の所まですぐ近づいてくるだろう。それ
と恐竜の方。あいつも完全に倒したわけじゃないと思うから復活しそうな気がして
いる。
急がないといけないので口の中にひたすら薬草を詰め込む。そしたらモリコング
は既にこちらに来ていた。
「浮遊!」
一瞬ぐらついた。ただそれだけだった。いとも簡単に体勢を整えて走ってくる。
「ひじき!」
「はいっ! 母上!」
黒蛾ひじきを召喚する。何ができるのかはまたよく分かっていないが、モリコング
の邪魔立てはしてもらう。
「あいつの動きを撹乱できる? 無理なら・・・。」
「できます! やります!」
ひじきは6匹に分裂し、モリコングへと向かっていく。召喚獣というくくりにな
るはずなので、死亡することはないとはいえ、まだ生まれたての子供を戦いに出す
というのが気が引けた。
だけど、ここでやられてしまったら元も子もないのだから、やるしかない。
「母上。魔力をお借りしてもいいですか?」
「え? なんだかよく分からないけどいいよ!」
私が了承をすると、ひじきの体が淡い光に包まれる。そしてモリコングに飛び掛
かっていく。そして私は考える。やれることがあるじゃないかと。ひじきがいれば
この戦いは楽になると確信する。
「ウウボアアアアア!」
ひじきはモリコングの周囲に纏わりついた。そこへ腕を振り回して攻撃するモリコ
ング。6匹のひじきはそれを回避しているが、時折攻撃が当たることがあったが、
それを意に介さない。私の魔力とやらの効果なんだろうか。
それより、私がやろうとしていることだ。これはひじきには、少し危険なので、
それを頭の中で伝えることにして、了承してもらうことにした。多分大丈夫だとは
思うんだけど、失敗したらかなり悲しい。
モリコングの動きをじっくりと見る。ここで覚悟を決める。何としてもこいつに
は倒れてもらわなきゃ困る。だからこそ、ひじきには頑張ってもらう。
「ヴォアアアアアア!」
「母上今です!」
「真空火遁!」
そのスキルを叫んだ瞬間。なんだか周りがゆっくり見える様な感覚があった。何
がどうなっているのかがよく分からない。
次の瞬間、6匹のひじき達の全身を火の柱が包み込んだ。大きな火の柱だ。その
柱がすぐさま動き出し、モリコングへ体当たりすると同時に激しい炎が舞い上が
った。
「ヴォアア!?」
モリコングのいたるところを燃やし焦がす炎。6匹分ともなると威力もすごいとは
思ったが、ここまでとは思わなかった。普通こういうのって、分配すると威力が低
減すると思うんだけれど、そういう仕様ではなかったようだ。
だけど、これだけなのか? 真空要素が全然ないようなと思ったら違った。焦が
された部分が突然鋭い刃物で切り刻まれたような音を出す。
真空波の効果だ。燃えたところを斬り刻んでいくようだ。モリコングの体から血
飛沫が舞う。6発分も当たっているからほぼ全身から出血していく。
燃やし、焦がし、切り刻む。このような三拍子そろった攻撃の威力は凄まじい。だ
とするとこれ、ひじきもただでは済まないじゃないのか。とても不安になる。とい
うか恐ろしい罪悪感だ。まさかここまで威力を発揮するとは思わなかった。今回も
私の予測とは違った結果になってしまった事に、懺悔したくなってくる。
「ひじき? 大丈夫?」
「はい! 母上の体に戻りました!」
頭の中で会話が出来た。よ、良かった。そうか、やっぱり召喚獣だから、死ぬとか
そういうのはないってことなんだな。いやどうだろうか。こういうやり方をしたら
いけないみたいなことになって、召喚獣が消えてしまうなんてこともあり得るんじ
ゃないだろうか。
「大丈夫ですよ! 私には、あの火は熱くありませんでした!」
え…そうなのか。じゃあやっぱり大丈夫な仕組みなのかな。うう。でも極力は使い
たくないな。まさかあんな威力になるとは。
目の前にモリコングを見る。全身から煙が上がり、体は赤黒くなっていた。焦がさ
れ血も出しているのだから、そのせいだろう。全身はもうボロボロだ。だが、そこ
に立っていた。巨大なモリコングが。
「ヴォ・・・ヴォ・・・。」
身体を震わせながらも、倒れまいとするが、もう気力がなくなっていたのか、膝か
らがくりと落ちていき、そのまま倒れ、動かなくなった。
メッセージ:キングモリコングの迷彩ジャケットを手に入れました。
メッセージ:スキル「スキル妨害」を習得しました。
え、迷彩ジャケットとスキル妨害? あ、これは気になるけどいや、こいつを倒し
た感動とかそっちの方が重要だよね!? うわーなんかそっちのほうが気になる。
だけど、今は感傷に浸っていたい気分なのに。これはないじゃないか。今回絶対ブ
ッチとかきてくれると思っていたのに、そうならなくて、すごく苦労したから感動
もひとしおだってのに!
名前、キングモリコングだったってことは王様じゃないか。というかわけのわから
ず倒しちゃったけど良かったんだろうか。キングとかいなくなったらここのモリコ
ング達が生存競争に負けてしまうとかありそうな気がしてきたんだけど。
「でもいいか。襲い掛かってきたのこいつらだし。自業自得だ。」
やられたからには戦わないといけないからしょうがない。しょうがないと自分に言
い聞かせる。それで、えーっと、アイテム。装備してみるか。
メッセージ:キングモリコングの迷彩ジャケットを装備したことでスキル「隕石拳」
を使えるようになりました。
なんだよ隕石拳って・・・。強そうな気がするけれど、こういうのってブッチが覚
えるべきものじゃないのか。あぁでもこの迷彩ジャケットはあげたくない。これ結
構悪くないというか気に入った。今までピンクの上下ジャージだけだったけれど、
これならまだいい気がするし。
あ、今さら思い出したけど、私メリケンサックもずっとブッチに貸したままじゃ
ないか。とはいえ、あれはあいつに使っててもらったほうがいい気もするし、もう
いいかな。
考えてみれば魔者の塔で渡してからずっと忘れてしまっていたじゃないか。ああ
もう、こういうのがダメな所なんだよなあ私って、恐竜の事も今思い出した。あい
つが完全に死んでいるかどうか見極めてないから、さっさと行かないと! あれで
死んでいるなんて都合のいいことを私は考えない。でもその前に。
「ひじき! 本当にありがとう! ダメなお母さんでごめんねええええええ!」
「母上! いいのです。私は母上の役に立つために生まれてきたのです。」
「うおおおおおおん。」
黒い蛾ってなんだか不気味に思えていたのにこうやって会話ができたりすると、
なかなかどうして、悪くないような気になってくる。
だって、こんなの親孝行過ぎるじゃないか。
「まだもう一匹残っているはずだけど、頑張れる?」
「はい! 頑張ります!」
でも無理して出さないようにしよう。すぐに戦わせるなんてひどすぎだと自覚した
し。ああもう。
私一人の力なんてたかが知れているとは思ったが、やっぱり仲間がいてくれるって
いうのは、すごいことなんだなあと思う。日頃そういう意識をしていなかったけれ
ど、それじゃあ駄目だったんだなあ。
「ここは恐竜のところに行きながら蜂蜜とかドラゴンフルーツを食べておくか。あ
と猪の肉も。」
かなりスキルを使っていたので消耗が激しいはずだ。ここでひたすら食べておかな
いと恐竜戦で、ガス欠のようになってしまう。怖いのは、キングモリコングを倒し
たことで、恐竜の方が強くなることだ。
ゲームでボスが何匹か出てくるとき、警戒するべきことの1つだ。残り1匹になった
時に能力が上昇することがあるのだが、それが尋常じゃない上がり方をしている場
合がある。こういう展開じゃなければいいんだけど、そうもいかない気がしている。
本来ならそういうボスは、両方に適度にダメージを与えて、最後に大ダメージを両
方に与えて終わらせるなどするのがいいんだけれど、それができなかった時はかな
りの苦戦を強いられる。今からそういうことが怒ったら、もうギブアップしたくな
ってしまいそうだ。
けど、私の予想なんていっつも外れているから、今回も杞憂に終わるだろうと言う
考えもある。大丈夫、きっと大丈夫だ。そう言っておかないと不安になるから言う。
「恐竜。強くなってないでね。」
ちょっとだけ泣きそうな気持ちでそう呟いた。
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