第17話「マブダチ」
「何か潰しちゃったみたいだけどなんだろこれ?」
私達の目の前に現れたのは、顔がサイコロの目になっていて全身が緑色の人間のようなモ
ンスターだった。なかなかガタイのいい肉付きをしている。これは絶対に危険だ。しかし
話せるという事はもしかしたらプレイヤーかもしれない。たけのこは、こいつを睨みつけ、
威嚇していた。
「私は般若レディの「ねこます」よ!あなたは誰!?」
こいつに向かって話しかけてみる。またしても定番の展開回避のために先に名乗る。人に
名前を尋ねる時は自分からとかもう飽きた展開なのです。
「え!?お!?俺、俺はサイコロプスの「マブダチ」だよ!?」
「は?マブダチ?」
「うん。俺の名前がマブダチ。」
どうやら頭のおかしそうな奴らしい。なんだその名前は。
「ってそっち顔怖っ!何それ般若!?マジこわ!?モンスターじゃないの!?」
「んなわけないでしょ!超乙女してるでしょ!プレイヤーよ!」
「俺もプレイヤーだよ!やっと他のプレイヤー!?に出会えたよ!」
サイコロプスのマブダチとやらはどこか嬉しそうだ。私もこんなのじゃなければもう少し
素直に喜べたんだけれど。
「まずその姿をどうにかして欲しいんだけど。何その格好は。」
下半身には相撲の廻しをつけているようなのだが、上半身は裸だった。
「職業を力士にしたらこうなったんだ。どすこーい。」
「何か適当な服とかないわけ?」
「無いね。もうこの状態で1か月くらいプレイしているんだよ。」
「大体私と同じくらいじゃない。ああ、たけのこ安心して、多分敵じゃないみたいだから。」
たけのこが威嚇していたのをやめさせた。
「えっ!?いいなぁ。その狼は君と主従契約したとか?職業はモンスターテイマーかい?」
「いや、私は錬金術士よ。」
「そうですか。ハイ。それで君はどうやってここに?」
「地上から。謎を解いたら洞窟の入り口がでてきてね。そこから入ってきた」
「おおお!?本当に!?すごいじゃん!ようやく俺もここから脱出できるよ!」
1か月この中で彷徨っていたというわけなんだろうか。
「私たちはここに何かないか探しに来たんだけど何もないの?」
「洞窟内は全部探したはずだけれど、たまにどこからかモンスターがでてくるだけだよ。」
何だと!お宝はないのか!何かこうお宝とかそういうのは。
「お宝探しに来ているようなものなんだけどお宝はなかったの!?」
「無かったよ。来る日も来る日もゴブリンを叩き潰すだけだったよ。」
私が草刈りをしている間、こいつはゴブリンを叩き潰すだけのプレイを送っていたのか。
なんだか少し親近感がわいた。
「何もないんだったらここにいる意味がないなぁ。でも、もうちょっと探索していくかな。」
「俺もついていってもいい?」
なんだと、こいつ。仲間になりたそうにこちらを見ているぞ。
「いやいや、あなたを連れて歩いていたらちょっとほらおかしそうな人に思われそうで」
「君も十分おかしいからね!?般若レディとか何それ怖いって!」
まだいうか。巷では般若レディは爆発的な人気らしいぞ。どこの巷かは知らないけれど。
「はぁ。私も初めて他のプレイヤーと会ったことだし、パーティでも組んでみますかねえ」
「おお!ありがとう!この御恩は明日にでも忘れます!」
「そこは一生忘れませんでしょ!このゲームオタクが!」
「あっ、やっぱりわかるんだ。そんなわけでじゃあよろしく!」
マブダチが仲間になった。いやマブダチではないのだけど、なんだこの敗北感。
「なんで名前がマブダチなのよ」
「俺の事が嫌いな奴でも俺の名前を呼ばなきゃいけないときに呼ぶのが面白いから。」
あぁいるいる。こういう奴はどこにでもいるね。まったくひねくれものが。
「それじゃあよろしくね、マブダチ。」
「もう君のマブダチになったのかい!?照れるなぁ」
うざい!なんだこいつは!
「えーっと、そっちの子は何て呼べばいいの?」
「たけのこよ」
「たけのこくんよろしく。」
「ドウモ、ヨロシクオネガイシマス。マブダチドノ。」
「おお!いきなりマブダチってよ!嬉しいなぁ!」
「うぜえ!」
何なんだこいつのペースは。全くもう、私はクールな般若レディ、ここでこいつのペース
に巻き込まれてはいけない。
「とにかく!一応ここに何もなくても少し回りたいからついてくるならどうぞ!」
「アイアイサー。モンスターは任せてね。俺結構強いし。」
見た目的には筋肉系なので確かに強そうだ。
「私も結構強いはずだから大丈夫よ」
「顔が怖いもんね。つよそう。まじ尊敬する。」
ツッコミを入れたくなるがよそう。きっとこいつは今まで誰とも交流がなかったからこん
なにハイテンションなんだろう。
「はいはい。ありがとうね」
大人の余裕と言うのを見せつけて、探索を再開する。
「たけのこ君。ああして余裕を見せつけてるけど内心俺にツッコミたくてたまらないんだよあれ。」
このサイコロ頭野郎なんて声に出さずに、洞窟を見回していくことにした。
「もしかしたら、私たちが来たことで洞窟に変化があるかもしれないんだから危機感持ってね!」
一応念を入れておく。今まで出入口がなかったというこの洞窟に変化があったのだから、
そういう可能性があってもおかしくはない。
「あいあいさー!ねこますさん。ププッ。あの顔でねこってププッ。」
流石にむかついたので小突いてやった。
こういうハイテンションな人がよくネトゲにいました。