第16話「洞窟で出会い」
メッセージ:武器「鎌」の強化が可能です。実行しますか?
突然そんなメッセージが表示された。答えはNOだ。普通は強化したほうがいいと考える
だろうが、やはり慎重派の私としてはすぐさまそれが決断できない。
なぜ突然こんなメッセージが表示されたのかというのは、普通に考えてさっきゴブリン
を沢山倒したからだろう。ここで強化というのを行えば恐らく武器としては強くなるのか
もしれないが、だがそれは遠慮したい。
だって、この強化に分岐があるかもしれないじゃないか!あとはここで強化をせずに、
後で強化したほうがもっと強くなる可能性もあるじゃないか。私がプレイしてきたゲーム
に、最強の武器にするためには、目先の強化をせずにしばらく我慢し、後で手に入る強化
アイテムを使わなければいけなかったのだ。それを知らずに強化した時はくやしかった。
だから安易な強化なんてやってはいけないんだ!私はあの時の苦い思い出は忘れてないぞ。
「NO!」
メッセージ:武器「鎌」の強化をキャンセルしました。
「これでよし。」
そもそも今使い慣れてきた武器が変わるのは好ましくない。この鎌には沢山草刈りをした
思い出が残っているのでそうやすやすと変えられたくはないのだ。
さて、洞窟内の探索を再開する。何かお宝の一つでもいいからあれば楽しいと思えるの
だけど一向に遭遇しない。遭遇しないが、ここでようやく分かれ道が出来た。左に行くか
それとも、右に行くか。
「真ん中だぁあああ!」
私は迷わず、真ん中に突っ走って、壁に激突した。この洞窟に意外性を期待したけれどそ
うそう都合よくいかなかったようだ。
選択肢があるとそれ以外の選択肢を選びたくなるタイプっているよね。ってそれ私なん
だけどね。んで、どうしようかなぁ。どっちに進むか迷うなぁ。
「たけのこはどっちがいい?」
「ミギガイイデス。」
「じゃあ右にしよう。」
たけのこの野生の勘を頼りに行ってみるとしよう。私は野生の勘に乏しいだろうし。この
ゲーム内じゃほぼ草原でばっさばっさ草刈りしていただけだしね。勘なんてない。
右の道では、少し地面がでこぼこしているような感じだ。先ほどまでとは多少の歩きに
くさを感じている。だからといってわざわざ引き返して左側に行こという気持ちはない。
こういう時は運試しと度胸が大事なんだ。戻らないで先に進まなきゃいけないこともある。
もしかしたら左の道には宝箱があったかもしれないなんて考えるときりがないからね。
それにしても、子供の頃は洞窟探検なんて憧れていたのを思い出す。大人になって広大
な洞窟っていうのはそう多くないということを知ったけれど、VRの世界は夢を叶えてくれ
る。世界の不思議を自分が今この瞬間経験してるって思うと心が沸き踊るね。
まだまだこの<アノニマスターオンライン>を楽しむぞー!
そんなこんなで道なりに進むと
「キィー!」
なんと蝙蝠が4匹襲い掛かってきた。サイズは大きくない。河川敷にでもいそうな蝙蝠だ。
なんとなく楽勝そうだと考えていた。
「おりゃあ!」
多分これなら威圧が発動するだろうと考えて声を張り上げてみた。
「キィー!」
しかし、この蝙蝠には効いていないようだ。ちゃんと発動しているかも怪しいが、できな
いなら仕方がない。とにかく攻撃だ。
「ワゥゥ!」
たけのこが飛び掛かるが、蝙蝠に回避される。私も一緒になって鎌を振り回して戦うが蝙
蝠が小さくて当たらない!あぁいたいた、ゲームにこういう奴ら。くっそむかつくなぁ。
「ここは杖のほうがいいか」
しまうまの杖(ソルジャーゼブラの杖)を振り回す。
「おらー!邪魔だー!邪魔だぞー!」
「キギィ!?」
よーしやっと1匹に当てたぞ。この野郎!ちょこざいな!ああ一度言ってみたかった言葉
をようやく使うことができた。
「あと3匹!」
1匹目というと、一撃攻撃を当てただけで倒したようだ。よし、ここはとにかく杖を振り
回して攻撃を当てる。
「うあああああああああ」
まるで、ハエたたきを振り回しているような気分だ。なかなかエキサイティングだ。
たけのこはというと、おっ、一匹叩き落したみたいだ。やるじゃん。あと2匹!
「キィ~~~!?」
おっと、2匹は逃げ出したようだ。だが!
「逃がさんぞ!まとめてあの世に送ってやる!」
またしても日頃使いたかったセリフを使う機会ができた。これこそまさにRPGって感じだ。
世界観にどっぷりつかっている般若レディは私です。
逃げ出す蝙蝠2匹を追いかける。たけのこはさっき倒した一匹を噛みながら私の後を走っ
てついてきている。そいつは食べるのかたけのこ。
「キィ~!」
蝙蝠が悲鳴を上げているようだがそんなものは知らない。私は一度狙った獲物は逃がさな
いのだ。というかなんかこの蝙蝠2匹にむかついているのだ。
なんとなくこの蝙蝠2匹。つがいのように見えるからだろうか。なんかこういちゃついてる
ような雰囲気を醸し出している。すげームカツク!なんかむかつく。なので絶対倒したい
と私の心が叫んでいる。だから追いかけるのだ。地の果てまでも。
「おらおらー!」
しまうまの杖を振り回して攻撃する。たけのこも飛び掛かる。くそう当たらないなぁ。
追いかけっこが続く。道中には特に何も見当たらない。新しい敵も来る気配はない。
蝙蝠を倒せばここでのミッションはクリアーだ。ふっふっふ。息の根を止めてやるぞ。
そしてあと少しで攻撃が当たりそうなところで
ドブッと鈍い音がした。巨大な何かに、2匹の蝙蝠が潰されたようだった。
そこに大きな影が現れた。そして。
「何か来たと思ったらなんだこれ?」
なんと人の声を耳にするのだった。