第157話「エイがいっぱい」
20匹どころじゃない。急激に増えて50匹のエイに囲まれてしまった。だがしかし、
むこうからは攻撃をしかけてこない。先に手を出したら負けということなんじゃな
いかと思うと、迂闊に攻撃ができない。なんなんだこいつら。もっと集まってから
攻撃を仕掛けようとするのか、やるならさっさとして欲しい。
「ねっこちゃん。もう威圧するか倒しちゃってもいいんじゃない?」
「我慢比べみたいな気がしてきたから、攻撃したくない。相手からやってきたら正
当防衛を主張できるし。20匹超えたけど、絶対に我慢する。」
「うう、でもあれだけうじゃうじゃいると嫌ですね。毒があると聞くと特に。」
エリーちゃんが怯えているのでさっさと処理したいが、私も火がついてしまった
のでここは意地の張り合いになってしまう。くそう。イライラするなあ。
「最後は合体するとかしたら面白そうだよなーこいつら。」
「合体するなら既にやってから現れるだろうからそれはないんじゃないかな。」
「俺もそう思うけど、昔のゲームだと戦闘中に合体とかよくあったじゃん。」
確かにあった。最初から合体してから出てくればいいものをなんて思ったが、な
るほど、それと同じパターンもありえるのか。
「そうだ。私がちょっと近づいてみればいいのか。ずっと一定の距離を保ってい
るけど、私が近づけば攻撃してくるかもしれないし。ちょっと近づいてみる。」
「一人では危ないのではないですか?」
「うん。だから攻撃されたらみんな反撃してよ?」
みんなが頷くが、ブッチだけ首を振った。わざとか。
「ねっこちゃん。20匹超えたらやるっていってたんだからもうぶっ倒そうよ。意
見がコロコロ変わるのは良くないっす。」
「うぐぐ。それはそうなんだけどさぁ。」
「いやいや、ねっこちゃんこういうこと結構ありそうだからさあ、臨機応変って言
ってもリーダーがちょっとしたことで変えるのはどうかと思う。」
正論なので言い返せない! くそう。こういう時は真面目になって。まぁ確かに私
が好き勝手言ってるのは分かるし、皆に我慢させてしまっているしな。
「分かった。私が悪かった。よし、もう倒す。」
「うんうん。お父さんは素直なねっこちゃんが好きだよ。」
「誰がお父さんだ!」
「俺だよ、俺! ねっこちゃんのマブダチの俺!」
久々のマブダチ発言。というかそういえばずっとブッチって呼んでいるせいで本
当の名前がマブダチだったってことも忘れていたよ。そうだった、マブダチが正し
い名前なんだよね。
「マブダチって名前だったのも忘れてたよ。」
「ふふっ。いつでも呼んでくれていいんだぜ!」
「分かった、そのネタはもういい。さっさと威圧してくるから待ってて。」
段々腹が立ってきた。この状況も乗せられた感じ半端ない。悔しいのでエイ軍団
たちに思いっきり威圧をくらわせてやろう。かなり本気の威圧だ。
私は、50匹以上群れているエイに近づいていくが、逃げようとしない。こいつら、
何か狙っているのか? なんて思ったがもうどうでもいい。さっさと倒そう。
「威圧!!!」
怒りに任せて発動してみる。すると、空中を漂う、エイたちが次々と地面に落下
してそのまま身動きすることがなくなった。やがて、全てのエイが地面に落ちた。
これはまさか死んだんじゃないよね。兎の時みたいなオチはありえないよね。
「んっ!?」
突然、私の頬が何かで斬れた。攻撃された? うわ、血が出ている。この般若レデ
ィに傷を負わせるとはやってくれたな。ああ、これ毒針か何かが飛んできたのかっ
てエイって毒針を飛ばすなんてことはなかったはずだから、そういうモンスターっ
てことか。こいつら、こっちを油断させてから攻撃しようって考えだったんだな。
「威圧!!!」
二回目の威圧を発動した。地面に落ちたエイ達が体をびくつかせている。効果はあ
るようだが、一回目は恐らくわざと地面に落下したんだと思われる。こいつら、ふ
ざけた真似をしているな。私を騙そうとするなんて、絶対に許さん。
「電撃の鞭でお仕置きだ~!!」
というわけで、私は電撃の鞭で地面に突っ伏しているエイたちを叩きつける。もう
余計なことは考えず暴れるだけだ。ひたすら動けなくなっているエイを叩くだけの
簡単な戦いだった。動きそうなエイがいたら、更に威圧をして動けなくさせる。こ
れで一方的に攻撃をしていく。
「何様のつもりなんだおらおらー。」
こうして、ひたすら電撃の鞭を打ち込んでいたらあっさり終わってしまった。なん
だかあっけない終わり方だったな。
「ねっこちゃん一人でずるい。」
「いやまぁ、腹が立ったし、しょうがないじゃん。」
「顔が、というか仮面が切れちゃってるね。」
あ、まずいこの流れは。
「あーー。そういえばねこますさん。その仮面外れるようになったんですよね!?」
「そうそう! 見せてくれてもいいじゃん!」
「う、別に今じゃなくてもいいでしょ。」
「見せてくださいよ! 気になりますよ!」
「ワタシモ、キニナリマス。」
「主、それは仮面だったのですか?」
うう、やっぱりみんな一斉に突っ込んでくるなぁ。恥ずかしいから外したくないん
だっての。もう、そんなに仮面の中身がみたいもんなのか。でも外しちゃったら般
若レディじゃなくなる感じがするからすっごく嫌なんだよねえ。
「ワイは見なくてもええで。無理にみるもんじゃないしな。」
「おいばか、そうやって突き放したら逆に見せたくなるようなタイプじゃないんだ
ぞねっこちゃんは。」
「まじかいな。うわ、失態やで。すまんやで。」
「仮面の話はもういいから! まずこいつらの処理だよ処理。」
多分もう死んでいるはずだけれど、こいつらから何かアイテムが手に入れられない
かと近づいてみる。すると。
メッセージ:エイの毒針を手に入れました。
毒針か、良いアイテムが手に入ったといってもいいのかな。しかしこれって触った
だけで毒になるとかいう危険はないんだろうか。ああ私は毒耐性を持っているから
大丈夫だとしても、毒耐性を持っていない人に渡したら毒になってしまいそうな気
がする。
「エイの毒針を手に入れたよ。こんなの。」
取り出してみたが、普通の毒針だった。
「うう、なんだか怖いです。触ったら毒になりそうですね。」
身震いするエリーちゃんだった。私も毒耐性を持っていなかったら同じような反応
をしたかもしれないなあ。
「ブッチいる?」
「俺は使わないなあ。と言いたいところだけれど、1本だけくれない? いつか使
う時がくるかもしれないし。」
「まぁまたエイがでてきたら、手に入ると思うけどね。」
「ねっこちゃんから、貰うからいいんじゃないか!」
恥ずかしいことを言うんじゃないと思いながら手渡した。ブッチも毒耐性があるか
らなんともないようだ。それにしても記念で一本欲しいとか思っただけなのかな。
「あっ。ねっこちゃん、俺の考えを読もうとしているね。だめだめそんなの!」
「え? そんなことしてないっての。」
「いやいや、ねっこちゃんはいつもしているよ! こっちが何を思っているのかっ
てことが分かるようになる不気味な事を!」
不気味って。そんなことをしているつもりはないんだけどなあ。それに考えが読め
たらもっと色々楽になるはずだけれど、楽になってないわけだし読めないっての。
「ねこますドノハ、コウドウヲヨソクスルノガトクイデスカラナ。」
「ウム。タシャノウゴキガ、ワカッテイルヨウダ。」
そういう私を持ち上げることを言うんじゃないぃいい。私は持ち上げられるのが苦
手なんだ。もっとこう底辺って感じで認識して欲しい。すごい才能を持っていると
かそういう扱いは本当に嫌だ。
「一応言っておくけど、私はももりーずVで最弱だからね。」
「ファッ!? 何を冗談言っとるんや。姉御と言えば最強やないか!」
「ソウデス。ねこますサマガ、サイキョウデス!」
「持ち上げるなぁぁあ。」
まずいことになっているのに今気が付いた。私はあまり強くないということをみん
なが認識してくれていない。これでは、だめじゃないか。みんな私より強いと言う
事にしておいてもらえれば侮ってもらったりして油断やら隙をつくことができるん
だから。ああ、もっと弱そうなところを見せないとだめだったのか。
「私、か弱い般若レディなんです。さぁみなさん奥に進みましょう。」
「丁寧語を使うのは強キャラってばっちゃが言ってた。」
そんなわけないでしょうに。おほほ。じゃなくてとほほだなこれは。
「あたし、ねこますさんのキャラが時々分からなくなります。」
「ねっこちゃんは褒められたりするのが苦手だからこうなるんだよ。」
「おほほ。そんなことはございませんわ。」
「姉御。その口調きもいで。」
「キモイ言うな。」
軽くだいこんを小突いてやった。可愛い般若レディだぞ。
「みなさん。海底洞窟は何が出てくるか分からないのですからそこまでにしましょ
う。エイを倒したからといって油断はできませんぞ。」
くろごまの言う通りだよ。エイは雑魚だったけれど、まだまだ強い敵が沢山いるか
もしれないんだから悪ふざけは控えるべきなんだ。ここはもっと真面目に海底洞窟
の攻略をしないと。
「くろごまの言う通りだよ。この洞窟がどれくらい長いか分からないよ。攻略に丸
一日以上かかるかもしれないんだから油断なんてもってのほかだよ。」
「大丈夫大丈夫。洞窟なんて一か月くらい引き籠るなんて余裕だよ。」
「そうですよ。ずっと暗い所にいるのは慣れてます。」
笑顔で言わないでくれ監禁されていたコンビ。私は海底洞窟にずっといるなんてご
めんだし、さっさと攻略したいんだから長期戦覚悟はしていないんだぞ。
「ああもう。みんな敵が来るかもしれないから準備しておいてね。あと壁際にはあ
まり近づかないように。」
「あ、私そういえば盗賊でした。罠を見るので待っててくださいね。」
「そこ忘れちゃいけないところじゃない!?」
「なんかねこますさん達と一緒にいるようになってからボケがでるようになってき
た気がします。」
なんじゃそりゃあ。だめじゃないか。ここはエリーちゃんをもっと厳しくしていか
ないとだめだな。平和ボケしてきてしまっているのかもしれない。こういう場所に
もっと連れまわさないと、鍛えられないだろうし。
「これからガンガン鍛えてやるから覚悟してね。」
「え?」
そんな感じで前に進むのだった。