第156話「海底洞窟の中」
「隠し通路って、何を見てそうだと思ったの?」
「岩の色合いが微妙に薄い感じがする。違和感がある。」
凝視しないとよく分からないんだけれど、他の岩が焦げ茶色のように見えるとした
ら、若干明るめの茶色に見える。何にもないんじゃないかと思えそうだけれど、私
にしてみれば、ここを調べてくださいと言ってるようにしか見えない。
「ごめん、俺にはわかんないや。エリーちゃんはどう?」
「私も分からないです。ねこますさんの目がいいんじゃないですか?」
あれえ? よく見たら絶対分かると思うんだけれど、もっとじっくり目を凝らして
見てもらうように言ったが、みんな何も気が付かなかった。ということは、私の目
がおかしいのだろうか。
「・・・もしかして魔者だから?」
「ありえるねえ。流石魔者!」
なんだかご都合主義だなぁ。とはいえ、見つけてしまったからにはその入り口から
侵入するのが筋ってもんじゃないだろうか。あるいは、魔者にだけひっかかる罠だ
ったらそれはそれで面白いかもしれない。
「でも本当にただの勘違いかもしれないし、私が触って調べてみるよ。」
だいこんから降りて、岩の目の前まで移動した来た。この岩、近くで見ると結構大
きいなあ。ドロヌマオロチの顔のサイズがこれってことになるとしたら、こんなの
に挑むのは無謀だと言うのも分かる気がする。
何か所か入り口があるが、ひとまずそれは無視して、私が気になっている隠し通路
になってそうな場所に移動する。これで何も無かったら嫌だなあと思いつつ、意を
決して手を伸ばしてみた、すると。
「当たりだね。やっぱり通れるみたい。」
岩の中に手がめり込んだ。というかその場所には何も内容で、岩が映像として見え
ているだけのようだった。
「おお、なんか面白そう。じゃあ俺も早速。おっ。行けた! 良かった~。ここは
魔者専用なんだとか、三人用なんだとかそういうのだったらどうしようかと思った
よ。」
それは嫌だったので、他の皆も入れることができたようで良かった。ここで私一
人だけが入れていたら、また一人で頑張ってください的な感じになるかと思って少
しばかり焦っていた。
「ねこますサマ。ワタシモハイッテミマス。」
のそのそとたけのこが岩を突き進む。うん。普通にめりこんでいるというか入るこ
とができた。よかった。
「・・・だいこんちゃん、ねずお、お先どうぞ。」
「ワイは後でええやで。ここはレディファーストでエリーネキが行くとええで!」
「チウ。僕も後でいいチウ!」
あっ、三人用とか聞いたせいで四人目として入れなかったら嫌だなって思っている
せいで遠慮し合っているんだな。みんな仲良く入ればいいのに。
「では、ここは拙者が。」
くろごまが先に岩の中に入った。ほらほら、こういう時はさっさと入るに限るん
だから行こうよ。
「もう大丈夫だと思うからみんなさっさと来なよ~。」
その後は普通にみんな岩の中に入ることができた。一人だけ仲間外れなんてことに
ならなくてよかった。私なんかは一人だけ魔者だからそうなる可能性が高いんだけ
どね。
「それにしても久々の洞窟、だねぇ。」
岩の中に入り、更に奥へ進むと、淡く青い光が漂う洞窟だった、うんまぁ、海底洞
窟ってイメージに合っているな。床に海水のようなものが染み込んでいる気がする
が、あまり触りたくはないなあ。
「海のイメージだからって青いとか安直過ぎる!」
というのがブッチの感想だった。いいじゃないか分かりやすくてと思ったが、ツッ
コミを入れると話が長くなるので無視することにした。
「なんか珊瑚っぽいのが生えてますね。」
綺麗な赤珊瑚がそこら中にうようよ生えている。あれ、海水じゃないのに珊瑚があ
るっておかしくないかと思ったがそういうものだと思うことにした。
「うん。試しに採集してみようかなぁ。」
「え。珊瑚って、日本だと採集するの違法だけれど。」
ここは<アノニマスターオンライン>だし細かいことは気にしないと思ったけれど
採集した瞬間に、激昂したモンスターとかが現れる可能性があるので、むやみに採
集しないでおくことにした。こういう洞窟の入り口付近にあるということは罠とし
て設置されているかもしれない気を付けないと。
「なんだか、海の中にいるみたいな感じだねえ。」
周りが青いせいで、そんな感じがする。いや実は本当に海の中で、たまたま何かの
方法で息が出来ているだけかもしれないな。
「海っていうとさぁ、鮫とか鯱とか、そういうなんかやばそうな連中がうようよし
しているんじゃないのかなあ。」
「鮫映画の鮫を思い出すからやめてくださいよ!」
あんな感じで自分も襲われたらと思うとたまったもんじゃないな。なんか頭の中で
鮫が出てきた時の音楽が鳴ってしまった。確か鮫って血の臭い反応して襲い掛かっ
てくるんだよね。ああ嫌だなあ。血を流したら、どこからともなく現れていきなり
襲い掛かってくるんじゃないのか。
「ワイ、思い出したやで。」
「オナカガスイタコトヲカ?」
「違うわ! えっとな。サハギンって言って魚の人間みたいな奴がおるんや。後
マーメイドっていうのが雌の魚人間みたいな奴やで。」
「ホウ、ウマイノカ?」
「イヤマスイヤデ。」
食べたくない。けどなんだっけ人魚の肝を食べると不老不死になるなんて迷信があ
った気がするし、このゲーム内でも倒して食べてやろうなんて考えている奴がいそ
うだなあ。死ななくなるなんてことになったらそれこそゲームバランス崩壊だと思
うけどね。
「というかなんでいきなり思い出したの?」
「なんかそういう時があるんやで。なんでやろなぁ。」
ゲーム的展開と言う奴だろうからここはスルーしないとだな。けど、こういう何ら
かの記憶ってNPCみんなが持っていると思うと変な感じだなあ。普段から普通に会
話しているだけあるだけに、実は生きているんじゃないかと錯覚しそうになるし。
「デハ、ココカラ、ドウススメバイイノカオモイダセ。」
「知らんやで。無理難題ぬかさないでくれやで。」
「ツカエナイヤツメ。」
「ワイはみんなの運び屋やからわんころより活躍しとるやで。」
なんて二匹が言い合いしているが、いつものことなのでこれまた無視を決め込み、
先に進む事にした。
「我もここには初めて入りましたが、素晴らしい光景ですな。」
サンショウが感嘆の声をあげる。海そのものを表現している洞窟と思うと確かにす
ごいとしか思えない。ゲーム制作者が作った者になるわけだけれど、こんな世界を
冒険しているんだと思うと、何か面白いことが起こるんじゃないかという予感をが
ある。それだけでなんだか楽しい気分になるな。
「綺麗ですねえ。なんかロマンチックです。」
「今夜は最高のディナーをご馳走しようじゃないか。」
「どうせ猪の肉だろ。」
「魚が食べたいです。」
「じゃあ、ここで釣り上げるしかないねえ。そろそろモンスターの100匹くらい出て
もおかしくないだろうし。」
100匹の魚が襲い掛かってきたら嫌だなあ。嫌だねえ。目の前になんか空中を漂って
いるエイみたいなのが数匹いるんだけど、あれがもっと増えたら嫌だねえ。
「毒耐性持っている人挙手よろしく。」
私とブッチとだいこんとくろごまだった。エイって毒を持っていたはずだから、私
達以外が戦ったらまずいので、ここは私達が処理することにした。なんか私達の周
りをうろちょろするように飛び回っている。警戒しているだけなのかもしれないの
で先に手は出さないでおく。
「だいこん、ちょっと巨大化して毒耐性持っていない皆を守ってね。それで、皆、
向こうが攻撃してきたらこっちも反撃するってことでいいね?」
「いいよ。こっちが攻撃したら仲間呼んで反撃しに来るタイプかもしれないし。」
「ええ、まだお互い牽制し合っている状態なだけなので大丈夫だと思います。」
こちらが手を出さなければむこうも手をださないというのは分かりやすいが、この
状態がいつまで続くか分からない。ひとまず前に突き進んでいくが、毒耐性が無い
みんなが心配だ。私も毒耐性を得るまでは大変だったのでよく分かる。毒はとても
厄介だ。自然治癒ができるかどうかも未だ分かっていないからなおさらだ。
「えー。ただいまエイが7匹いるやで。どんどん増えていくかもしれんので警戒を
強めていこうやで。あと奇襲にも注意やで。」
うーん。悩むなあ。先手を打ってもいいんだけど、先手を打って反撃されたら嫌だ
し、かといって放置していたらいつの間にか大量にいて囲まれてましたって言うの
もよくないしなあ。
「ただの好奇心で近づいてきているだけだっていうならいいんだけど、そうでもな
さそうだもんねえ。」
「好奇心なんて言われても目の前に毒がいるって恐怖なんですが。」
「はは。毒で攻撃されても全部かわせばいいんだよ。」
「そんなの気楽にできるのブッチさんだけなんですからいい加減にしてください!」
そんな簡単に攻撃がかわせたら誰だって苦労しないしなあ。でもそんなの労せず何
食わぬ顔で、回避できてしまう奴がここにいるんだよね。攻撃が当たらないってす
ごいとしか思えないなあ。
「折角綺麗な洞窟をのんびり鑑賞しながら進めると思ったのに、これはないですよ
ね。こんなのハラハラドキドキツアーじゃないですか。」
「一歩道を踏み外したらどん底まで落ちますってここは海底でしたー。」
「そういう寒いジョークをよく平気で言えますよね!」
「だいこんの肌の色の方が寒そうだよ。白いし。」
「ワイは極寒の地で生まれたやで、嘘やけど。」
「ええい。うるさいぞ。ちったぁイッピキメとニヒキメとサンショウを見習え。」
このノリになれていないだけかもしれないが黙っているぞ。というかブッチがい
っつも騒ぎすぎなだけなんだよね。
「エイに襲われて怖がっているエリーちゃんをもっと怖がらせようとじゃなかっ
た安心させようとしているだけだよ。」
「・・・。」
「本音が聞こえているからな。」
「まぁいざとなったら俺が全力で守ってやるからさ。安心しなよ。ねっこちゃん
からここエイを全滅させろって指示があったらやってやるよ。ねえ?」
あっこいつ、エイがついてきて怖がらせているのは私だって暗に言ってきたな。
ふん。まぁいいさ、そのうちこき使ってやるのは確定なんだし。
「それは、こいつらのボスみたいな奴がいたら頼みたいかな。多分いるでしょ。」
「俺たちをストーカーしているような感じだからね。確かにいると思う。」
「だとすると侵入者を排除しろってすぐにならないのは不思議ですね。」
「主が魔者なのでそれに反応していると思いますね。」
サンショウ余計な事を言わないでくれ。また私が魔者だからこんなことになりまし
たって責め立てられるじゃないか。ああ、なんて可哀そうな私。
「じゃあ一応決めておくかなぁ。20匹を超えたら威圧を使うことにするよ。」
「おっコントロールできるようになったんか。」
「自然と出ちゃうときはあるけど大体はね。で、本気出せば多分結構いい感じに
威圧できると思うから。それで対応するよ。」
ビビらせて逃げてくれればいいんだけどなあ。というかもう13匹はいるな。これ
本当にどんどん増えていくのか。嫌だなあ。一匹倒すと何倍にもなって襲い掛か
ってくるゲームをプレイしたことがあるからそれだったら最悪だ。
「あ、というかサンショウにお願いしてもいいのか。」
「はい?」
「いや、もしかしたら後であいつらの殲滅を頼むかも。」
「おおっ。楽しそうですな。」
なんか頼もしそうに笑っているんだけど。なんかそれが逆に悔しくなってきた。
ここはやっぱり私がやるべきじゃないのか。
「ねっこちゃん、対抗意識を燃やして可愛いね。」
「だまらっしゃい。」
私だってやるときはやるというところを見せてやらないとな。




