第150話「行先は海底洞窟」
「カイテイドウクツヲ、ヌケルノデス。ココカラサラニ、ニシにイリグチガアリマ
ス。カイテイドウクツヲヌケタサキニ、ベツナタイリクガアリマス。」
「急展開過ぎるけど、海底洞窟・・・かぁ。どうせ強そうなボスとかいるんだろう
なあ。ここは通さんとか言ってきて。」
「絶対いるだろうね。しかもかなり強い奴が。で、どうなん?」
「ウム。モンバンガイルハズダ。ワレハアッタコトガナイガ。」
門番を倒せばその先の大陸に行けるとして、戻るときはどうすればいいんだろう
か。行ったきりになるというのであれば行きたくはないな。きちんと戻れるような
状態にしてからじゃないと。片道切符なんて御免だ。
「帰る時は、どうしたらいい?」
「モンバンヲ、タオシタラ、カギヲサズカルハズ。ソレヲツカエバカエレルハズデ
ス。」
帰れるなら一安心だ。ということは海底洞窟を目指して、そこで門番を倒せばいい
という単純な方法になるのか。だけど、こういう単純なやり方のときこそ慎重にな
らないといけないんだよな。
「ねこますサマ。カイテイドウクツニハ、オイシイモノガアルンデショウカ。」
「あ、さ、魚とか取れたらいいねというかそうか。食料の問題がいまだ解決してい
ないんだよな。そのあたりも頑張ってやっていかないとなあ。」
「ずっと魔者の大陸に引き籠っていてもいいんだよねっこちゃん!」
「それは魅力的だけれどやっぱり他の事もしたいから却下!」
私は、草刈りが好きだけれど、ずっとそれだけをしていたいというわけではない
ので、他の場所にも行きたいのだ。そして今回はいよいよ他の地域に行けるという
事が分かったんだから、無性にワクワクしている。魔者の大陸以外の、沢山の人が
いるという、<アノニマスターオンライン>の世界をようやく探検できるのかもし
れないんだから期待してしまう。
なんだか都会に期待している田舎者みたいな感じになってしまっているな。だけ
ど、夢にまで見たゲームの世界で大冒険って言ったら人が沢山集まっていて、冒険
者たちが酒場で騒いだり、物凄い高難易度のダンジョンに挑戦していたりするなん
てあったらもういてもたってもいられなくなるじゃないか。
「アカン。いつもの奴が始まったもうたで。」
「第一ご主人はああなると、だめだめチウ。」
「マジャサマ?」
「あ? あー。うん。それじゃあ私達は海底洞窟を目指すとして、リッチはどうす
るの?」
「ハイ。ワレハ、マジャサマノシモベニシテモラエルノデスヨネ?」
え。そんな話聞いてないんだけど、みんなも、うん。私の顔をじっと見てくるね。
しもべって言い方があまり好きじゃないんだけどって言う以前の問題で、なんでこ
んな強そうなモンスターがしもべになるなんて言い出すんだ。あ、私が魔者だから
ですかそうですか。
「ああ勿論いいよ。」
なんて言うと思ったか。これ以上仲間が増えても統率ができなくなるに決まってい
る。適当な理由をつけて解雇するような流れに持っていくか、この場所で永遠に待
機させるような感じでいこう。そうしよう!
「センダイノ、マジャサマカラハ、ズットタイキヲメイジラレマシタノデ、タイキ
ハシマセンノデヨロシクオネガイシマス。」
せ、先代の奴何しやがってんだ馬鹿野郎。お前のせいでこいつを連れて行かなきゃ
いけなくなったじゃないか。強そうだからいいんだけどさあ。でもこんな禍々しそ
うな奴を連れまわしたらどうなるか分かっているのか。くそー。私は何としてもこ
の流れをぶった切ってやるからな。こういうのが嫌なんだ。
「分かった。分かったよ。連れて行ってやるよもう。」
「デハ、ワタシニナマエヲクダサレ。」
「え、名前?」
「ハイ。ナウイノヲオネガイシマス。」
ここでブッチが堪えきれずに腹を抱えて笑い始めた。お前後でみてろよと一瞬睨
みつけてやった。あれ、ちょっと待てよ。こんな私よりも、自分をぼこぼこにした
ブッチの方が、主としていいんじゃないのかな。というわけで擦り付けたかったの
で聞いたみた。
「アンナオソロシイモノヲアルジニシタクアリマセン。ウウ。」
リッチが震えだした。攻撃を全て避けられ、攻撃を徹底的に与えられたらトラウマ
にでもなるよね。でもそれならなおさら、ブッチが主としてぴったりな気がするん
だけどなあ。私、あんまり強くないだろうし。
「それで名前だけど、サンショウでどうかな。まぁリッチって種族名より長くなる
けどそれでいいなら。」
「オ。オオオ! スバラシイデス。サンショウ。オオオ。」
なんか感動しているな。良かった、納得して貰えたようだ。
「ねこますさん。サンショウってなんですか?」
「え? 知らない? 山椒は香辛料で使われているんだけどぴりっとする感じの。」
「俺もよく知らないや。ってまた食べ物系なんだね。」
「まじか。知らないのか山椒。」
結構知られていると思っていたんだけれどなあ。んで肝心のリッチことサンショウ
は喜んでくれているみたいで良かった。ってそうじゃないよ。またしてもこのまま
ずるずると仲間になってしまうということじゃないか。うあーしまった。
「サンショウ。ただね。私達は人がいるところを目指しているんだよ。だから、そ
の、サンショウの姿だと、目立つというか。」
「フム、デハ、ニンゲンノスガタニナレバヨロシイデスカ?」
「ということは出来るのか。やってみせい!」
まぁよぼよぼのおじいちゃんとかになるとかなんだろうな。そのくらい擬態しても
らえるなら連れて行ってもいいか。気乗りはしないけど。
「ヒサビサニ、モトノスガタニモドリマス。」
魔力を使ったりするんだろうか、さて、どんな姿になるのか。サンショウの体を黒
い何かが包み込んでそして、そこから現れたのが。
「どうでしょう。主。これならば問題ありますまい。」
全身黒づくめの服を着た、美青年だった。は、なんだこいつ舐めているのか。今
時変身したら美青年だったなんて展開は使い古されて飽きられているんだよ。それ
をお前、なんだそれは、この美青年野郎。お前、何そんな自分をよく見せようと必
死になってやがるんだ。そこはどう考えてもよぼよぼのおじいちゃんだろう。なん
でそんなカッコイイ美青年になっているというんだ。そんな奴に主なんて呼ばれる
こっちの気にもなってみろ。うん。悪くない!
「サンショウさん。カッコイイですね。」
エリーちゃん。あなたはサキュバスでしょう。あなたが魅了されてどうするんです
か。そんな乙女みたいな反応はやめなさい。
「筋肉が足りなさそうだなあ。やっぱり鍛えないとさぁ?」
そうだね筋肉だね。筋肉が無いとブッチの攻撃に耐えられないもんね。まぁ確かに
サンショウの人間形態って、線が細いと言うか、幸薄そうって感じはする。
「擬態はどのくらい可能なの?」
「ずっとです。こちらが本来の姿なので。」
「えい。」
「わわっ。何をするのです。」
思わず脇腹をつついてしまった。何がこちらが本来の姿だよ。お前じゃあ何か、あ
の骨だけの姿はコスプレしてましたってことか。そんなの許せないだろ。常識的に
考えてあっちが本来の姿だろうが。こいつぅ。からかいやがって。
「なんでその姿でいなかったんだよ!」
「リッチと言えばあの姿だろうと先代魔者様から言われまして。」
「あのクソアホが。」
いや分かるけど、分かりたくない。はぁ、疲れたなあもう。
「一応後で全員の紹介はしておくから覚えておくように。」
「はい。かしこまりました。」
「それと海底洞窟までの案内とか色々聞きたいことがあるから覚悟するように。」
「はい。楽しみです。我もようやくここから離れられると思うと嬉しくてたまりま
せん。」
何やら色々な理由があったんだろうけれど、老人の話は長くなるのでここはまだ聞
かないでおこう。よし、それじゃあ次は海底洞窟なんだから。
「だいこん、頼むよ。」
「姉御、ちょっと待ってくれやで。ワイらお腹空いたで。」
「サンショウ。このあたりって食べ物になりそうなモンスターとかいないか? 食
料はあるにはあるんだけれどこのあたりで何かとれるならそっちがいい。」
「少し北に行くと猪がそこそこおりますよ。」
「だいこんと、みんな、ひとまずドラゴンフルーツを食べて。その後は猪狩りして
食料を確保することにしよう。」
肉類がアイテムインベントリに入れられないかも確認しないとなあ。食料問題がい
つも付きまとってくるのでそろそろ解決したい。それができないと遠出が出来ない
ってことにもなるし。
「クックック。」
「おい不気味な笑いをしてどうした。」
「いやぁ楽しそうだと思いまして。我も昔は。」
「はいはい。お前も一応食べられるんだから食え食え。」
絶対に長い話はさせない。老人の長い話は聞きたくないんだ。絶対に。校長先生の
話とか長いのに何1つ覚えてない私が言うんだから間違いない。
・・・。周りを見る。なんだか大所帯になってきたなあって感じがする。人数が多
くなってくると統率がとれなくなるっていうのは本当だからなんとかしたいんだけ
れどなんともならないしなあ。私もみんなと会話をしているけれど、それについて
いけてなさそうな時もあるしでこれはてこ入れが必要な気がする。
かといって、パーティを分けるのもまだ未熟な私達にはあってなさそうだし。こ
れは難しい問題だけど、考えていかないとな。
「ねこますサマ。イノシシヲタクサンカリマショウネ。」
「うんうん。そうだねえ。」
最初はたけのこから始まって、集まったんだもんなあ。このもふもふも、頑張っ
て倒して仲間にしたんだよなあ。それがいつの間にか魔者だのなんだのってなって
きてこの現状か。うんうん。面白くなってきたじゃないか。沢山やる事やったらつ
いに私は、人間たちがいる大陸に行けるんだ。
そして私は、この時、この先もみんなと一緒に楽しんでいけたらいいなと心から
思った。
やっと150話です。いつの間にか150話になりました。人間達に出会うことがないまま話が進んできましたが、ようやく歯車が動き出してきたと言った感じです。