第147話「魔物の群れ」
だいこんから飛び降りた私達はすぐさま戦闘準備を始めた。敵は見る限り100匹以
上いるように見えたので、私は火薬草を取り出した。
「これを片っ端から投げつけまくって爆破。そんで残った連中は接近戦で倒そう。」
多分、これが一番楽に終わる戦い方だと思ったのだが、どことなくみんな不満そ
うに見える。どうしたんだろう。
「なんか気が抜けると言うか、まぁいいんだけど。」
「ええ、なんかこう、戦いが好きというわけでもないんですけど、なんかこう。」
「もう! 四の五の言ってないでやるよみんな!」
近づいてきたのは泥の人形みたいな奴と白い布を被ったおばけみたいな奴。そん
でもって最後に骸骨の剣士だった。あぁホラー系というかそういう系か。んん。な
んだろう。ブッチがやる気に満ち溢れてきているように見えるんだが。
「生き残った敵は相手していいんだよね!?」
「う、うん。」
「よおおおし! 生き残れよおおおお!」
なんで急にやる気に・・・はっ。まさかこいつ。死ななそうなモンスターだから延々
と戦い続けられるとでも思っているのか。なんだかすごいうずうずしているぞ。うわ
絶対そうだろ。
「というわけで、まずは飛んでばらまいてね。飛行!」
ブッチに飛行を使う。エリーちゃんもあまり高くは飛べないが空から火薬草をぶつけ
てもらうようにする。くろごまもイエロードローンに乗って攻撃だ。空中爆撃部隊が
3名もいるが、ブッチの飛行は長続きしないだろうから、その後は戻ってきてもらう。
残った私達は何をするのかと言うと、特にやれそうなことがなかった。今できるのは
火薬草を投げ終わった後に渡すくらいだけれど、その準備は既に終わっている。この
間から沢山集めた火薬草だけれど、敵の数が多いのでふんだんに使っていくことにし
た。毎度のことながら、使う時は折角集めたのにとは思ってしまうが。
「姉御、そ、そんなに使ってええんか?」
「ここで使わなきゃいつ、使うんだって話だからねー。まぁなくなったらまた集める
から大丈夫だよ。」
次はいつ草原に戻れるか分からないということから大量に集めておいたが、使い所は
きちんと見極めているつもりだ。
「ねこますサマ。ヌノニクルンデカヤクイシダンヲツクラナクテモイインデスカ?」
あ、すっかり忘れてたよ。リュックがなくなってから作る気がなくなっちゃったっ
ていうのがあったからなあ。よし、とりあえず何個か作っておくか。あまり多く持っ
ていると暴発したら怖いから持てる分にしておこう。
「むこうからすごい音が聞こえるチウ。」
「火薬草をばらまきまくってるからねえ。さぁてどのくらい効いているのかなあ。」
骸骨剣士とか不死系なんて言われているモンスターって耐久性は高いのが多いからな
あ。流石に一筋縄ではいかないだろうし、数に押されてこっちまでくるという予想を
しているがはたしてどのくらい生き残る事か。
「みた感じほとんど死んどるみたいやで」
「は?」
素っ頓狂な声を上げてしまう。なんなんだ。今回は私の予想が悉く外れている気が
する。いや、待てよ。敵さんは死んだふりをしているだけかもしれないじゃないか。
それと一定時間が経つとまた復活するとか言うモンスターもいると思うから、こいつ
らもそういうタイプなのかもしれない。
「おっ、ブッチニキが戻ってきたで。」
「・・・あいつら、ほぼ全滅したよ。骨の癖に骨のないとかもう貧弱すぎだよな。」
残念そうに言うブッチだった。まじですか。私としては、もうちょっと強そうな連中
だと思っていただけに拍子抜けだ。あっ、それか。
「爆発というか火属性が弱点だったのかも。」
「あ、あーあー。うん。そうかも。そうだね。じゃなきゃ張り合いが無さすぎだ。」
モンスターには何らかの弱点があることが多いが、不死系のモンスターは火に弱かっ
たりすることが多い。火薬草は爆発を引き起こすけれど一応火系統ではあるはずなの
でそれが効果を発揮したのではないだろうか。
「一網打尽って感じやな。」
「全くだよ。くそー。もっと暴れたかったのにさあ。多分エリーちゃん達が火薬草を
投げて終わると思うよ。」
「こういう拍子抜けした時に強敵がでてくる可能性があるからブッチ! いますぐ最
前線に行くんだああああ!」
「!! おおっ! そうだねそうだね! そういうのあるよね! おっしゃあああ!
じゃあ行ってくる!」
勇み足で現場に直行するブッチだった。どうせこの予感も外れるんだろうな。なん
て思ってしまった。いやこう考えると今度は、ああもう、どうなるかなんて知らん!
とにかく考えられることをやっていくだけだ。
「私達も行くよ。」
「イイノカ? コウホウシエンスルノデハナカッタノカ?」
「敵がまた湧いてきたりしたらそんときゃそんとき! 戦いは臨機応変に対応しない
と駄目だからね。」
というわけで、私達も最前線に行くことにした。ほとんど全滅させたというけれど
最後の一匹になるとそいつだけ強くなるってこともあるだろうからね。予想が外れま
くっているのがくやしいので、とにかく起こりそうなことは徹底的に考えていく。
「だいこん! 頼むよ」
「合点承知やで。」
だいこんに乗っかって急いでみんなの元に向かう。うわ、なんかバラバラになった骨
とかべたついた泥がある。不気味な光景だなあ。さて、みんなはどこにいるのかって
モンスターと対峙している?
「どうしたオラァ! この程度かオラァ! まだまだやるぞコラァ!」
ブッチが、モンスターに攻撃していた。そのモンスターは、骨の体にローブを纏って
おり、魔法使いのように見えた。見た目的には強そうな感じがする。
「シネエエ!」
「遅すぎる! オラァ!」
骨の魔法使いが手から無数の黒い球を放つが、ブッチはたやすくかわす。なんだあの
人間離れした動きは。おかしいだろ。全部バラバラの動きをしているのに全く当たっ
ていないとか。そして攻撃全てをかわしたブッチが、骨の魔法使いに張り手をくらわ
す。
「グハッ!ナ、ナゼアタラン!?」
「だって、遅いし動きが読みやすいし。よくある動きだよ。」
「グググ。コレナラドウダーーー!」
今度は黒いビームのようなものを放つが、これまたブッチはかわす。ってあぶな。私
たちの近くまで飛んできたな。ふぅ。ここはブッチに任せた方がいいか。
「ねこますさん!」
「マスター!」
「あっ、二人とも、大丈夫だった?」
「はい、敵をほぼ全員倒したら突然あの、リッチ? とでもいうんですかね。が出て
きて襲い掛かってきました。」
ああ、リッチねリッチ。ゲームだと強敵モンスターとして出てくるあの。え、あいつ
がリッチ? でもそんなのをボコボコにしているブッチは一体?
「ブッチが相手にすることになったと。」
「はい、あたしはちょっと怖そうだったので逃げようとしたんですが、ブッチさんは
すごい嬉しそうに突撃しました。」
「さすがブッチ殿です。」
そんなに戦いたかったのか。ブリザードイーグル戦でいいところで終わってしまった
わけだし、鬱憤が溜まっていたのかもしれないなあ。じゃあリッチはちょうどいい時
にでてきてくれたというわけか。
「オノレ、コウナレバ」
「お、そうはさせないよ。」
ブッチは何か仕掛けてこようとするリッチの全身を体を掴みとり、地面に何度も叩き
着け始めた。あ、あいつ何やっているんだ。
「先に攻撃してきたのはそっちだからな! こっちは正当防衛だぜ!」
「グゴゴゴ」
「いい運動になるぞ! ハハハ! 最高のサンドバッグだ!」
「ムガガガ!」
「どうした。どうした。お得意の魔法でなんとかしてみろよ!」
「ウゴゴゴ」
抵抗できず何度もブッチに叩きつけられるリッチだった。なんだよあれ。なんかお笑
いでもやっているんじゃないのかと思えてしまうんだが。
「ブッチさん。ストレスでも溜まっているんでしょうか。」
「強い奴と戦うのが好きらしいからね。ブリザードイーグルも自分がとどめをさせな
かったからだと思うけど。」
横目でリザードマン達を見たがばつが悪そうだった。まぁこいつらのせいじゃないし。
それにしても、全然やりすぎなように見えないなあ。リッチにもなんというか必死さ
というのが感じられないし。ああもう死んでいるからか?
「コ、コウサンスル!」
「モンスターの言葉を信用するなって友達が言ってたんだ。オラオラ!」
「ク、コンナコトヤッテモムダダゾ! ワタシハアンデッドダカラナ!」
「じゃあ俺の専用のサンドバッグになってくれ。簡単に壊れないでくれよ?」
「ナ、ナンジャコイツハアアア!?」
情け容赦なくリッチに攻撃をし続けるブッチだった。いや本当にそろそろ終わって
もよくないか、なんて思ったのだが、辞めないようだ。私でも同じような事をする
かもしれないけれど傍目からみると可哀そうに見えなくもない。が、そうした油断
が後で命とりになるのでこのくらいはやってもいいだろう。
「お、今さりげなく隙を見て攻撃しようとしていたな。まだまだやれそうだな。」
「ムムム!?」
「駄目だぞ。お前の動きはほとんど見切っているから。色んな動きをしないと。」
「ガガガ。」
しかしこれ、いつまで見せつけられるんだろうか。なんだか茶番に見えてきたぞ。
実はこいつら仲良しになっていたとかじゃあないよな。
「ワイ、あれを見てお笑いにしか見えなくなってきたで。」
「奇遇だな、私もだ。」
「あたしも思わず笑いそうになります。笑ってはいけないんでしょうけど。」
おっとしかしこのリッチが一体だけだとは限らないぞ。他にも同じような、モンス
ターが出てくるかもしれない、ここは引き締めていかないとか。こんな状況だと戦
う意欲がなくなりそうだけれど、死にたくはないからな。
「オラオラー!」
・・・あいつはいつまで続けるんだ。




