第143話「スキルの特訓」
相談タイムにする前に私はスキルの特訓を始めることにした。まずは威圧だが、
私の感情に比例して効果を発揮していることが多い。特に怒りとか敵意をむき出し
にすると効果がいつもよりも強くなっているような気がしている。
だからより冷静に平静になるように、座って瞑想でもしてみることにした。一応
無防備な状態になるので、だいこんに周囲を見てもらうことにした。私自身も気配
感知があるが、集中しているとそちらには気づけそうにないし。
威圧の操作の目的は、主に弱いモンスターに逃げられないようにするためだ。威
圧があると、遭遇しなくなるというのはメリットでもある反面デメリットも大きい。
たけのこ森の黒豚狩りなんかが出来なくなってしまう。そして今現在いるこの湿地
帯のモンスターと全然遭遇しないのもそれが理由だと感じられているため、制御で
きるようにしないと、強いモンスターとしか戦えなくなるのが困る。
「むぅうう。」
そういえば最初は発動もまともにできていなかったんだっけ。それがいつの間に
か気合を込めると使えるようになったんだから一応成長はしているはずだ。だった
ら次は、使わないように制御することだ。抑えろ、抑えるんだ私。そんなことを思
いながら集中する。何も考えないように、何にも危害を加えないような心を保って
いこう。
「おっ? なんか姉御の周りちょっと穏やかな気配になった気がするで。」
「まじか!?」
「あっ。今なんか鋭い刃物が伸びてきたような感覚になったやで。」
「おい。」
ひとまず良い所までいってたということか。この調子なら意外と早くなんとかで
きるんじゃないだろうか。心を鎮めるというやり方になれていけばいいんだったら
簡単な気がしてきた。この感じで特訓すればいいかな。
じゃあ次は、忍術か。これってどうすれば発動するんだろうか。火遁とか水遁と
か聞いたことはあるけれど、言葉で言えばいいんだろうか。
「水遁!!!」
叫んでみた。何も起きなかった。時間差で何か出てきたりしないかなあと思った
けれど何も起きない。どういうことなんだろうなあ。印を結ぶみたいなというか忍
術を使う前にやらなきゃいけない儀式みたいなのがあるのかな。
「火遁!」
やはり何も出ない。というか火遁は不要だろうなあ。狐火があるんだから、これ
が同じようなものだったらあまり役に立つ気がしないし。まぁそもそも出ないから
意味が無かったわけだけれど。
「姉御、なんもでないんやけど、大丈夫か?」
「こんなところで一人で叫んでいるのって恥ずかしいね。だけどまずはどんなもの
なのかやってみないことには始まらないからね。出来なきゃそのときはその時なん
だからやりたいようにやるよ。」
何も発動しない忍術って何なんだよと思いながら試していくが、一向に何も起きな
いなあ。だけど、この魔者の鉢金なんてものを装備したら忍術が使えるようになっ
たってあるんだから、何かできていてもおかしくないと思うんだけどなあ。
「姉御、ワイ思ったんやけど。」
「何?」
「その忍術とかいうスキルって、姉御は使えないみたいなことやないんか?」
「そ、れは。」
また浮遊とか飛行みたいな感じで、私自身には使うことができないってことなんだ
ろうか。じゃあどうすればいいというんだ。だいこんで実験でもしてみればいいの
か? 例えば、危なくなさそうな、水遁で試してみるか。
「水遁!」
「ファッ!?」
だいこんを対象として、使ってみたら、だいこんの周囲の地面から水の柱が飛び
出してきた。こういうことだったのか。そういえば遁術って敵から逃げるために使
う術なんて聞いたことがあったなあ。でもこれ、結構危ない気がするんだけど。発
動してから少しでも動けば味方に当たっちゃうだろうし。それともそうならないよ
うになっているんだろうか。もう一回試しにやってみるか。
「だいこん、もう一回やってみるからちょっと水に当たるかやってみて」
「まじか。ほなよろしく。」
「水遁!」
というわけで2発目を発動した、再び水の柱がだいこんを包み込む。そこでだいこ
んが動こうとすると、目の前の柱もだいこんに当たらないように動いた。ってこと
は、味方に被害はないってことか。これは結構使えるかもなあ。
「じゃあこれならどうかな。土遁!」
今度は、たけのこの周囲から土の壁が浮き上がってくる。これもなかなかいい感じ
じゃないか。
「姉御、さっきのもやけど、視界が遮られるのが困るでこれ。」
む。そうか。防御とか逃げに特化しているといえばそうだけれど、視界が遮られる
というのは大きなデメリットだなあ。それに土遁の場合は、水遁と違って壁は前方
にだけ広がっているようだ。後方の周りは手薄になるか。
あとは火遁に木遁に金遁かな。火遁はここで試したくないなあ。燃えたりしそうな
のが嫌だ。木遁は、木が生えてきたりしそうだけれど、ちょっと前に人面樹召喚を
してしまっただけに同じような事が起きたら嫌なので試したくないなあ。後は金遁
か。やってみるとするか。
「金遁!」
えっ眩しぃ!? だいこんが金色に輝いている! ってもう終わった。早いな。1
秒くらいしか持たなかったな。
「なんか今ワイ、輝いてたで。」
「そうだね。金遁の効果で一瞬だけ。」
これも使いどころが肝心だな。それにしてもまた自分では使えないスキルってこと
なのか。火は狐火があるし、照眼で目くらましができるからいいとして。うーん。
「土遁!」
やはり私の前に土壁は現れなかった。自分用に防御スキルが欲しかったんだけどな
あ。あ、でもちょっと待てよ。
「だいこん、私の肩の上に乗っかってみて。」
というわけで私の肩の上に小さくなっただいこんを乗せてみた。
「改めて、土遁!」
私の前に、正確にはだいこんの前にだが土の壁が現れた。おお。この使い方ならい
けるじゃないか。つまりだいこんには今後戦闘中に私の肩に乗っててもらえれば、
忍術が色々使えるってことだ。これは良いことを知った。
「喜べだいこん。これまで移動する以外特技が無くて困っていただろうけれど今後
は防御面で貢献できるぞ!」
「うおおおお! ワイやったで! 生きているだけで大儲けやで!」
というわけで、今まで戦闘中隠れたり囮にさせたりみたいなことだけだった、だい
こんだが、今後は私の忍術用のサポート要員になる。これはかなりいいことだな。
「姉御は色々出来るようになってどんどん強くなっていくやないか。」
「この調子で、最強まで上り詰められたりすればいいんだけどねえ。」
なんて世界は甘くないだろう。<アノニマスターオンライン>で最強のプレイヤー
なんてきっと良い装備に良いスキルを沢山持ちまくっているの違いないだろうし。
「姉御は強くなってどうしたいんや?」
「自分より強そうな奴に襲われないようにしたい。」
いつも思うんだけれど、私に勝てる相手がいたら、私の仲間もそのまま倒されて
しまう可能性がある。その中でたけのこ達が復活できないかもしれないことを常に、
いつも考慮している。
私は、いや私達は特殊なプレイヤーだと思われるので、それに目をつけられてし
まったら、色んな相手と戦わないといけなくなるだろう。将来を見越していくと、
どんどん強くならないといけない。
「将来を考えると先が思いやられることばかりだからなあ。」
「姉御は将来のこととか考えすぎやで。」
それなりに愛着がわいてきているからなあ。たけのこ達と出会わなかったからそ
んなこともなかっただろうけれど、そこから仲良くなって今があるからそれが壊れ
たりしたらすごい嫌なんだよなあ。
「姉御がどんどん強くなって、いずれは、魔王なんて呼ばれるようになるかもしれ
ないってことやな。」
魔王、魔王ねえ。うん? 魔王?
「魔王なんているのかな?」
「昔はいたみたいやで魔王。名前は知らんけど。」
本当にいたかもしれないのか。だいこんがよく分かっていないという事は設定だ
けされている存在なのかもしれれないな。いつかはそんな魔王とも対峙することに
なるかもしれないと考えるとぞくぞくしてきたな。
「魔王ねこます、なんてなったら笑っちゃうだろうなみんな。」
「名前がそれっぽくないきがするやで。」
「お? ねっこちゃん魔王になるの?」
ブッチがツッコミどころを待ってたかのようなタイミングでここに来ていた。という
かみんなもきていた。あれ、そんなに時間たっていたかな。
「いや、ならないけど。んでこっちは色々あったけどそっちは?」
「何もでないね。ねっこちゃんの威圧のせいじゃない気がしてきたよ。もっと距離を
採れば違うかもしれないけれど。」
どうなんだろうなあ。ちょっとスキルの特訓に時間をかけすぎちゃったし、本当にそ
ろそろ相談タイムにしないとな。
仲間にしか対象にできない魔法というのが昔のゲームにはよくあったものです。