第141話「泥の道」
があったりとこれといった特徴が無い普通の湿地帯だ。不自然に感じるのは生物の
気配が感じられないせいだろうか。私の威圧の効果で逃げ出したのかは分からない
が、気配感知で探っても何の反応もなかった。
「雄大な自然とかさぁ、ゲームをプレイした直後は感動するのに、その後はただの地
形としか認識できなくなるんだよねえ。」
と、言うのが私の感想だ。普段見慣れない場所っていうのは見慣れないからこそ感
動するのであって、いつも行く場所になってしまえば感動という物はなくなってしま
う。だからこそ、今この瞬間だけは目に焼き付けておきたいと思う。
「そうですね。あたしの場合、塔以外の場所ならどこでも感動できますけど、多分ず
っと同じところに留まっていたら塔みたいに飽きてしまうんでしょうね。」
「しばらく離れるとまた行きたくなるってのはあるよなー。俺も洞窟に篭りっぱなし
だったけれど、ある意味で故郷だし、戻りたくなる時があるかもしれないなあ。」
私の場合は草原か。あれ? 私はずっと草原に残っていたい派だなあ。草原で延々
と草刈りしていたい。魔者の大陸から出ることを考えてはいるけれど最終的には草原
でのんびりと草刈りだけしていたいな。なんだか草刈りをしていると落ち着くから、
本当にそうなって欲しい。
「私は、ずっと草原にいたいから特殊なのかな。」
「姉御! 故郷を思うのは大事やけど、やっぱりそれだけじゃあかんと思うやで!
やっぱり、色んな所を旅してみることでいい場所が見つかるかもしれんで!」
「確かにそうかもしれないけど、私に限ってみれば草原でずーっと草刈りして、薬草
集めれば満足だからなあ。あの場所以上に薬草が採りまくれるのなら好きになるかも
しれないけどね。」
そんな夢のような土地があったらいいなあ。それだったらあの草原に戻ることなく
夢の土地でずっと草刈りしているかもしれない。第二の故郷として身を落ち着かせて
しまうかもしれないなあ。
「ねこますサマ。ワタシハ、ニクガタクサンタベラレルトコロガイイデス!」
「そうだね、たけのこはそっちのほうがいいよね! じゃあやっぱり草刈りが沢山で
きて肉も沢山食べられそうな夢のような場所があるといいね。」
肉と薬草が集まる理想の土地、なければ自分で作れたらいいなあとは思うなあ。こ
のゲームで土地の開拓だとかできるかどうかは分からないけれど、そういうマップを
自力で作り出すこともできるんじゃないかと思っている。<アノニマスターオンライ
ン>は無限の可能性があるとかなんとか言われてるみたいだし。
VRで農業とかそういうことできるかどうかは分からないが、もしそういうのが出来
たら面白いだろうし、そんな面白そうな設定を運営がしないわけがないと信じたい。
「ねっこちゃん。みんなで移動することになるけど、隊列とか組む?」
「適当でいいんじゃないかな。なんかここで隊列とか組んでいると、子供の頃の遠足
を思い出してしまうし。」
順番に並んで進んでいると、そんなイメージがあるなあ。早くお弁当の時間になら
ないかなあなんて思ったりしてしまいそうだ。
「お弁当ですか。食材やお弁当箱があれば作りたいですね。」
ほう、エリーちゃんは、お弁当に自信ネキなのか。
「ほう、エリーちゃんは、お弁当自信ネキなんか。」
えいっ。
「姉御、なんで今どついたんや!?」
「私の心をコピペするからだ。」
「ファッ!? どういうことなんや。」
とりあえずここでスルーした。たまにだいこんと同調するときがあって、私の頭のレ
ベルはこいつと同じなのかと思ってしまい酷く落胆してしまいそうになる。
「えっと、自信はありませんけど、VRで作るのって楽しそうだなって思ってので。」
「第二ご主人様は謙虚だチウ。」
「ねっこちゃん! レディ力でエリーちゃんに負けてるよ! 般若レディとしてはこ
こで腕の立つところを見せないとじゃないの?」
「お弁当が作れるようになったら私の腕を見せてやるから楽しみに待っててね。」
というわけでこの話題はおしまい。このあたりをうろうろするのが優先なんだから。
「じゃあみんなこのあたりを探索してみようか。突然襲い掛かってくるモンスターと
かいるかもしれないから気を付けてね。」
こうして、私達は目で見える範囲を各々が好きに歩いてみることにした。だったん
だけれど、たけのことくろごまが私の後ろからついてきて、だいこんは小さくなって
私の肩に乗る。そしたら、エリーちゃんがおずおずと近づいてきて結局みんな私の周
りに集まってきた。何しているんだみんな。
「みんな、それぞれ好き勝手に動いていいと言ったじゃないか!? なんで私につい
てくるんだ!?」
「ねっこちゃんが行くところに大体つえー敵がでてくるに決まっているし!」
「ねこますサマノソバガイイデス。」
「拙者もマスターの近くがいいです。」
「ワイもやで。」
「みんなが付いていくので・・・。」
それじゃあ意味が無さすぎる。というかみんなには私がいなくても仲良くしてもらえる
ようになって欲しいというのに、これじゃあだめだろう。私を中心にした集まりのまま
じゃ私がいないときに瓦解する。今はそういう感じでもいいけれど、そんな脆弱な感じ
にはしたくない。
「友達が三人いるところで、友達の友達同士が仲良くなるのが私の理想なんだよ!」
自分がいないところで友達同士が仲良くなるみたいな展開を望んでいる。そしていつの
間にか仲良くなった友達同士に私が嫉妬する展開を楽しみにしているんだ。この場合は
ブッチとエリーちゃんが仲良くなっていき、私は疎外感を覚えて、居場所がなくなって
いき、やがて・・・。
「ああだめだ。ねっこちゃんまたいつもの考えるモードに入っちゃってる。」
「これさえなければねこますさんは良い感じだと思うんですが。」
「いやいや、これが姉御のええとこなんやで。姉御は考えすぎてたまに、アホなことし
でかすから面白いんや。」
「マスターは、見苦しい争いを見るのが好きなんて言ってた記憶がありますね。」
「そうだね。ねっこちゃんは人の意地汚い部分とかを見るのが大好きだよ。」
・・・えーっと。なんだ。みんなして私の事を何か言ってたか? ってまた色々考えて
しまったけれど、みんなもっと自立的な活動が大事だと思うので、バラバラ動くように
指示をすることにした。
そんなに遠くに離れるわけでもないんだから、それぞれが好きなように動けばいい。
私は私で、林のようになっているあたりが気になったので行きたくなった。そこに向か
って歩いていたのだが、なんか体が重くなるような感覚があった。舌を見ると、泥にな
っている部分に足がめり込んでいた。うわぁこれは嫌だなあと思ったので、力を込めて
泥から足を引き抜いた。
このまま前に進むと足場が悪い所を歩き続けつづけなければいけないので、一旦下が
り別な方向から林に向かうことにする。というか泥に浸かると本当に動きにくくなるん
だなあ。ドロヌマオロチとやらが出て来たらこれはまずいというのがよく分かった。
他の皆はというと、足場の良さそうな所を歩いているようだ。私もそっちに行こうか
と思ったがみんなが行くところに今さら私が行くのも嫌だったのでやっぱり林を目指す。
そこらに草がたくさん生えているが、このあたりの草もただの草としか言えないような
ものだった。
威圧を抑えることができれば何かが出てくるようになると思うので、今も抑えるよう
に頑張ってみているが、そう簡単に成果は出ないようだ。あるいはこの湿地帯には元々
モンスターなんて出ない場所だったりするのかもしれないなあ。
だけど、湿地帯というかマングローブと言えば海老なので遭遇したい。仮に巨大な海
老がでてきたりしたら、それは食べてみたいに決まっている。
海老の事を考えると、たけのこみたいにおなかが空いてきしまった。VRだというのに
ここらでドラゴンフルーツでも食べることにした。お弁当ではないけれど、こういう場
所に来て食べるというのは好きだ。うーん。甘くて美味しいな。
「ソレ、ウマソウ、ヨコセ!」
目の間に、泥を纏ったお化けのようなモンスターが出てきた。ここは潔くドラゴンフル
ーツを投げつけることにした。
「ほい!ほい!ほい!」
アイテムを上げると、感謝してくるモンスターなんて言うのがいたことがあるので、こ
いつもその類かもしれなかったので、勿体ないとは思ったが投げて渡す。これで何もく
れなかったら、その時はその時だし。
「ウマイィ。ウマイィイ。」
なんだこの泥。うねうねしている。そんなにドラゴンフルーツが気に入ったのか。まだ
まだ沢山あるが、何もくれないのであれば倒してしまおうかなあ。いや、もうちょっと
だけプレゼントしてやるか。何かイベントがあったら面白いし。
「もっとやるよ。ほいほいっと。」
泥の体に投げつけるだけで、ドラゴンフルーツが吸収されていく。これどうやって食べ
ているのかは不思議だが、味は感じているらしい。いや、ウマイって言ってるからそう
思っただけなんだけれど。
「オゥウウウ。ウマイイイ。」
泥をまき散らすお化け。やめてくれ。汚れる。だがものすごく喜んでいるのだけは分か
った。じゃあ何かくれよ。なあ謝礼をくれ。なんて強欲な事を思っているが、どうせこ
こで襲い掛かってくるんだろうな。
「オマエ、イイヤツ。オレイニ、」
おおっ!? 全然全く期待していなかったけれど、ここで何かイベントが発生するのか。
すごく幸運じゃないかこれ。最初見た時はなんか絶対敵だと思ったけれど、何かもらえ
るなら感謝するぞ。
「オマエノクツニ、「泥耐性」ヲツケテヤロウ。」
え、マジか。それは嬉しいぞ。というかそれが貰えるなら、ドロヌマオロチと戦う事に
なったとしても、良い感じに戦えるようになるってことじゃないか。もしや今回のこの
イベントは、ドロヌマオロチを倒すために用意されたものだったのか。
それをたまたまとは言えこうして攻略してしまった私凄いな。
「ヨシ、コレデイイゾ。デハサラバダ。」
「あ。私はねこますって言うんだけどあなたは?」
「精霊ドロップダ。デハナ。」
精霊・・・。そんなもんがいたのか。