第139話「湿地帯をいく」
だいこんに乗って私達は、湿地帯を進んでいく。地面の泥濘でだいこんの動きが
制限されるのではないのかと思ったが、本人の申告通り、すいすい進んでいく。ど
んな仕組みなのかは少し気になったが、ここは、だいこんだからだなということで
片付けておくことにした。
湿地帯なんて現実でもそう行ったことが無い場所なので詳しいことは分かってい
ない。色んな生物がいるとか、浄化作用があるとかだった気がする。
なんだか急に気になってきたので、今日ログアウトしたら調べてみるか。
「本当に湿っているって感じですね。当然といえば当然なんですが。」
エリーちゃんが、湿り気の感覚も、伝わってくるのがすごいなあ。<アノニマスタ
ーオンライン>はもう現実と同じなんじゃと誤解しそうなくらいだ。
「マングローブも湿地の一種だったと思うんだけど、確か海老がとれたんじゃなか
ったっけ。」
「私、海老大好きなんだけど。ここらに海老がでるならとっていきたい。」
海老が採れるとは聞いたことがあるけれど、この湿地帯にもでてくれるのであれば
狩っていきたい。海老が凶悪なモンスターなどでない限りだが。
「姉御、海老って美味いんか?」
「滅茶苦茶美味しいよ。」
なんて言った瞬間に、たけのこが目を輝かせ始めた。ええい食いしん坊め。と思っ
ていたら、他のみんなも食べてみたそうな顔をしている。
「とりあえずこのあたりうろついていれば、そのうち何かでるんじゃないかな。」
「そうだね。大体こういう新しい場所に来たりすると、いきなり敵に出くわした
り、この辺じゃ見ない奴だな、誰だお前は、とか言われたりだよね。」
ゲームで新しい場所に行くと、ほぼ必ず新しいモンスターが出てくる。あとはと
ってつけたように、新キャラクターが出てきたりする。
そういえば、いまだに人間のNPCには会ってないなあ。そろそろ出てきたりする
んだろうか。
「姉御~。大事な事を忘れとるんやないか?」
「ん? 別に何も忘れていないと思うけどなんだ? というかそういう言い回しを
やめんか。さっさとこれを忘れているって聞けば面倒が省ける!」
勿体つけてないでさっさと言って欲しい。
「姉御のスキル。威圧や。海老とか逃げるんやないか?」
「あ・・・。」
そういえばそんなスキルがあったなあと思い出す。今のところ大して制御出来て
いないある意味で呪われているスキルだ。これが常時発動しているとしたら海老も
逃げ出してしまうのかもしれない。うわ、迂闊だったというか、これじゃあ雑魚敵
を狩れなくなってしまうじゃないか。はぁ、これからはもっと練習しまくらないと。
新しいマップに行くたびにこんな結果になるのは嫌だからね。
「ねっこちゃん! 早く制御方法を覚えないと我慢ができなくなったみんながねっ
こちゃんだけ置いてどこか遠くに行ってしまうかもしれないよ! 仲間割れイベン
トが発生することになるよ!」
それは面白そう、じゃなかった困る。ここでまた一人置いてけぼりにされたくはな
いなあ。だけど、みんな今すぐ海老を狩らなきゃいけないってわけでもなさそうな
ので、そこまで急がなくていいとは思いたい。
「ね、ねこますサマ! ガンバッテクダサイ! ガンバッテクダサイ!!」
涎を垂らしながら私を凝視するのをやめてくれ、たけのこ。私も美味しいものが
食べられるっていうなら、一生懸命やるからさあ。最近も練習していたんだけれど
まだまだだし。
「ひとまずこのまま、真っ直ぐ進もうか。」
「あたしも、それがいいと思います。RPGなんかで船とか移動手段手に入れて新し
い場所へ行くときは、まずは真っ直ぐ進んでました。」
うろちょろするよりかは大分いい判断だと思うな。迷ったらまずは真っ直ぐ進め
っていうのは分かりやすくていいし。
そこからは、移動するだいこんの背に乗りながらみんなで雑談をしていた。
「あー。またループしたらって考えちゃうなあ。だけどループはこりごりだよ。」
「ねこますさん。」
「なーに。エリーちゃん。」
「たけのこちゃん達の食べ物ってどうします?」
「あ・・・。」
ブリザードイーグルを食べたばかりだけれど、その後どうするのかってことも考
えておかないとなあ。食べ物がないときはドラゴンフルーツを渡していたけれどそ
ればかりって言うのもな。
長期滞在用の食料として役に立ちそうだけれど、現地でとれるのならば、そちら
のほうがいいんだけど、ってそうか、ここは一旦私とみんなが分かれたほうが、い
いのかもしれないな。ってまた一人か。
「うっ。うっ。みんなして私を追い出そうって言うのね。めそめそ。威圧があるか
らって酷い。あんまり。うっうっ。」
「姉御、わざとらしすぎて、しゃっくりが止まらないみたいになっとるで。」
「そんなっ。わたしはただ、みんなと仲良く、それを。」
「だいこんの飼い主だからってだいこん役者にならなくていいから! って思わず
つっこんじゃったよこの俺が!」
威圧が制御できるようになるまで見知らぬ土地で一人っていうのはなあと思ったん
だけれど、何も完全に一人になるってわけじゃないからいいか。後は本当に威圧の
せいで、モンスターが出なくなっているのか確認もしなきゃいけないだろうし、こ
こで一旦みんなと距離を置くか。
「じゃあ私は、みんなと距離を置くことにしよう。」
「別れ話の流れじゃないですかそれ。」
「君たちはもっと素敵な人に出会えるよ。」
「ステキナヒトヨリ、ねこますサマガイイデス。」
「ぐはっ。死んだんご。」
「姉御! それはワイの台詞やで!?」
たけのこが突然愛らしいことを言ってくるもんだから、我慢できずにもふもふし
まくってしまった。なんだこの可愛い狼は。おーよしよし。
「俺はまだ、ねっこちゃんとは離れなくていいと思っているよ。まだって言うのは
ここに来てそんなたってないんだし、急ぐようなことじゃないし。」
「ブッチ殿の言う通りですな。拙者としても、マスターとすぐ別れるというのは納
得ができません。」
善は急げなんて言うけれど、私の修行とかが善ってわけでもないしなあ。ひとまず
ここはみんなと一緒にいて、全く何も起こらなかったら一旦別れるという形がいい
のかな。けど肉がとれるかどうかってのも早く知っておきたいんだよなあ。ううん。
「それと、そもそもねっこちゃんを一人にした時点で、絶対に威圧が強くなって帰
ってきたり、なんかボスをぶっ倒してきたとかそういうオチになりそうだし。」
「あっ。それもそうですね。ねこますさん。やっぱりみんなといましょうよ!」
「それがいいチウ!」
確かにちょっと一人でいるだけなのに次から次へと問題が起こりそうな気がするし
なあ。うーん。それじゃあもうちょっとだけ一緒にいるか。
「ここで自然とはぐれてしまうのが姉御クオリティ屋やとワイは思うけどな。」
「そういう不吉な事を言うなっつーの!」
一応ツッコミとして軽く叩いておく。全くもう。そういうことを言うと本当に私だ
け何かイベントが発生してしまいそうじゃないか。
「そんで、ひたすら真っ直ぐすすむんでええんか?」
「マテ、ココハ、コノバショハ。」
突然イッピキメが意味深なことを言い出した。早く言えと思っていると黙り込んだ
ので続きを促そうとしたら、ニヒキメが話し出した。
「シッテイル。ココハ、「ドロヌマオロチ」ガイルハズノバショダ。」
ドロヌマオロチっていかにもここら一帯のボスって感じの名前だけど何故唐突にそ
んなことを言い出したんだ。あの塔にずっと長くいただけだろう。ってああそうか。
こいつら確か、レッドドラゴンと関連しているんだよな。となると、ドロヌマオロ
チっていかにも八岐大蛇からとったようなモンスターが出てくる可能性が高いって
ことじゃないか。
「なんか強そうな名前でてきたけどさ、そういうボスって大体ねっこちゃんに引き
寄せられるはずだから、ねっこちゃんはここから先は一人だとむしろだめだね。」
「ドロヌマオロチって名前がもうヤマタノオロチみたいな感じですし、かなり強
敵は間違いないですね。実際色んなゲームでかなりの強敵になってますし。」
だよねえ。知っているよねえそれくらい。私だって何度も名前を聞いたことがあ
るくらいだし。馴染みがあるだけに、どんなモンスターなのかも簡単にイメージで
きてしまう。
「首が8つあって、そんでもって酒に弱くて、後はえーっと。イッピキメ。どんな
奴なのかは分かっているの?」
「ウム。クビハ、8ツアリ、ジメンヲ、ドロニカエテシマイ、コチラノアシモトヲ
クズステヲ、トクイトシテイル。」
足元を崩すだと。厄介だなあ。単純なパワー型なら楽だけれど、周囲を泥にする
な何て言うと戦いにくいったらありゃしないなあ。で、他に情報はあるのかな。
「アトハ、ウウム、オモイダセナイ。」
こういう情報って大体、肝心なところが抜けているんだよなあ。まぁしょうがない
か。
「ドロヌマオロチとやらがいるかもしれないってだけでこのあたりを探索しないっ
て言うのも来た意味ないしなあ。かといって勝算は、私がブッチに「飛行」を使っ
てブッチがぼこぼこにしてくれればいいってことなんだけど。」
「なんか昔、ワニをハンマーで叩くゲームがあったけれど、そういうノリでぼこぼ
こに出来たらいいんだけどなあ。ボスだったらそう簡単に行かなそうだけど。」
「あ。そういえばモーニングスターは見つかったの?」
ちょっと探しに行ってくるって言った後に戻ってきていたけど、特に何も言ってな
かったので無かったのかと思ったんだけど。
「実は、モーニングスターは無かったんだけどこれならあったんだよね。」
といって取り出してみたのは、なんか大きくなったモーニングスターだった。
「なんで大きくなっているの?」
「分からないよ。けど名前がモーニングビッグスターって変わってた。言いにくい
からこれからもモーニングスターとは呼ぶけどね。」
大きくなったからビッグスターか。安直だなあ。
「そんなに大きいので殴ったらなんでも壊せそうチウ。怖いチウ。」
「はっはっは。ねずお。なんでも壊すためには、こんな武器よりも己の肉体の方が
重要だよ。ねずおの立派な歯みたいにね!」
おっと、珍しい組み合わせの会話になったな。ってそうだ。なんか私以外でみんな
のやりとりがあるわけじゃないから、ここらで私なしでも仲良くなれるようにコミ
ュニケーションをとってもらうのがいいじゃないだろうか。
「・・・なんで、ねずおは呼び捨てでたけのこはちゃん付けなの?」
「たけのこちゃんは雌だからに決まっているじゃん。」
「・・・・・・・・・・え?」
何それ、どうしてそんなの分かるんだこいつ。
中途半端なところで切れてしまいすみません。明日、修正します・・・。
※加筆・修正しました。