第135話「逃走劇」
私の予想というよりも経験則と言ったほうが正しいだろう。これまでプレイして
きたゲームの特性というものを考えると、倒せない敵というのはそう多くない。特
殊なイベント時を除いて、大抵の敵は倒せるようになっている。
<アノニマスターオンライン>においても、それはあまり変わらないはずだ。青
い鳥は、上空から一方的に協力な攻撃をし続けているが、これが延々と続くという
のが考えにくい。消耗してそのうち降下してくるか、あるいは、何らかの形で青い
鳥への攻撃できるタイミングができるはずだ。
「自分の核だけどこかに置いているようなモンスターだったら最悪だね。」
「ブッチ! そういう不吉なことは言わないでよ!」
というように、自分の核となる部分をどこかに隠しておいて、それに攻撃をすれば
簡単に倒せるというような敵も存在する。この場合はそれを探すまでが一番苦労す
るので、今回がそれだった場合、大変だ。
「核がありそうなタイプには見えないですけどね。傷つけられたらあんな風に怒
り狂うってことは単なるナルシストタイプというか、そんな感じな気がします。」
ダメージを少しでも食らうと、ものすごく強化される敵もいるなあ。そういうの
は一撃で倒すのが推奨なんだよなあ。とはいえ今回のはボスっぽいから厄介だ。
「あの規模の攻撃だし、あと2、3回ってところかな。」
その後地上に降りてきたところを、徹底的に叩くしかない。というかそこでなん
としてもとどめをささないと、次のチャンスは無いだろう。
逃げられたら困るので、時間凍結も使わざるを得ない。また使って動けなくなっ
たら嫌だけど、こればかりはしょうがない。出し惜しみしていられる状況じゃない。
このままだと全滅も在り得る。というか今が運よく生き残っているだけとも言える
状況だ。四の五の言ってられない。
「一度撃った場所にはまた撃たないとかありえるのではないですか?」
くろごまからそのような意見がでるとは思わなかった。確かにそういう灯台下暗し
的な考えがあるんだけれど、この場合それをするのが怖い。
「あいつが私達の正確な位置を把握しているとは思えないけれど、おおよその位置
は分かっていると思うんだよね。だから、視界の広くなった場所に出て行ったら、
かえって危険なので私はやめておきたい。」
レトロゲームなんかだと完全に安全地帯になっているなんてことがあるんだけれ
ど昨今のゲームだと、そういうのがないように設定されていることのほうが多いの
で危険だ。ひょっとしたら本当に安全なのかもしれないが、敢えて今やることでは
なかった。
「だから、急いでここからも離れるよ!」
既に移動しながら会話をしているのだが、全力で移動しないと多分、攻撃に巻き
込まれるだろう。昔の時間制限イベントを思い出しながら走る。時間制限イベント
は本当に心臓に悪いのだが、今もかなり焦燥感で一杯だ。VR世界でまさかここまで
の経験ができるとは思わなかったが。
足場も視界も悪い森の中を急いで移動しろという無茶ぶりだ。そして、ここで一
番遅れているのは私なのが情けない。みんな軽快に森を突き抜けていく。なんでそ
んな俊敏に動けるんだよこいつら! と罵声を浴びせたくなる。というかエリーち
ゃんやねずお、リザードマン達なんてこの間まで塔暮らしだったくせになんでそん
な動けるんだよ! 私なんてこの森に何度も通っているというのに。
「ねっこちゃーん? かつごうかー?」
「神輿じゃないしかつがなくていいいい! それにここじゃ無理だろ!」
ブッチは、強引に突き進んでいる。たけのことくろごまはひょいひょい走り抜け
ていく。あんまりだ。なんだこの差は。ふざけている。うぐぐ。木の枝が邪魔して
くるしで散々だ。
「真空波!」
「おわっ!? ちょ。ねっこちゃーん!?」
「あー! ごめん! 枝が邪魔で!」
慣れない道を急いで突っ切るためにはこうするしかない。ここで一番死ぬ可能性
が高いのが私なんだから、もう必死でやるしかないんだ。って言ってるそばからま
た草だの枝だの邪魔だ。どけえええええええ!
「マスター! 私の後ろをついてきてください! ご案内します!」
「ねこますサマ! エダハワタシガキリサキマス!」
なんて素晴らしい二匹なんだ。この二匹は私の忠臣だよ。最高だ。おかげで、動
きやすくなった。かなりありがたい。ん、で、だいこんはどうした。
「ブッチニキの肩は最高やで~! ワハハハ!」
あ、あんにゃろう~。ちゃっかりブッチにしがみついてやがる。調子に乗ってい
るところがまた腹立つ。あいつはああいうキャラだから生き残りが確定しているみ
たいなところが更に腹が立ってくる。いいだろう。今後は沢山移動のお手伝いをさ
せてやるから見とけよ。
「空が光った! ねっこちゃん! 急いで!」
「わああってるよおおおお!」
空から閃光が降り注いでくる。や、やばい。ぬあああああああああ! ここで死ん
でたまるかあああ! 私はしぶといんだぞ! だっだっだああああああ!
そして次の瞬間、私のすぐ背後から一面、森が消滅した。間一髪で避けられたよう
だが、心臓に悪すぎる。威力は、下がっていないようだ。あと何回これを撃ってく
るんだ。くそう、今さらながらこんな奴の相手をしなきゃよかった。
「ぐぐ。」
「次の攻撃が来るだろうからここも急いで離れないと。」
「あ、あと2回くらいだと信じたいよもう!」
「頑張れ !頑張るんだねっこちゃん!」
「スポ根は勘弁してくれ~!」
森の中をこんな走り回らなきゃいけないとか、何の訓練なんだよ全く。あれ、とい
うかちょっと賢いことを思いついてしまったぞ。いや、でもそれをやるのはちょっ
と色々問題ありそうだしなんか狡い気がしてきたけれど。
「ねこますさん! 多分ログアウトしてもだめだと思いますよ! というか一人で
逃げるとかリーダーらしくないです!」
「エリーちゃんはなんで考えを読めるの! うあああああもう!」
本当に泣きそうな勢いだよ。だってこんな。ねえ? いつ終わるかもわからない
無慈悲な攻撃がやってきているんだよ。それから逃げ出したいって思うのは当然じ
ゃないか。
でも、それをやるということは、たけのこ達をブッチ達に押しつけて自分だけ逃
げるということになるので、本心では絶対にやらないつもりだけど。だけど、これ
はちょっと辛いってば! VR世界だから本当にリアル過ぎて、臨場感がありすぎて
もうなんかこれ現実じゃないかって錯覚しそうだ。
「うおお。いくぞももりーずV! 私達はあの青い鳥を滅茶苦茶ボコボコにする為
に今は逃げ続けるのだ! 必ず役に復讐し、地獄の苦しみを味合わせてやるんだ!」
拳を掲げながら走り出す私。ええい私に続け~じゃなくて私より前に進むんだこ
の野郎ども! って軍隊のノリじゃんかこれ!
「分かりました! ねこます殿! 我々一丸となって誠心誠意走り抜けます!」
「はい! ねこます殿! あたしも自分とねずおの命が大事なので頑張ります!」
ノリに乗っかっるなっての! 本当にこれ軍隊の訓練そのものじゃないか。くそう
あの青い鳥の奴。ここまで私にさせたこと、絶対に許さないからな。
「マスターがやる気に満ちています。あれほどの熱意は薬草並みですな。」
「ねこますサマガ、ヤクソウイガイでヤルキヲダストハ。」
「姉御があそこまで必死になるってすごいことやで。いつも頭の中には薬草のこと
しかないっていうのに、あの青い鳥はやべー奴やで。」
「みんなの頭の中ではもうねっこちゃんは薬草中毒だったんだね。」
「それはもう満場一致ですよ。薬草に心酔し過ぎです。」
「第一ご主人の薬草好きはすごいチウ。」
「オレタチモ、アンナニヤクソウガスキダトハオモワナカッタ。」
「おいーなんかいったか貴様ら~!? わ、私達はあの青い鳥を、幸せを呼ぶとか
言うあのクソッ垂れた青い鳥をぶっ倒すんだからな! やる気をだせい!」
なんかみんなしてブツブツ言ってるがそんなことはどうでもいいんだ。あの青い
鳥とこうやって持久戦をして、最後には勝てばいいだけなんだし。この苦しみの先
には、あいつを倒す未来が待っているんだから、やってやるんだよ。
「ワイが思うに、あの青い鳥はもう死亡確定やで。」
「ねっこちゃんって火が付くときはすごいからねえ。」
「姉御が燃えている時は誰も勝てないと思うやで。」
「俺もそう思う・・・。」
一旦冷静になれ私。攻撃頻度は変わっていない。威力も変わってない。同一威力
のままで撃てるのか、それとも、何発も撃つと範囲や威力が低下するのか。そこも
探れればいいが、そもそも攻撃をされたくはないな。それにしてもここまでの奴が
なんでまたこの森の中にいたのかが気になってきた。
かなりレアなモンスターってことなんじゃないのか。そのあたりは多分倒せば分
かるのかな。
「みんな! とりあえずあいつが降りてきたら! 全力で攻撃ね! 特にブッチは
先制攻撃を頼むよ! 逃げ出されたらおしまいだからね!」
「あいよ! それはきっちりやるぜ! 絶対に逃がさないよ!」
「攻撃のチャンスを逃したらまた同じことしないとですからね! 私も最初から全
力でいきます!」
「あー!! けど気を付けること! 敵が視界から消えるようなことはしないよう
に!」
よく、敵に色んな攻撃をしかけた後に、煙が発生して倒したかどうか分からなく
なるなんて展開があるが、それを避けるためだ。極力そういう攻撃にならないよう
にあらかじめお願いしておく。
「やったかっ!?」
「やめろ言うな。」
大体その発言を言うと、生き残っている可能性が高いんだから。って、あ、まだ何
もしていないじゃないか。思わず突っ込んでしまった。私もかなり焦っているって
証拠だな。というかそれを確かめるために発言したんじゃないよなブッチ。
「ねっこちゃん、ちょっと落ち着きなよ。」
「死ぬかもしれないって時にそれはないっての!」
「いやーVRだしね。」
「死にたくないっての~!」
なんかこうVRで死を体験とか、何回もありそうだなあと思うけれど嫌だ。私は現実
と同じようなものだと思っているので死にたくはない。この間みたいに動けなくな
ったときも嫌だったが、死ぬのはもっと嫌だ。
「じゃあ死ぬ気で逃げるんだよぉおお!」
「やっているんだよ馬鹿野郎~!」
こういう時まで冗談を言うブッチに思わず笑ってしまった。苦笑いでしかなかった
が。
相変わらず、必死で逃げるというとコ○ミのワイワ○ワールドを思い出します。