第134話「光の攻撃」
「グヒュアアアアア!」
青い鳥がこちらに猛烈な勢いで向かってくる。なんだか滅茶苦茶怒っているように
見えるが、攻撃されたことがそんなに悔しかったのか。何にせよこれは絶好の機会
だ。こちらも迎え撃つとしよう。勿論全員でな。
「狐火!」
ブッチに支えらた状態そのままで、青い鳥に向かって口から狐火を吐き出す。相
手が冷気を使うならこっちは火に決まっているだろう。
「グィイイイ!」
青い鳥があっさりと攻撃をかわした。というかなんだあれ。急上昇していくが、
結局逃げるとでも言うんだろうか。いや、何かしようとしているんだ。嫌な予感が
する。
「ブッチ下ろして!」
「あいよっ。ってかあいつなんかしようとしててやばい気がするんだけど。」
ブッチも私と同じ感想のようだ。しかし何をどうするかまでは分かっていない。
「距離をとられるとかえって攻撃がかわしにくくなりますね。となると、長距離か
らこちらに当てられる攻撃が考えられます」
エリーちゃんが、そんな感じでさくっと答えを出した。ありえるな。こちらが手
出しできない空中に移動して一方的に攻撃を仕掛けるつもりなのか。だけど、私達
の正確な位置が分からなくなるんだから無駄なんじゃないのか。それとも。
「もしかして、こちらの動きはばれているんじゃないか。というか、長距離から広
範囲の攻撃をされたら逃げられないような気がしてきたんだけど。」
加えて、高威力というのもあるんじゃないだろうか。ハッタリだったらいいと思
うけれどそんな都合のいい話はなさそうだし。
「つまり、この辺一帯を凍らせるような攻撃が来るってことですか・・・。」
ぐ。これは不覚を取ってしまったということか。けど後悔してもしょうがない。あ
の時もっと攻撃をしていればというのは後回しにしないと。だけど非常に焦る。ど
れだけの攻撃が来るんだろうか。
「空から何かきます!」
くろごまが叫んだ次の瞬間、凄まじい轟音が鳴り響いた。そして私達は、衝撃で吹
き飛ばされた。なんだこれは。真っ白く眩しい光が輝き、森一面を照らした。そし
て、その光が当たった一帯は、綺麗に平らな地面になっていた。運よく私達には命
中しなかったが、こんな攻撃かわすことしかできないだろう。なんだあの青い鳥。
尋常じゃなく強いんじゃないか。
「うぐぐ。」
薬草を食べて体力を回復させる。あれをもう一回撃たれたらまずい。というか命
中したら即死だろうなあれ。かなりまずい。なんであんな鳥がいるんだ。一帯を消滅
させるとかありえないだろう。というか氷系の攻撃をすると思ったら、全然違う攻撃
をしかけてきやがって。
「みんな無事かー?」
「あいよ。なんとか踏ん張ろうとしたんだけど、吹っ飛ばされちゃったよ。くそ。」
「なんですかあの光。ずるくないですか。あれ、乱発できるとかはないと思います
けど、威力がふざけすぎです。」
大体この手の攻撃は何度も撃ってくる事は無いというのがゲームでの常識だけれ
ど、そんな常識をいとも簡単に破ってくるのが<アノニマスターオンライン>だ。
「耐える!逃げる! さて、どっちにする?」
「逃げましょう。理由は、次がいつ来るか分からないからです。」
これはエリーちゃんの意見。
「俺も賛成。ただ、できれば次の攻撃は観察したい。どんな感じで撃ってくるのか
それが知りたい。」
他の皆にも逃げるかどうか聞いてみたが、逃げるということで満場一致した。
「とりあえず真っ直ぐ行って、森を突っ切ろう! ここにいたらすごいやばいと思
うし。」
この状況はまずい。次の攻撃を放ってくるまで結構時間はあると思うが、そのタ
イミングが分からないのでこの場から離れないといけない。再度攻撃されたとして、
それが範囲内だったらきっと死ぬだろう。攻撃に耐えきれる自信は全然ない。
そんなわけで、移動を急ぐことにしたのだが、極力森に隠れて移動することを心掛
けることにした。
私達は全員逃げるように走り出した。こんなところに留まっているのは危険だ。一
刻も早く抜け出さないとだめだ。
「アノ、ねこますサマ。アノトリハ、タオサナインデスカ?」
倒したいんだけど、あいつが空にいる間ははどうしようもない。私は折角のチャン
スをふいにしてしまったし。
「私もできることならやりたいんだけど。あの鳥が空にいるからどうしようもない。」
「だけど、あいつもあれ連発できないだろうし、できたとしても最初みたいな威力
がでないんじゃないかと思う。」
「ワイはそんなことないと思っているで。あんな攻撃を連発出来ないんじゃなくて、
わざとしていない気がするやで。」
青い鳥は、じわじわとこちらを追い詰めていくのを楽しみにしてそうだよなあ。
遥か遠い空から。獲物を狩ることに喜びを感じている奴なんだろうな。全く、綺麗
な鳥のくせに、性格が悪すぎじゃないのか。
「青い鳥~! 幸福なんて全然届けてくれない青い鳥~! びびってないでかかっ
てこ~い!!」
突然、ブッチが叫びだした。こちらの位置がばれるってのに何をやっているんだ。
「こういう挑発はしておくに限るんだよ。言うだけタダだし。あー、あと青い鳥も
こっちに何度も挑発的行為を繰り返してきているからね。偉そうにふんぞり返って
いるって言うなら、俺がボコボコにするよ!」
「マスター。逃げながら戦うというのはどうでしょうか。あの青い鳥の目的は我々
でしょうし。」
「俺もそのスタイルがいいと思っていたんだけど、長時間かかってくるせいで、段
々と面倒になってきてログインを全くしなくなる時があったなあ。」
いや、昔話は良いから、この場から離れよう。
「いつもの私予想! あいつがへばって地上に降りてくると思う人! はいブッチ!」
「え?えーと。本当にぎりぎりになったら下りてくるとは思うけど、そんな危険を
冒してまでこっちにはこないと思うな。」
「あたしは降りてくると思います。ああいうちょっと賢そうに見える鳥が、実は天
然ボケみたいなのがよくあるからです。」
「じゃあ私は、あいつは次にもう一回こっちに来ると思う。」
「マスター、なぜです?」
「この辺りを平らにするくらいなんだから、あいつはそのエネルギーを大量に消耗
すると思う。だから何回でも撃てるってわけじゃないだろう。だから、それが当た
ってないというのであれば、こちらに攻撃しに来るって感じかな。
運が悪いと即死は免れないって言うのが物騒だなあ。でもそれだけの高エネルギ
ーを扱うあの青い鳥はなんなんだ一体。なんて考えていたら、二回目の光、そして
消滅する森林。当然私も吹っ飛んだ。やはり直撃しない。なんだ、どういう結果こ
うなっているんだ。たけのこ森を実験場みたいにして使うなっての。
「なんか私もイライラしてきたなあ。あの青い鳥が正々堂々と向かってくれば面白
いのに、無駄な小細工をしてくるのがね。」
正面からかかってきて、空に逃げたりしなきゃいいのになあ。そうしたらなんかこ
うお互いすっきりするような気がするし。
「その気持ちわかるよねっこちゃん。面倒くさい事抜きにして、さっさと勝負しよ
うぜってなるよね。けどそれで勝負しないで逃げ出す奴はあほかって思うけど。
そういう風にさせるためのモンスターと言えばそうなんだろうなあ。昔のゲーム
でやたら動きが遅くて、攻撃されてからこっちに攻撃が届くまでものすごい時間が
かかったのがあったっけなあ。わざとだっていうのは分かっていてもイライラして
しまうってあるから困る。
「私は、さっさとボスと戦ってあっという間に片づけたいんだけれど、そのための
事前作業が面倒だなーってなってるよ。」
「ねこますサマ。ワタシモハヤクアノトリヲタオシテ、ニクヲタベタイデス!!」
肉は大事だな。青い鳥は多分強いモンスターなんだろうから、味もいいんじゃな
いかなあ。ああー食べたいなあ。おっと、こんなところを見せたら、主としての立
場が軽いものになってしまうな。厳しく行こう。
「今のところ、見られる範囲の空にはいないみたいですね。」
「地上からかなり離れた位置から、こっちを伺っているのか。すごいなあ。」
待てよ、そこまで飛べるんだったら、青い鳥を捕獲して仲間にすれば、色々な場
所のことがよく分かってくるんじゃないだろうか。この青い鳥結構なサイズだろう
から、私の事くらい持ち運んで移動できそうだ。
そうなるとやはり青い鳥は便利な奴だ。確実に倒さないといけないな。どんな事
をしようとも。
「姉御がまた悪い顔しとるで。あの顔の時は要注意やで。」
「ワカッテイル。アレハ、ナニカ、スゴイコトヲオモイツイタトキダ。」
「やはり分かりますよね。マスターは分かりやすいです。」
「三匹とも、何を語っているか知らないけれど、もうちょっと早く移動するよ。こ
のあたりだって危なそうだし。」
それにしても、よくもまあ森の一部を平らにするなんて酷いことをするよな。あん
なの食らったら死ぬっての。そんなのを当たり前のように使われるとか、やれやれ
って感じだ。
「ところで、あの光ってなんなんだと思う。私は太陽光な気がする。」
まぁ適当に言ってみただけなんだが。
「ありえるね。上空でその太陽光エネルギーを集めて照射するってことか。」
なんて予想をしながら走り続ける私達だった。
仕組みなんて分からないけれど、とにかくそういうものがあるんじゃないかという
予想だけだ。だけどこうして予想していたことが後で役に立つこともかなりあるは
ずなので、今後もどんどん予想していこうと思う。
さぁて、そろそろ青い鳥、姿を表せよ。