第127話「森で雑談」
森に入って時は、何か出て来いと思っていたが、帰りは何もでるなと願うことに
なるとは思わなかった。確かに、私がどこか行くと大体帰り道に何か厄介な事が起
きて、その末にようやく解決って流れが多い。
というか行きがあっさりし過ぎという展開ばかりだなあ。これからどこか出かけ
るときは、帰りを一番警戒することにするか。
「エリーちゃん。何か罠があったりはしない?」
「見えてる限りだとないですねー。でも、ねこますさんの事ですし、見えない罠に
引っかかって、そこから別なところに飛ばされるなんてこともありそうです。」
在り得るので困る。というかもう分断はやめて欲しい。私一人だけ別なところに
飛ばされるとかこりごりだ。フレンド登録したから連絡はとれるとはいえ、知らな
い土地にいきなり飛ばされたりしたら最悪だな。
この森は異次元空間につながっているなんてこともありそうだし、たまたま歩い
た先がそういう場所だったなんてあるのかもなあ。
おっと、いけない。こういうことを考えると逆にその通りになってしまうという
のがあるので無心状態になるか。
「ねこますサマ。カエリモブタヲカリマスカ?」
「そうだねー。いたら狩っていきたいね。」
威圧があるのでそう簡単に出てこないだろうから、仮に出て来たら狩りたいな。
それにたけのこはおなかがすきやすいので、そういう意味では出てもらうと助かる。
本当はこのあたりを歩いていればうじゃうじゃ出てきているんだろうけれど、今は
全然いないなあ。
威圧でそこまでモンスターと遭遇しなくなるってことは私って、今どのくらい強
くなっているんだろう。元から野原のうさぎなんかが即死したりするくらだったし
もっと強くなったら、私が近づくだけで色んなモンスターが死ぬようになるとか、
あるのかな。それはやばいだろうなあ。死神というかなんというか。
「帰ったらマスターは、威圧の修行ですね。」
「ねこますさん。このままじゃぼっちになっちゃうと思うので死ぬ気で頑張て下さ
い! しっかりしないと私みたいに一人だけという苦しみを味わうことになります
からね!」
みんなと出かけても私がいるだけでモンスターが出てこないとか、まるで運動会に
参加すると必ず雨になるみたいな迷信のノリだなあ。雨女ならぬ、モンスター女と
でも言えそうだ。一緒にいるとモンスターが出なくなるというのが正解だけど。
「わ、私、帰ったらちゃんと真面目に威圧の修行をするんだ。そんでもって、これ
からは心を入れ替えてしっかりとリーダーらしさを身に着けて。」
「ねこますさん不吉なこと言わないでくださいよ!」
「こういう時に言いたくなるんだからしょうがないじゃん! こうやって先に言っ
ておけば、あほらしさから、死ぬ展開とか起きなくなると思うし!」
こういうことを言うと、帰らずに死ぬみたいなことが起こるというのがよくあるら
しいが、私はそんなものを信じない。認めない。私の前によくある展開がでてこよ
うものなら絶対にぶっ潰してやるのだ。
「やっぱりこの森は広いなあ。攻略するのが本当に大変そうだ。現実の樹海だとか
ああいう場所も実際に行くとなったらすごい大変なんだろうなあ。」
「そう言われると行きたくなりますよね~。」
私は現実では行きたくないなあ。だって迷ったら死ぬし。好奇心旺盛なのはゲー
ムの中だけにしておきたい。現実で遭難なんて考えるだけで嫌だ。食料が尽きて水
もなくなり、誰の助けもないまま、消耗していき、最後は白骨化ななんてことにな
りかねないじゃないか。
それとも何だ、このゲーム内で慣れておけば、現実でも登山なんかの練習になっ
て現実でも役に立つようになるんだろうか。現実のための訓練みたいな。
「それにしても、ここ、さっきも見たような気がするなあ。」
似たような道が続くのでそういう錯覚がある。
「やめてくださいよ! まるで迷ったみたいな言い方は! 縁起でもないですよ!
ねこますさんだとそういうことが本当になりそうで心臓に悪いです!」
えー。だって本当にさっき見た気がするし。いや、本当に。というかこれまじで同
じところぐるぐるとかなってない? これ、いつものループきてないか? まさか
そんなことはないよな。
「ねこますサマ。グルグルハシテナイトオモイマス。」
「マスター。似たような道が続いてますが、今のところは大丈夫です。一応私も目
印になるものをつけてみましたが、繰り返してないようです。」
何だ良かった。流石に毎度そんなことがあったらたまったもんじゃないので、今
回そういうことにならなくてよかった。これが普通なんだろうけど。
「もう、ねこますさん。びっくりさせないでくださいよ。ここでダンジョンか何か
が現れてまた閉じ込められるみたいになったら嫌ですよ私は。」
そりゃ私だって嫌だよ。特に魔者の塔みたいな100階建ての攻略をまたやれなん
て言われたらブチ切れるかもしれない。もうちょっと気楽に行けるようなところだ
ったらいいけど、出られずに帰れないのはきつい。
「でも、繰り返しが発生する場所って何か重要な場所でもありそうなんだよねえ。」
魔者の大陸の秘密だとかが眠っているような気がする。そういう浪漫がある気が
しているので、積極的に行きたくはないけれど、見つけたいとは思っている。
「マスターは、この大陸中を見て回ってみるのですよね?」
「色んな謎がありそうだからっていうのもあるし、この大陸を脱出するための方法
を探すのにはこの大陸の事を知らなきゃいけないからねえ。」
闇雲に動くだけじゃダメっていうのが辛い所だ。私達が立っているこの大地だって
本当に大地なのかも怪しいくらいなんだから。
偽物の大地というか実はここが巨大な浮遊大陸だったなんてオチだったらどうし
ようかなあなんて思うし。逆にここが地底の国だったということも考えられるな。
魔者の大陸とはどんな場所なのかすら分かっていない。その情報は、ひたすら移
動しまくって探して行くしかない。ここから脱出するためには、それしか方法がな
いんだから。
「あ、ここは通った記憶がある。おおし、今回は結構簡単に戻っていけそうだ。や
ったね。」
地味に嬉しいんだけど。面倒くさいことが起きないのは最高だな。
「そう言って、何か巨大な反応が近づいてくるとか言い出すんですよね。私は分か
っていますよ。ねこますさんといるとそういうことが絶対に起きるんだって。」
「ねこますサマ。マタオッキイクロブタカリタイデス。」
もっと別な何か出て欲しいなんて思ったけど、今回は出なくていい。普通にここま
できて、普通に帰る。それができれば満足なんだから。たまにはあっさり終わった
っていいじゃないか。
「ひょっとすると、マスターは強者を呼び寄せてしまう隠れた才能があるのかもし
れません。スキルというよりもそういうのがあるのではないかと。」
そんな特殊な才能要らないよ。むしろブッチに上げたい。私だって戦って勝つのは
好きだけれど、強者を呼び寄せるなんて修羅の道に行けとでも言うのか。そこまで
殺伐とした世界に身を置きたくはないぞ。
今まで戦ってきた敵を思い返してみると、毎回苦しんで倒しているからなあ。そ
んな私を苦しめた奴らが何度も何度もやってくるなんて、よしてくれ。
「あ、しまうま、正確にはソルジャーゼブラだけれど、あれも1回倒したきりでも
う全然でてこないんだよねえ。」
ひょっとするとなんだけれど、あのしまうまが荒れ地で危険なモンスターだった
ってことにならないんだろうか。
つまり、あの森にいたのは休息のためで、実際は荒れ地で日常生活を送っていた
可能性もあるんだろうなあ。それなら楽なんだろうなあ。
「危険なモンスターもねこますさんがいれた容易く倒せてしまうなあって私は思っ
ていたんですけど、倒せなかったモンスターっていました?」
「あれ、そう考えるほとんど闇に葬り去った気がするよ。」
勝てなかった相手は、毒狸の母だな。あー、あいつさっさとぶっ倒したいなあ。や
たら偉そうな振る舞いをしてきたのを覚えている。あんな偉うな奴は即刻倒すべき
だと思っている。
そんな毒狸の母をなんとかして葬り去りたいけれど、あいつを倒してしまうと、縄
張り争いが勃発しそうなので、注意しよう。
「こうして雑談しながら移動するのってなかなか楽しいですね。」
「ブッチのくだらないボケを聞かなくていいのは最高だね!!!」
何かあればすぐに、ボケてつっこませようとするからなあ。頼りになるんだがあ
のボケがどうにもならないからなあ。
「真面目になったブッチさんがいたらよかったなーって思いますよ私。」
それはそれでなんかちょっとなって思うところがあるな。声に出さないけど。あの
不真面目な奴がそんなことになったら怖い。なんか病気になったんじゃないのかと
問い詰めたくなるな。
「私がねこますです。真面目一辺倒に生きています! 清く正しい般若レディとし
て今後も誠心誠意努めてまいりますのでご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします。」
「マスターが真面目な言葉を!?」
「ねこますサマカッコイイデス!」
「ねこますさんが真面目になってもブッチさんと同じような結果というか不気味さ
だありますね。」
折角頑張って演じているんだからそこは褒めてくれてもいいじゃないか。
「そんなことよりも、もうすぐ出られそうだけれど、入り口辺りでちょっとうろち
ょろしてみようか。何かイベントが発生したりなんてありそうだし。帰ったらブッ
チがやられてたなんてオチも期待できそうだなあ。」
ちなみに、もしだいこんやねずおがやられていたらそれはブチ切れよう。復活ができ
ないのだからそこはしょうがないだろうし。
「そうですねって。もう出口付近です。なんか随分歩いた感じがします。ああ簡単に
戻ってこれてよかったです。ねこますさんのジンクスもついに破れましたし!」
いいことだ。定番を壊すのがこの私だ。というわけで、このあたりを少しうろうろ
してみてから草原に帰ることにしたよ。




