第126話「黒豚のマフラー」
メッセージ:黒豚のマフラーを手に入れました。
巨大黒豚の肉を食べきると、そんなメッセージが表示された。どんなものなのか
気になったので、すかさず装備してみた。
メッセージ:黒豚のマフラーを装備したことでスキル「重圧」を使えるようになり
ました。
私の首元に真っ黒いマフラーが巻き付けられた。何の柄もない、真っ黒なマフラー
だった。う、うーん。もうちょっと可愛らしさが欲しかったなぁ。それにこれでは
豚と何の関係があるんだよと言いたくなる。豚の鼻とかなんでもいいのでそういう
のを付け加えることはできなかったんだろうか。
「今、手に入ったんだけど、どうかなこれ?」
自慢げに見せてみるが、反応が良かったのは、エリーちゃんだけだった。
「なんですかそれ。黒くていいじゃないですか! 私も欲しかったです!」
サキュバスっていうと悪魔なわけだし、確かにこの真っ黒なマフラーを装備する
のは合っているかもしれないなあ。あげてもいいかなあなんて思ったけれど、もっ
とふさわしい相手がいる。
「がう?」
たけのこの首に巻き付けてみる。すぐ外れるかと思いきや、うまくたけのこに装
備することが出来た。首輪替わりというと変だけれど、似合っているな。いい感じ
だ。スキルが使えるかどうか確認する。
「たけのこ、それは黒豚のマフラーって言ってね、重圧ってスキルが使えるように
なったみたいだから試しにやってみてくれない?」
「ワカリマシタ! 「重圧!」」
たけのこが前方に向かって重圧を放つと、空間が歪んだようになった。重さ、あ
るいは重力を増加させるスキルのようだ。巨大黒豚が放ってきたのは正にこれだっ
たんだな。これで相手の動きを足止めしたりできるのがいいところだな。
私の浮遊と組み合わせれば、調子を狂わせることができそうなので相性がいい。
私とたけのこで一緒になって戦う時はかなり良い感じになるな。
「たけのこちゃん似合ってますね! いいなぁ。私もその黒豚を狩れば手に入れら
れたりするんでしょうか。」
「でかい黒豚だったからボスだったんじゃないかなあ。私も初めて見た大きさだっ
たし、滅多にでてこないだろうから難しい気がするよ。」
「そうですか。うう、そう思うたら余計羨ましく思います。」
確かに、滅多に手に入らない物って聞くと羨ましくなるよなあ。けどそうは言う
けど私達だった結構色々持っているんだから、たけのこが一つそういうのを持つの
は自然なことだったと思う。
今までたけのこ用の装備とかそういうのがなかっただけに。けどこうなってくる
とだいこんが、自分だけ何もないとせがんでくると思うので、今度なにかいいもの
がないか探さないとなあ。あっ、ねずおの分は、エリーちゃんが頑張ってくれると
思うのでそっちは任せないとな。
「あれ、今更だけどエリーちゃん。ねずおは連れてこなくてよかったの?」
「一応声はかけたんですよ。家作りの方をじっくり見たいって言ってたので、じゃ
あいいかなぁなんて思ったんです。」
ねずみって狭い所とか興味があるんじゃなかったっけ。そうなると家の隅っこと
かが落ち着くのかもしれないから、見たくなったのかな。部屋の隅でじーっとうず
くまっているねずおか・・・。想像してみると結構かわいい気がするな。
「みな、自分のやりたいことをやっているのですなあ。拙者も、マスターをお守り
できるくらい強くなりたいものです。」
「くろごまがどんどん強くなってくれるとありがたいね。私も主として、というか
ももりーずのリーダーにふさわしいレベルになれるようやってくよ。」
「ねこますさんはやる気でてますね。その調子で王者を狙ってください。」
「現状、魔者の大陸にいる最強の敵は、レッドドラゴンを想定しているんだけれど
そいつを倒すのを目標にしようかな。」
この大陸から脱出するのにレッドドラゴンを倒さないといけない気がする。ただそ
れは、リザードマンのイッピキメとニヒキメを倒す必要があるなんて物騒な条件が
あるので、どうしようかとも思っている。
今さら倒すって言うのは気が引けるし、他の条件もあると思うので、それを探し
てみないといけないな。
それで、レッドがいるってことは、ブルーとかイエローとか別な色がついたドラ
ゴンもいるんじゃないかなぁと思うんだよねえ。けどそんな誰でも思いつきそうな
モンスターがでるわけはないだろうなあ。
「この大陸ってどれだけ広いんでしょうね。」
「そこから確認しないといけないんだよねえ。このたけのこ森も前回探索した時は
結局出られないまま終わったし。どんどん奥に進んでいけば何かあるかもしれない
から、今後頑張って調査するよ。」
どこから攻略していくかという悩みもあるな。後は、全員で行くことにしたいと
いうのがあるけれど、予定とか考えないといけないなあ。場所によっては何時間も
拘束されるだろうし、ゲームプレイ時間が限られている平日なんかは向かうのが難
しくなりそうだ。
「あっ、あとあれか。荒れ地にいる謎の敵とか、そいつがなんなのかとかさぁ、こ
の間坂道で戦った鳥とかもうそういう連中を闇に葬り去れるようにならないとこの
先どん詰まりだから、みんなにも協力してもらうよ。」
私も一人で倒せるくらいにはなるつもりだが、一人だと何をするにしても時間が
かかるのがオンラインゲームなので、協力は求めていかないとね。
「ねこますサマ。ブッチドノガ、ねこますサマハ、ドコヘイッテモ、ナニカニマキ
コマレルカラオモシロイッテイッテマシタ。」
「あんにゃろう。」
「でも、ねこますさんって確かにトラブルに巻き込まれやすい気がします。」
なんでなんだろうね。私は、普通にゲームをプレイしているだけなのに、いつの
間にか変なことになっているっていうのが多い。そう考えると、私がどこかに冒険
しにいくだけで、洞窟や塔がでてきたりなんてことがあるんだろうなあ。
般若レディの特徴に、巻き込まれ体質なんてものがあるんじゃないのかとさえ思
ってしまう。
魔者の塔の部屋にあった本でも、もっとじっくり読めばいいのかなあ。あそこま
でまた行くのがだるいっていうのはあるけど。それは錬金術士の杖からまたあの魔
者の声でも聞こえてくるのを待つかってところか。
あいつが、次はここに行くのだ的な道しるべにでもなっているのかと思いきやあ
れから何もないので、自由にやっていくのが一番いいんだろうなあ。
「はー、美味しかったです! 現実に戻ったら空腹なのは何ですけど、こうして美
味しいものが食べられるなんて最高ですね。このゲームで美味しい物を追求してい
きたくなってきますよ。」
本当に、どういう仕組みでそんな味を表現することに成功したのか気になる。あ
らゆる物に味の設定とかついていたりするのだろうか。そうなると、ゲテモノなん
かにも手を出すプレイヤーもいるんだろうね。
「食べ終わったことだし、後はいつも通り骨が残ると思うんだけれど。あれ?」
メッセージ:黒豚の豚骨を手に入れました。
いつもと違うじゃないか! なんだよ黒豚の豚骨って。これでラーメンでも作れっ
てことなのか。今までは獣の骨だったのに。そしていっぱい手に入ったな。個数と
して50個か。これは、いつもみたいに投げたりしたら勿体ないな。
「何か手に入ったんですか?」
「うん。いつもは獣の骨っていう気を引くくらいしか役に立たなそうなアイテムだ
けだったんだけれど、今日は、黒豚の豚骨なんてものが手に入ったよ。」
「ラーメンを作れという天の啓示ですよきっと。」
やっぱりラーメンを想像するよね。錬金術でラーメンが作れたりなんてことはない
のかなあ。そんなことになったら面白いんだけどなあ。折角こんな食材が手に入っ
たんだったら有効活用したい。あとは料理人がいればその人に渡して作ってもらう
とかだろうなあ。魔者の大陸にいる限りは無理だろうけれど。
「今すぐは使えないから、保管しっぱなしになるね。ラーメンは確かに食べてみた
いんだけど。」
「ねこますサマ! ラーメンッテオイシインデスカ!?」
食べ終わったばかりなのに涎をたらして私を見つめるたけのこだった。食べ物への
好奇心は揺るがないんだね。
「そうだね。美味しいよ。なのでいつか食べさせられるように頑張るからね!」
「ハイ!」
尻尾をふりふりしながら、嬉しそうに返事をするたけのこだった。可愛いなあ。
「マスターの作る料理。楽しみですなあ。」
おっと、くろごまも期待しているようだ。そうかラーメンかあ。いつになるか分か
らないけれど、ラーメンを食べるって言う目標も立てておくとするか。また一つや
りたいことができてしまったな。
「それじゃあ、そろそろ戻りますか。」
「そうだね。ちょっと奥に来ちゃった気がするし、戻ろうか。」
元々はいつもの黒豚が出なくて狩りができないってところから始まったことだっ
たが最後は何事もなく終わってよかった。なんて思ったんだけれどそうだよ。私が
威圧を制御できていないんだから、これからその特訓をしなきゃいけなかったんじ
ゃないか。本題を忘れてしまってどうするよ私。
ちょっと奥まで行けばこういうボス級の黒豚がでるのかもしれないけど、仮に毎
回こいつの相手をしなきゃいけないとなったらそれはそれで大変だ。そのためには
やっぱりきちんと威圧の制御ができるようにならないとな。
「ねこますさん。威圧の件を忘れてましたね。」
「マスター。そして今、思い出しましたね。」
私の表情を読み取らないでくれ。その通りなんだから。うう、いい感じで話がま
とまってすっきりして帰ろうって流れの中で思い出してしまうとは。ああそうか。
練習しながら帰れってことか。
「キョウハ、ねこますサマト。ブタガタベラレテヨカッタデス。」
そうだねえ。これまで普通にできていたことなんだから、また同じようにやるため
には練習あるのみだね。
「みなさん、帰り道は油断せずに行きましょう。何か起こるかもしれませんし。」
「そうですね! あたしも何か罠とかできていないかちゃんと探します。」
「ツヨイモンスターガ、オソッテクルカモシレマセン。キヲツケマショウ!」
みんながちらりと私の方を見た。帰りになると私が口を酸っぱくして言ってること
をみんな覚えてしまったという事か。というか私が毎回帰り道に何か問題を発生さ
せているからみんな警戒しているという事か。
くそー! 今回は何も起きるなよ!
帰り道には何も起こらないと思います!




