第123話「たけのこ森の黒豚」
威圧を消すために集中してみたが、状況は何も改善しなかった。そんな容易くで
きるとは思わなかったけれど、折角ここまで来たというのにと残念に思った。たけ
のことは特に久々の狩りだっただけに少し落ち込んだ。
自分より弱い奴といちいち戦わなくてよくなるというのは便利な反面このような
悪い面もあるので、ここで操作が上手くできるようにならないと困ることが多くな
るだろうなあ。私としては雑魚狩りとかそういうのを、のんびりやりたいというの
があるので、それが出来なくなると非常に困る。
「私は威圧のコントロールを練習するから、みんなは黒豚探しに行ってきていいよ。
遠慮せずに! さぁさぁ!」
苦渋の選択と言うか、私がいると黒豚が発見できないというのであれば、一旦離
れたほうがいい。どれくらい時間がかかるのかは分からないのが嫌だけれど、それ
まで待たせるというのは嫌だ。
こういうのって漫画なんかでは切羽詰まったり、追い詰められた時にいきなり発
動できるようになることもあるので、そういう機会を伺うというのもありだろうけ
れど、そんなのはいつになるか分からない。
「ええー。折角ここまで来たんですし、もう少し一緒に探してみましょうよ! そ
の黒豚だけじゃなくて他にもいるかもしれないじゃないですか。猪とか。」
「えー。いるかなぁ。」
たけのこ森には何度も足を運んでいるはずだが、猪なんて一回も出たことがない。
そういえばしまうまもあれっきり出ていないけれど、そういう感じで何かが出てく
るというのはありえるかな。
「ブッチさんから聞きましたけれど、たけのこ森って不思議な現象が起こるらしい
じゃないですか。」
「あー。まあねえ。」
蜂女王や電撃蜂がいたんだもんな。というかこの森を抜けたことも一回もないし
確かに奥の方に行けばあの時みたいな不思議な事が起きるかもしれない。とはいえ
軽くここまできたノリで奥まで行くつもりはない。戻ってこれなくなったら嫌だし
何より今は面倒くさいし。
「マスター。確かにこの森は異様な気配を感じます。何かがいるような、それでい
て何もいないような不気味な感じです。」
「それ完全にホラーのノリですね!」
なんで楽しそうなのエリーちゃん。そこはキャー怖いとか言うところじゃないの。
なんとなくそういうキャラっぽい気がしていたのに。
「ねこますサマ。ワタシモネコマスサマとイタイデス。」
涎垂れてるよたけのこ。お腹空いてきているのは分かってるんだから我慢しなく
ていいんだよ。あ、ドラゴンフルーツがあったしこれをみんなで食べるか。
「ひとまずこれを食べようかみんな。」
というわけでドラゴンフルーツを配り、少しはお腹を膨らませておく。これでたけ
のことくろごまは大丈夫だろう。けど、これだけじゃちょっとなぁ。なんとか肉ら
しい肉系モンスターを倒したいところだ。ん?
気配感知に何か引っかかった。なんか大きい反応だ。さっきまで何もいなかった
のになんだろう。なんだ。まさかボスじゃないよな。こっちに向かってくる気配は
ないけれど、迂闊に近づくのも嫌だな。
「何かいるみたいだから、一旦森から出ようか。」
「え? それってボスか何かってことですか?」
「多分そう。だけれど、どんな相手なのかは分からないし、戦うにしても、私達だ
けっていうのはちょっとね。」
「えぇ。ねこますさん。そこは慎重すぎませんか? たまには冒険してみてもいい
気がするんですが。」
魔者の塔を出てからエリーちゃんは結構テンションが高くなってきたするなあ。
よほどあの中が嫌だったのか、今はすごい生き生きしている。そして周りが少し見
えなくなっている気がする。警戒心が低いというか、盗賊なのになんというか。
ここでやめておこうかと言える気配じゃないのは分かっている。というかこうい
う時に反対すると、一人で突っ走られるだろうし、かといって、反対したら仲間割
れが発生するだろうし、ん? 仲間割れか! 絶対一度は経験することになると言
われる定番イベントじゃないか。
よし、ここは心を鬼にしてエリーちゃんの不満を貯めさせよう!
「冒険なんてくだらねぇぜ! このねこますは安定した生活を夢見取るんじゃ!
どうしてもこの先に行きたきゃあ、あっしを倒してから行きなされ!」
やばい、仲間割れにわくわくした結果、変な台詞を吐いてしまっている。だけど
これでエリーちゃんが、分からずやーとか言って走り出して追う流れになったと思
う。よし走れ!
「ねこますさん。もういいです。私、先に行ってますから! 多分こっちですね!」
いきなり走り出したエリーちゃんだった。そっちに行くなあああ! 全然違う方向
だよ! せめて気配感知した方向にいってくれ。あ、でもそれじゃだめか。
「エリー殿は多分マスターの事を察したんだと思いますよ。」
「ねこますサマ。カンガエテテイルコト、ケッコウワカリヤスイデス。」
そんなに分かりやすいのか? 何なんだろう。この般若の顔って表情とか大きく
変わることはないのに、どうしてみんな分かるんだろうなあ。不思議だ。一緒にい
るとそういう微妙な変化が分かるように・・・なるな。うん。
私もブッチが何を考えているのか分からないなんてことが少なくなった気がする
し表情というのが出るわけじゃないけれど雰囲気で今こんな感じだなあというのが
分かるようになった。つまり、そういうことか。近くにいるとそういう細かい所が
理解できるようになるってすごいことだな。
なんて感心している場合じゃないな。とりあえず追うとするか。ってあれ、それ
じゃあエリーちゃんはなんで走り出したんだ。私の事を察しているのに、あ。まさ
か仲間割れイベントまで想定内だったとかか。うっわ私恥ずかしい。そこまで読ま
れているとしたらなんかこう、ね。
「とりあえずエリーちゃんの走っていった方向に行こう」
道に迷うとかは無いと思いたい。エリーちゃんは盗賊だし、こういうところだっ
たら大丈夫だと思う。大丈夫じゃなかったら、まぁその時はその時か。
そこから、エリーちゃんを追って私達は、移動し始めたんだけれど森の中って木
の枝とかが結構邪魔で動きにくいんだよなあ。追いつくまで結構かなりそうだ。あ
あもう、木の枝にぶつかる。こっちは急いでいるというのに、まるで邪魔されてい
るみたいに障害物が多きがするなあ。
でもこんな、入り組んでいたところあったかなあ。これもこの森の不思議な力と
かそういうものなんだろうか。
「エリー殿はかなり俊敏に駆け抜けていってるようですな。」
「そうだね。それとくろごまもたけのこもそんな楽々進めてすごいよ。私なんてこ
う足場が悪いと動きにくいし、障害物多くてもう大変だ。」
これじゃあ追い付けないんじゃないのかと思い始めてきた。くそう、もういっそ
前みたいにこの森を燃やしてしまうか。邪魔なものが多すぎる。
「ねこますサマ。ダイジョウブデスカ。」
「うん。とにかく、こっちに行ったことは確かなんだからって。あ、何言ってるん
だよ私。メッセージでやり取りができるじゃないか。」
なんか急に冷静になった。馬鹿じゃないのか私。ちょっとメッセージを出してみる
とするか。ん?
メッセージが拒否されました。
なんとなぁく予想はしたけれど、まさか拒否されるとはねえ。やはり仲間割れイベ
ントは最高だぜ。自分の頭に血が上ってくるのが分かる。そうだ、こうやって血で
血を洗うのが仲間割れなんだ。こうして醜い争いを繰り広げて最後には大団円を迎
えるのが仲間割れイベントなんだ。私はやってやるぞ。この流れは最後は決闘とか
そういう流れでしょ。こんにゃろう。般若レディをおちょくったらどうなるのか目
にもの見せてやるぞ!
「エリーを探せぇ! 見つけ次第やるぞぉ!」
「ま、マスター!?」
「ねこますサマ!?」
草の根分けてでも、いや実際もうわけているようなもんだけれど探してやる。いい
じゃないか鬼ごっこ。付き合ってやるよ。地の果てまでも。この森で迷う事なんか
もう知るもんか、いいか私。私が本気になればこの森なんて簡単に焼き尽くしてや
ることができるんだから、徹底的にやってやるぞおおお!
「真空波!」
邪魔な障害物はこれで斬っていく。回復はドラゴンフルーツだ。蜂蜜も使ってや
るぞ。くっくっく。本気になった般若レディから逃げられると思わないことだ。よ
く魔王から逃げられないなんて言葉を目にするけれど、般若レディは獲物に逃げら
れても逃がさないぞ。経験値の高いモンスターがすぐ逃げるとかがあるけれど、私
はそいつらをどこまでも追い求めて闇に葬り去ってきたんだ。
「お、おぉ。マスターが本気に。」
こんな困らせるようなことをするエリーちゃんにはお仕置きが必要なんだ。私が折
角安定した生活を勧めているというのに、危険な事は極力しないで石橋を徹底的に
叩きまくるのがいいというのに。
「おっと、何かが気配感知に引っかかった?」
ここで今さら黒豚が出てきましたなんて言われても納得がいかないな。とにかく
今はエリーちゃんを追いかけるのだ。ふふふ。私の方がたけのこ森を歩いた経験は
長いはずなんだから絶対追いつけるって! 信じろ私! うおあああああ。
「ねこますサマニ、ヒガツイタミタイダ。」
「あの状態のマスターは、誰にも止められない気がします。」
走っている最中に足跡っぽいものを発見する。これはエリーちゃんかなあと思っ
たけれど、本当にそうかどうか分からないので無視する。これが偽の足跡だったり
する可能性もある。とにかく一直線に突き進むのみ。それで見つからなかったらそ
の時はその時ってだけだ。
「ブゴゥウウウ!」
なんかこちらに向かって叫んできた黒い物体がいた。こいつ黒豚! だから今更で
てくるんじゃないっての。あれ、こいつ、結構大きくない・・・か。いつもの3倍
いや、4倍くらいでかいじゃないか。んげげげげ。
「ブゴゴゴゴゴ!」
「っ!?」
目に見えない衝撃のようなものが襲い掛かり私は吹き飛ばされた。なんだ今のは。
超能力みたいなやつか。というかこの状況、仲間割れイベント時に突然強敵が現れ
て、共同戦線になって、なぜか仲直りするとかいう展開になるんじゃないのか。
「たけのこ! くろごま! こいつ手強いから気を付けてね! でもぶっ倒す!」
元々の目的はこの黒豚だったはずだ。折角だしこいつを狩るとするか。
というわけでエリーちゃんもどこかにいるなら出てきてね!
仲間割れに対して突っ込みたいことって今まで何度もあったので書いてます。