第121話「丸太の家」
「まずは丸太の家を作ってみようと思っているんだけど。」
ブッチは丸太を組み合わせて家を作ろうとしているようだ。ログハウスなんかが
これだった気がするけれど、どうやって作るのかまでは私には分からない。家と言
うものがどういう風に作られているのかは全くの専門外だ。
木造以外だと、煉瓦だとか鉄筋コンクリートだとかあったかなあ。工事現場の看
板なんかにどういう構造なのかは記載してあった気がする。うーん。やっぱり知識
がないと作るのは難しそうだなあ。
運ぶのはブッチに頑張ってもらうとして、私は鋸でざくざく斬っていけばいいの
かな。枝が沢山ついているのでこれが邪魔だな。
「魔者の大工セットの中に斧があったから、これで俺も余計なもんは斬っていける
よ。ただ、その後組み立て方とか全然分からないからなあ。」
だよね。いきなり家を作ってみようなんてなったところで未経験の者がやれるか
どうかで言えば出来ないってほうが当然だと思うし。ネットで家の作り方なんて調
べれば出てくるだろうからそうしたほうがいいのかな。
「一応言っておくけど、まずはネットに頼らずやってみようと思っているんよ。行
き当たりばったりで何かするのが楽しいし。で、最初は、この丸太にある枝を刈り
取りまくることにしようか。」
「ねこますサマ、ワタシモテツダイマス!」
「拙者も手伝います。」
たけのことくろごまが、枝の刈り取りを手伝ってくれるようだ。おい、そこのリ
ザードマン二匹も手伝わないか。
「コノエダヲカレバイイノカ?」
「そうだよ。その曲刀でやってみなよ。」
何て言ってたら。え、一瞬のうちに枝がなくなったぞ。なんだこいつ何をした。そ
の曲刀で簡単に枝を切り取ってしまったとかそんな技巧派だったのか?
「コウイウサギョウハトクイナノダ。」
イッピキメもニヒキメも鼻高々のようだ。何なのこいつら。凶暴そうな見た目と裏
腹に、実は几帳面とかそういう感じだったのか。
「あー。君たち二人とも、この丸太を四角くしてみることはできないよな?」
ブッチが提案してみる。やめろ。このタイミングでそういうことを言うと、簡単
にできてしまいましたって流れにしかならないだろう。うわぁ絶対そうに決まってい
る。なんでお前ら曲刀なんて武器で器用に削っていけるんだとかさあ。
「ソレクライナラタヤスク。」
言うなり、二匹のリザードマン達は、あっという間に丸太の木を角材にしてしま
った。何だよその特技。お前ら前世は大工だったのかとでも言わんばかりの技術力
だ。こいつら、頭にタオルでもあてて、ぶかぶかのズボンでも履けばもう土方にし
かみえない気がする。
「なんか俺の立場がない気がするんだけどまあいっかー。それと今回は角材じゃな
くて丸太で家を作るわけだし。俺は負けたわけじゃないんだぜ!」
虚勢を張るブッチだった。張り合わなくてもいいじゃないか。得意な事で勝負す
ればいいだけだろうし。なんて言っても聞かないか。やるからには1番を目指さな
いと気が済まないタイプだろうし。
「マルタデイエヲ。フム。デハコノアタリニミゾヲツクレバイイノデハ。」
「ソシテコレヲハメコンデイクヨウナカタチデ。」
何コイツら、なんでそんな詳しいの。言ってることとかなんとなく分かるんだけれ
ど、なんでそういうやり方が分かっているんだ。
「ナントナクデ。」
もう、こいつらに家を作らせればいいんじゃないだろうか。こんなのもう蜥蜴工
務店とか蜥蜴兄弟建設みたいな感じだし。できるだろ、この二匹なら。更に私の持
っている鋸とかブッチの持っている大工道具も渡したらもっと色々やってくれるか
もしれない。
「お、俺は持ち運ぶことができるしさあ! ほら、ここからもうちょい先の所まで
持って移動するよ! そこに丸太の家を作ってみようよ!」
力でアピールするブッチだったが敗北者にしか見えなかった。けどそうやって運
んでいくことだってすごいんだから自信を持てばいいのに。ああ負けず嫌いなだけ
なのか。
「そんじゃまぁ私達は、もうちょい頑張ってみるとするか。」
「オレタチニマカセテクレレバイイノデハ?」
「これから任せておくけど、こういうのって一度みんなでやってみないことには成
長しないんでやっていくんだよ。得意な奴がやればいいというのはあるけれど、そ
れだけ、どれくらいのことをやっているのか分からなくなっちゃうし。」
人が簡単にやっているということを見てしまうと、自分も簡単にできるのではな
いかという錯覚に陥ることがある。これは非常に厄介なことで、容易くできると思
いこむことから、できる相手を評価することもなくなる。そこで、できる誰かがい
なくなったところで、その作業をやることが自分に回ってくるとする。そしたら、
全然出来なくて、できるということがどれだけすごいことなのかに気づく。
だから私は、極力やったことがない作業はやってみようと思っている。それをや
らないでいたら後でやらざるをえない時になったら困るし、やったことがないから
なんて逃げてばかりいたら、何も成長することができないから。
「姉御はこうやってたまに良いこと言い出すからすごいと思うで。」
「たまには余計だっつーの。」
みんなにこうして欲しいと言うわけではないが、ゲームでくらい苦手な事でも何で
もやってみようって気持ちが大事だと伝えたかっただけだ。
「お。ねっこちゃん。またなんかかっこいいこと言ったんだね。でも1番かっこい
いのはこの俺だから誰にも譲らないよ!」
ブッチが一旦こちらに戻ってきていた。そしてまた丸太を担ぐ。
「丸太の家を早く作りたいなあと思っただけだよ。」
「俺たちのマイホーム! というよりかは、だいこんちゃん達の安全地帯として
作れると良いんだけど、できるもんなのかな。」
家の中に入ったから安全なんて無いんじゃないのかなあ。家を作ると安全地帯に
変化して、モンスターから一切襲われないようになる、ってことになったら面白
いだろうけれど、難しいだろうなあ。
「俺たちはログアウトすればいいだけなんだけどねえ。だけどたけのこちゃんと
かはそうもいかないのが問題だね。」
今のところ、たけのこ達のために安全地帯を確保する必要があるので、それも現
在の課題だなあ。洞窟にいてもどこにいても、RPGによくあるセーブポイントみ
たいに安全な場所があればいいんだよなあ。そこにいれば、死なないってこと分
かって安心してログアウトできるし。
「このゲームにセーブポイントみたいなところがあっても、セーブポイントの周
辺を壊されたりして、脱出できなくなるなんてのも考えられそうですよ!」
おっとエリーちゃん。なかなかいいつっこみじゃないか。そういうのもあるんだ
よなあ。あーくそ。絶対そういう所狙ってくるゲームだよこれは。
「とりあえずまずは、丸太の家を作って見ようよ。おいしょっと。これで最後か。
結構かかったなあ。時間がかかりすぎているしもっと鍛えないとな。」
何十個も運んだんだから十分じゃないか。それじゃあねこます草原とたけのこ森
の間まで移動しよう。
「ブッチ殿の力が羨ましいですな。」
「力に特化しているから、それ以外はあまり能力がないよ。だけどそれが強さに
繋がっているからね。」
特化型っていいよなあ。
「ねっこちゃん! 聞こえてるよ! 誰が脳味噌まで筋肉だって!? 俺は骨ま
で筋肉だよ!」
骨が無いじゃないか。というツッコミはしないことにした。
「ブッチさん。ジョークはいいですから。さっさと丸太の家を作りましょうよ。
組み立てから何から何まで脳味噌をなくしたパワーを見せてください。」
なんだかすごそうなパワーだねエリーちゃん。
「いいよ。俺の力を思い知れ! うおおおおお!」
「ソコニ、ノッケテモバランスガワルイデス。クボミヲツクルンデス。」
丸太同士が組み合わさるように、組み合わせる部分にくぼみをつけてずれないよ
うにさせるってことでいいのかなあ。その作業は、私達みんなでやってみなきゃ
だめだよな。ということでそこのリザードマン二匹。お前らが先制だ。
「キノ、ハジッコアタリニ、クボミヲツケルンダ。」
「これは、鋸ならどうなるのかなあ。ちょっとやってみて。」
イッピキメに鋸を渡してみた。すると、綺麗に窪みを作っていく。見ているだけ
なら本当に簡単そうに見える。うう。私も簡単に出来る気がしてくるなあ。
動画サイトでゲームプレイを見た後で久々にプレイしたことがあるけれど、全
く上手くいかなったなんてこともよくあったなあ。
「じゃあ今度は私に鋸貸してみて。」
私はリザードマンから鋸を受け取り、木に窪みを入れようと鋸で削っていくが、
遅い。非常に面倒に感じる。ずばっと一気に出来ないのだろうか。
「とりあえずこの場は俺とリザードマン達に任せて欲しいかなあ。そこの丸太をみ
んな練習台として使ってみていいよ。」
ありがたい提案が来たので、早速窪みを入れようとたが作業が地味だ。
「なんか思い通りに斬れないなあ。」
「私もです。なかなかいい具合に斬れませんね。かといって装備欄に何か書かれた
りすることはなさそうだし。うーん。」
単純に道具の使い手側の問題がありそうだな。やはり何度も使いまくって、装備を
使いこなせるようにならないといけないな。武器の慣れ的な、所謂熟練度と言われ
る仕組みがあるかもしれないし。
「イッピキメ達のは才能かあ。よし、俺は才能を努力で越えてやるタイプなのでお
前ら絶対に超えてやるからな!」
対抗意識を燃やすのだった。あ、こういう展開は好きだな。ブッチなら苦手な事
も得意になるくらい頑張りそうだし。
「よし、とりあえず、このまま丸太に窪みを入れまくる作業をやろう。丸太がなく
なったらブッチにお願いしよう!」
折角、丸太をここまで持ってきてくれたのに、練習するだけだったら、ここじゃ
無くてもよかったな。今度から気をつけよっと。