第111話「坂道を登ろう」
だいこんは、私達を乗せて荒れ地を移動する。折角パワーアップしたというのに
人面樹を二匹も乗せているので、速度は前と大して変わっていない。というか人面
樹なんてかなり重そうな奴をよく乗せていけるなあ。
それにしても、人面樹って地に根を張ってないといけないんじゃないのかなんて
思ったんだが、普通に根が無くても平気に動いているし。ゲームの謎設定というこ
となんだろうか。時間があったら聞いてみよう。
私がここまで来たときは結構時間がかかったのに、だいこんはすいすいと進むも
んだから、高速で移動できるというのは大きいとしみじみ思った。移動だけで丸一
日のゲームプレイが終わってしまったらなんだかやりきれないし。塔にあったエレ
ベーターなんかはそういう移動に対する救済策としても兼ねてあったんだろうな。
荒れ地を延々と一人で歩き続けるって映画なんかじゃちょっとかっこいいなあな
んて思う所を実際にやってみると、いつまで続くんだこの光景なんて思ってしまう。
やっぱり理想と現実って違うんだなあと再認識した。
「で、私が落下したところから草原までって、どんな感じに戻ることになるの?」
「結構長い坂道があるんだよ。そこを登って、さらにしばらく行くと、野原の方
までつながっているからそこでゴールインだよ。」
坂道か。山登りとかあまり得意じゃないんだけどなあ。誤って足を踏み外して
落下したら嫌だなあ。もうあんな落下はこりごりだ。
「さ、流石に坂道はみんなに降りてもらうで! 無理や無理! この人面樹達が
重いせいで無理になったんやで! へっへっへ。お前らのせいやで!」
また、だいこんの人面樹に対する恨み言が始まった。移動中にずっと人面樹を
許さない発言をつぶやいていたが、かなり頭にきているらしい。
「コンジョウナシナダケジャナイッスカ~?」
「ウワ、ワタシノタイリョクナサスギ!」
「なんやとコラァ! もうええわ! ここからは歩きやでみんな!」
「うえ?」
だいこんが徐々に小さくなっていき、最後に私の肩の上に乗った。人面樹達も
流石に悪ふざけしすぎだと思って、いなそうだ。なんだこいつら。開き直ってい
るな。だいこんじゃなくてもむかついたぞ。
「おい、お前らちょっと今のはないだろ。」
「エ? オレラハ、だいこんセンパイナラヨユーッテオモッテタンスヨ?」
「反省の色ないなら燃やすけどいいのか?」
口から軽く狐火を吐く。ちょいとこいつら、上限関係を思い知らせてやらんと
いけないんじゃないのか。この先、森に居ついたりしたら調子に乗りそうだし。
いや、そもそも私の言う事まともに聞いていない気がするんだけど。
「ちょっと口がすぎるぞ人面樹。召喚主に従わないというのはどうなんだ?」
くろごまも怒気の混じった声で注意する。私じゃなくてもこの態度は許しがたい
ようだ。他のみんなにしてもちょっと苛立っている気がする。塔で激戦をしてき
ただけあって、疲れているからしょうがない。
「オレラモ、アルジヲマッテタンスヨ? イツクルカモワカラナイナカ?」
「狐火。」
「ワッチャアア!?」
「オアアアア!?」
「あのさ、私はこういう面白くない事があったら徹底的に叩き潰すよ? つまら
ないこと言ってないでさっさと謝れ。」
なんでこいつらが私の言う事をちゃんと聞かないのかと言うと、多分たけのこ達
みたいに直接戦って従わせたわけじゃないからだな。たまたま召喚できてしまっ
たもんだから、上下関係がはっきりしていない。私の方が上だというのを確実に
思い知らせる必要がある。
「ウググ。スミマセンデシタ。」
「スミマセンデシタ。」
やれやれ。ひと悶着あったがこれでなんとかなるか。こいつらが森林に居ついて
迷惑かけられたりしたらたまったもんじゃないしな。最悪全部燃やすって手段も
あるから別にいいけど、豚が食べられなくなるのは嫌だし。特にたけのこが。
「ねこますさんって結構厳しい時ありますよねー。」
「そうだねえ。私は目的の為には手段を択ばない女、般若レディだからね。」
「すごいチウ。第一ご主人尊敬するチウ。」
「いやしなくていいから。」
とりあえずこれでだいこんも清々したのか気分が良くなったようだ。普段おと
ぼけキャラみたいなノリだけれど、こういう時はしっかりとフォローをしておか
ないとな。結構小心者だったりするようなので、何もしないとそのうちそっぽを
向いてしまうだろうし。
「じゃあ、ここからは歩きだね。坂道は少し長いけど、そこを行けばねっこちゃ
んもようやく草原に戻れるから安心してね。」
「さっさと駆け上がろう! この道を!」
あと少しと思うと元気がでてくる。坂道の後もうさぎのいた野原を歩くけれど、
そこから草原なんてあっという間だ。故郷だ。私の故郷だ。そんなに長く離れて
いたわけじゃないけれど、早く帰りたいと思っていたんだ。
「帰ったら、薬草集めと、あと鋸を手に入れたから家を作ったりああ、すごい
楽しみだなあ。開拓が私を待っている!」
「そういえば色々道具を手に入れたから、ねっこちゃんの目標が叶うねえ。」
「ヤリマシタネ、ねこますサマ!」
そうなんだよ。私はこの草原の近くに村というか住む場所を作りたかったんだ!
今回崖から落ちて散々な目に遭ってきたけど、結果はかなりいいものになったか
ら最高の気分だ。後は帰るだけなんだ。
「坂道は結構長いからね?」
「そこは頑張るって。な。リザードマン達もこれは修行らしいから頑張ろうな!」
「オ、オオー!」
坂道を登るってなんだか修行みたいな感じがするから言ってみただけだが、気
合いが入ったようだ。
ん? ちょっと待てよ。坂道か。モンスターがでたりしないんだろうか。急に
気になってきたな。もう今日は戦いなんてやりたくないし。ああ、それと結局荒
れ地のとこには強そうなモンスターはでてこなかったな。今回も運が良かっただ
けなんだろうか。
だけど低確率で遭遇するモンスターってこういう時にでてきそうな気がして怖
いなあ。何も準備していない時に限って出てきたりするから困る。
「こういう坂道って、岩がごろごろ落ちてきたりするんですよねえ。」
「多分ブッチが壊してくれるから大丈夫。」
「うーん。一個くらいならなんとかなるだろうけど、二個きたらきついかな。」
真面目に答えるな。そこはボケるところだろう。いや、でも岩がごろごろか。
そんなことが起こったら嫌だなあ。これからもこの道は行き来することになるだ
ろうから、岩が転がってくるようなら対策しないといけない。
「こういう道もいずれは整備していかないとかな。」
「開拓は大変だね。」
だがやらねばならないのだ。ここを私の安住の地にするためには。魔者の大陸
から出るかもしれないことも考えているけれど、今のところどうなるのか分から
ないし。
今の私には、他のプレイヤーが沢山いる街とか想像がつかない。世界中のプレ
イヤーが、集まっている場所とかあるんだろうけれど。どんなものなのか。一般
的なプレイヤーとかけ離れてしまっているがゆえに期待を寄せてしまうけれど、
近寄りがたい雰囲気も感じてしまう。
だって、ここが田舎だとしたら沢山の人がいるところなんて都会だし!
「それじゃあまあこの壁沿いにゆっくり登っていくとしようか。」
「あの、ねこますさん。落ちるのが怖いのかもしれませんが、この壁に罠がない
とも限りませんし。」
「くそ! また罠か! いい加減にしろ!」
油断した。そうだよ。地上にいるからって何の罠もないわけないじゃないか。こ
ういうところで、そういう罠があったりするんじゃないか。あってあれ、この坂
道ってブッチ達は登ったことあるんじゃなかったのか?
「たけのこちゃんとだいこんには待ってもらって、俺だけ見てきただけだよ。二
匹に危険があると嫌だったからね。んでその時は何にも無かったよ。」
なんて言ってるけど、また1回登っただけなんだとしたら、2回目で何かあっても
不思議じゃないな。それにこれだけ大所帯になっているわけだし。モンスターが
警戒して襲い掛かってくるかもしれないぞ。
「まぁみんながいるからなんとかなるか。みんな期待しているよ。特にブッチ君。
最強の矛となって頑張ってくれたまえ。」
「矛なんてもってないっす。」
「なんでそういう時だけ真面目になるかなあ!? もういいよ行こう!」
というわけで、坂道を登ることにした私達。きちんと整備されているわけじゃな
いから、そこらへんに雑草は生え放題だし石ころなんかも結構転がっている。現
実では普段きちんと整備された道を歩いているだけに、社会インフラって大事な
んだなあと気づかされる。それと同時に、この世界でのこういう場所もそんな風
に自分に便利な道に作り替えていきたいなあ。
世界観が壊れるというのもあるかもしれないので過剰なことはしないけれど。
自分の住居付近くらいはそうしたいな。
「ところで、くろごま。」
「はい。なんでしょう?」
「ここでイエロードローンを使ってみて欲しいんだけど。」
「おぉ。そうですね。すっかり忘れていました。」
きっと筋斗雲なんだろうな。なんて思っていたらやっぱり筋斗雲だった。正確に
は、黄色い雲のカバーがついているドローンだった。くろごまはそれに乗って自
由自在に動いている。あれいいなあ。なんで私の浮遊は空を飛べないんだよ。こ
んな羽まであるのに。羨ましすぎる。
「これは、便利ですが、連続使用時間が30分となっているそうです。それが終わ
った後の再使用するのに1時間と、私の頭に中にそう響いてきました。」
それでも十分使える道具だな。いいなあ。
「俺もそのうち気合いだけで空を飛べるようになりたいな。」
ブッチがすごいことを言ってのける。無理じゃないのかと思ったがそのうち本当
にやってしまいそうな勢いがあるので言わないことにした。そういえば私の浮遊
とか鍛えたらみんなを自由自在に飛ばしたりできるようになるのかな。そのあた
り含めて調べなきゃいけないなあ。
本当に草原に戻ったら試したいこととか考えたいこと色々盛りだくさんだ。
「姉御、そろそろ真面目に登ろうやで。帰るのが遅くなるで。」
「あー。そうだね。じゃあゆっくりだけど確実に登っていこう。」
まずはとにかく帰る。最後まで気を抜かない。この坂道の頂上付近でボスに襲
われるかもしれないくらいの覚悟はしておく。岩が落ちてきても泣かない。落と
してきた奴には落とし前をつけさせる。これくらいの勢いを持っておこう。
よし、頑張って登るぞ。