第107話「自分のやりたい事」
「エリーちゃん、何か見つかった?」
「うーん。壁も床を天井も全部調べてみましたけど、何もないですね。」
「俺も、この場で隠しコマンド的な動きを試してみたけど何も起きなかったよ。」
私達は部屋の中をくまなく探しているのだが、隠されたアイテムなんてものはどこ
にも見当たらなかった。期待外れもいいところだ。魔者の部屋なんだから凄まじい力
を持つ秘宝なんかがあると思っていたのになあ。
何か見落としていないかって何度も同じ場所を探してみたが、やっぱり何もない。
「部屋の中にいる人数とか考えれられないかな?」
「大勢だと出てこない隠し通路、確かにありそうですね。時間経過も考えられそうで
す。」
「別な入り口から入らないと入手できないとか、まだ何かのイベントが終わってない
とかあるかもね。」
三者三様の意見が出る。ゲーム好き同士だとこういう風に言い合えるのって楽しい
なあ。アイテムがあるかどうかも分からないのに夢中になってしまう。だけど今はさ
っさとここから出たいという気持ちもあるので、面倒くさいと感じてしまう点もある。
なら、さっさと出て後でまた来ればいいというのもあるのだが、この場所に二度と来
れなくなるという可能性も考慮すると、ここで多少無理してでも探索をし続けたいと
考えている。
「じゃあ私がでるから、ブッチとエリーちゃんが探索を続けてみて。」
「いや駄目でしょう。ここはねこますさんが残るべきですよ。魔者の称号を持ってい
るくらいですし、ねこますさんだけなら何かイベントが起こるかもしれません。」
「そうそう、魔者一人でしか起きないっていうのはあると思う。そもそもこの魔者っ
て性格が歪んでそうな奴として設定されていたわけじゃん。だったら、その魔者の称
号を持っている人にだけ、何か特別なことをしてくれるんじゃないのかな。」
一理あるから困ってしまう。けどなあ。私一人だけ残ってイベントを見られるって
なんか狡い気がするしなあ。こういう自分に取って嫌な事の予感が的中してしまうん
だよなあ。
「逆も考えられそうじゃない? 魔者の称号を持っている人がいると、手に入らない
ものがあるとか。」
「だったら最初にこの部屋に入ったときに何か起こってただろうし、やっぱりここは
ねっこちゃん一人が残るべきだよ。」
一人になりたくないなあ。なんか嫌な予感がするんだよなあ。私は完全に一人だっ
たという時がほとんどないから、一人の時に何かが起きるんじゃないかと少し不安に
思っている部分がある。
それこそ、ブッチやエリーちゃんたちみたいにここで一人だけ閉じ込められてしま
うんじゃないのかなあなんてことも考えてしまう。うわぁ、なんか悪いことしか考え
られそうにないぞ。
「ねこますサマ。ダイジョウブデスカ?」
そんな私の表情を読み取ったのか、たけのこが私を心配そうに見つめてくる。ああ
可愛いなあ。よしよし。
「大丈夫! そんでねこます予想~! みんな心して聞くように!」
というわけで今私が考えている事、つまり不安がどういうものなのかを皆に説明して
おくことにした。こういう時に思っていることを言わないで、後になって問題を起こ
して仲間との連携がうまく取れずにぎくしゃくするなんて言うのがよくあるのだ。
つまりこれは、私の成長イベントということだ。この問題を解決することで私は一
層精神面が強化されるはずだ。
「まず、ここで私が一人になったら多分ここで修行みたいなことをさせられると思う。
そんでもって、ブッチやエリーちゃんが出られなかった場所と同じように、私もどこ
かでずっと誰かが来るのを待ち続けなきゃいけなくなるかもしれない。」
「ねこますさん。フレンド登録していたら連絡はできるはずですよ。」
「それは絶対にどこでもできるのかな? その機能は使えない場所も出てくるんじゃ
ないのかな。」
フレンド機能なんてものがあっても、確実な事なんかないからね。特定の地点にいる
時は、その機能は見ることができないなんてことがあってもおかしくないし。
「エリーちゃん!? そのフレンド登録って何かな!俺とマブダチになってくれない
かな!? いやその前にねっこちゃん!俺とマブダチに!」
「近い! 近いっての! 近寄るなサイコロプス野郎!」
まぁ当然そう来るなと思っていたので、ここでさっさとブッチへのフレンド登録を
済ませた。
「話を続けるよ。なんで修行みたいな事させられると思っているのかと言うと、魔者
とかいう称号を手に入れたのに、何にもできるようになってないから。そんでもって
ここに私だけ残った場合には、その魔者の力が使えるように的なイベントが発生する
んじゃないかな。」
「つまり、その間マスターは外部と全く連絡が取れなくなり、それがいつまでなのか
も全く分からないってことですか?」
「その通り。なので・・・。」
「じゃあ一回ここ出ようよ。そんなんやらなくてよくね?」
少し怒ったような声を出すブッチだった。これには私も驚いた。なんだろう私に怒
っているのだろうか。
「ああ、別にねっこちゃんがやりたいなら別に止めはしないけど、ねっこちゃんはど
うなん?」
「流石に悩む。ここに二度と来れなくなるって思うと。けどそのために長期間にずっ
と同じ場所にいるっていうのはなあ。」
あ、そうか。ブッチは、今こいつ面倒くさいなとか思っているんだな。だからイラつ
いているのか。そうだよなあ。私もうじうじ悩み過ぎだよなこれ。あー。ちょっと待
てよ。私は、何がしたいと思っている? 仮にここに閉じ込められたら強くなれるか
もしれないけど、薬草狩りがずっとできなくなるかもしれないんだよな。
それは嫌だな。そうだな。何を悩んでいるんだ私は。そうだよ、なんか魔者とかい
う称号に惑わされ過ぎだろ。なんかすごそうな称号を手に入れたから強くならないと
なんて思い込みが激しくなっていたんじゃないのか。
私が強くならなきゃいけない理由がないよな。そりゃまあ毒狸の母親とかああいう
のを相手にするときは来るだろうけど、それは焦りすぎだな。それと、私が無理して
戦うよりも、ブッチに頑張ってボコボコにしてもらえばいいだけだし。私は私で好き
勝手にやるべきだよな。よし。
「帰るか。」
「結論が早い! 何!? 今の瞬間に何があったのねっこちゃん!? ちょっとマブ
ダチのマブダチに相談してみない?」
「今の一瞬で悟りを開いたんだ。」
「マスター。流石です。」
「だいこん。キサマモミナラウノダゾ。」
「無理やで。」
いや、なんか私がやりたいことを考えてみると、これは違うかなあって思っただけ
で特に深く意味はないからなあ。これもブッチのおかげってことになるな。
ゲームの仲間割れイベントで相手が自分を察してくれないみたいな感じでグダグダ
になっていくのを沢山見てきたが、今の私が正にそんな感じだったな。
「まぁなんか目が覚めたって感じだから特に気にしなくていいよ。魔者って称号に気
圧されてたよ。」
「えっ!? ねっこちゃんがそんなの気にするなんて。俺は驚いたなあ。」
「ブッチさん。わざとらしいです。」
なんか本気のような気もするけれどいいか。
「私は、早く草原に帰って薬草集めをしたい。それが私のやりたいことだったんだ。
ブッチ。それに気づかせてくれたことを感謝するよ。」
「え? え。あ。え? 薬草? え?」
「な、なんやて!? ど、どういうことやブッチニキ!? ブッチニキはつまりそ
れがお望みだったんか! ブッチニキも実は好きだったんか!?」
「ブッチドノ。ウラミマス。」
「ゲェーッ!? 俺なんか墓穴掘った気分なんだけど!? いやいやいやいや、ね
っこちゃん。ここで修行するのも実は悪くないんじゃない!? ねえ!?」
なんかブッチたちが急に取り乱したぞ。どうしたんだ一体。なんか今度はたけの
ことだいこんが怒っているような悲しんでいるような態度をしているが、ブッチが
何かやらかしたというのか。
「いや、私がやりたかったことはそんなことじゃないし。魔者の手のひらで踊らさ
れたくないから本当にもういいや。」
もう魔者のことは意識しないようにする。将来的に魔者の件についてちょっかい
だしてくる奴がいたらそんときゃそん時だ。私に危害を加えてこようとしたときに
は抵抗させてもらう。それでいいや。
「マブダチどの。その薬草狩りについてですが、もしかして。」
「ん? なんだい? え。あー。そぅ。フルーツね。うん。そんな感じ。」
「ファッ。まじか。薬草以外もやるんか? ほげー・・・。無理や。」
「ね、ねこますサマノシジナラ。」
「わんころ。お前死ぬつもりか。」
「みんな、ここはやるしかないんだ。エイエイオー!」
なんかこそこそやってるけど何がしたいのかさっぱり分からないなあ。おっし、
それじゃあそろそろここを出たいんだけど。部屋からみんなで一斉に出たら別な
道を探さないといけないのかな。
「えー。じゃあここから出るけど、みんなおっけー?」
「いいですよ。えっと、この後は別な道を探すつもりですか?」
「そうそう、おいリザードマンども。多分ここで外に出れば正しい道に行ける気
がするからさっさと案内するんだ。馬車馬のように働くんだ。」
「ワ、ワカッタ。」
「アア、アンナイシテヤル。」
こいつら、結局最後まで態度が変わらなかったけれど、まだ本当の本当に最後っ
てわけじゃないからなあ。仲間として別れる際に攻撃して逃亡した奴っていうの
もかなりいたからなあ。油断は禁物だ。
「帰ったら地獄がまってるやで。ワイは帰りたくないやでブッチニキ。」
「大丈夫だって、ブランクがあるからそこまでやらないって。」
「ああ、そうそうみんな、ここで結構薬草いっぱい使っちゃったから、草原に戻
ったら、これまでの10倍くらい集めないとだから頑張ろうね。」
大分なくなってしまったのだから、集めないと、集めまくらないと、数がなくな
るに連れて私の不安も大きくなっていったのだから。もしかしてここでちょっと
不安になってしまったのは薬草が少なくなってしまったからというのもあるので
はないだろうか。そうだ、やはり薬草を持ちまくれて安心できていたんだ。薬草
が、足りなかったんだ!
「ねっこちゃん。やる気出し過ぎじゃない? 最初は軽く頑張ろうか?」
「ねこますさん。何をするつもりか分かりませんけど、ブッチさんの言う通りで
す。あんまり躍起になってゲームばかりするのもだめですよ?」
む、エリーちゃんにも心配させてしまったか。薬草集めはそこまで大変じゃない
んだけどなあ。でも確かに全然やっていないわけだし、最初はゆっくりにしよう
かな。
「んーそうだね。ちょっとゆっくりするかな。」
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
みんなが歓声を上げた。どうしたどうした?
「エリーちゃんはワイ女神やで!」
「スゴイオカタデス。」
「エリー殿は、素晴らしいです。」
「す、すごいよエリーちゃん! 俺たちにできないことを軽くやってのけやがっ
た! 凄すぎるうううう! かっけえええええええ!」
「な、何騒いでるんか! 恥ずかしいからやめてください!」
よく分からんが、一致団結しているのはいいことだな。うん。それじゃあここか
らでて帰るか。
オンラインゲームをやっているとあれこれできることが多くなっていって
自分は何がしたかったんだっけ?ってなることがありました。
自分が好きにやりたいようにやるってことが1番大事なんだなとその時気づきました。