第105話「魔者の大陸」
ゆっくりと白い光まで歩いていく私達。この先にボスがいるなんてことがなけれ
ばいいんだけど。トラゴンからほぼ連戦になるのだけは勘弁して欲しい。実は、ト
ラゴンは中ボスだったんだなんてことになったらショックは大きいな。
このゲームに負けイベントなんてものがあるのかは分からないけれど、消耗した
状態でボスと戦うなんてレトロゲームではよくあったなあ。匙を投げたくなるよう
なゲームも沢山あったけれど、そういうのは何度もやって覚えて攻略というのが必
須だからな。
「見た目じゃ分からないんだけど、実はそこに床がないっていうゲームをやったこ
とがあるんだ私。」
「おっ? それって迷宮探索のゲームかい?」
「あの、キャラクターを男女で切り替えて進むゲームですか?」
まさかブッチもエリーちゃんも知っているとは思わなかったがそのゲームだった。
あれ? 結構古いしマイナーなゲームだから絶対分からないだろうなあなんて思っ
ていたんだけれど、よく知っているな二人とも。
「そうだねそのゲームだよ。だからこういうところが怖くてね。」
「分かります。でも床のある場所からぎりぎりでジャンプしないと届かないってい
うのが辛かったですね。」
どこまで床があるのか分からない。だけど床から落ちたら即死亡という酷い扱い
だったので正確な距離をしるためには、何度か死んで覚えるしかなかった。それと
同じようなことがあの白い光に届くまでにありそうなので、一歩一歩床があるか確
認してから進んでいく。 時間制限がないことだけは救いだ。
「ねこますサマ。ユカガアルカドウカ、ムチデ、タタキナガラデモイイノデハ?」
「武器とかで叩くときは存在しているなんていう罠があるんだよ。たけのこもよ
く考えてくれていると思うけどその手が使えないんだ。」
「ソウデスカ。」
しょんぼりするたけのこだった。いや私だってこんなこと言いたくはないんだけ
どね。
「姉御は心配性やなあ。ワイならこのあたりスイスイ行けるで。」
「お前は無警戒過ぎだっての!」
「よし! だいこん。ここに地雷原が埋まっているかもしれないけど君が先頭でガ
ンガン進んでいいよ!最悪死ぬかもしれないけどいつでもどうぞ!」
「はっはー。ブッチニキ。そんなことあるわけ・・・。いや、すんませんした。あ
の、軽いジョークだったんでそんな見んでくれや。」
「おい、だいこん。朗報だ。」
「な、なんや?」
「ここ、床がない。私があと1歩あるいたところな、ここない。」
まさか本当にそんな罠があるとは思わなかった。あれ? そういえばエリーちゃん
なら見破れるんじゃなかったっけ? 忘れてたぞ。
「エリーちゃん。ここに罠があるかどうかって。」
「見えるならとっくに言ってますよー。残念なことにこの部屋に入ってから盗賊と
しての能力がほとんど使えません。あ、言わなくてすみませんでした。このリザー
ドマンに警戒されるのが嫌だったので。」
「オ、オマエモシンヨウシテイナカッタノカ。」
「いや、ここにいる私達全員がお前たちを信用していないぞ。何しろマスターが警
戒しているのだ、油断大敵だ。」
くろごまが威嚇したような態度で語った。
「とにかく、じっくりと進んでいくとしよう。多少時間をかけても死ぬよりはいい
し。」
そこから、私達は床があるかどうかを何度も確認しながら進んだ。ちなみに照眼で
明るくしたりしても、床自体は見えているのであるのかどうかは直接触れてみない
と分からなかった。くそうふざけやがって。
そして約30分ほどたって、ようやく白い光から出られる位置まで来た。
「なんか、この先も部屋があるな。いきなり外に落ちるとかはなさそうだ。」
「きっと幻惑魔法だ! そうに違いない! ねっこちゃんならそういうところまで
びくびく怯えてまず入らないで火薬草で燃やしてから行こうとか言うはず!」
「ありえますね! 実は私達は集団催眠にかかっていて、部屋に見えてしまってい
るだけかもしれません!」
「お二人とも、マスターの癖がうつってます。」
「妄想が激しくなっているチウ。」
「お、お前ら。」
私が何でいつも警戒しているのか知っている癖にこんにゃろう。私みたいに色ん
なゲームをプレイしているとなあ、騙された数はアホほどあるんだよ! 今だって
こんな部屋があっても、この部屋に罠が隠されているって当然考えるっての。
「たけのこぉ。みんながいじめるよ。」
「ねこますサマ。ゲンキダシテクダサイ。」
ああー。たけのこに癒される。狼はもふもふでいいねえ。っとそんな場合じゃない
んだよ。部屋の中に入ってみないと分からないって言うなら入ってみようじゃない
か。みんな一斉にな。
「せーのぉ!」
室内に入る。なんだかいかにも中世ヨーロッパにでもありそうな家の一室だった。
ベッドに本棚に机。そしてテーブルなどが置かれている。窓がなかったが部屋の一
番奥には、石碑のような物がある。なんだろうこれ。
「何か書いてある。読めるのかなこれ。」
見たことがない変な文字で書いてあるが、自然と書いてあることが読めた。これは
ゲームの設定的な部分になるのかな。じゃあまずは読んでみるか。
『魔者の大陸について』
ここは、魔者の大陸。私がこの大陸を作ったわけではないのだが、私がここ住ん
でいるというだけで、魔者の大陸などと呼ばれるようになった。私は、この地で平
穏な暮らしをしていたかっただけなのに、様々な者たちが押し掛けてくるようにな
った。
私から魔法を学びたいなどというが、本当は、私を戦争の道具として使おうと考
えていたというのはお見通しだった。私を自分の国へ招きたいという誘いもあった
が、私を使って戦争をするためだったのだろう。
誰がそんなことに協力するというのか。そういうことが嫌だったからここに移住
したというのに、人の迷惑を考えない連中が多すぎだ。
私は、魔法を私生活で便利になるからという理由だけで学んできただけだ。火の
魔法は、水をお湯にするときに使えるし、水の魔法は練度を増せば、飲料水として
使うことができる。大地の魔法は、土を思いっきり固めて地盤を強化することがで
きるので家を建てる時便利だった。
そうだ。その程度の理由だったのだ。私が魔法を学んだのは。爆発の魔法などそ
もそも宴会芸のために覚えたものだったし、幻惑の魔法もそうだ。私はそういう便
利な生活の為だけに魔法を鍛えに鍛えていたら、いつの間にか、有名になってしま
い、戦闘に駆り出されるようになってしまった。
魔法を便利に使おうとしていただけなのに、いつの間にか聖者だの賢者だの偉そ
うな呼び名をつけられたが気に入らなかった。
そんないい人間じゃないんだ私は。むしろ魔法を使って楽して生活をしたいなん
て考えしか持ってなかったんだ。だから私は魔者だなんて言ったらいつの間にかそ
う呼ばれるようになってしまった。
今、この文章を読んでいる者がいるとすれば、私の事を失望しただろう? 折角
ここまできたのにそんなものかと。実際、ここに残したのは生活に使えそうな魔法
についてとか、農業などをやるための道具しかない。折角来たのに残念だったな。
おっと、ここまで来られた褒美に種明かしもしてやろう。この塔は100階まであるが
馬鹿な奴らは頂上まで目指すので50階のここに部屋を作ったのだ。こういう中途半
端なところにあれば大体は無視されるからな。
だからな、ここに来ることができた、これを読んでいる者、お前は相当捻くれ者だ
ろう。いや、偶然来られただけかもしれないから違うかもしれないが、とにかくこ
んなところに真面目に来るような奴らとは違うだろう。
では本題に入ろう。このタイミングでかと思っただろう。ふっふっふ。この塔は、
あー、便宜上魔者の塔と呼ぼう。この塔には大陸全土から、悪しきものが入り込め
ないような結界を張る機能が備わっている。そして基本的には誰からも見つからな
いよう隠蔽されている。
つまり、この塔が崩壊したときはこの大陸に侵入者がこぞってやってくるという
ことになるだろう。それは避けたいことだが、そんな時がいつか必ずやってくるだ
ろうな。
何しろこの魔者の大陸には、私の遺した物が沢山あるからな。すぐに見つかるよ
うなものではないが、何か1つがあるだけで相当な争いが勃発するだろう。
さて、この石碑を読んだ者よ。ここでどうすればいいのか分かるな。私と同じよう
なひねくれものだから次にどうするかは分かっているぞ。それではやってみろ。
「この石碑ぶっ壊せってよ。」
「あ、まだ読んでます。すみません。読むのが遅くて。」
「いやそんなぶっ壊せなんて書いてないでしょねっこちゃん。」
石碑にこんな余計な事書いてあって誰か見つけたらそれこそ争いが起きるだろう。
こんなもんがあること自体間違っているし。つーか! 何だよ魔者の大陸とか、
ゲームを開始していきなりこんなところとかそういうオチだったのか。道理で他
人とほとんど出くわさないわけだよ全く。
「魔者の性格が私に似てるってことなのかもしれないなあ。」
「ありそう! この魔者ってなんかねっこちゃんみたいに面倒くさそうな性格を
しているような気がするし。」
「本人を前に言うなバカタレー!」
今私が気になっているのは、この部屋になんか農業の道具だのがあるってところ
のほうで、魔者のやばそうな道具は正直どうでもいい。便利そうな道具のほうが
私にはありがたい。というかリュックをくれよ。そういう物が欲しいんだよ。
「とりあえず先にこの石碑ぶっ壊すか。」
見た目的にはちょっと脆そうに見えるので、ブッチのモーニングスターなんかで
殴ればすぐ壊れるだろう。よしやってくれ。
「なんか貴重そうな物なのにぶっ壊していいのかなあ?」
「私達だけがこの部屋で見たっていう思い出が残るって特別感あっていいじゃん。」
「そうですよね! 私達だけってところがいいですよね!」
もしかしたら<アノニマスターオンライン>で一度きりしか見られないイベント
なのかもしれない。そう思うとなんだか嬉しくてたまらなくなった。この手のオ
ンラインゲームでは、沢山の人を平等に楽しませるために、そんなイベントは作
らないのが基本なだけに、こんな一部のプレイヤーのみが楽しめるものを用意し
ているというのが感激だ。
「ねっこちゃんが、壊してくれない? 俺はあまり壊したくないなあこれ。鞭で
も多分壊れそうだしさあ。」
「ん? んーじゃあやるか。ちょっとみんな後ろに下がって。」
そうして私は、電撃の鞭を構える
「おっし、じゃあな魔者! 後世に余計な物を残すんじゃないぞ馬鹿野郎!」
石碑に向かって思いっきり叩きつけると、容易く崩れ始める。そして石碑は一気
に砂のようになってしまった。これは、そういう仕掛けがしてあったようだな。
ここまで簡単に行くとは思わなかった。ふーこれですっきりしたな。
全体メッセージ:ねこますが「魔者」の称号を得ました。
すっきりしねえよ馬鹿野郎。
レトロゲームは何が元ネタかというと、コ○ミのゲームです。