第103話「帰路」
私は、動かなくなったトラゴンを見て思った。こんな強い奴を倒したのにアイテ
ムの1つも貰えないなんておかしくないだろうかと。散々苦労したのにこいつだけ
好き勝手にあの世に行ったのは納得がいかなかった。何よりこっちは貴重なリュッ
クを失ってしまったのだ。代わりのアイテムとか出したりしないのかと、トラゴン
の周囲をぐるぐると回ってみた。
うわぁ何もでない。骨折り損のくたびれ儲けじゃないのかこれ。なんて思ってい
ると。
メッセージ:トラゴンの腕輪を手に入れました。
出てきた。やっぱり何もないなんてことはなかった。これでリュックの件につい
てはチャラにしてやる。それで、これは何か効果があるのかな。
「ねっこちゃんやるねえ。俺なら倒した奴のことをそこまで探らないよ。なんとい
うか墓荒らし的なノリを感じるねえ。」
「リュックがなくなったんだからこれくらいいいだろ!」
そりゃ死体の周りをハエみたいにグルグルするのはなんだかなあって思ったけど
火薬草なんか滅茶苦茶使っているんだぞ。また集めるのかなり大変だし。それだけ
色んなものを失ったんだからこれくらいいだろ。
「あー、もう。とりあえず装備してみる。」
メッセージ:トラゴンの腕輪を装備したことでスキル「雷獣破」と「雷耐性」を得
ました。
なんか強そうな技を覚えたのと耐性を得た。耐性はこれで4個目だけど、こんな
に耐性があっていいのか? <アノニマスターオンライン>のゲームバランス的が
どんなものなのかは分からないけれど、これは多いんじゃないのか?
そもそも、私の場合なんか色々装備で強化しているのがあるけれど、装備が無か
ったら貧弱そのものだよなあこれ。
あるものはとにかく使う派だからいいけど、現状って倒した敵のアイテムを色々
持ちまくっているものだから、そういうゲームなのかと錯覚してしまいそうになる。
昔のゲームだと倒した敵からスキルをとれるみたいなのが結構あったけれど、それ
と同じようなものか。
「とりあえずスキルとかそのあたりは帰ってから説明するとして、だ。ブッチ達は
どうしてここまで来たの? というかよくここまで来れたね。」
一番聞きたかったことをようやく聞くことが出来た。だって今私達がいる場所って
50階くらいあるのに、どうやって来たというんだ。根性か?
「ブッチニキは、絶対に姉御がここにおるって聞かなかったんや。」
「ワタシモ、ゼッタイココニイルハズダトイッテタゾ。」
「そうやな。わんころもずっとわめいておったなあ。へらへら。」
「ダマレ。」
「アイター。角でどつくんやない!」
ブッチよなかなかやるではないか。私は冒険が大好きな般若レディだからな。こう
いうところは行くに決まっているじゃないか。
「ねっこちゃんなら、こういう所に無駄に首を突っ込みそうだから絶対にいると思
ったんだよねー。ねっこちゃんはこういう時やればできる子だし。」
「バカタレ。」
そりゃ塔が地面から浮かび上がったときは、すぐさま乗り込んだよ。だって面白
そうだったし。これはチャンスだろうって思ったから。面白そうな事が起きていれ
ばそれに参加したくなるってもんだろう。
「あのー。ねこますさん。そっちのその、目のやり場に困るサイコロさんは。」
「俺の名はサイコロプスのマブダチだよ! よろしく露出狂さん!」
「あなたが露出狂でしょう!?」
どっちもどっちだと思うんだがここは敢えてツッコミを入れない。エリーちゃんも
サキュバスの格好で胸元がハートになっていて肌が見えてたりというかそういう服
を着ているんだから、何か言われてもしょうがないと思うし。
ブッチは、もはや何も言うますまい。
「俺は、力士だからね。これが俺のスタイルなのさ。ムキムキ。」
力こぶを自慢するブッチ。肉体美を強調するな。
「ううっ。なんなんですかこの人。ねこますさ~ん。」
「おおよしよし。たけのこは相変わらずもふもふだねえ。」
ブッチに構っているといくら時間があっても足りなくなりそうなので華麗に放置だ。
私はたけのこをもふもふするので忙しいのだ。ああやっと会えたなあ。もうなんか
しばらく離れていたから寂しくてたまらなかったよ。みんながいたけどさあ。
「へ、へび怖いチウ。」
「おっなんやこのチビ。ワイにびびっとるで。うはは。」
「だいこん殿と申したか、あまり怯えさせないほうがいいですぞ。ねずおに噛みつ
かれたら無事ですまないので。」
「ファッ!? なんやこのチビ。そんな恐ろしい攻撃持っとるんか。やばいで!」
だいこん。お前、ねずみだからって舐めてかかっちゃいけないってことだぞ。小さ
いモンスターって見えないところから攻撃するのが得意だから危険度は高いんだぞ。
「な、仲良くしようやで。へへ。」
「怖いチウ!」
「あいた~!? ワイの尻尾がああ!」
ほら、いわんこっちゃない馬鹿め。
「っと、話がそれてるっての! ブッチ達はここまでどうやって? やっぱりエレベ
ーターで?」
「何それ? エレベーターなんてあるの? 俺たちは普通に階段で登ってきたよ。」
「なっ!? い、一階から?」
「ソウデス。イッカイカラドンドンノボッテキマシタ。」
すげえ根性だなオイ。つまりそれは私がこの塔を召喚した後から、割とすぐに来て
そのまま50階を上っていったってことだよな。やばいなその根性。
「あの~ねこますさん。ブッチさんって結構怖い人なんですね。」
エリーちゃんが私に耳打ちをしてきた。いやそれぼそぼそ喋ってるけど多分聞こえ
ているんじゃないかなあ。
「おっ! 女子特有の陰口かい!? はっはっは。嫌だねえ陰湿で。」
「なっ。なんなんですかもう! そんなつもりじゃないですよ!」
「俺は、みんな分かってるから大丈夫だよ。エリーちゃんは腹黒いんだろう?」
「いきなりちゃん付けしないでください! セクハラです!」
そういえば、ちゃん付けってセクハラになるんだよね。きちんとさん付けで呼ば
ないとだな。おし、今日からねっこさんって呼ばせるか。
「ねっこさん! っていうとなんかもうベテランって感じがするよね?」
「しねーよ。」
ああもう。話が進まないんだよ。もううううう。
「マブダチ殿は流石ですな。マスターより話を聞かせていただいておりましたが、
50階にも渡る道を登ってくるとは。正に戦士です。」
「へっへー照れるなぁ。へっへっへっへ。」
「ブッチ殿こそ、真の戦士にふさわしいのです! どうか今後は私を徹底的に鍛え
ていただきたいと思います!」
「ん? ああ。いいよ。うん。」
「ははっ! ありがたき幸せ!」
「おっ? えっ。 あっ?」
おお、意外にブッチは真面目系が苦手らしいぞ。私もこれからは見習ってみるか。
「それで、ここから50階降りなきゃいけないってことになるのか。うわしんどい。」
これだけ頭数が揃っていればなんとかなるんだろうけど、ここから下にどんどん
いかなきゃいけないとか憂鬱だ。なんとかならないのか。
「ソレナラシンパイハイラナイ。」
振り返るとリザードマンが2匹いた。ああ、イッピキメとニヒキメじゃないか。
心配いらないという事は、ここから下に行くエレベーターの場所でも教えてくれ
るってことか。というかタイミングよすぎだなお前ら。実は、私達が戦っていた
ところをこっそり見ていたんじゃないのか。
こっそり見ていて話す機会をずっと伺っていたかもしれないっていうとちょっ
と笑えてくるけど。
「誰こいつら?」
「エレベーターリザードマン。エレベーターに案内するためだけに生まれたの。」
「まじかー。悲しい運命だなー。」
わざとらしい演技をしやがってブッチの野郎。今度からこういうことをしたら、
くろごまと対話させまくるか。
「エレベーターノモリビトカ、ソレモワルクナイナ。」
「ソウダナ。ソレデ、ワレワレナラ、ココカラシタマデノエレベーターガワカル
ゾ。」
エレベーターの守り人ってなんじゃいそりゃ。好きにやってもらえればいいけ
ど、とりあえずここから早く出たいので案内してもらうとするか。
「ブッチ達がきたのって」
「向こうに扉があったんだよ。ここに来たとたん消えたけど、今はまた出現して
いるね。良かった良かった。」
確かに今まで見当たらなかった扉がそこにあった。トラゴンを倒さないとその
扉が出てこなかったというわけか。どのみち私達が戻るためには戦わなければいけ
なかったことなんだなあ。
「ダイジョウブナノデスカ?」
「ああ、この二匹。多分ね。最初に出会った時ボコボコにしてやったから。」
「姉御は逆らう者には容赦なしなんやな。」
「その通り。この般若レディに逆らう奴は、死あるのみ。」
冗談のようで冗談じゃない台詞なんだけどね。だって、私に逆らうってことは私が
死ぬかもしれないんだしそんなのは嫌だ。
「というわけでさっさと案内するならして。」
「ワ、ワカッタ。コッチダ。」
なんてついていくけど、当然みんな警戒している。こいつらバカっぽいけど最後の
最後で裏切ってきそうな気がするし。
トラゴンが最後に言っていたレッドドラゴンっていうのがこいつらリザードマン
とも近縁種って感じがするしなあ。実はそいつの配下だったりするするかも。ふふ
ふ。こういうボスを倒して勝利の余韻に浸っている時こそ、騙されやすくなるのだ
ろうがな。いつも言うが私にはそんなものねえ!!
いつか尻尾を出すであろうことを疑って、ほれみたことかと言ってやるのが私の
目的なんだ。お前ら絶対裏切るタイプだろ、私は分かっているんだよ!
「おっ。姉御がいつもの悪い顔をしとるで。」
「この後大体、予想が外れてゲェーッとか言っちゃうんだよね。」
だいこんとブッチが何か言ってるが無視だ無視。今はリザードマンどもに集中だ。
「おい、お前ら先に行くな。私とたけのこが先頭。その後ろにイッピキメとニヒキ
メ。お前らだ。そしてその後ろからブッチ達を連れて歩け。分かったな。」
油断も隙もあったもんじゃないというか、この先のエレベーターがやら何やらが
本当にあるのかも怪しいし、こいつらだけ先にエレベーターに乗って逃げるかもし
れないというのがある。
「やっと、やっとこの塔から出られる・・・!」
エリーちゃん嬉しそうだなあ。ずっと閉じ込められていた場所から出られるなんて
良かったね。そんでそんなエリーちゃんを助けた私は、いわゆる王子様的な感じな
んじゃない。いいねえこのシチュエーションは。
「ここでお前らが裏切ったらそこのエリーちゃんが地獄の炎を浴びせるからな。覚
悟を決めろよ?」
「ウ、ウラギラン! トラゴンサマをタオシタオマエラニテイコウナドシナイ!」
「ソウダ、ワレラデハトテモカナワン」
で、みんなで扉から出たら割と薄暗い部屋に出た。なんだここ。ブッチたちを見て
みたが、まるで知らないような顔をしているぞ。んん。やっぱり騙されたか?
今回より1話あたり4000文字程度にしますので1日1話更新で頑張りたいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
(2000~3000がいいという方がいましたら、感想等でお願いします。)