第101話「トラゴンの足掻き」
ブッチの所までなんとか駆け付けると、怒り狂ったトラゴンの攻撃を受けていた。
あれほどの爆発を浴びたのにまだここまで動けるのかと驚愕した。それにしても、
こんなに怒っているのはやはり第二形態になってすぐにやられたことが納得いかな
かったからなのだろうか。
確かに今から真剣勝負だと思っていた矢先に、あっけなくやられるなんていうの
は嫌だろうが、これも戦いだしな。私は残念ながら武士道精神なんかを持ち合わせ
ていないので、勝てばいいという考えだし。
戦いなんだからまず勝たないといけないし。卑怯と言われてもまずは勝つ。だっ
て負けるの嫌だし。
「グォアア!? ギサマ!?」
ブッチが攻撃を抑えている最中、所々火傷が見えるトラゴンが私を睨みつけてき
た。うわぁ、これ絶対私に怒り心頭だよ。マジで怖い。だがこれは、同時にチャン
スでもある。
「最初からあんたに勝つ手段はあったってことだよ。それを舐めたのが運の尽きだ
ね。」
「ユルサンゾォオオ!」
「ちょ。ねっこちゃん。そんな挑発しないで! 今やばいって!」
おいおいブッチさんよー。俺はまだ本気出してないって言ってたじゃないっすか。
ここらへんで根性見せときなさいよ。私もボロボロなのにここまでやっているんだ
し。ねえ?
「よし! 私が囮になるから、全員、その間にトラゴンに攻撃!」
「え!? ねこますさん!?」
ヘイトという言葉がある。これは、憎しみを意味する言葉なのだが、ゲームにお
いては敵がどのプレイヤーへ攻撃するのかを決定するための指標値だ。トラゴンの
場合、現在のヘイトが誰に対して1番高いのかと言うと、私だ。
私が一番ダメージを与えたのだから当然と言えば当然だ。つまり私はこれからひ
たすらトラゴンに狙われることが確定している。だからこそ私がこいつを引き付け
て皆が攻撃をするというのがいい。
「来いよ! 三下ボスの「ドラゴン!」」
「ギザマ!? 俺ハ、ドラゴンじゃない!トラゴンダアアアアアア!」
「うおっ!?」
ブッチを突き飛ばし、私に一目散に向かってくるトラゴン。真っ直ぐ動いてくる
のは分かりやすかったので、そのまま右に転がり回避する。よし、完璧だ。リザー
ドマン達に教えてもらった事が役に立った。
「ファイアボルト!」
そこへすかさずエリーちゃんが火の魔法で攻撃し命中。ナイス判断だ。トラゴン
は大分弱っているはずなので小さな攻撃でも積み重なっていけば必ず倒せるはずだ。
こういうボスってあと少しのはずなのになかなか倒しきれないってことはあるけれ
ど、地道に攻撃をし続けることで確実に倒せるはずだ。
私が今までプレイしたゲームでもちまちま削って倒したボスは沢山いる。それを
今トラゴンにもやるだけだ。
「浮遊!」
一瞬だけ、トラゴンの体が浮く。そしてそのまま落下し、体制を崩す。そこへ皆
の一斉攻撃だ。たけのこの爪がトラゴンの体を斬り裂く。爆発を受けた後で皮膚が
弱くなったのかは分からないが、体から大量の血が噴き出た。
ブッチは何度も張り手で打ち付けている。鈍い音が聞こえるのでこれもかなりの
ダメージだろう。
くろごまは、腕や足に狙いを定め、黒如意棒で叩きつけている。トラゴンの動き
を止めて皆に攻撃がいかないようにしているようだ。
エリーちゃんはそこへ魔法の連打をしていた。とりあえずそこに向かってドラゴ
ンフルーツを投げておく。戦いの最中に食べるのは間抜けな感じがするのだがこれ
も魔力を回復するためだ。仕方がない。
で、だいこん。何かそわそわしている。何かやろうとしているんだろうけどやり
たくなさそうな顔をしている。何をするつもりなのかは分からないが、やる気があ
るようなのでとりあえず放置。
「真空波! そんでもって! 狐火」
「ウオオオオオオオオオ!」
なんだと!? トラゴンが吠えると、みんなが吹き飛んだ上、私の攻撃もかき消
されてしまった。ああ、これいつもの追い込まれると強くなるモンスターの特性じ
ゃないか。ということは本当にあと少しじゃないか。ここが踏ん張りどころだ!
「キサマ! オレをヨクゾココマデオイツメタ! ナヲナノレ!」
「嫌だよ。私の名前を知らないままくたばれ!」
鎌を構える私。どこかの武将とかじゃないんだから名前なんて名乗らりたくない
し。名乗るほどのものじゃございません。なんてね。いつものひねくれた考えだよ。
こういう時に名前を名乗る展開があったらそれを破りたくなるじゃないか。
「ナンダト!? キサマァ! ソノ面ヲワッテクレヨウ!」
いや面なんてかけてないし。これは私の顔だっての。般若レディの顔だっての。
「させるかってのおおおお! 浮遊!」
私は突進してくるトラゴンに向かってまたも浮遊で足止めにかかる。が、一瞬浮
いて姿勢を崩したはずのトラゴンがそのままの勢いで私に腕を振り下ろしてくる。
「うぐっ!?」
「ドウシタア!?」
鎌でなんとか受け止めるが、なんていう衝撃だ。ブッチが素手で何度も防いでい
たが私なんかこれ一発でかなりきつい。くっそぉ。どうすりゃいいんだよ。あっ。
あれがあったか。
「照眼!」
私の鋭い眼光がトラゴンを照らす。目くらまし程度大して効果がないと思うがそ
れでも何もしないよりはましだ。
「威圧!」
これもほぼ無意味だがやる。まず動きを少しでいいから止められればいいんだ。
私じゃとどめを刺しきれないのはわかっているし。
「ムダダア!」
「無駄じゃないな!」
ブッチが、攻撃を受け止める。流石だ。頼りになるな筋肉系は。あとは任せたと
言いたいところだが、まだ、まだ私はやることがあるんだよ!
「ブッチ!これを使って狂戦士って叫べええええ!」
メリケンサックをブッチに投げて渡す。ブッチが狂戦士を使えば、形勢逆転だろ
う。最後の〆は頼んだぞ。
「っとぉ!?」
なんとかメリケンサックを掴んだブッチ。よし!
「行けやマブダチ! トラゴンを倒せ!!!!!」
「おうよマブダチ! トラゴンを倒すぜ! 狂戦士!!!」
ブッチが吠える。最後の最後はお前が決めろよ。マブダチ!