第100話「立ち上がれ般若レディ」
私とブッチは、全速力で走った。その後ろから強烈な爆風と衝撃が襲い掛かって
くる。これは、死んだかと思った。デスペナルティもやむをえないとは思った。
走っている最中、たけのこやエリーちゃん達の姿は見えなかった。扉から出るこ
とができたのだろうか。出られたとしても、無事であるかは分からない。それでも
無事を祈るしかない。
唐突に、ゲーム世界に夢中になっている自分に気づく。<アノニマスターオンラ
イン>は現実そのもののような感じだが、やはりゲーム的な要素も沢山あるのでと
とても楽しい。
ってこれはなんだよ。走馬灯を見ているような感覚に陥いるなんて私らしくない
ぞ。ここはなんとか生き残って、勝者になるべきところだ。ここで死んだりしたら
意味がないじゃないか。
「ムグゥウ!」
吹っ飛ばされながらもアイテムインベントリからなんとか薬草を取り出しまくっ
てひたすら口の中に入れていく。ダメージを受けているとしても食べ続ければなん
とかなると思う。
最終的に、壁に高速で激突したが、なんとか堪えることができたようだ。ブッチ
はといえば割と平然と、私の近くで衝撃に耐えていた。一応そこらに薬草を投げて
おいた。片手でむしゃむしゃと食べるブッチだった。
「グウォ。グォオ。」
悲鳴のような声が聞こえる。これは間違いなくトラゴンだ。あれだけ大量の火薬草
をくらって生き残ったか。そうか、やっぱりこいつにほとんどのダメージがいった
結果、私達も生き残れたということか。かろうじて、だけど。
「あいつ。強すぎというかタフすぎ。」
素直な感想を言った。あの威力で倒せないってことはかなり強靭な肉体を持って
いたというわけだろう。まぁ強さを見る前に先制攻撃をしかけたから実際どれだけ
の強さを持っていたのかは分からないけれど。
「爆発の威力はあいつが抑え込んだっぽいねえ。あれだと俺より強いかもなあ。」
いや普通に強いだろ。虚勢を張るなと思ったがそこはツッコミを入れなかった。
さてここからどうするか。あいつが自動回復とかあったらまずいだろうし、そうじ
ゃなかったとしても、まだ何か仕掛けてくるかもしれないから戦わないと。
「くぅ・・っ。」
狂戦士を使った反動がきているが、それどころじゃない。こういう時にとどめを
させないでおくと、大体ろくなことにならない展開が目に見えている。
「ねっこちゃん無理しすぎ。ここまでやってもらったからには、後は俺がなんとか
するって。」
「ああー。ここは素直に譲っておく。けど長引いたら私も参加するからね。」
「あいよー。じゃあちょっくらぶちのめしてくる。」
ブッチは薬草を食べながら、トラゴンの方へと向かう。早く私も行きたいが体が
思うように動かない。
トラゴンはどんな状態なんだろうか。というか大爆発が起こり、瓦礫が散乱して
いるのに、塔自体はほとんど崩壊していないのは何故だ。やはりトラゴンがそれら
の威力を押し殺したってことなのか。それともなんだ。
この塔自体がトラゴンとかそういうことは考えられるか? 邪推し過ぎか? 毎
回沢山の予想をする私だが、トラゴンがこの塔の化身みたいな存在がいてもいいん
じゃないかなという発想がでてきた。
ただし、その考えだとトラゴンを倒したらこの塔が崩壊するということに他なら
ないので、この状況は結構まずいなじゃないかとも思っているけど。ブッチがトラ
ゴンを倒したら、それこそこの塔が突然消えるなんてこともありそうだ。
「全部私の妄想。みたいなものだけどなあ。」
ゲームを沢山プレイしてきて、こうじゃないかああじゃないかという試行錯誤を
沢山するが、見当外れだったりすることも沢山あるし、考えすぎじゃないかという
かありえもしないことまで考えだすようになってしまった。
こういうのがある意味でゲームの楽しみ方がひねくれるようになってしまった気
もするが、<アノニマスターオンライン>の世界はそのひねくれた考えですらあり
えるところが面白すぎる。
「でもトラゴンは、倒さなきゃいけないだろうな。」
この塔は、何のためにあるのかは分からないが、この塔を攻略するということは
トラゴンを倒すという事だろう。それが出来ない限り攻略したことにはならない。
私としては、この塔は攻略したい。ボスであるトラゴンを倒して、終わらせたい。
倒したら塔が壊れるにしても、その前に脱出すればいいだけの話だろう。敵を倒
したらさっさと脱出しろなんてゲームは沢山あったしそうすればいい。
ただ、嫌なことが2つある。1つは十二支の件だ。仲間になるモンスターがみんな
十二支からきているきがするので、トラゴンもそれっぽいところがあるし、後はこ
の塔にいたリザードマンたちもそれっぽい。
正直ありきたりな十二支が何かに関わってくるのは嫌だけれど、ここでの判断ミ
スが後につながるかもしれないというのが頭をよぎる。
仲間にしないと倒せないモンスターなんていうのがいたらどうしようかなぁとか
将来的なことを考える。
ああ、くそ、こんな状況のせいで嫌な事ばかり考えてしまうじゃないか。そろそ
ろ体動いてくれないかなあ。
「ぐぐぐぐぐぐ。」
なんとか起き上がることはできた。なんだやればできるじゃないか私。あれ?
違った。いや、起き上がらせてもらったのかこれ。
「エリーちゃん。」
「ねこますさん。大丈夫ですか? さっきすごい爆発がありましたけど。」
「ねこますサマ。ヨウヤクアエマシタ。」
「姉御、ちょっと無理しすぎちゃうか?」
「マスター、私達が付いてますよ。」
ああ、いっぺんに話さないでくれ。私にも仲間がいるっていうのは分かったから。
「おこしてくれてありがとう。まぁその。まだあいつ生きてるから倒さないと。」
トラゴンだ。トラゴンとの戦いは決着をつける。行ける。私はまだいける。みんな
がいるし、戦える。ふっふっふっふ。般若レディはこんなところで諦めない。折角
ここまで来たんだ、いつも通り当たって砕けないで行くべきだろう。
「ねこますサマ。ワタシタチモイキマス!」
「そうですよー! もうあいつ弱っていると思いますし! 今なら倒せます!」
「最後は皆で行きましょう。」
「よっしゃ !あっちの煙が漂っているところにいけばええんやろ?ワイに乗って
やで。」
よーし。分かった。分かったよみんな。後はみんなでとどめをさそう。こんなあり
来りすぎて、どこでもよく見かけるような展開なんて馬鹿みたいなんて思っていた
けどなかなか悪くないじゃないか。
はっはっは。いいね。なかなか。よし、ブッチの援護に、そして最後はみんなでト
ラゴンを倒すぞ!
ありきたりな展開を嫌う般若レディが、ありきたりな展開を受け入れました。
ついに100回目です! いつも見ていただいている皆さんありがとうございます!
トラゴン戦は多分あと少しで決着がつくはずです!(多分です。)