私自身が「博物館行き」ですか、そうですか!(仮)
新米学芸員さんのお話しです。
博物館へようこそ‼︎
学芸員拝命前日譚
祖父母の家は一人で住むのにはあまりにも広大だーー現在の家の主である長井真由子は引っ越しの作業もそこそこに天井を眺めていた。
祖父母が他界し、空家となる筈だった嘗ての祖父母の家は、真由子の就職によって、そのまま真由子が住むことになった。
学校を卒業するにあたって、考えていた就職先は、決して祖父母の家の近くでは無かった。適当な企業に入り込んで上司からの雑用をこなして日々を過ごし、目指すは寿退社という、
「お茶汲み係、サイコ〜‼︎」
そのような思考だったのにも関わらず、当時は健在だった祖母の様子を見るため、という名目で祖父母の家のある町役場の職員採用試験を受けたところ、何故か合格してしまった。
公務員試験対策というのを全く実施していなかったので、まさかの合格通知だった。真由子が学生時代にしていたことといえば、授業料の元を取る! とばかりに講義を受けまくっただけである。
そのせいでというか、おかげさまでというか、真由子にとっては珍品としか思えない資格は手に入れることが出来た、と言える。資格はあっても、それらの専門家として毎日活動するという気は全く無かったのである。尤も資格を持っていることを誰かに自慢しよう、とかいう気持ちの持ち主でも無い。講義を受けていたら貰えちゃった、というのが真由子の正直な心持ちなのだ。
自動車の免許は持っていても、所謂ペーパードライバーという方々がいらっしゃるのと同じくらい、ペーパーライセンスホルダーという存在が、長井真由子その人であった。
企業のお茶汲み係は魅力的だったが、その肝心の企業の就職内定を得ていなかった真由子は、他に選択の余地が無く、就職先は祖父母の家のあるーー現在の真由子の居住地の町役場の職員を拝命することとなった。
「倒産するかもしれない、という心配をしなくて良いから、ま、何とかなるかな?」
就職先のことより、この広大な家のこれからのレイアウトをどのようにしようか、と思案することのほうが真由子には重要だった。
「明日持っていく物、何だったっけ?」
眺めていた天井から視点を戻し、町役場から届いていた書類ーー採用通知書を見てみる。
新年度の開始のセレモニーと合わせて入庁式を行う、時間と受付場所は何処其処で、などといった以外の特記事項として、
・町役場職員への手土産は不要
・朱肉を用いる印鑑を持参
・正式な配属先は辞令に記載
が挙げられていた。
この時点での真由子の配属先は、
『町民課(仮)』
町役場は真由子に何をさせようとしているのか、全くの謎であった。
続きます。