お金にまつわる物語
1.10代の男性
彼は10代の男性である。ただ将来に希望がなく平凡な日常を過ごしている。そんな彼に関するお金にまつわる物語である。彼にも夢中になれることが一つだけあった。それは「スマホゲーム」である。いつでも気軽に出来、暇をつぶす為に始めたのだが、今では数あるユーザーの中でもトップクラスの強さを誇るプレイヤーである。「スマホゲーム」の内容は対戦型のバトルゲームである。ユーザーが自分のアバターを作成して、そのアバター同士を戦わせるゲームなのだが、このゲームの面白いところは現実と連動してアバターが進化し、対戦をすることが出来るところである。詳しく説明していこう。例えば、Aという学生がいたとする。そのアバターは学生服を着ており、対戦することが出来るのも同じ学生同士である。
その後、銀行員に就職したとすると、アバターはスーツを着て、対戦することが出来るのものサラリーマン(年収300万円台)となる。資金力や境遇が同じようなユーザーとしか対戦できないので、ユーザー同士の不満がなく快適に遊べるものである。この「スマホゲーム」の面白いところは対戦の結果が現実に反映されるということである。例えば、Bという起業家がいたとする。その起業家がCという会社社長に対して、企業買収条件の対戦を持ち掛けたとする。その対戦はBが勝ったとすると、実際にBがCの企業を買収することが出来るのだ。(買収によるお金はもちろん発生する)このような仕組みが何故出来るのかは分からないが、ユーザーたちは条件を自由に決めることが出来るということもあり、こぞって自分のアバターを強化する為、この「スマホゲーム」にお金を課金していった。
10代の学生の話に戻るが、彼もこの「スマホゲーム」に多額のお金をつぎ込んでいる。もちろん「スマホゲーム」の支払いは親であり、実際にお金を使っている感覚がないというのもあり、月に10万程を使うこともあった。一方でその為に自分の昼飯代100円さえも節約したりする。一体なぜだろう?端的に言うと彼にとってスマホゲームへの課金>食事代という価値観にもとづいているのだが、あまり合理的とは言えない。何故このような行動をとってしまうのだろうか。彼の心理に迫っていこう。彼のお金は全て親が管理しており、実際に現金としてもらえるのは月々の生活費と食事代(昼飯)で15,000円程である。その中で友達と遊びにいったり、欲しいものを買ったりする。つまり彼の中では、月15,000円しかお金の感覚がないのである。その中でお金をやりくりしているという認識なのである。ただ実際には携帯代や学校の授業料、電車代(定期代)等が発生しているが、親が支払っていることや毎月定額ということもあり、お金を使うという認識から外れてしまっているのだ。同じ金額を使うにしても実際に手元からお金が減るのと毎月引き去れるお金では、手元からお金が減るほうが心理的にお金を使っているという認識があり、抵抗感があるのだ。この心理からすると「スマホゲーム」の課金は実に人間の心理を上手くついている仕組みだと思われる。実際にお金を使っているのに使っている感覚がないのだ。その為どんどん課金をして翌月の請求にこんなに使用した覚えがないと皆驚くのだ。
10代の男性は、この「スマホゲーム」では有名人であった。学生という資金力が限られた中では多くの金額を使い、対戦ランキングも常に上位であった。そんな彼の楽しみは普段の生活では実際に勝てない相手をこの「スマホゲーム」で倒し、相手を屈辱のどん底に追いやることであった。彼の対戦を実際に見ていこう。
彼と同じ学校に通う才木秀人という人物がいた。彼は成績優秀、運動も得意でサッカー部のキャプテン、人柄も良く皆に愛されるまさに完璧人間であった。彼はそんな彼がうらやましかった。そんな才木がこの「スマホゲーム」をやっていることを人づてに聞き、才木に対戦を申し込むことにした。才木は現実とは違い、とても弱かった。すぐに決着が着き、才木を倒すことが出来た。彼は、才木に付き合っている彼女の悪口を学校中に言いまわる条件を突きつけた。才木は実際に悪口を言い回り、それがきっかけで彼女と別れることになってしまった。才木はひどく落ち込み、勉強や運動に身に入らなくなってしまった。彼はそんな才木の絶望を見て楽しんでいたが、そんなしょうもない娯楽に毎月多額のお金をつぎ込んでいる彼のほうが愚かではないかと思う。それならば自分の勉強代や友達との交際費にお金を使用するほうが遥かに合理的ではないか。しかし、人は何かにお金を使用する時、それに使わなかった場合、他にどのようなことが出来るかという選択肢を持たず、それにお金を使用するかしないかで選択してしまう。このような仕組みを上手く使える人や企業がずる賢く人々からお金を奪い取ってしまうのだ。
2.10代の女性
彼女は10代の女性である。将来のことはあまり考えず、今を精一杯楽しんで生きている。彼女には欲しいものがたくさんあった。流行りの洋服やコスメなど欲しいものは常につきることはなかった。彼女は親からの毎月5,000円のお小遣いの他にアルバイトをしていた。そのアルバイトは流行りの「パパ活」と呼ばれるものである。お金の持っている起業家等が女性と食事をしたりすることに何万円ものお金を支払うというものである。彼女も「パパ活」をしており、相手のパパは10人もいる。一緒にご飯や買い物に数時間付き合うだけで、何万円ものお金が手に入る。割のいいアルバイトみたいなものだと思っていた。しかし、そんな甘い話が世の中にあるわけがない。ある若い起業家と出会った時にある事件が起こった。彼の名前は田中といった。今となっては本名なのか、偽名なのかも分からない。彼のお馴染みの店といってある個人経営のレストランに食事に行くことになった。そこからすでに彼の作戦は始まっていた。彼は彼女の飲む飲み物に睡眠薬をこっそり仕込ませていたのだ。彼女は気づくこともなくそれを飲んでしまった。彼女が目を覚ました時には、彼女はホテルにいて、裸の彼が近くにいた。一瞬なにがおこったか全く分からなかったが、ふと彼女自身も裸であることに気づいた。彼女は犯されていたのだ。もちろん彼をはねのけ、警察に連絡することも出来たが、彼女にはそうはしなかった。親に内緒でしていたことであり、警察に連絡することでそれがばれてしまう。そんな安易な考えでされるがままであった。彼は事が終わるとすぐ帰っていった。彼女はこれが今まで楽に稼いできた代償なのかと絶望した。彼女の大切な体は汚されてしまった。彼女はそのトラウマとこれからも生きていかなければならないのだ。何故、彼女はこのような選択をしてしまったであろう。彼女の心理に迫っていこう。まず彼女はそれ程自由に使えるお金がなかった。それに対して、欲しいものがたくさんありすぎた。人は満たされない感情が大きいほどそれに対して大きな価値を見出す傾向がある。つまり欲しいものに対して過大な価値を見出してしまっていたのだ。一方で彼女には稼ぐ手段が限られていた。親にはアルバイトは禁止されており、内緒でお金を稼ぐ手段を探した。ただブログやyoutuber等は手間がかかるし、風俗は危険がいっぱいである。そんな中で食事するだけで何万円という「パパ活」はとても魅力的に思えた。冷静になって考えれば知らない異性と食事をするなんて行為は危険があるように思われるが、彼女にはネット広告の楽に稼げて、危険もありませんという詐欺的な広告に惑わされてしまったのだ。このように社会はメリットしか見せない。そこにあるデメリットも上手く隠していることが多い。反対に考えれば、きちんとデメリットを開示している人や企業程信頼できるのではないか。10代の男女に共通するのは「今」を生きていて、「将来」の価値を上手く算定出来ていないことだ。それはもちろんしょうがないことだと思う。将来というものは漠然として見えないものである。10代なんて特にそうだろうと思う。今偉そうに説教をしている親も昔はそうだったのだ。その体験があるから子供に説教をする。もちろん親の言うことが全て正しい訳ではないが、少しは親の言うことを聞いてみて欲しい。過去の失敗を繰り返さない為に何かを伝えたい場合もあるだろう。
3.20代の男性
彼は20代の男性である。大学卒業後、地元の銀行に就職しだが、日々仕事漬けで何をしても楽しくなかった。彼は仕事を辞めようかと何度思ったが、将来を考え踏みとどまった。彼は趣味もなく、彼女もいなかったのでお金は溜まっていた。むしろそれを生きがいに日々頑張っていたといっても過言ではない。早くお金を貯めて早期リタイアをしようと思って、頑張っていた。彼の年収は500万円程で貯金は300万円程あった。彼は仕事に不満はあったが、転職活動をしているわけでもなく、貯金も全て銀行口座に入れていた。彼が本当に早期リタイアしたいのであれば今と違う行動を起こさなければならないのだが、彼にそれを行うことが難しいだろう。彼の心理に迫っていこう。人は自分が持っているものや所属しているところに大きな価値を見出す傾向がある。誰しもが長年使っている製品がなくなったり、仕様が変わってしまったりする時に買いだめすることはよくある。人はもともと現状から変わることを恐れる生き物である。何かを変えることは大きな決断がいるし、何より不安が伴うのである。今の製品と比べて明らかな優位性がない限り買い替えはしないのだ。企業活動においても同様である。したがって、その市場にいち早く参入した企業はほとんど廃れることはないだろう。(不祥事等を起こさない限り)
彼の話に戻ろう。彼は銀行員でもあるので投資に興味を持ったこともあった。ただそのリスクを考えて投資は決してしなかった。投資をしないことがリスクだとは思いもしなかったのである。もちろん投資が正しいという訳ではない。世の中には投資で莫大な富を気づいた人がいる一方、多額の借金を背負ってしまった人もいる。世の中に出てくる話はどちらも両極端なのである。もちろんそういった話が注目されやすく、人の記憶にも残りやすいのである。投資というのは本来儲ける為でなく、リスクの分散だと思う。将来の様々なリスクを最小限に抑える為の方法だと思う。例えば、Aさんは銀行(1)に500万貯金があるが、それ以外の金融資産はない。Bさんは銀行(1)に50万円、銀行(2)に50万円、銀行(3)に50万円、国内株式に100万円、外国株式に100万円、個人年金に50万円あったとする。5年後もし銀行(1)が倒産してしまったらAさんの500万円はなくなってしまうかもしれませんが、Bさんは50万円がなくなるだけかもしれません。実際には全て戻らないことは考えにくいですが、例として極端に考えています。もちろん銀行(2)が倒産するかもしれません。国内株式が暴落するかもしれません。将来のことは誰にも分からないのです。したがって、そのリスクを分散する為に投資があると思うのです。日本では楽にお金を稼ぐことがあまり良いとはされていないと思います。投資とは決して楽でありません。将来の価値と現在の価値を明確に調べ、今後伸びるだろうところにお金をつぎ込むことなのです。そこには明確な情報と決断力がなければ決して出来ません。ただ投資活動は人生と同じようなものだと思います。将来の自分を予測して、現在の活動を決めていくそんなようなものだと感じています。
4.20代の女性
彼女は20代の女性である。彼女は大学を卒業後、都内の大手メーカーに就職した。大学の頃から付き合っている彼がいるが、近ごろはお互い仕事ですれ違いがちである。彼は大手総合商社で働いており、仕事のほとんどを海外で過ごしている。そんな彼に会う機会は少なく、彼女も彼との将来に不安を感じていた。3カ月ぶりに彼と会う機会が出来た。彼女はとても楽しみで早く約束の日にならないかなと思っていた。約束の日の待ち合わせ時間より1時間も前に彼女は駅に着いた。彼が来ないか待っているとき、彼女の携帯がなった。彼からの連絡であった。その連絡は彼が仕事で急に来れなくなったというものであった。仕事で急遽ベトナムに行かなければならなくなったらしい。彼女はつい衝動的に別れようといってしまった。衝動的であり、彼女の本心ではなかった。しかし、彼の返事は分かったとそれだけであった。その後、彼女から連絡を取ることもなく彼との関係は終わった。彼女はその後、彼を忘れるために合コンによく参加するようになった。しかし思うような成果が出ずお金だけがなくなっていった。婚活サービスにも登録してみた。何回か婚活パーティーに参加してみたが、彼女の好みに合う人物は見当たらなかった。婚活パーティーで男性がアピールすることは年収と職業のみで、女性もそれだけを求めていた。純粋な彼女は世の中は金ではないと思い、そんな婚活パーティーに参加することはなくなった。彼女の生涯の伴侶は意外なところで見つかった。職場の同僚である。彼女が新しい部署に異動になった時の5歳上の先輩である。彼の仕事熱心なところや上司や同僚に好かれているところを見ているうちに彼女も好きになったのだ。数年後、結婚し今も幸せに過ごしている。彼女たち夫婦が幸せに過ごせた理由はなんであろう。それはお金の価値観が一致していたことである。(もちろん性格も)彼女たち夫婦はとても倹約家であらゆる無駄をはぶこうとした。例えば、スマートフォンを格安のものに変えたり、旅行も格安空港を使用したりした。彼女たち夫婦はその生活に満足しており、将来への貯金を惜しまなかった。また、彼女が彼の年収額をきちんと把握していたことも大きな理由である。彼は同じ会社の人間であるので、給料や賞与もしっかり把握されていた。彼も包み隠さずそれを彼女に伝えた。このおかげで彼女たちはお金で老後まで苦労せず生きることが出来るようになったのだ。たまにお金がなくても幸せになれるという人がいるが、それも間違ってはいないと思う。確かにお金がなくても生活を工夫して楽しく生きている人はいるだろう。しかし、お金があって困ることは決してないのだ。お金があれば、お金が原因で人に迷惑をかけたり、死んでしまったりすることはなくなるだろう。お金とは人間にとって少なくても生活はしていけるかもしれないが、多ければ困ることは減るだろう。(もちろんお金を持ちすぎて起こる問題もあるが)特に、夫婦生活においてお金の価値観は重要である。女性は将来を考えきちんと節約するが、男性は今のためにお金を使うなどのすれ違いが起こると、なかなか溝をうめることは難しいだろう。結婚する前にお互いのお金に対する価値観をきちんと確認しておくことも良いのかもしれない。