劇と道化、やっほいにゃー!!
日曜日の朝
いつもは渋滞続きの道が静まり返る
そんな中仕事の為に走っているとそのまま旅にでも行きたくなりますね……(現実逃避)
死。その文字、その一言だけが脳裏を埋め尽くす。頭を抱え掴んでいた手を胸に抱えてへたり込む。
「いや、だ!!やだぁぁぁあ!!ガノスさん!ガノスさん!!!!誰かっ!!誰かァァァ!!!!」
半狂乱で回りを見渡し助けを叫ぶ。
視界の端で何かが動きそちらを見ると地に横たわるガノスの顔が微かに動いた。
「が、ガノスさん!!ガノスさん!!しっかり、しっかりしてください!!死んじゃダメです!!死なないでぇっ!!」
両手で抱き起こすも顎下から胸にかけて割れたガノスは何も発さず僅かに顔を向ける。
「嘘、やだ、やだぁ……また、また私のせいで死んじゃう……いや、やだぁぁぁあ!!お願い、お願いします!!誰か、助けて………助けて……ガノスさん、ぐす、お願い、ぅぅ」
涙が溢れてガノスに落ちる。顔を埋めたガノスの胸に涙が染み込む。
ふとレイの頭に硬い何かが当たった。
「……ぅ、ぅぅ、ガノ、ス…さん?」
ガノスの残った手がレイの頭に乗せられていた。
「うぅ、ぅぅぅうぅぅ!!!誰かっ、誰がぁぁぁぁ!!!!お願いじまず!!誰がぁぁあ!!!お願いだがらぁぁぁ!!!!」
優しさのようなものを感じ更に涙が溢れて心が張り裂けそうになり、力の限り叫んだ。
――ふむ、何を願う。レイよ――
声は静かに、だが不思議な位よく響いた。
「ぁ、ま、おぅ…?…が、ガノ、ガノスさん……ガノスさんが!!ガノスさんを、助けで……お願い、お願いじます!!何でもするから、ガノスさんを助げて下ざぃ!!」
「ほう、何でも……とな?貴様が口にした言葉は貴様が考えている以上に重いぞ」
森の影から滲むように出てきたのは先程まで見ていた存在。その漆黒の瞳はジッとレイを視ていた。
「何でも、じます……!!だがら、だか、らっ!!!お願いじますっ!!!」
レイは頭を下げて地面に着ける。勢いのあるソレは鈍い音と共にレイの額から血を溢れだした。
「ふむ、ふむふむ、ほうほう。……クフ、くははっ!!良かろう!」
――ならば貴様の願い、叶えてやろう――
正面から聞こえていた声はいつの間にかすぐ背後から聞こえた。
「ぁぅっ!?」
レイの頭を背後から掴み上を向かせる。
『喝采せよ、今宵は晩餐、贄と供物と美酒は此処に――』
裂けた額から血がガノスの残骸へと滴り落ちる。
『刮目せよ、喜劇と悲劇の混じる道化の舞台は此処に――』
レイの身体から紅い煙が噴き出し、周囲を漂う。
『血と涙、悔いと後悔、嘲笑と狂乱で幕を上げよ――』
レイの腕の中にあるガノス、地面に散らばるガノスの残骸が宙へと集まる。
『――道化の人形劇』
そしてルファズの詩が終わり魔法が成る。
瞬間、ガノスの残骸が消失した。
次いで付近の森、空間全てが灯りを一つずつ消されるように黒く染まり――
「ぇ、あ……れ?まぉ、魔王……が、ガノスさん、ガノスさんは何処?」
「………」
ガノスの残骸が浮かんでいた筈の場所を見つめながらレイが呟く。
「魔王……魔王!!ガノスさん……ガノスさんは何処!?」
「………」
視線が魔王へと向くが魔王は変わらず眠たげな目をして宙を見ている。
「魔王!こ、答えてっ!……答えろっ!!」
『おやおや、レディがなんとはしたない口調を使うものだねぇ?』
不意に聞こえた声にハッとなり詰め寄った魔王から視線を切って振り向く。
『え、ギャップ燃え?あぁ、火に水をぶっかけるアレ、かねぇ?うん、ただの消化だねぇ♪』
だがあるのは無。無が有るというのもおかしな表現であるが此処は上も下も右も左も、何処までも無が広がっていた。
「え、あれ……ど、何処から?」
『ここだよ、ここだよ、お嬢様?君の正面、右斜め45度から半円描いて左斜めまで180度』
「え、え?ガノスさん、なの?」
声質は全く違う、だけど何処かその声の中に自分を守って砕けた樹木人を感じ、言われた場所を眼で追う。
『眼だけではダメだねぇ。左手もなぞる様に一緒に動かして動かして?』
「え、えと、こぅ……」
右斜め45度から半円を描いて左斜めまで180度。眼と一緒に左手も同じ様になぞる。
『そ〜ぅ、そう!続いて開いてる左手を人差し指と中指以外閉じて二つを開く〜』
「えと、ぇと……」
『そのまま一直線に顔の前までシュッと、そうそう両目を通り過ぎて直ぐStop!OK!So cute!さぁさぁ今度は本番、失敗は許されないねぇ……では、Music!』
パチンと指を弾くような音とともにドラムロールが始まり、続いてトロンボーンとトランペットが鳴り響く。あっという間に全方位から音が響き、合わさり、アップテンポな音楽に組み上がる。
「え、なに!?何コレ!?」
『慌てちゃダメだねぇ、お嬢様?スポットライトが始まりの合図、リズムを聞いて身体で感じる、そうそう腰もリズムに合わせて振るとやりやすいねぇ。――|Let's do it now《さぁ、やってみよ〜ぅ》!』
様々な音色が飛び交い、やがて最大の盛り上がり、トランペット、トロンボーン、サックスが図ったかのように一斉に鳴り響くと共にスポットライトがレイに当てられた。
「ぇ、あ、わ、わっ!〜〜〜〜〜〜っ!!出来た!!!」
『OK!続いて反対の手でもLet's do it now!』
「えっえっ!!?〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
『O〜〜〜K!!!最期はクルリと回って片目を瞑ってSmile Please!!』
「〜〜〜!!え、えへ☆」
『キラリ〜ン☆ん〜Pretty!!』
パシャっとフラッシュ、プシャッと色とりどりのテープが下から吹き出し最期を飾る。
――さぁ、これにて閉幕、道化の人形劇
――ではまた逢う日まで see you next again !――
そしてライトが一つずつ消えやがて音も光も全て消えた。
「―――いや、ちょっと待って!?何?何なのこれ!?ガノスさん!?ちょっとガノスさん!!?」
「なんだいお嬢様?」
「ぇひゃぁっ!!?」
背後からの声に振り返るといつの間にかルファズの隣に一人の人影。
褐色の肌、小さなシルクハットが乗った紫の髪に少しタレ気味な眼とアメジストの瞳。頬に滴のタトゥー、赤いルージュ。
細くて高い身長にはシャープな黒いタキシード。だが胸に誤魔化しきれない膨らみが二つ……
ルファズとそのもう一人は手にティーカップを持って紅茶を呑んでいた。
「ガノス……さん?」
「ふふ、だからなんだいお嬢様?」
「あ、ガノス……さん……ガノスさんだぁ……ぐす…良かった……良がっだぁ……ぅぅぅぅぅ…………」
「おっと……おやおや、随分泣き虫なお嬢様だねぇ?」
レイがガノスの胸に飛び込み、ガノスの手からティーカップが落ちて宙で掻き消える。空いた右手で頭を撫で、左手で身体を……
「よしよしよ〜しよ〜し♪ん〜暖かいねぇ柔らかいねぇ♪これが命って奴なんだねぇ♪………主様、心より感謝を……」
「ふむ、気にするな。投資の一つだ、とっておけ」
「投資ですか?……ともあれ有難く頂戴いたします」
アメジストの瞳が再びレイに注がれ細められる。
「ふふ、お嬢様。貴女にも感謝を。貴女が願っていただけなければ私はこの身体と命をいただけなかった。有難うございます」
「だっで、だっで私がガノスざんを巻き込んで……私のせいでガノスざんを殺し、殺じちゃうどころだったんだもんんん!!!」
「……ん?」
レイの頭上から何処か疑問符が飛んできた気がして顔を上げる。涙と鼻水でぐちゃぐちゃだったがそんな事を気にしている精神状態ではなかった。
「ふむ……」
「成程、ですねぇ」
「……ぐす……ぇ、なに“?」
ガノスがルファズの顔を見て何かを納得していた。今度は置いてけぼりにされたレイが疑問符を飛ばしていた。
「いや、な」
「お嬢様?別に私はあのままでも死……というか消滅はしませんでしたねぇ」
「……………………え?」
ズビッと鼻を啜りレイの時間が止まった。
「ガノスの素体は土塊と樹。例え砕けたとしても我の血が完全に消えない限りは元に戻り、足りなくなったパーツは同じ土や樹から己で造れる。その位の修復機能位デフォルトで入っておる」
「ぇ、だ、だっであの時ガノスさん何も言わなくて……顔だって全然動いて無くて……」
「いえ、あの時は声を出す部位が割れてまして、同時に首の付け根も危なかったのですねぇ。流石にお嬢様の前で頭を落とすなど恥ずかしさがありまして……だから残った手で気にしないように伝えたかったのですが……ねぇ?」
「………………………」
コヒュー、という空気の抜ける音がレイの口から漏れた。
「ぇ、じゃぁ……私の、空回り?単なる、勘違い?恥をかいただけ?」
「ふふ、そんな事はありませんよ。お陰で私はこの身体と命を主様に、心と温もりをお嬢様に頂きました。心より感謝を、この命をお二方の為に使いますねぇ」
「ガノスさん……ぐす……うぇぇぇぇぇ……」
「ふむ、我は別に要らぬ。我の分もレイに入れてやるが良い。それとガノスよ、我はもう貴様の主ではないぞ?レイの血と魔力を使用したのだから主はレイになっている」
「……主様……」
驚愕の表情を浮かべるガノスに口の端を上げてみる。
「くく、我が主よりレイを主にした方が面白くなりそうでな。元人、元土塊……貴様らは我に何を魅せてくれるのだ?……さて、森の出口で待つ。泣き虫が落ち着いたらそこに送れ。……励むがよい」
霞の様に消えたルファズにガノスはレイを抱いたまま頭を下げ続けた。
「……主様はあの焦げ肉に優し過ぎです」
「む、そうか?優しくするとはどんな事かも分からないのだが……ふむ」
「く、新参の焦げ肉の分際で、しかも元人間と言うだけで不快にゃのに、更に主様の信頼まで得たら私は気がおかしく……」
「ミシュよ」
ブツブツと何かを呟くミシュへと声をかける。
「あ、はい。何でしょうか」
「貴様は我に使えてから何回目になる?」
「はい、確か……二千……えと」
「む、2536、今回で2537回目か。記憶を辿った方が早かったか、すまぬな」
「〜〜〜〜っ!!!??」
幸せの絶頂で気を失いそうになった。そんな正確な数字を数えてくれていた、記憶から自分を探してくれただけでも卒倒しそうなのにそれを今までの全ての記憶で行ってくれたのだ。
こんな幸せがあっただろうか?いやない!!
これ以上の幸せがこれからあるだろうか?……あって欲しい。ほんのちょっとでいいから。先っちょ位いいと思うにゃ。いいに決まってるにゃ。既成事実作っちゃうにゃ。
「まだレイは成り立てだ。貴様が先達として色々と教えてやるが良い。心に何を思おうとも構わん。俺が話位聞いてやろう」
涙が溢れた。主様は自分の心を察してくれていた。だがあの力はやはり危険なのだ。制御する躾はしないといけない……だがその代わり主様は私に俺に甘えてこいと言ったのだ。何という対価!!何という幸せ!!あ、超えたにゃ!!やっほいにゃ!!幸せやっほいにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
「あ、主さみゃ?」
「む、なんだ?」
「こ、ここ、こここここど、子供ももも、は……な、なななにゃなゃな…………――」
――何十人、いえ、何百人欲しいですにゃ?
「おやおや?主様、猫様はどうされたのですかねぇ?」
「む、うむ。どうしたのだろうな?病も攻撃も受けておらんのだがな……急にな」
「……うわ、鼻血!?汚っ、つか多すぎだろ!?しかも何でそんな幸せそうな面してんだっひゃぅ!?」
「お嬢様?言葉遣いは直さないとダメですねぇ?それでは素敵な“殿方“に逃げられてしまいますねぇ」
「お、お尻をつねらないでガノスさん……だって気を許したら魔族にすぐつけ込まれるって皆が……それになんかおかしい言葉が隠れてた気が……」
「お嬢様、私も魔族、と呼ばれるモノです」
優しげなガノスの瞳に少しの寂しさが浮かぶ。
「ぅ……でもガノスさんはガノスさんだし……魔王や変態猫とは」
「同じ、ですねぇ。主様も猫様も感情を持ち、考え、歩んでいます。私も、勿論お嬢様も……何が違いますかねぇ?」
「……お嬢様の過去も信条も詮索致しません。それはお嬢様が見て、学んで徐々に変えれば良いのですねぇ。ですがこれから共に旅をするのです。一歩とは言わず半歩、難しければ小指の第一関節位踏み寄ってみてはどうですかねぇ?」
「……ぅ、頑張り、ます」
「その言葉が聞けて満足ですねぇ。ではこれは私からのささやかなプレゼントですねぇ。あ、今は駄目ですよ?道中に開けて下さいねぇ」
ぽすっと頭の後ろに綺麗にラッピングされた小箱を乗せられ反射的に両手で抑えると素早く身体を反転させられ優しくお尻を押された。
「ひゃう!?ちょ、何でガノスさんいちいちお尻を狙うのっ!?」
「ん〜♪柔らかいですねぇ♪お嬢様のお尻は至福ですねぇ〜♪お嬢様のお尻はいいものだぁ、ですねぇ♪」
「ガノスさんも変態っ!?」
勢いのままに走るもレイの顔には笑顔と僅かに涙。
胸程の位置で手を振るガノスも心からの笑顔。
旅はこれから、苦難もこれから。
その過程で笑顔が曇る事もあるだろう。
怒りと哀しみに染まる事もあるだろう。
だがすぐに晴れるだろう。
「ぅぅう……?焦げ肉。貴女……その格好は何ですか……」
日向の香りを運ぶ侍従が側にいるのだから。
「む、1000回目程の転生時にその様な格好をした学童がおったな……何と言ったか」
何より優しき主が側にいるのだから。
「え?………え“?」
笑え、笑え、喜劇を笑え。
「おぉ、確か……“すくぅる・みずぎ(白)“だったか。陽光耐性の」
笑え、笑え、悲劇を笑え。
「や、やぁぁぁぁぁあっっ!!!??な、何コレ!?何コレぇぇぇ!!!?」
全てをねじ伏せ喜劇に変えよう。
「くす、胸元に大きく“れな“って……くすくす、馬鹿みたいにですにゃぁ〜?」
「が、ガノスさぁぁぁぁぁぁん!!!!??」
どうか、あぁ、どうか――
かの者達に喜劇あれ――
――はてさて、これにてホントの閉幕、道化の人形劇――
「ふむ、次はそれを着れば良いのか?」
「「――――っ!!!!!???????」」
――|see you next again♪《また、お会いしましょう♪》
“|Even soon ☆《直ぐにでも☆》“
むー……(´・_・`)
少し悩み中。色々と。