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人形、持って100年、持たずに2時間

眠れば現実を忘却し

起きれば夢を忘却する。

どちらが現実?私はどっち?

 魔王城。嘗てそう呼ばれ、今は瘴気の森により覆われた恐怖の象徴であり、今回は只の古びた遺跡である。侵入しようとする者は森の瘴気にやられるか、そこに住まう変異した魔獣の糧になるか。

 例え侵入出来たとしても宝等は一切無く、得るのは徒労感と疲労感のみ。


 「いえ、空気が汚れてしまいます!せめて地雷魔法と索敵、掃射魔法を!!」


 「過剰すぎではないか?瘴気の森にちと迷いと混濁の魔法をかければ彷徨った果てに入口へと戻るを繰り返すであろうに」


 「いえ、ですがもし万、億が一に侵入者があっては!そもそもこの森ですら主様のモノ!そこに足を踏み入れるなど万死に値します!」


 ミシュが珍しくルファズに食い下がっているのは留守中の城の警備に関してだ。別に侵入されても既に荒れ、盗まれる物すらない城なのだから入るくらいいいだろ?というルファズに敷地に入った者全てを抹殺と言うミシュ。


 「めんどくさい奴らだな……見張りでも立たせとけばいいだろ……」


 そんな二人を眺めて三十分、飲み終わったティーカップを手で弄びながら見ていたレイがポツリと零した。


 「「っ!?」」


 「いや、二人揃ってそれだ、みたいな顔すんなよ……物騒な罠より先に思いつくだろ」


 「これは、驚いたな。レイには参謀の才がある」


 「く……悔しいですが認めましょう」


 「馬鹿にしてんのかお前ら?」


 このやり取りを前回迄の参謀役を務めていた者が知れば呆れと絶望と怒りに血の涙を流し、頭突きで瘴気の森を奈落の谷へと変えてしまった事だろう。


 「では腐肉、新参とはいえ大任です。しっかりやりなさい」


 「やらねーよ!?」


 「は?貴女が提案して貴女がやらずに他に誰がやると?私は主様の侍従であり側を離れる事は出来ません」


 「いや、この森の魔物は魔王の支配下なんだろ!?そいつらにやらせろよ!?」


 「「っ!!?」」


 「だからそこで驚いた顔をすんなよ!特に魔王!!」


 レイが頭をわしゃわしゃかいてルファズを指差す。


 「うむ、やはりレイは参ぼ――」


 「うるせえ!はよやれ馬鹿魔王!」


 「このっ!!あッふンッ!?」


 「くっはっは!主使いの荒い奴よ。ならば一度外に出るか」


 そう言ってルファズは部屋の端へと移動し、窓を開けてそこから飛び降りた。


 「んッ、アフッ……ぇ?にゃ、あにゃぁぁぁぁぁああァァァァ……………!!!!!???」


 片手にミシュの尻尾を掴みながら。


 「いや、扉から出ろよ……」





 外は薄暗かった。淀んだ空気、鬱屈した雰囲気、おかしな程曲がりくねった木々に紫色の葉と赤い華。まさに魔境という光景。

 ぐったりとしたミシュを肩に担ぎ歩くルファズの後ろを歩き、周りを見て眉を顰めるが不思議と不快な気分を感じない事に首を傾げる。気の狂いそうな光景なのに何故と。


 「どれ、ここで良いか」


 肩に担いだミシュを地面に落とす。ニャブッ!と声を上げヨダレを垂らしたミシュが目を擦って起き上がった。


 「『土塊・御霊・朽木・空風:|宿木となり仮初の生命を生み出せ《フェイク・ライフ》』」


 己の髪を一本千切り燃やして宙に撒く。

 指の腹を爪で切って血を朽木に垂らす。


 瞬く間に朽木は瑞々しい黒樹となりその腹は何かを身篭っているかのように膨らんでいた。


 黒樹が脈動する。一回、二回、脈動する度に徐々に間隔を狭め、やがて膨らみに亀裂が入った。


 最初は褐色の右手が樹から突き出た。次に肩、左手、左足、そして右足と同時に樹の腹を裂くように全身が現れる。


 「名は……そうだな。『ガノス』だ。貴様は我等の留守の間此処を攻撃する者から守れ、他は好きにしろ」


 「カ……し、こま……マシた」


 倒れる様な跪き方だが忠誠はあるようで一つ頷く。

 

 人型だが身体は褐色の木、紫の葉の髪、そして眼はあるが空洞の瞳。樹木人(ツリーマン)の変異種といったところか。


 「我の血を大目に入れた。この森の魔獣位なら従えるだろう。……行け、励むが良い」


 「……ハ」


 深く頭を下げたあとゆっくりと立ち上がり、ぎこちなく歩く。姿が見えなくなる頃には多少動きに滑らかさが出ていたので体の動かし方に慣れてきたのだろう。


 ガノスを見送り、そのままルファズ達は森の中に入っていった。


 「あの、主様。そういえば他の眷属様の方々はどうしたのですか?同じ様に復活したのですよね?」


 多少進んでミシュが思い出したかのように質問を投げかけてきた。


 「む、あぁ。手達か……」


 ()。前回まで必ず共にあり、世界を混乱と滅びに誘う為にあらゆる場所で死と絶望を振り撒いた存在。

 魔王は手と呼び、敵対する者達からは――


 「災禍……六…手……」


 震える声でレイが呟いた災禍六手(さいか りっしゅ)と呼ばれる存在である。


 「それがな。三つ程は僅かに感覚があるのだが……その内の一つは何かがおかしい。そして残り三つの感覚がないのだ。ふむ、一応アレ達も滅んでも再び蘇るはずなのだがな」

 

 「ま、まさか……封印を?」


 「その可能性は高いな。と言ってもそれは感覚が無い方に限った話だがな。ある方は分からん……まぁ世界を回っていればその内出会うかするであろう。特に急ぎはせぬよ」


 「お、おぃ……災禍どもを放って置くのか!?い、一体で国一つ簡単に滅ぼす化物だろ!?お前の部下なら責任を持って回収と大人しくさせろよ!!また、またあんな地獄を作り出そうってのか!!」 


 「貴、ぁ!ふぁん!?」


 「ふむ、そうだな……世界を見て回るのに回る先々が破壊されていたら回る意味もないか。……ならば最初は感覚のある三つを探すか。そして不穏な話のある方を優先、これでよいな?」


 レイが大きく頷き、ミシュの痙攣が頷いているように見えたので了承と受け止める。


 森に入って二時間程、最初は永遠に続くとさえ思った淀んだ空気と景色は一筋の光の裂け目がその終わりを告げていた。


 「ぁ、外……外だっ!!」


 「む、あ、これ――」


 その光の裂け目に動いてない筈の心臓が高鳴った気がし、感情の赴くままに駆け出した。

 途中で追い越した魔王(ルファズ)が何かを言った気がしたがそんな事耳に届くはずもなく。


 「あぁっ!!陽の光だっ、ようやくここから――」


 森を抜けた先。


 晴れ渡る空と瑞々しい緑の平原を暖かく照らす太陽が――


 「――っ!!??ァ、ァァァッ!!?ぎ、ィアァァァァァァァァァァァアアッッッッ!!!!!!???」


 ――自分(レイ)の全身を焼いた。


 「まったく愚か者め……頭のキレる奴かと思っていたら変なところで抜けておるな」


 不意に全身を焼く熱が治まり爛れた視界で見上げると太陽を背にした魔王が目の前にいた。


 「馬鹿ですね。今の自分の存在が何に変わっているのか忘れていたのですか……クス、腐肉でも焼かれると美味しそうな匂いがするにゃぁ……」


 「…………ぅ、ァ、ゥ」


 声帯が焼かれて声が出ない。そんな自分を見て魔王が何かしたのか自分の頭から身体に何か温かいものをかけた。


 「ふむ、後は飲め」

 

 「ムゴッ!?」


 唐突に口に何かを挿れられる。

 口に挿れられたナニかから生暖かいものが滲むと舌に落ち、喉を滑って胃に落ちる。


 「―――――――」


 その感覚はなんと例えれば良いのか分からない。

 至福の味?極上の甘露?そんなモノは陳腐過ぎてとても使えない。


 夢中で口に挿れられたモノを啜った。喉を鳴らし、舌を這わせもっとと強請る。手は知らずにその付け根を握り決して離さないと――


 「い、いぃぃい、いい加減にするにゃぁぁぁあ!!このエロ娘ぇぇえ!!!!」


 「ひゃぶぅっ!!!?」


 脇腹に左右か抉る様に何かを突き入れられ、そのショックで口を開け、手を離してしまう。

 ちゅポンッと音を立ててソレは口から離れていった。


 「こ、ここ、こん、こんの焦げ肉ぅぅ!!!あ、ある、主しゃみゃのアレをあん、あんな、あんにゃいやらしくシャブってネブって……表情まであんないやらしくとろけさして………にゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!ローストオークにしてやるにゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 「ぇ、え!?な、なに!?ぇ、俺?あれ、ちょ、クソ猫あぶっ!?危ねぇだろ馬鹿!!お、おぃ魔王!何とかしろ……ってなんで自分の指をそんな悲しそうな顔で見てんだよ!!」


 「む、いや、うむ。指とはふやけると少し気持ち悪いのだな、とな……してレイよ」


 「わ、ちょ!ま、な、なんだよっ!!早くコイツを止めっうひゃ!?」


 ミシュの斬撃の様な速度で振るわれる腕を避け、樹が抉られる。あの速度を躱しながら返答できるなら多少見どころはあるなと思う。


 「我の指はそんなに美味いのか?」


 「「――――――――」」


 二人の動きがピタリと止まり視線はルファズの目の前にある指に固定される。

 何故かベッチョベチョになり皺くちゃになったルファズの指がゆっくり動き――


 「い、いけませぇぇぇん主様ぁぁぁぁぁぁっ!!!!??」

 

 何かに気付いたミシュが咄嗟に手を伸ばし


 「え、ぁっ!ちょ、や、やぁぁぁぁあぁぁあっ!!!!??」


 何かに思い当たったレイが顔を真っ赤にして叫びを上げる。


 そんな二人の叫びは届かずルファズはぺろりと自分の指を舐めた。


 「〜〜〜〜〜!!!!……ぁ……ふぅ……」


 そしてあまりの衝撃にミシュは気を失い。


 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!バカ変態おたんこなすぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅう………………………!!!!!!!!!」


 レイの羞恥は限界を突破し、大粒の涙を零しながら森へと消えた。


 「ぬぅ、何も味はせんな……む、どうしたミシュ?はて、レイは何処に行きおった?」

 

 残された魔王は特に美味しさの感じなかった己の指から興味が失せ、何故か轟音響く森へと視線を向けた。

 

 

 



 全身が熱い。恥ずかしさで火が吹きそうだ。

 信じられない。頭がおかしい。変態。超変態。変態の王、変王だ。


 最初からおかしい。なぜ全裸であれ程まで堂々としていられるのだろうか?シースルー、はあの変態猫侍従のせいだが、イヤそれでも着るのはおかしい。その次の『別に侍従服でも自分はいい』発言はヤバい。アレは女性専用の服の筈だ。スカートを履いた男なんて見た事……あれ?あるよ、いるよ?あれ?そんな変な事じゃない?いや、まぁそれは百歩譲るとしても最後のアレだけは信じられない!!馬鹿なの!?変態なの!?あ、変態だった!!いやいや、だけど!わ、私が舐めた指を更に舐め……あれ?私が舐めた!?魔王の指を!?私が舐めたの!?え!?私変態!?私も変態になったの!?嘘!?


 思考がぐるぐる回り回る火焔旋風(フレアトーネード)状態でもう何が何だか分からない。

 分かっているのはもう全てが変態ということだけだ。


 バキバキ、ドンドンさっきからずっと鳴り響く音が余計な思考を乱す。とてもうるさい。

 耳を塞いでがむしゃらに走る。だが流石に目まで瞑ったのは失敗だった。


 「ぁ――」


 感じる一瞬の浮遊感。すぐに強い衝撃が……


 ――あれ、それ程強くない?あ、だけど勢いだけは凄い。風の音とか嵐の渓谷みたい。


 だがそんな考えは一瞬で掻き消される。


 「――グっ!!??」

 

 強い衝撃。身体がくの字に曲がるがやはり転んだ速度に対してそれ程感じない。

 何故?いや、そもそもあんな速度で走れた?

 痛みで思考が出来ず疑問符ばかりが飛ぶ。

 

 ある程度呼吸が出来るようになってからせめて自分の状態を確認しなければと涙が浮いた目を恐る恐る開く。


 「あ、れ?」


 目の前に紫の葉がある。

 自分の身体には褐色の枝や樹皮が巻き付き関節や皮膚の薄い場所に張り付いて――


 「ぁ……確か………さっきの?」


 微かに動いた紫の葉の隙間から人の顔。そして眼の中の空洞の瞳に先程魔王が召喚したガノスという樹木人(ツリーマン)だと悟った。


 「ごブジで、すか?ジジュウさ、ま」


 「え、あ、うん、大丈夫、です。……あっ!?が、ガノス……さん、こそ大丈夫ですか!?」


 「ワたし、は、だいじョうぶ、デス。オケガないようで、アンシンいたし……ました」


 何かを擦り合わせている様な声で聞き辛いが聞き漏らさないよう必死に言葉を拾う。


 「ごめんなさい、少し錯乱しちゃってて……あ、どこも怪我してない……ガノスさん、ほんとにありがとうございます」


 「こレも、シメイだと、ハンダン、したまで、デス。主様の、ジジュウなら、ば主様の、モノですから、ワタシが、マモルモノにふくまれ、マス」

 

 「ぅ、そう思われるのはなんか複雑……」


 「タダ、この森をコウゲキしたモノがマモルモノだったので、コンランし、ショドウがおくれ、ました」


 「……うぅ……ほんとにごめんなさい……あ、今起こします………」


 身体を起こしてガノスを起こそうとレイがその手を引っ張った瞬間、ガノスの上半身が折れた(・・・)


 「………ぇ?」


 「………ァ」


 ドサリと地に落ちるガノス。レイが掴んだ手もひび割れ手首から割れてしまう。


 「ぇ、あ……嘘……やだ、ガノスさん!?いや、いやぁぁぁぁぁぁぁぁあっっ!!!!!!」


 乾いた土塊の破片と枯枝が散乱し、レイの叫びが森の草葉を僅かに揺らした。

猫!!猫が欲しいです!!アイラブミートボール!!私は肉球を愛しています!!にゃっふぅぅぅぅ!!!


と、まぁ猫アレルギーなんですけどねぇ〜♪(血涙

神は、いなかったんや(キレ

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