#8
友梨奈にとっては嫌な思いをたくさんした四月が終わり、あっという間に五月に入った。
彼女はゴールデンウィークの間は問題児が多い教室に行かなくて済む。
そう思うと友梨奈の頬が久しぶりに綻ぶ。
なぜならば、毎日のように消しコムをちぎったものを全身に浴びずに済むことと、彼女が以前、聡からもらったボールペンをわざと捨てられ、勇人や誰かに拾われたということが度々あったからだ。
友梨奈はいつも思っていることがある。
消しゴムをちぎったものを投げつけてたり、ペンを捨てたりしている人は完全にわざとだということ。
そのようなことをやっている者は愉しくて仕方がない、やられた者の立場に立って考えてほしいと――――。
「はぁ……明日から学校かぁ……」
彼女は溜め息をつきながら、翌日の授業の用意を通学鞄に入れながら呟いた。
部屋の壁に貼ってあるカレンダーにはすでに中間テストの日に丸がつけられている。
「もう中間テストかぁ……授業に集中できないし、分からないことがあったら積極的に先生に訊くようにしないと、二年生の時みたいに成績をキープするのは厳しいなぁ……」
友梨奈は頭を抱え始めていた。
翌日以降の学校のことはもちろんのこと、中間テストのことと部活のことが一気に重なり、さらに彼女の頭を悩ませているのだ。
「あんなことが起きなければ、授業やテスト勉強とかに集中できるはずだったのに……」
友梨奈はベッドにごろんと横になり、数分後には眠りについていた。
*
暗い部屋の中で彼女の様子をタブレット端末を通じて見ている人物がいた。
「おやおや……悩める少女だこと……」
その人物は男性で白衣を着ているため、医者か研究者だと思われる。
艶やかな銀髪は顔の半分を隠しており、彼は今どのような表情をしているかは分からない。
「さて、僕も仕事に戻らなければ……」
男性は机の引き出しから小型の懐中電灯を取り出し、組んでいた脚をほどき、回転椅子から立ち上がる。
「瞬間移動」とその人物が持つ能力を発動させ、その部屋から姿を消した。
あれから彼はどこに行ったのかは知る由もない――――。
前半部は「【原作版】」の「#6」前半部をベースに改稿。
後半部は書き下ろしエピソード。
2017/09/17 本投稿
2017/09/18 後書き欄の誤字修正
※ Next 2017/09/18 書き終わり次第更新予定