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#81

「「こんにちは」」


 結衣と柚葉が音楽室に入った途端、「こんにちは」と吹奏楽部部員が出迎えた。


「こんにちは。柚葉と一緒にいる人は見学者?」

「はい。彼女はクラ(注・「クラリネット」の略)の経験者です」

「本当? 一人抜けたから少し音が寂しくて……」


 その顧問である山本が彼女に問いかけられ、結衣が担当していた楽器の経験の有無について話している。

 友梨奈にとっては彼女の声を久しぶりに聞いた。

 山本は基本的に生徒の下の名前で、下の名前が被っているとフルネームで呼んでいるため、親近感がわきやすいのかもしれない――。


「ところで、先生。入部届を提出してもよろしいでしょうか?」

「ん。みんながいる前だけど、いいよ」

「お願いいたします」

「クラ経験の野澤 結衣ちゃんか……」


 音楽室にはたくさんの部員がそれぞれのパートにまとまり、楽器を手に椅子に腰かけている。

 たくさんの視線が結衣に向けられているため、彼女はこれでは()()()()()()()及び()()()()ではないかと思ってしまった。

 山本が入部届(それ)を受け取り、彼女のフルネームに「ちゃんづけ」で呼ぶ。


「今朝の全校集会の時に壇上に上げさせていただいたので、覚えていらっしゃる方が多いと思いますが、改めて。わたくしは野澤 結衣と申します。見学なしで入部というかたちになってしまいましたが、みなさまと楽しく演奏できればと思っております。みなさま、よろしくお願いいたします!」

「「よろしくお願いします!」」


 結衣が自己紹介を終えると、部員達が拍手をし、あと一日でいなくなる彼女を歓迎してくれた。


「じゃあ、結衣は友梨奈が座っていた(ところ)でもいい?」

「全然、構いません」


 山本が結衣に問いかける。

 彼女は自分の立ち位置を気にしないため、席はどこでもよかったのだ。


「なら、決定だね。ところで、譜面は余分にコピーをしてなかったな……友梨奈の譜面(もの)でもいいなら、今日はそれで勘弁してほしい」

「はい」


 結衣は今朝、吹いていた曲の譜面のまま自分で片付けていたことを思い出す。

 彼女の前には今まで吹いてきた譜面やメトロノームなどが置かれていた。

 もし、「木野 友梨奈」及び「野澤 結衣」の存在がなくなったとするならば、すべてなくなってしまうのではないか?

 また、過去のコンクールや定期演奏会などの時の写真だけ残るが、次第に彼女のことを忘れ去られてしまうのではないか? と不安になってしまう。


「結衣先輩っ。あたしは友梨奈先輩のことを忘れませんよっ?」

「そうだよ。ボク達は友梨奈ちゃんのこと、忘れないからね!」

「あたしも!」

「わたしも!」

「僕も!」

「俺も!」


 結衣の右隣に座っている同じパートの二年の女子生徒が何かを諭したかのように話しかけてきた。

 それにつられて早紀達もそのように言ってくれている。

 彼女は何も話していないにも関わらず、山本はもちろんのこと、同級生や後輩達も頷いていた。


 いじめで同級生に裏切られたりしたことがきっかけで自殺した友梨奈はその死を受け入れてくれそうなのは家族くらいだと思っていた。

 彼女は自分の身近な人物はすぐに忘れてしまうかと思っていたため、少し嬉しかった模様。


「なんか湿っぽい雰囲気になってしまってるから、合奏でもしようか? 今年のコンクールの曲である『ロス・ロイ』を!」

「「はい!」」


 結衣は友梨奈の譜面入れからその曲の楽譜を探すが、その楽譜にはまだ印などは何もついておらず、強弱記号にマーカーで線が引いてある程度だった。


「結衣ははじめてかな? まずは楽譜を見ながらついてきてね」

「分かりました」


 彼女は何回か譜面見て、重要なところを書き込んだりしていく――。

 そして、結衣も演奏に加わり、分かるところだけを中心に吹けたかと思ったところで今日の部活が終わってしまった。


「みんな、お疲れ様。気をつけて帰ってね!」

「「お疲れ様でした!」」


 部員達は楽器や譜面台の片付けをし、速やかに校舎から出、各々の帰路についた。



 *



 結衣はまっすぐ家に帰るわけではなく、近くの公園で練習し始めた。

 それには理由(わけ)がある。

 彼女以外の部員は確実に上手くなってきているが、自分だけ下手なのは嫌だからだ。


 「木野 友梨奈」及び「野澤 結衣」に残された時間はあと一日しかないため、ある程度上手くなってから、転生生活の幕を下ろしたいと思っている。


 友梨奈としてこの学校で過ごしてきた時間は二年生までは楽しい思い出に満たされていたが、三年生になってからは辛い思い出しかない。


 もし、彼女がジャスパーに出会っていなかったならば、今みたいに友人と話をしたりすることができず、いじめの張本人を探すことはできなかったと思われる。


 結衣とってはこの二日間はいろいろと大変だったが、クラスメイトに伝えたいことは国語の授業の時に書いた作文にたくさん書いたから、そnれを発表できれば、もう後悔はないはずだ。


「これ以上、練習しますとおじさまとおばさまが心配してしまいますわ……早く家に帰りましょう」


 彼女は友梨奈の両親が心配しているのではないかと思い、はじめて吹いた時よりほんの少しだけ早く吹けた段階で楽器を片付け、落としたものがないかを確認し、帰路についた。

「【原作版】」の「#47」の後半部と「#48」をベースに改稿。


2018/11/29 本投稿


※ Next 2018/11/29 19時頃 または 2018/11/30 0時頃更新予定。

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