#80
人権作文を書かされた国語。
クラス混合でやった体育のバレーボール。
苦手で退屈だった数学。
ヒトの誕生についてと命の大切さを学んだ理科――。
その日の午前中は四十五分の短縮授業だったのにも関わらず、今の結衣にとっては一時間があっという間に過ぎ去っているように感じていた。
そして、その日の授業が終わり、放課後――。
「まひろさん、すみません!」
「どうしたの? あたしは何も悪いことをしてないけど……」
結衣はまひろの席に着き、頭を下げた。
一方、彼女はぽかんとした表情をしており、彼女がいきなりそのようなことを言ったため、「まあ、頭を上げなよ」と笑いながら言われてしまった。
「本当にすみません。わたくしはやはり、吹奏楽を続けたいのです!」
「え?」
「ずっと吹奏楽を続けるか、他の部活に入るかで迷っていたのです」
「ああ……部活ね。結衣は演劇とかよりも吹奏楽の方が似合うよ」
「ありがとうございます」
「ところで、入部届は出したの?」
「実は今朝、出そうとしましたが、職員室にはまだ誰もいなかったので、出していませんの」
「そうなんだ」
「結衣、まひろ、いたいたー!」
結衣とまひろが話している時に柚葉が元気よく駆けつけてくる。
「今日は部活の見学だ!」
「柚葉、その必要はないってー」
「え? 結衣、本当なの?」
「ええ。わたくしはまだ入部届を出していませんが、吹奏楽部に入りたいのです」
「そりゃ、朝から誰もいない音楽室で去年の吹奏楽コンクールで演奏した曲を気持ちよさそうに吹いていたからねー」
「そうなの!? 聴きたかったー!」
柚葉がからかったような口調で話していると、彼女らだけの空間に笑いが沸き起こっていた。
「その曲は友梨奈さんが好きだった曲ですの」
「本当に?」
「ええ」
「あの曲、友梨奈と友梨香は凄く苦戦していたって話を聞いたからさ。あまり好きじゃなかったのかなと思っていたよ」
「実はわたくし、何回か聴いたことがありましたので」
友梨奈と友梨香が指が回らず、ずっと苦戦していた『バンドのための民話』だが、それに慣れてくるとすごく愛着がわいたため、彼女にとっては好きな曲になったのかもしれない。
しかし、結衣は聴いたことがあるのではなく、実際に吹いたことがあるのだ。
それは彼女が友梨奈であることを彼女らに隠すために――。
「そうだったんだね。ところで、入部届はまだ出していないよね? おそらく先生は職員室にいないと思うから、直接音楽室に行って出した方がいいね。わたしもそろそろ音楽室に行くから一緒に行こう」
「ええ」
「じゃあ、あたしはもう用がないから帰るね。バイバイ」
「また明日」
「バイバーイ!」
まひろは手をひらひらさせながら教室から出て行き、そのまま帰路につく。
「そろそろわたくし達も行きましょうか?」
「そうだね。遅くなったら、先生に怒られちゃうからね」
彼女に続いて柚葉と結衣も教室から音楽室へ移動した。
「【原作版】」の「#47」の前半部をベースに改稿。
2018/11/28 本投稿
※ Next 2018/11/29 0時頃更新予定。