#79
ジャスパーはタブレット端末の画面を通じて、全校集会の様子をリアルタイムで最後まで見ていた。
「友梨奈さん、先ほどまでよくやってくれた……」
彼は苦笑を浮かべている。
「やはり、自殺行為が起きてしまったからには人権やヒトの命に関する授業をしていただきたいものだ……」
ジャスパーはたまたま手元に置いてあったメモパッドに「授業内容の変更」と書き込んだ。
通常ならば、人権週間は十二月上旬に実施されるが、このようなことが起きてしまったからには仕方がないことかもしれない。
国語の授業では「人権作文」を書き、発表してもらい、理科の授業では「ヒトの誕生について」の授業とかを実施しておけばいいのではないかと思われると彼は推測した。
部活動に関しては友梨奈らしく、悔いが残らないように過ごしてほしいと――――。
*
結衣が属しているクラスはほとんどの生徒が講堂から教室に戻っていた。
彼女は自分のせいで午前中の授業は短縮かと思っていたやさき、授業開始を告げるチャイムが教室中に鳴り響く。
結衣のクラスの国語担当である山野井が「授業を始めるよー」と言いながら教室に姿を現した。
「起立! 礼! お願いします!」
「「お願いします!」」
「着席!」
勇人の号令で国語の授業が始まり、なぜか結衣達は昨日から人権作文を書いている。
「今日は昨日に引き続き、人権作文の続きだ!」
その時、彼女らは違和感を覚えた。
なぜならば、昨日から授業内容が今までと異なっていることに気がついたからである。
はじめはこのクラスの全員が「おかしい」、「変なの」などと言っていた。
「はいはい、静かにして。みんなは木野が先月下旬に自殺したことを知っているだろう? 本来は十二月が人権週間だが、今回はこのようなことが起きてしまったからな……」
山野井が彼女らにこう説明している。
友梨奈が自殺した時期は五月の下旬。
結衣は彼女らが通っているこの学校は中高一貫校の中では人気校であり、今後もそのようなことが起きてしまうと学校のイメージは一気に下がってしまうだろう。
そのため、今から人権について常に考えていかなければならないというわけで国語の授業に関しては人権作文を書こうということだと思っていた。
「今日は短縮で四十五分しかないから、ある程度は書き進めておくように。今からで急ではあるけど、明日はみんなの前で発表してもらうからな!」
「先生。もし、この時間までに書き終わらなかったら宿題ですか?」
「そういうことになるな」
「家に着いたら眠くなっちゃうから、今のうちに頑張って書こう」
書いた作文は発表と言い渡された時、生徒達からブーイングが起きる。
結衣に転生された友梨奈は作文は苦手であり、人前で話すことも苦手だ。
彼女は騒がしくしているクラスメイトをよそに手を上げる。
「野澤、どうした?」
「先生、作文は原稿用紙で最低何枚分くらい書いた方がよろしいでしょうか?」
「うーん……この原稿用紙は一枚四百字だから、三枚分千二百字くらい書けるといい」
「ありがとうございます」
結衣は山野井に問いかけた。
彼女は原稿用紙の最低枚数の指定があると、それに向けて少し頑張ることができると思っていたが、自分で書いてきた原稿用紙を数えてみると最低枚数と同じの文字数を書いていることに気がつく。
しかし、結衣は書きたいことや伝えたいことがたくさんありすぎて原稿用紙三枚分は足りないのだ。
「あと何枚か原稿用紙をいただいてもよろしいでしょうか?」
「おっ、すでにそんなに書けたのか? あと何枚くらいほしいか?」
「あと五枚ほど……」
「もし、余ったら返してほしい」
「ありがとうございます」
彼女がそのように言うと、クラスメイトは再びざわめき始める。
そのような状況の中、結衣は周囲を気にせず、原稿用紙を受け取り、人権作文の続きを書き始めた。
彼女は「木野 友梨奈」として経験してきたことをすべてそれに綴り、授業終了までに書き上げ、余った一枚を戻す。
「書き終わりましたので、お返しします」
「あっ、お疲れ様。もう少しで授業終了のチャイムが鳴るから、キリのいいところで止めるように!」
「「はーい!」」
「「分かりました!」」
その日の授業はまだ始まったばかりだが、「木野 友梨奈」及び「野澤結衣」の存在がなくなるまでの時間は刻々と近づいている――。
「【原作版】」の「#45」の後半部と「#46」と「スピンオフ」の「#46(最終話)」の前半部をベースに改稿。
2018/11/28 本投稿
※ Next 2018/11/28 6時頃更新予定。




