#7
「……篠田さん達は何を考えているんだか……」
勇人が肩を竦めながら小声で呟く。
周りには彼のクラスメイトはワイワイ話しているエリカ達を見て、呆れながら一限目の準備を終え、その様子を遠巻きながらも見ていた。
「もしかして、委員長もそう思ってる?」
「白鳥さん!? って、僕は「委員長」という名前じゃない! 「松井 勇人」だ!」
彼に声をかけてきたのは普段はエリカと一緒にいるまひろ。
勇人は彼女から話しかけてきたため、少し驚いているが、彼のことを「委員長」と呼ばれて苛立ちを覚えているようだ。
「ごめんごめん。あたしも今のところはエリカが何を考えてるか分からないんだ……」
「白鳥さん、本当にそう思ってる?」
「うん。でも、本当かどうか保証はできないよ」
「保証はできないか……いつも篠田さんと一緒にいるのに意外だよ」
まひろは勇人が言ったことに対して、「……そうかなぁ……」と呟く。
「もう授業が始まるね」
「うん」
「2人は間に合うかな?」
「どうだろうね」
彼らは友梨奈と柚葉が授業に間に合うかどうか心配しているようだ。
しかし、今のところはどこにいるか分からない彼女らを心配して――。
*
一方の友梨奈達は図書館から教室へ向かって歩いている。
彼女らは一限目の授業が始まるか始まらないか定かではないため、話しながら歩いている余裕は全くなかった。
三年生の教室がある二階に着き、自分達の教室へ向かうが、徐々に他のクラスよりも騒がしさが増していく。
そして、ついに彼女らの教室に到着した。
「木野さん!」
「友梨奈ちゃん!」
「さっきは大丈夫だった?」
「気づかなくてごめんね」
「辛かったね……」
勇人をはじめ、何人かの女子生徒が友梨奈に話しかける。
「友梨奈、みんなが心配してくれたんだよ?」
「あ、ありがとう」
柚葉が彼女に声をかけた。
友梨奈はこんな自分を心配してくれる人がいることに気がついた模様。
「同じクラスの仲間じゃん!」
「そうだよ!」
「なんでも相談しなよ」
「うん!」
彼女がそのことに嬉しさを覚えたタイミングを見計らったかのように一限目の開始を告げるチャイムが鳴り響いた。
しかし、授業中にも関わらず、毎時間のように友梨奈の方に向かって消しゴムをちぎったものは後ろから投げつけられいる。
授業にきた先生は注意をするが、全く聞く耳を持たない。
そのような中で彼女は一日中、ずっと耐えていたのだ。
部活動を終え、学校を出るまではずっと警戒しなければならない現実――。
友梨奈は重い足取りで自宅へ戻った。
*
「ただいま」
「友梨奈、おかえりなさい」
友梨奈は家に着き、靴からスリッパに履き替え、母親が返事を返す。
しかし、彼女は母親の顔を見て言うべきだと思っていたが、今の友梨奈は一人になりたい気持ちが勝っており、自室に向かって階段を駆け上がった。
「友梨奈?」
母親は違和感を覚え、キッチンから彼女を呼んだが、友梨奈の返事はなく、何も反応はない。
彼女は部屋の鍵を閉め、制服のまま扉に寄りかかるようにしゃがみ込み、今日起きた出来事を思い出し、涙が溢れてくる。
まもなく四月が終わろうとしている中、友梨奈の心中の光がなくなり、暗闇の彼方に落ちてしまうのではないかと泣きながら感じていた。
前半部は書き下ろしエピソード。
後半部は「【原作版】」の「#5」の後半部をベースに改稿。
2017/09/12 本投稿