表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

79/87

#78

 結衣は柚葉達に誘導され、講堂に到着した。

 本日は全校集会ということでそこには中等部の生徒達はもちろんのこと、高等部の生徒達、教職員も集っている。

 その時にどのクラスがどこに集まっているか分かりやすく示すため『中等部 三年六組』や『高等部 二年三組』などの看板が立てられていた。

 彼女は彼女らに案内された時は外観しか見ていなかったため、実際に講堂にきたのは久しぶりである。

 結衣がぼんやりとそのようなことを思っている間に様々な分野の表情や校長先生の話が終わっていた。

 男性の声で「以上で、全校集会を終わりにします」とアナウンスが流れた瞬間、彼女は挙手する。


「中等部の三年六組で挙手している人がいますが、何かご質問ですか?」

「はい!」

「では、壇上に」


 あちこちでざわめき始める講堂内。

 そこにいる一部の人物やタブレット端末から見ているジャスパー以外はこれから何が始まるのか分からない状態である。

 その男性が眉をひそめながら結衣に問いかけてきたため、元気よく返事をし、壇上に上がるよう促された。


「野澤さん……?」

「結衣、本当に……?」

「ええ。こうさせていただかないと納得がいきませんの」


 彼女の近くに座っている勇人と柚葉が椅子から立ち上がる結衣を見てこう言っている。

 彼女は全校生徒からの視線を浴びながら壇上へ向かった。



 *



 結衣が壇上に立った瞬間、講堂の広さとコンクール以上の緊張感が感じられる。

 彼女はあらかじめ準備されたマイクを手に取った。


「みなさま、はじめまして。中等部三年の野澤 結衣と申します。本日はみなさまにお話がありまして、挙手をさせていただきました」


 未だに落ち着かないざわめきの中で「静粛に!」とアナウンスが入り、少しだけ落ち着いた。


「みなさまは先日、この学校でいじめがきっかけで飛び降り自殺が起きたことはご存知でしょうか?」

「あっ、知ってる」

「俺も」

「わたくしは自殺した木野 友梨奈さんの親戚にあたる者です。おじさまやおばさまからお話を伺った時はとても悲しい気持ちになりました」

「「………………」」

「話を変えますが……篠田 エリカさん、壇上へ」


 結衣はそのことを全校生徒や教職員に告げた時、ざわめきは完全に落ち着き、静かに話を聞いている。

 彼女がエリカを壇上に上がるよう指示を出し、しぶしぶと椅子から立ち上がり、そこへ向かった。

 ここから彼女の(みじ)めな姿が見られると思い、自然と冷酷な笑みを浮かべたくなっている結衣。


「篠田さん、きましたわね」

「呼び出したのはそっちじゃん」

「ええ。友梨奈さんを自殺に追い込んだ張本人は篠田 エリカさんです。彼女を中心とした中等部三年六組です。わたくしはその代表として彼女を壇上(ここ)に呼び出したのです」


 彼女らのクラスメイトから「マジかよ!?」「……嘘……」「最低だね」という声があちこちで言われているようだ。


「友梨奈さんは靴を隠されたとしても、誰かにわざと脚をかけられたとしても、先生に相談しようと思っていたみたいですが、いじめがエスカレートしていくのではないかと不安でずっと我慢してきたみたいです」

「友梨奈……」

「木野さんはずっと辛い思いをしてたんだね……」

「俺達、ずっと篠田に振り回されてたもんな」

「俺も木野の気持ちを考えないで一緒になって(たの)しんでたから、自分が惨めだ……」

「私、最低なことをしちゃった……」


 結衣が話し終えた瞬間、()から涙が溢れている。

 その時、三年六組の生徒達は他のクラスからの冷たい視線を突き刺されていた。

 当の本人達は少し反省している者やすすり泣きをしている者がいる中で、彼女はエリカに視線を向ける。


「篠田さん、あちらをご覧なさい?」

「……えっ……」


 結衣は自分のクラスの方を指さし、泣いたり、後悔したりしているところを彼女を見せた。


「全校生徒と先生方がいる前で土下座してくださらない?」

「………………」

「あら、できないのかしら? さもないと、教育委員会に訴えますわよ?」

「……分かったよ……やればいいんでしょ……」


 エリカは再びざわめきが起きている中、床に両膝をつき、正座する。

 そして、頭を床につけ、「ごめんなさい」と土下座して謝罪した。


「何を仰っているか分かりませんわね? もう一度、お願いできるかしら?」

「……はい……」


 しかし、結衣は納得がいっていないらしく、彼女にもう一度お願いする。

 なぜならば、エリカは()()()()()()()()()()()()()()()なのだから、きちんと謝らないと割に合わないと結衣とジャスパーは思っていたから――。


 その時の彼女はエリカのことを上から見下ろし、少し冷笑を浮かべていた。

 その表情は結衣の長い髪で隠れていたせいか、周囲からはよく見えなかったと思われる。


「みなさん、すみませんでした!」


 エリカの声が講堂内に響き渡った時、彼女は肩を振るわせながら笑いを堪えていた。


「野澤さん。ウチはいつまで頭を下げてなきゃならないの?」

「二、三分くらいかしら?」

「…………………………」

「もういいでしょう。頭を上げなさい」

「は、恥ずかしかった……」


 結衣の指示で彼女は顔を赤くしながら頭を上げる。

 かつては、彼女はエリカに復讐するわけではなかったのにも関わらず、その様子を見ていて面白がっていた。


「ところで、まもなく一限目が始まりますが、中等部三年の野澤さんの用件はお済みですか?」

「ええ、大丈夫です」

「分かりました。本日の午前中の授業は五十分から四十五分に短縮します。午後の授業は通常通りですので、ご了承ください」


 授業時間短縮のアナウンスが何回か繰り返し流れている中、講堂から各教室へ生徒達が戻っていく――。



 *



 講堂に残っている生徒が結衣達だけになった時、エリカは悲しそうな表情を浮かべていた。


「篠田さん、あなたが恥ずかしいことをしたことがきっかけでこのようなことになりましたのよ?」

「ごめんなさい。本当に木野さんには悲しい思いをさせてきたから……」

「今になって後悔しても遅いですわ。彼女はもう(かえ)ってこないのですから」

「……だよね……」

「そうなのです。わたくしはあなたに謝っていただけたので、後悔はしていませんし、感謝していますわ」

「……本当……?」

「はい。きっと、友梨奈さんは許してくれると思いますわ」

「……きっと……?」

「ええ」


 結衣は静かに頷いたと同時に、柚葉とまひろに呼ばれ、エリカとともに教室へ向かった。


 いじめられて自殺した少女は残り一日と十五時間ほどで人生の終止符(ピリオド)を強制的に打たれることとなる――。

「【原作版】」の「#44」と「#45」の前半部と「スピンオフ」の「#45」をベースに改稿。


2018/11/27 本投稿・後書き欄追記


※ Next 2018/11/28 0時頃更新予定。


本日は19時にも更新する予定でしたが、最新話の執筆が間に合っていない関係上、明日の0時頃(・・・・・・)に変更します。

楽しみに待っている方には申し訳ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

その他の作品はこちらから(シリーズ一覧に飛びます。)

cont_access.php?citi_cont_id=137134310&size=200
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ